異世界転移〜イージーモードには棘がある〜
十八話
「放て!!」
ファイヤーアローの第二射。
荒くれ者の集まりとは思えないほど統率の取れた攻撃で魔物が息絶えていく。
土塀の外側には死骸が溜まり、魔物の解体係は常に動き回る。
先遣隊がおびき出し、陣地にて殲滅、解体係が作業を開始するとともにまた先遣隊が出る。
この効率を重視したルーチンワークにより、予定通り狩りは進んでいる。
「セレナ、休憩に入っていいぞ。もうすぐ支援隊も来る」
「了解です。おやっさんも休まれては?」
「いやいや、俺はまだ暴れ足りないよぉ」
荒々しい口調とは裏腹に巧みな槍さばきを披露するカルバ。
その豪腕にどうしても槍が小さな物に見えてしまうのはご愛嬌といったところか。
「そうですか。では先に休ませて頂きます」
一礼を捧げ、後方に下がろうとするセレナに声がかかる。
「そういや、坊主も来るらしいな」
不意にきた口撃に思わず頬が緩むセレナ。
坊主とはハヤトのことである。
それに気づかぬふりをするカルバは内心笑みを浮かべる。
この歳になっても、いや、この歳だからか、男女の色恋沙汰は囃し立てたくなる。
もちろんというべきか、自分がからかわれた事に気づきつつも言い返すのは悪手としっているセレナはやや足早に後方に下がっていった。
理由はカルバもセレナ自身も深くは考えない。
後方、陣地へ荷物を運ぶ一行は穏やかな空気に包まれている。
なんだか、秘境ツアーにでも来ているようである。
道は整備されているが他は自然のまま。
壁から見え隠れする鉱石が明かりを反射し、幻想的でもある。
「ねぇ、ハヤト。あとどんくらいで着く?」
まぁ、お子様には退屈な時間に思えるだけだろうが。
「あぁ、あと30分くらいじゃないのか」
うん、適当。
歩き始めてからずっと隣にいるレイラは出発時は割と静かだったのだが、洞窟の雰囲気になれると口を開き初め、1時間もしないうちに話題も尽き、また黙っていたのだが、ついに我慢できなかったらしい。
この間俺は相づちとそうだねー(棒)しか発言していない。
どうやら俺は未だに雑談ができないらしい。
そうこうしているうちに喧騒が聞こえてくる。
怒号は飛び交っているが、切羽詰まった感じでもない。
俺たちは休息所になっている小ぢんまりとした区画に入る。
今回は風の支援魔法は使っていないので少しキツかった気もする。
隊長が報告に行き、他の者は休息に入る。
と、入れ替わりにセレナさんが入ってきた。
表情はどこか柔らかく、今のところ順調に進んでいる事が伺える。
皆に労いの言葉と現状を伝え周り、こちらに来る。
「ハヤト、レイラご苦労さん」
「いえ」
「はぁー疲れた。暇すぎて」
こら、黙ってなさいレイラ。
俺にしなだれ掛かり、疲労困憊アピールをするレイラ。
その言葉に苦笑浮かべるセレナさん。
ただし、目は笑っていない。
「あ、あの、狩りは順調なんですか?」
ここに来て恐怖心が芽生えた俺は先手を取ることにする。
「ああ、順調だ。怪我人も思ったより少ない」
誇らしげに告げるセレナさんの言う通り、治療場でもあるこの場はまだ広々としている。
当初考えられていた負傷者よりも大分少ないのだろう。
どうやら俺の出番はきそうにない。
また、帰ったら磨いてやるか。
右腰のリボルバーをキン、と爪弾き、荷解きの作業を始めた。
こうして、ピクニック的なお仕事を数度こなし、楽勝かと思われていたダンジョン攻略に暗雲が立ち込めたのは数日後のことであった。
簡素なテントの前で声を掛け、返事とほぼ同時に入室する。
「谷川ハヤトか?」
「はい、なんでしょうか?」
「中央隊に回ってくれ」
「理由を伺っても?」
就寝間際になって呼び出された俺は少し機嫌が悪い。
「どうやら、先遣隊が手酷くやられたそうだ。今、その穴を埋めるため人員を整理しているらしい。お前もその一環だ。カルバ団長自らのご指名だ。すぐ向かえ!」
「…はい」
もう、寝る時間ですよぉ?!
喉まできたこの文句はカルバさんの名前が出ると共に消え失せた。
眠気も吹き飛び、早速準備を開始する。
なるべく静かに用意していたのだが、どうやら耳聡い彼女に見つかってしまった。
「ハヤト、何してるの?覗きでも行くの?」
俺はそんなに変態さんに見えるのだろうか。
「いや、中央隊に向かうだけだ。断じて覗きではない!」
「今から?一人で?」
「そうだ」
「危なくない?」
「陣地までなら魔物も出ないだろうし大丈夫だ」
「明かりは?」
「松明でなんとか…」
「ふう、私も行く」
「…助かります」
うん、一人で暗い洞窟の中を3時間も歩くのは想像するだけで怖いよね。
皆そうだよね?!
俺は誰にともなく言い訳を行い、レイラと洞窟に踏み込む。
現状はヤバイとしか分からない。
だが、セレナさんにカルバさんまでいるんだ。
そうそう大事は起こってないだろう。
レイラも俺も内心安心しきっていた。
そう、この時は両者とも未だにピクニック気分が抜けきっていなかった。
ファイヤーアローの第二射。
荒くれ者の集まりとは思えないほど統率の取れた攻撃で魔物が息絶えていく。
土塀の外側には死骸が溜まり、魔物の解体係は常に動き回る。
先遣隊がおびき出し、陣地にて殲滅、解体係が作業を開始するとともにまた先遣隊が出る。
この効率を重視したルーチンワークにより、予定通り狩りは進んでいる。
「セレナ、休憩に入っていいぞ。もうすぐ支援隊も来る」
「了解です。おやっさんも休まれては?」
「いやいや、俺はまだ暴れ足りないよぉ」
荒々しい口調とは裏腹に巧みな槍さばきを披露するカルバ。
その豪腕にどうしても槍が小さな物に見えてしまうのはご愛嬌といったところか。
「そうですか。では先に休ませて頂きます」
一礼を捧げ、後方に下がろうとするセレナに声がかかる。
「そういや、坊主も来るらしいな」
不意にきた口撃に思わず頬が緩むセレナ。
坊主とはハヤトのことである。
それに気づかぬふりをするカルバは内心笑みを浮かべる。
この歳になっても、いや、この歳だからか、男女の色恋沙汰は囃し立てたくなる。
もちろんというべきか、自分がからかわれた事に気づきつつも言い返すのは悪手としっているセレナはやや足早に後方に下がっていった。
理由はカルバもセレナ自身も深くは考えない。
後方、陣地へ荷物を運ぶ一行は穏やかな空気に包まれている。
なんだか、秘境ツアーにでも来ているようである。
道は整備されているが他は自然のまま。
壁から見え隠れする鉱石が明かりを反射し、幻想的でもある。
「ねぇ、ハヤト。あとどんくらいで着く?」
まぁ、お子様には退屈な時間に思えるだけだろうが。
「あぁ、あと30分くらいじゃないのか」
うん、適当。
歩き始めてからずっと隣にいるレイラは出発時は割と静かだったのだが、洞窟の雰囲気になれると口を開き初め、1時間もしないうちに話題も尽き、また黙っていたのだが、ついに我慢できなかったらしい。
この間俺は相づちとそうだねー(棒)しか発言していない。
どうやら俺は未だに雑談ができないらしい。
そうこうしているうちに喧騒が聞こえてくる。
怒号は飛び交っているが、切羽詰まった感じでもない。
俺たちは休息所になっている小ぢんまりとした区画に入る。
今回は風の支援魔法は使っていないので少しキツかった気もする。
隊長が報告に行き、他の者は休息に入る。
と、入れ替わりにセレナさんが入ってきた。
表情はどこか柔らかく、今のところ順調に進んでいる事が伺える。
皆に労いの言葉と現状を伝え周り、こちらに来る。
「ハヤト、レイラご苦労さん」
「いえ」
「はぁー疲れた。暇すぎて」
こら、黙ってなさいレイラ。
俺にしなだれ掛かり、疲労困憊アピールをするレイラ。
その言葉に苦笑浮かべるセレナさん。
ただし、目は笑っていない。
「あ、あの、狩りは順調なんですか?」
ここに来て恐怖心が芽生えた俺は先手を取ることにする。
「ああ、順調だ。怪我人も思ったより少ない」
誇らしげに告げるセレナさんの言う通り、治療場でもあるこの場はまだ広々としている。
当初考えられていた負傷者よりも大分少ないのだろう。
どうやら俺の出番はきそうにない。
また、帰ったら磨いてやるか。
右腰のリボルバーをキン、と爪弾き、荷解きの作業を始めた。
こうして、ピクニック的なお仕事を数度こなし、楽勝かと思われていたダンジョン攻略に暗雲が立ち込めたのは数日後のことであった。
簡素なテントの前で声を掛け、返事とほぼ同時に入室する。
「谷川ハヤトか?」
「はい、なんでしょうか?」
「中央隊に回ってくれ」
「理由を伺っても?」
就寝間際になって呼び出された俺は少し機嫌が悪い。
「どうやら、先遣隊が手酷くやられたそうだ。今、その穴を埋めるため人員を整理しているらしい。お前もその一環だ。カルバ団長自らのご指名だ。すぐ向かえ!」
「…はい」
もう、寝る時間ですよぉ?!
喉まできたこの文句はカルバさんの名前が出ると共に消え失せた。
眠気も吹き飛び、早速準備を開始する。
なるべく静かに用意していたのだが、どうやら耳聡い彼女に見つかってしまった。
「ハヤト、何してるの?覗きでも行くの?」
俺はそんなに変態さんに見えるのだろうか。
「いや、中央隊に向かうだけだ。断じて覗きではない!」
「今から?一人で?」
「そうだ」
「危なくない?」
「陣地までなら魔物も出ないだろうし大丈夫だ」
「明かりは?」
「松明でなんとか…」
「ふう、私も行く」
「…助かります」
うん、一人で暗い洞窟の中を3時間も歩くのは想像するだけで怖いよね。
皆そうだよね?!
俺は誰にともなく言い訳を行い、レイラと洞窟に踏み込む。
現状はヤバイとしか分からない。
だが、セレナさんにカルバさんまでいるんだ。
そうそう大事は起こってないだろう。
レイラも俺も内心安心しきっていた。
そう、この時は両者とも未だにピクニック気分が抜けきっていなかった。
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