異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

幕間Ⅰ

 「形代の様子は?」
 円形のテーブル。
 艶のついた木製の椅子に座る影が発言する。
 今ここに何人いるかは分からない。
 視界は黒く、物音はしない。
 何者かの発言のみ頭の中に響くように聞こえる。


 「もうすぐ、彼女が帰ってくる」
 答える者も影。
 先程よりもくぐもった声だ。
 返答はもうない。
 また、静寂が場を包む。
 それから、誰かが何百回目ともなる酸素の補給を行った頃あい。


 「お待たせいたしました、報告致します」
 声からして、少女のものと分かる。
 そのソプラノ音は淡々と語る。


 「…そうか」
 「間に合うといいが…」
 「…やはりもう一度やるべきでは?」
 途端、ざわめく影達。
 報告を終えた影は去る。


 「…あいつ、変な奴だったな」
 そのつぶやきは誰にも聞こえていない。
 彼女の役目はもうない。
 しかし、次とるべき行動は決めていた。
 「…境界都市で待つ、か」
 彼女はあちらへは行けない。
 真実を知るとも伝えられない。
 誰も信じない。
 だが、彼なら…。
 深みに嵌った思考をやめる。
 頭上の月は未だ欠けていた。










 
 

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