異世界転移〜イージーモードには棘がある〜
十四話
撃つ、避ける、撃つ。
これで七度目の戦闘。
敵の奇襲を捌いていく。
「セレナさん、今日は魔物の襲撃がやけに多くないですか?」
俺は本来の討伐目標であるゴリモンを解体しながら、疑問を口に出す。
なお、ゴリモンの右手が討伐完了の証拠となっている。
肉は食えない。
レイラは見るからに興味がない。
食えない肉はタダのタンパク質であるかのようだ。
「…そうだな。私も気になっていた」
セレナはハヤトにこう答えながらも別の思考を続けていた。
ゴリモンが逃げている?
そう、幾度となく魔物と退治したセレナはこと魔物の生態に関しては鋭い嗅覚を持つ。
セレナはすでに現状況を訝しんでいた。
しかし、この感覚も多少の差はあれ、幾度も経験したこと。
根拠のない直感に従うほどセレナは理性的で無いわけではない。
疑念は棚に上げ、魔物の手首を刈り取るセレナであった。
谷川ハヤト、この青年に関してはセレナとは別の思考経路を辿っていた。
湧いた疑念をセレナに伝えた彼は自身が触れてきた数多くの創作物を背景に思考する。
つまる所、何か裏があるのではないか、ということだ。
例えば、七度の襲撃は全て左手からやってきた。
もちろん、偶然で片付ける事もできるが、現在、ハヤトたちはジュリンから西に出て反時計回りに進もうとしている。
左手からの襲撃は意図して街から離そうとしているのではないか。
そう見えなくもない。
ただ、根拠もない。
ハヤトは不自然な出来事の理由として何か安心できる材料を見つけたかったのかもしれない。
ここが、戦場だとハヤトはわきまえている。
命のやり取りが当たり前だ。
理由なんてない。
彼もこの時、視野が狭くなっていたのだろう。
それが現れるまでその存在を失念していたのだから。
レイラは特に何をどうこうしていたわけではない。
ハヤトやセレナが行っている解体作業を眺めている。
なお、魔物が二体であるため、二人が率先して解体しているのであり、レイラが食えもしない獲物の解体をしないわけではない事を明記しておく。
ずっと見ている程でもない解体作業の様子はすぐに彼女の意識をそらす。
大木の木漏れ日を眺め、揺れる枝を目で追う。
ぼーっとしていた事が逆に違和感に気づく。
それはふと気を抜いた瞬間に間違い探しの最後のピースを見つけるのに似ていたかもしれない。
彼女の心は警鐘を鳴らす。
太ももに備え付けた投げナイフを引き抜き、即座に投げる。
木の枝が不自然に揺れ、影は舞い降りる。
「っ!!」
頭上に影が降り、緊張が体を走る。
一瞬の硬直。
もし、刃を向けられていたなら命は刈り取られていただろう。
影は三人のちょうど真ん中に降り立つ。
すでにリボルバーを構えたハヤト。
セレナもすでに長剣を構えている。
影はこげ茶色のローブを纏っている。
木の幹とほぼ同色。
潜伏を意識してのことだろうとは簡単に予想がつく。
ただ、分からないのは意図だ。
異常事態に強くなるには経験が物を言う。
初めに動いたのはセレナであった。
「貴様、何者だ?」
相当の手練であることは分かる。
元々、ゴリモンの襲来に備え頭上の警戒は密にしていた。
気づいたのがレイラというのは癪だが、これは敵方の意図もあっただろうとセレナ推理する。
事実、レイラがナイフを投げる直前には何者かの気配に気づいていた。
反応が遅れたのはそれがハヤトの後背にあったからだ。
ハヤトを守るべき算段を自身を盾と用いることまで考えて、不可能と悟った。
瞬時の絶望は微小な遅滞を生む。
セレナはかろうじて戦闘態勢を整えていたが、内心では未だに鼓動が高鳴る。
彼を失うことを悟り、激しく動揺したのだ。
「私は君たちに害は与えない」
影は降り立って初めて口を開いた。
セレナの詰問には答えない。
ローブの影、否、今は人影であろうか。
背格好は小柄であり、長く透き通った金糸が首元から覗く。
ハヤトの方に体を向けているが、スキは無い。
それはリボルバーの射線上にレイラが入るように位置をとり、右手にいるセレナが一歩も近づけない様子からも分かるだろう。
「私は君に伝えたいことがある」
誰に向けられた者かは分かる。
その矛先にいる者、ハヤトは乾いた唇を湿らせ、おもむろに言を紡ぐ。
「まず、自己紹介はどうだろうか?」
出てきた言葉はずいぶん緊張感に欠き、レイラやセレナは思わず呆れ顔が覗いている。
ローブの人影もクスリ、と笑った気がした。
付け加えておくなら、ハヤトはローブに害意はないと信じていた。
第一印象に怪しさはあるものの、形容し難い安心感を感じたのだ。
「じゃあ、俺から…」
「いや、君の事はある程度知っている、異界から来た者よ」
っ!!
瞬時、ハヤトの脳内は様々な憶測が飛び交う。
神か、それに準ずる者か、初めに出てきたのはそんな内容だ。
ただ、その推測もすぐに終わる。
「君が理から逸脱した者ならば境界都市に来て欲しい」
そう、一言残しハヤトの脇をすり抜ける。
ハヤトは即座に後ろを振り返る。
だが、その何者かの姿は見えない。
レイラが追撃に移ろうとするが、セレナがそれを止めている。
俺はリボルバーを収め、指示を仰ぐ。
セレナさんがレイラを宥め、直ぐにでも帰還するべく歩き出す。
セレナさんは十中八九あれは魔族だろうと言っていた。
俺は頭上を仰ぎ前を行くセレナさんに付いていく。
ふと、先程の言葉を思い出す。
理から逸脱した者、か。
思考が回る。
俺は試されているのだろうか。
今、かつて失った中二心が湧き上がっている。
と、同時に俺の正体を看破した何者かが頭に纏わりつく。
俺は境界都市に行くべきなんだろうか。
結論は当分出そうにない。
これで七度目の戦闘。
敵の奇襲を捌いていく。
「セレナさん、今日は魔物の襲撃がやけに多くないですか?」
俺は本来の討伐目標であるゴリモンを解体しながら、疑問を口に出す。
なお、ゴリモンの右手が討伐完了の証拠となっている。
肉は食えない。
レイラは見るからに興味がない。
食えない肉はタダのタンパク質であるかのようだ。
「…そうだな。私も気になっていた」
セレナはハヤトにこう答えながらも別の思考を続けていた。
ゴリモンが逃げている?
そう、幾度となく魔物と退治したセレナはこと魔物の生態に関しては鋭い嗅覚を持つ。
セレナはすでに現状況を訝しんでいた。
しかし、この感覚も多少の差はあれ、幾度も経験したこと。
根拠のない直感に従うほどセレナは理性的で無いわけではない。
疑念は棚に上げ、魔物の手首を刈り取るセレナであった。
谷川ハヤト、この青年に関してはセレナとは別の思考経路を辿っていた。
湧いた疑念をセレナに伝えた彼は自身が触れてきた数多くの創作物を背景に思考する。
つまる所、何か裏があるのではないか、ということだ。
例えば、七度の襲撃は全て左手からやってきた。
もちろん、偶然で片付ける事もできるが、現在、ハヤトたちはジュリンから西に出て反時計回りに進もうとしている。
左手からの襲撃は意図して街から離そうとしているのではないか。
そう見えなくもない。
ただ、根拠もない。
ハヤトは不自然な出来事の理由として何か安心できる材料を見つけたかったのかもしれない。
ここが、戦場だとハヤトはわきまえている。
命のやり取りが当たり前だ。
理由なんてない。
彼もこの時、視野が狭くなっていたのだろう。
それが現れるまでその存在を失念していたのだから。
レイラは特に何をどうこうしていたわけではない。
ハヤトやセレナが行っている解体作業を眺めている。
なお、魔物が二体であるため、二人が率先して解体しているのであり、レイラが食えもしない獲物の解体をしないわけではない事を明記しておく。
ずっと見ている程でもない解体作業の様子はすぐに彼女の意識をそらす。
大木の木漏れ日を眺め、揺れる枝を目で追う。
ぼーっとしていた事が逆に違和感に気づく。
それはふと気を抜いた瞬間に間違い探しの最後のピースを見つけるのに似ていたかもしれない。
彼女の心は警鐘を鳴らす。
太ももに備え付けた投げナイフを引き抜き、即座に投げる。
木の枝が不自然に揺れ、影は舞い降りる。
「っ!!」
頭上に影が降り、緊張が体を走る。
一瞬の硬直。
もし、刃を向けられていたなら命は刈り取られていただろう。
影は三人のちょうど真ん中に降り立つ。
すでにリボルバーを構えたハヤト。
セレナもすでに長剣を構えている。
影はこげ茶色のローブを纏っている。
木の幹とほぼ同色。
潜伏を意識してのことだろうとは簡単に予想がつく。
ただ、分からないのは意図だ。
異常事態に強くなるには経験が物を言う。
初めに動いたのはセレナであった。
「貴様、何者だ?」
相当の手練であることは分かる。
元々、ゴリモンの襲来に備え頭上の警戒は密にしていた。
気づいたのがレイラというのは癪だが、これは敵方の意図もあっただろうとセレナ推理する。
事実、レイラがナイフを投げる直前には何者かの気配に気づいていた。
反応が遅れたのはそれがハヤトの後背にあったからだ。
ハヤトを守るべき算段を自身を盾と用いることまで考えて、不可能と悟った。
瞬時の絶望は微小な遅滞を生む。
セレナはかろうじて戦闘態勢を整えていたが、内心では未だに鼓動が高鳴る。
彼を失うことを悟り、激しく動揺したのだ。
「私は君たちに害は与えない」
影は降り立って初めて口を開いた。
セレナの詰問には答えない。
ローブの影、否、今は人影であろうか。
背格好は小柄であり、長く透き通った金糸が首元から覗く。
ハヤトの方に体を向けているが、スキは無い。
それはリボルバーの射線上にレイラが入るように位置をとり、右手にいるセレナが一歩も近づけない様子からも分かるだろう。
「私は君に伝えたいことがある」
誰に向けられた者かは分かる。
その矛先にいる者、ハヤトは乾いた唇を湿らせ、おもむろに言を紡ぐ。
「まず、自己紹介はどうだろうか?」
出てきた言葉はずいぶん緊張感に欠き、レイラやセレナは思わず呆れ顔が覗いている。
ローブの人影もクスリ、と笑った気がした。
付け加えておくなら、ハヤトはローブに害意はないと信じていた。
第一印象に怪しさはあるものの、形容し難い安心感を感じたのだ。
「じゃあ、俺から…」
「いや、君の事はある程度知っている、異界から来た者よ」
っ!!
瞬時、ハヤトの脳内は様々な憶測が飛び交う。
神か、それに準ずる者か、初めに出てきたのはそんな内容だ。
ただ、その推測もすぐに終わる。
「君が理から逸脱した者ならば境界都市に来て欲しい」
そう、一言残しハヤトの脇をすり抜ける。
ハヤトは即座に後ろを振り返る。
だが、その何者かの姿は見えない。
レイラが追撃に移ろうとするが、セレナがそれを止めている。
俺はリボルバーを収め、指示を仰ぐ。
セレナさんがレイラを宥め、直ぐにでも帰還するべく歩き出す。
セレナさんは十中八九あれは魔族だろうと言っていた。
俺は頭上を仰ぎ前を行くセレナさんに付いていく。
ふと、先程の言葉を思い出す。
理から逸脱した者、か。
思考が回る。
俺は試されているのだろうか。
今、かつて失った中二心が湧き上がっている。
と、同時に俺の正体を看破した何者かが頭に纏わりつく。
俺は境界都市に行くべきなんだろうか。
結論は当分出そうにない。
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