異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)
1-13 乗るしかない、このビッグウェーブに!
「ニアさん、もうネタは上がってるんですよ? あれ、あのゴミ箱にささったリキッドさんがその証拠だ。俺達が入ってくるまでは二人きりだったはずだ……」
とりあえずニアさんを椅子に座らせて尋問する。まさか、お世話になった人が、それも警備の人から犯罪者が出るとは……やはりこの町は怖い。
「わ、私がやったのは事実だけど……その、隊長が私を怒らせるようなこと言う、から……」
最後はごにょごにょと小さい声だったので聞こえなかった。
「ちょっと聞き取れなかったんで、耳元で囁くように言ってもらえませんか?」
「え? え?」
「ちょーっぷ!!」
「ぐあ!?」
綾香の渾身の一撃が俺の頭部へヒットする。かなり痛い。
「(これでいいの? 殺すわよ……?)」
「ゾクリとした!?」
「はいはい、気が済んだ? セクハラ禁止ね? ねえニアさん、ホントに何があったの? あれは生きてるの?」
綾香がニアさんに詰め寄り、ごみ箱に刺さったリキッドさんをアレ呼ばわりしていた。
「ええ、恐らくは……」
恐らくは。
確率は半分ってところか……仕方ない、リキッドさんからも話を聞かないと状況が掴めないので、起こすことにした。
俺は綾香に手招きをして、ごみ箱の前に立つ。
顔を見合わせて頷き、俺達は一気に行動に移る!!
「「そおい!!」」
俺が右足、綾香が左足を掴み、自分たちの足でごみ箱を抑えて力の限り引っ張る。
ごみ箱から頭が抜け、リキッドさんだと確認できた。イケメンは気絶していてもかっこいい、そう思った。
しかし悲しいかな、反動がついた勢いはリキッドさんを空中へと誘う。
俺と綾香は転ぶまいと踏ん張るが、その時手を離してしまったのだ。
ゴツッ!
頭から落ちたリキッドさんがいい音を立てていた。
目を覚ますかと思ったがどうやら起きないみたいだ。
「帰るか」
「そうね」
「だ、ダメですよ! 確保! かくほー!!」
ニアさんが、フィリアの真似をして俺達の手を掴んでくる。
「あ、いやお腹すいたんで……」
「関係ないですよね!?」
ニアさんが叫んだところでリキッドさんが目を覚ます。今の衝撃が効いたようだ。
「おお……いてて……。お、おめぇら久しぶりだなぁ? どうしたニア? 手を掴んで、そんなに仲良かったっけ?」
「い、いえ……じゃなくて、隊長! どうして断ってくれないんですか!」
目が覚めたリキッドさんへ食ってかかるニアさん。どうやらこのまま傍観していれば良さそうだな。
とりあえず返り討ちにあったフィリアを長椅子へ寝かせる。下着を見たり、おっぱいを触るとこいつらは調子に乗るので紳士的に運ぶのが最良だ。
「いや、だってよぉ? 領主の所に行けば給料は上がるし、出世街道まっしぐらだってぇいうじゃねぇか。部下がそれに選ばれたなら黙って送り出してやるのが上司ってぇもんだろ?」
ああ、ニアさんが領主付の警備か騎士にでもなるって話しみたいだな。
でもニアさんはリキッドさんの所を離れたくない……というより気付いていないから腹が立つんだろうな。
しかし領主の所へ出向か、これは使えるかもしれないな。ひと段落したら提案してみよう。
「はい、お茶」
「ああ、サンキュー」
綾香がコーヒーを入れてくれ、隣に座る。
何故お茶の在り処を知っているのかはあえて聞くまい。怖い。
「ニアさんも大変ねー。まあ、どこかの気付いているけど応えてくれない人よりはマシなのかしら?」
俺の事ではないと思いたい。あ、ちょっと、顔を無理やり向けさせるのは反則じゃないかな?
「まあ、顛末を見届けよう。ちょっと思いついた事がある……」
「?」
ヒートアップしていたが、やがてニアさんがしおらしくなり、ポツリとつぶやく。
「わ、私は……た、隊長の事が……!」
来た! 告白イベント! 綾香も食い入るように見ている。せんべいを咥えながら!
「キス、そこでキスですよ!」
いつの間にか復活したフィリアが無責任なヤジを飛ばす。いい所なんだから静かにしろ!
「俺が……なんでぇ……?」
「す、す……す……」
「「「……」」」
固唾をのんで見守る俺達。あと一息、頑張ってくれ……!
「すき焼きを一人で食べているのを見てずるいと思いました!!」
ガタガタガタ!
「そりゃ悪かったな、今度はお前も誘うわ」
「そうじゃねぇよ!? ニアさんリキッドさんのこと好きなんだろ!? だから領主の所で働きたくないんじゃないの!? もう素直になって言っちゃえよ!」
「ああああ!? 全部言った! 全部言ったな!」
おっと、突っ込みどころが多すぎて言ってしまったか! ニアさんが恥ずかしさと俺への報復で、パンチを繰り出してくる。
左アッパーか、見えているぜ!
グワシャ!
顎をガードした瞬間、右の振り降ろしが刺さる!
ば、馬鹿な……これは!?
「……ホワイト〇ァング……」
「知ってるんですか、綾香さん?」
説明を求めるフィリアをよそに、リキッドさんが驚愕の表情でニアさんを見つめていた。
「……ニア……おめぇ……」
「ああ!? は、恥ずかしい!? 今のは聞かなかったことに!」
顔を伏せるニアさんの肩を、リキッドさんが掴み前を向かせていた。
「実は俺も……前からおめぇの事が……す、す……」
俺は意識を失いかけながら「ひっぱるんじゃねぇぞ」と思っていた。
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「へへ、騒がせちまったみてぇだな」
目を覚ますと顔を赤くして照れたリキッドさんがニアさんと寄り添っていた。
どうやらちゃんと好きだと言えたらしい。その瞬間を見れなかったのは惜しかったが。
「大丈夫よ! 良かったわね、ニアさん! で、陽が領主の事で話があるんだって」
「へえ? 俺達でよけりゃあ協力するぜ、なあニア?」
「ええ! どんとこいだ! 君達には本当に感謝している!」
凛としたセリフだが、顔は緩みまくっているし、イチャイチャ度が凄い。
リキッドさんもさっきまでゴミ箱に頭を突っ込んでいたとは思えない。
ようするに砂糖を吐きそうなくらい甘い空間が出来ていた。一刻も早くこの場を離れたいが、綾香とフィリアが両脇でガッチリと俺の腕をロックしていた。
「あれが私達の未来の姿よ」
やめろ。
「ごほん……えっとだな、今の領主は俺の探している敵みたいなんだ。この荒れ果てた町や他の町も被害を受けているだろ? 俺はそいつを倒すためにやってきたんだ。だから、ニアさんが領主のところに行く、というのを利用して俺達を領主邸に運んでもらいたい」
「……ふむ、確かに領主が代わってから悪政が目立つようになったな。しかし何故それを知っているんだ?」
ニアさんが質問をしてくる。ここは隠しても仕方がないので、正直に言ってみる。
「俺達はこの世界の人間じゃないんだ。この世界を救ってくれって神様に頼まれてここに来た。で、元凶の一人が領主って訳だ。だから……ほら、俺のジョブは勇者になってる」
リキッドさんとニアさんが俺のカードを見て、なるほど言う。
「そうかい、なら手伝わせてもらおうか! なあに、あの領主にはニアを渡すのを断っていたからすぐ食いつくと思うぜ? ……あの領主、かなりの好き者って噂だったからなぁ」
「隊長……!」
ガバッっと抱きつくニアさん。あーあー、家に帰ってからやってくださいよーもう。
「じゃあ、すまないんだけど頼めるかな?」
「任せろ、良い手があるぜぇ」
ニヤリと笑うリキッドさんの手とは一体……?
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