パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その138 師範

 「ほわあ……ベッポウの町より全然大きいですねぇ」

 「そうだね、この国の中心になる町だからね。国王が居る町がしょぼくちゃ他国に舐められるだろ?」

 フレーレの呟きに、当然だとばかりに笑いながら言う。城を中心にして、ぐるりと町が作られているのは圧巻であった。

 「それで、ユリさんのおうちはどこですか?」

 「……こっちだ変わって無ければな」

 ベルダーが歩き出しユリがその隣に追いつき、フレーレとセイラはその後ろを歩く。

 しばらく進み、町の喧騒から外れた所に横に長い屋敷が目の前に現れた。

 「変わってないな」

 「そうでもないよ……さ、入った入った」

 門番に声をかけ開けてもらい、ユリが先に入り続いてベルダーが入る。

 「あ、あなたは……まさか?」

 「……」

 気づかなかったフリをしてさっさと中へ入っていき、フレーレ達が挨拶をしながら続けて入る。

 「お邪魔しますね」

 「にゃうん」

 「あ、はいどうぞ!」

 
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 「こんにちはー」

 (え? 外国のお客さん……?)

 (めちゃくちゃ可愛いぞ……)

 二人が通りすがりの人に挨拶をすると、ボソボソと小声で何やら言い合っていた。

 「何かしら? ハッキリ言って欲しいわね」

 「はは、ここに外の人間を連れてくるのは珍しいからね。しかも二人とも美人だし、男所帯のこの屋敷なら気持ちは分かるよ!」

 「び、美人!?」

 「そんな話をしてるんですか……」

 <(嘘じゃないにゃ、二人は可愛いと思うにゃ)>

 あたふたしていると、どうやら師範の部屋へ到着したようで、何も言わず歩いていたベルダーが口を開く。

 「……ユリ頼む」

 「はいよ。父上! ユリ、戻りました!」

 すると中からしわがれた声で一言「入れ」とだけ返事が返ってきた。
 ユリが正座をして襖と呼ばれる引き戸を開けると、ベルダーがその場でしゃがみ、両手をついて挨拶をする。

 「ベルダー、ユリに呼ばれ参上しました。お体の具合はいかがでしょうか」

 「……ベルダーか、久しいな。後ろにいるお嬢さん方は?」

 「あ、わたしはフレーレと申します」

 「私はセイラです」

 二人もベルダーにならって座り、ぺこりと頭を下げると、ニコリと微笑みまたベルダーへ目を向けた。

 「まさかお主が戻ってくるとはな。恨んでおるじゃろうワシを」

 「……逃げたあの頃はそう思っていたこともありました……」

 すると、師範は驚いて目を開き、直後大笑いを始めたではないか。

 「ふわーはっはっは! お主、言うようになったのう! 言われるがまま、何を言われても我慢をすればいいと思っていたあの小僧がのう!」

 「し、師範?」

 大笑いしながらバンバンと背中を叩く師範に驚き、ベルダーは目を白黒させる。
 その内、笑いもおさまり再び話し始める。

 「ふう……お主とユリの仲を認めなかったのはその性格にあったからじゃ。腕は努力しだいで伸ばせるが、性格はそうはいかん。以前のお主は自信の無さがよう出ておった、このままユリと結婚させても周りに流されてきっと家はお取り潰しになる、だから認めなかったのじゃ」

 「……」

 「故に、別の婿を宛がうつもりじゃったが、逆にユリは反発してのう……いまだに結婚もしておらん。いつかおぬしが帰ってくる事を期待していたのもあるじゃろうがな。ワシも老い先短い、ほれついでに何か言いたい事があったら言うみい。聞くだけ聞いてやるわい」

 師範がベルダーへと言葉を投げかける。挑発しているように見えなくも無いとセイラは思っていた。

 「(大丈夫かな?)」

 「(様子見ですね)」

 目を瞑ったベルダーがすうっと息を吸い、カッと目を開いて一気に捲くし立てた!

 「俺に自信が無かった、ユリとの仲も認められなかったのも分かる。そして俺はその事実から逃げたんだし、いえることは何も無い。が! 婿を見つけると言って結局見つけられなかったのはどうなんだ! 結局この歳まで独り身、あんたも孫の顔も見れまい! そしてこれでは俺が諦められないではないか! このクソじじいが!」

 ボグン!

 ベルダーが話しながら師範の顔をおもいっきりグーで殴りつけたのだ!

 「あ!? ちょ、ベルダーさん!」

 「ふふ……良い拳じゃ、成長したのう……じゃがまだ甘いわ!」

 「ぐふう!?」

 「ああ、ベルダーさんが紙切れのように宙に!?」

 しかしそこはニンジャ、天井を足場にしてさらに追撃を仕掛けるベルダー。師範はにやりと笑い、その攻撃を次々に避ける、受ける、反撃する!

 「化け物が!」

 「さっきのは当たってやったんじゃ!」

 部屋の中で猛攻を繰り広げ始めたのを見て、ユリはフレーレとセイラの二人を廊下へと引っ張り出す。 

 「二人ともこっちに!」

 「ひゃあ!? あの人本当にもうすぐ亡くなるんですか?」

 「医者はそう言っていたけど……」

 「血色もいいし、あの動き……嘘でしょ?」

 
 「おのれちょこまかと!」

 「ほほ! やりおるわい!」

 ガス! ボコ! ガン! 二人の拳は尚も相手を倒すため突き出ていた!


 「……そっとしておきましょう」

 ユリがスッと襖を閉め、三人と二匹は隣の部屋でお茶をしに行った。


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 一時間後


 「あら、静かになりましたね」

 「終わったのかねぇ……」

 「行ってみましょう」

 せんべいというお菓子と、緑茶という少し苦めのお茶を食べながら談笑していた三人が、隣の部屋が静かになった事に気づき立ち上がる。

 「父上、ベルダー! 気は済んだ……きゃああああ!?」

 「どうし……きゃあああああ!」

 「なになに? ひぇっ!?」

 
 チーン

 そこには顔を腫らした二人が横たわっていた……。

 腫らした、では済まない生々しい傷が戦いの凄惨さを物語っていた。

 
 「ぐぬぬ……小童が……やるようになったわい……」

 「くそ……俺もまだまだか……」




 さらに一時間後


 セイラとフレーレの回復魔法で全快し、再度話し合いが再開されたのだった。

 「うわーはっはっは! ベルダー、強うなったのう! これならユリとこの家を任せてもよさそうじゃわい!」

 「は……?」

 「それじゃあ賭けはあたいの勝ちだね!」

 「か、賭け?」
 
 セイラが間抜けな声を出して眉をひそめていると、師範が(熱く)語り出した。

 「うむ……婿の話は本当で、実際見合いもした。じゃが、相手は腕は良かったが性格は悪くてのう。ユリは嫌がったのじゃ。そこでユリから提案があってな。10年、その間にベルダーが戻ってきてワシの目にかなう成長をしていたら認めてやろうと、な。まあ絶対帰ってこんじゃろうとタカをくくっておった。そして今年、いよいよ10年経つなと思っての? 医者を巻き込んでもう先が長くないと芝居を打ったんじゃ」

 そしてフレーレがある事に気づき、師範に確認をする。

 「ま、まさか……死ぬ前に孫の顔を見たいとか言って結婚させようとしたんじゃ……?」

 「おおー! 嬢ちゃん賢いのう! その通りじゃ!」

 「それじゃ、死ぬ事は……?」

 「ワシ? 元気すぎてどうやったら死ぬか分からんって医者に言われたよ?」

 「「死ね!」」

 「ぐべ!?」

 それを聞いたベルダーと、ユリの一撃がそれぞれ右と左の頬に刺さっていた。

 「仲がいいのは良いことじゃがこういうのは勘弁じゃのう……」


 「自業自得ですから治しませんよ」

 「しかし、すごい人ね……ユリさんもよく10年も待ってたわよね」

 「はは、今年帰ってこなかったら探しに行くつもりだったけどね!」



 <ふあ……一件落着かにゃ?> 「にゃ~ん……」

 部屋の隅であくびをするバステトがそんな事を呟いていた。




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 その夜、お客さんへの振る舞いとして宴会が開かれドンちゃん騒ぎとなった。

 宴もたけなわになり、それぞれ部屋に案内された後に事件は起きた。


 「まったく、おめでとうございますと言いたいですけど本来の目的を忘れないでくださいよ?」

 <そうにゃ。明日は女神の封印にいけるにゃ?>

 フレーレとセイラ、そしてバステトはベルダーの部屋で明日の事を話し合っていた。めでたく結婚が決まったが、この国に来た目的はまるで果たせていないからだ。

 「……面目無い……明日、師範とユリに今の状況を話して出発しよう。世界の危機だ、分かってくれる」

 「そうね、最悪ディクラインさん達にも来てもらわないと、ベルダーさんが欠けると戦力が落ちるから」

 セイラがそう言った時だった。

 ボトリ……

 「な、何ですか今の音?」

 シャァァァァァ!!

 天井から落ちてきたのは蛇。丁度フレーレからは見えず、フレーレの正面に座っているベルダーがそれに気づく。

 「む! 危ない!」

 ベルダーがフレーレに覆いかぶさり、蛇が噛み付いてきたのを回避する事が出来た。
 目の前に蛇が現れ、フレーレが驚きの声を上げながら聖魔光を拳に宿して蛇の頭を叩き潰す。

 「びっくりするじゃないですか!」

 「うえ……ぐちゃっていった……私はフレーレの旦那になる人が気の毒だと思うわ……」
 
 「古い建物だからな……話の腰を折ったか、それじゃ明日は……」





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 蛇が落ちてくる少し前……
 

 「(へへ! 父上も認めてくれたし、父上も死なない。今日はいい日だね!)」

 お風呂上りのユリが、少し話をしようとベルダーの部屋へと向かっていた。

 「(まだ明かりが点いているね……ふふ、驚くかな? ……ん? 話し声?)」

 襖を少し開けて覗くと、フレーレがベルダーの前に座っている事が見える。ユリの鼓動がドクンと大きくなった。

 「師範とユリには状況を話して……分かってくれるはず……」

 「(何? 何の話?)」

 ユリの見ている角度からでは、セイラの姿が見えない。そのためフレーレと二人きりで話しているように見えたのだ。

 「(聞こえない……中に入って直接……)」

 ユリが思ったその時だ。

 「!?」

 ベルダーがフレーレにガバっと覆いかぶさったのだ!

 「(う、嘘……だって彼氏じゃないって……)」

 <うふふ……>

 「あ、ああ……」

 心臓の鼓動がどんどん激しくなり、逃げるようにユリはその場を後にした……。

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