パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その98 悪意の塊

 ゲルスはファロス達の手を逃れ、グラオベンの元へと向かう。
 その胸中には解せぬものがあった。

 「(アントンは何故発動しなかったのでしょうか? ヤツはまた捕まえて調査する必要がありそうですが、今はここを脱出することを第一に考えましょうか)」

 「待ちやがれ!」

 追跡の先頭はアントンだった。勇者としての力を取り戻しているからか、身体能力は以前より格段に向上している。
 そのアントンが追いつき、ゲルスに突きかかった。

 「しつこいですね!」

 「ここで逃したくねえからな!」

 再度攻防が繰り広げられ、アントン一人では攻撃を命中させられないまでも防御させることは出来ていた。
 しかしアントン一人では逃げに徹したゲルスを止める事ができず、ついにフォルティスたちに追いつかれてしまったのだ。


 「ゲ、ゲルス!? 何故こんなところに!?」

 「この距離をもう追いついたのか!?」

 逃げ出していたグラオベンとフォルティスが驚愕する。10分程度とはいえ、全力で走ればそれなりに距離は稼げていたつもりだったからだ。
 ゲルスはニヤリと笑い、やはり追いついてきたアントンの攻撃を躱してグラオベンに襲いかかる!
 
 フォルティスが牽制するもトンファーの一撃で吹き飛ばされてしまった。

 「な、何のつもりだ!」

 「いえ、国王様には最後に私の役に立ってもらおうかと……」

 「くっ!」

 グラオベンは嫌な気配を察知し、踵を返して逃げ出すがすでにゲルスの間合いだった。

 「『体に宿りし邪悪な因子よ、今ここに目覚めん』!」

 「な、何だ? 俺に放った言葉と同じ……? な!?」

 「うぐあ……!」

 頭を押さえて苦しみだしたグラオベン。アントンがゲルスに攻撃を仕掛け、フォルティスがグラオベンへと駆け寄る。丁度そこに、第一王子のニコラスが現れた!

 「ニコラス様!?」

 「フォルティス! これは、一体どうした事だ!」

 ニコラスが父親にかけよると、血走った目で呻くように告げた。

 「ぐ……うう……ど、どうやらゲルスに何かされたらし、い……。お、俺に何かあった……ら、ニコラス……後はたの」

 最後まで言い終わらない内にグラオベンが地面へ倒れる。


 「こ、国王!?」

 追いついてきたファロス達が、倒れたグラオベンを見て叫ぶ。
 そのままアントンと交戦しているゲルスを取り囲み今度こそ捕縛できると確信したその時だった!

 
 ドクン……

 ドクン……

 「父上! ……なんだこの音は……」

 「ほっほっほ、どうやら成功したようですね。流石にこの人数相手は私と言えど分が悪いので、面白いものを用意しました」

 「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 叫び始めたかと思うと、グラオベンの体が急に膨れ上がったのだ!
 そして徐々に青黒い鱗がその身体を覆っていく。

 「何だこれは……」

 そう呟いたのはファロスだったか、イルズだったか。
 ゆっくりと立ち上がるグラオベンの姿はまるで人型のドラゴンのようであったからだ。


 「ほっほ、それでは国王。この者達の始末をお願いしますよ?」

 コクリと頷くグラオベン#だったもの__・__#が、近くに居たニコラスとフォルティスを弾き飛ばした!
 
 「ぐあ!?」

 「父上、何を!?」

 「もうそれはグラオベンではありませんよ私の忠実な部下……そうですね、竜人とでも名付けましょうか? コールドドラゴンの遺伝子を使って改造させていただきました! どうだ、すげぇだろ! しかも俺達の命令にだけ従うように作ってあるんだぜ!」

 「!?」

 驚いたのはアントンだ。もしかすると、自分が同じ目に合っていた可能性があるためだ。
 
 「野郎、クソみたいな根性してやがるぜ……」

 クラウスが呟き、ゲルスを睨む。
 
 「みんなかかれ! 指示を出させなければ動けんのかもしれん! 捕縛したかったが、構わんゲルスを討て!」

 「分かった!」

 まず躍り出たのはクラウス。大剣ならトンファーで防ぎきれないだろうを踏んだためだ。
 案の定避けて回避するゲルス。だが、ゲルスには勝算があった。

 「竜人グラオベン! ブレスを吐いて援護なさい!」

 「ワカッタ」

 抑揚の無い声で大きく息を吸い込み、竜人は一気に吐き出した! 全員が竜人を見たその隙にゲルスは竜人の後ろへと回り込む

 そしてブレスは冷気を纏ったもので、広範囲に渡って周囲を攻撃したのだ。

 「きゃあ!」

 「シルキー!?」

 後方に下がっていたイルズとシルキー、そしてレイラとハダスにも届いた。草はみるみる内に凍りつき、美しくも無残な姿を残した。

 「ゲルス! 貴様父上に何を!」

 弾き飛ばされたニコラスが立ち上がり、剣を抜いて斬りかかる。

 「ほっほ……あなたは私を警戒していましたから何もできませんでしたが……先ほど申し上げた通り改造ですよ。遺伝子を……おっと、あなた方にはまだ早い技術ですね、言っても仕方ありませんね! これは失礼!」

 ニコラスを蹴り飛ばしながら不愉快な言葉を吐きつつ、そろそろ離脱を考えていた。

 「(さて、実験も成功……竜人を盾にすれば離脱は可能ですね。腐っても国王、攻撃は躊躇するでしょう……)」

 しかしゲルスは失念していた。アントンの持っていた武器が何だったのかを。

 「竜なら俺に任せろ! ドラゴンスレイヤーだ!」

 「グオ!?」

 竜人の皮膚をいとも簡単に切り裂き、爪で切り裂かれながらも前進するアントン。
 そして目標であるゲルスへと至った!


 「そういえばあの時ドラゴンの首を落としたのはあなたでしたか!」

 「そうだ! 今度こそ……!」

 「ぬぐ!? 小癪!」

 ゲルスがシャドウインヴァートを放とうとするが、その左手を刈り取っていた。

 ブシャアアアアア!

 「ぐああああ!? おのれ! 役立たずめがやってくれたなあ! この借りは必ず返すぞ!」

 「次はねぇ!」

 しゃがみ込むゲルスの頭に剣を振り降ろすがトンファーで受け止められていた。
 そのまま足払いを決められアントンは派手に転んだ。

 竜人に手助けを求めようとしたが、ファロスとクラウスが足止めをしていた。

 「チッ、これでも分が悪いか。今は生かしておいてやる……次は必ず私の実験材料に……! 竜人よ、適当に暴れたら離脱しろ。できなければ死ね」

 「ワカッタ」

 後ろを向いたままコクリと頷き、ファロス達にブレスを吐きかける。
 ゲルスは左手を拾い、その場から逃走してしまった。

 「クソ、逃がすか……! うお!?」

 「イカセナイ」

 慌ててしゃがんだアントンの頭上を竜人の爪が掠る。直後振り返ったゲルスがシャドウインヴァートを放ってきた

 「させない!」

 シルキーがマジックアローでそれを相殺。すかさずフォルスが大声をあげる。
 
 「フォルティス!」

 「痛ぅ……ま、待てゲルス!」

 「ほっほ、待てと言われて待つお馬鹿さんが居ますかね! 次はこうはいきませんよ!(とりあえずビューリックへ行きましょうか)」

 ほっほっほと嫌な笑い声を残し、ゲルスは逃げ去った。竜人化したグラオベンに弾き飛ばされた時どこかケガをしたらしいフォルティスでは追う事が出来なかった。

 「失態だ、みすみす逃がすとは……! しかしこれで全国へ指名手配がかけられる!」

 「それは後だ! 今はこいつを何とかしねぇとここで全員お陀仏じゃ話にならねぇ!」

 竜人と幾度となくぶつかり合いながらクラウスも叫ぶ。それを聞いたファロスはギルドマスターとイルズへ撤退を指示した。

 「イルズ! レイラとハダスを連れてアルファの町まで先に戻れ! 戦力は欲しいが、ゲルスが逃げたと見せかけて各個撃破を狙っていないとも限らん!」

 「分かりました、では我々は先に」

 「死ぬんじゃないよ! 帰ったら一杯だ!」

 レイラがファロスの背中に声をかけて駆けだす。
 
 「さて、アントンいけるか?」

 「ああ、逃がしちまった。悪い」

 「こんな事まで出来るとは思っていなかったからな……君がこうならなかったことは幸いだったよ」

 「……」

 「シネ!」

 さらにコールドブレスを吐いてくる竜人、直撃は避けているが周囲の気温低下によって徐々に動きが鈍くなってくる。

 「みんな、出来るなら竜人を……父上を殺してくれ! 元に戻せるかもしれないが、今我々が全滅するのは避けたい」

 「……よろしいのですか?」

 「構わん! 父が招いた事だ、その覚悟はあるだろう」

 ファロス達は何とか行動不能にして捕まえたいと考えていたが、ニコラスの言葉でやむを得ず戦闘方法を切り替える事にした。

 「俺とクラウスで足止め、アントンのドラゴンスレイヤーで心臓を潰す。人間からの変身だから場所は同じだと思いたいな」

 「分かった、頼むぜ!」

 「ナニヲコソコソトハナシテイル!」

 「よし、散開だ! 終わらせるぞ!」

 ファロスが叫び、会談場最後の交戦が始まった!

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