パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その54 不穏

 
 アントンが息を引き取り、やりきれない気持ちで立ち尽くしているとチェイシャが私へ話しかけてくる。


 <亡くなってしもうたか……操られていたとはいえファウダーの首を落とすとは見込みはありそうなやつじゃったが……ルーナよ、すまんがファウダーのところまで来てくれんか>


 それだけ言うとタタタ……と先ほどのドラゴンの所まで駆け出して行った。


 「俺達も行こう。アントンは俺が背負うから、フレーレちゃんもいいね?」


 「ぐす……は、はい……」


 よろよろと立ち上がり、俯いたまま歩いてくる。チビ達がフレーレの涙を舐めて慰めていたのが胸を締め付ける。






 来た道を戻り、辿り着いたその場所ではまだドラゴンの遺体が横たわっていた。血は黒く変色しつつあり、散った血の量から凄惨さが伺える。


 <女神の封印を守るはずのこやつがここに居る理由がさっぱり分からん。操られていたとはいえあの場所を離れるのは容易ではないのじゃ>




 「あの男、傷を広げる魔法とか使っていたから何か秘密があるんじゃない……? あいつは明らかに異質だったわ」


 傷を広げる、という言葉でフレーレが一瞬ビクっとしたが、俯いたままなので話を続ける。


 <力の在り処も気になる、わらわのように生き残るかは五分じゃが、胸のクリスタルを破壊してくれんか? それで『女神の力を封印をする役目』は解ける>


 ドラゴンの胸には確かに輝く宝石のようなものがあった。私は剣で思いっきりクリスタルを斬ると、粉々に砕け散った。




 シュウウウウウウウ……。


 冷気と共に巨大な姿が消え、地面にリングが残されていた。


 <”寛容のリング”じゃな……女神の力は解放されたか。ルーナよ、持っていくがよい。パパ上に会う手掛かりじゃろう>


 「あ、うん……」


 リングを拾い、カバンへ入れる。腕輪はベルダーにつけられたけど、何が起こるか分からないので装備する気にはなれない。


 <それでええ……む!>


 チェイシャがドラゴンの頭があった所へ振り向くと頭が消え、その場に小型のドラゴンが残った。


 <賭けに勝ったか? おい、しっかりするのじゃ!>


 <う、うーん……オイラまだ眠いよう>


 <起きんかい!>


 チェイシャの尻尾ビンタが炸裂する。それをみたチビ達が真似し始めたから手が付けられない。


 「きゅんー」「きゅん」


 <ぷわ!? な、何だ何だ!? こ、ここは?>




 <目が覚めたか、わらわが分かるか?>


 <ああ!? チェイシャじゃないか! 何か小さくない?>


 <それはお主も同じじゃな>


 <ホントだ……オイラの爪も牙もこんなに小さく……>


 チェイシャより少し大きいくらいの青いドラゴンがシュンと小さくなり、やっぱりチビ達に慰められていた。


 <で、どうしてここに居るんじゃ?>


 <うーん、よく覚えていないんだけど、封印の間が解放された時に変なおっさんが来たんだよね。追い返そうとして戦った記憶はあるんだけど……その後は自分の体が動かせなくなって、ずっと暗い所に閉じ込められている感じだったよ。さっき死ぬまで、意識はあったけど体は動かせなかったな……あの兄ちゃんには悪いことしたよ>


 兄ちゃんとはアントンの事だろう。首を落とされたのに悪い事をしたというこの子はいい子のような気がする。
 チェイシャが目を瞑って考える。


 <戻ってから整理するか……先にその男を連れて帰らないといかんじゃろ>


 「そうだな……戻ろう」


 レイドさんが悲しそうな顔をして、チェイシャの言葉に頷く。




 <オイラも行っていいかい? 封印が解放されたから元の場所に戻っても仕方ないからね!>


 「いいわ。でも人前でしゃべっちゃダメだからね? ……さらわれて解剖されちゃうかも……」


 <よ、よしてくれよ……オイラはファウダー。”憤怒のファウダー”これでもコールドドラゴンなんだ! よろしくな姉ちゃん達!>


 「私はルーナよ!」


 「俺はレイドだ」


 「……」


 フレーレ?


 「きゅん!」「わふ!」「きゅんきゅん!!」


 <シルバにレジナにシロップだな! よろしくな! そっちの姉ちゃんは……?>


 「あ!? フ、フレーレです。よろしくね」


 ずっと俯いていたフレーレの頭にファウダーが乗り(羽があるので便利ね)、声をかけるとようやく気付いて微笑みながら自己紹介をしていた。さっきから様子がおかしい気がする……。










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 「何? 失敗?」


 「ほっほっほ、申し訳ありません。やはりあのクズ勇者ではダメでした」


 「ふざけるな! 何の為に高い金を払っていると思っているんだ! すぐに確保してこい!」


 「いえいえ、もうドラゴンも使いましたし手駒が無いのですよ。すぐは無理ですねぇ」


 ゲルスは肩を竦めて目の前の男……エクセレティコ国王へと告げる。


 「もういい! 他の国に先を越されては面倒だ、俺の好きにさせてもらおう。おいこいつを拘束しろ。もう用は無い」


 近くに控えていた騎士達がゲルスを取り囲むが、ゲルスはニヤニヤしたまま動こうとしない。


 「何がおかしい? 連れて行け、私は部屋へ戻る。そいつの処遇は後で決める」


 国王が後ろを向き、部屋へ戻ろうとした時、ドサリと人が倒れる音がした。
 慌てて振り向くと騎士が全員床へと倒れ込んでいたのだ。


 「き、貴様!? 抵抗するのか! 誰か! 誰かおらぬかーー!」


 「ほっほっほ。謁見の間に”封音の魔法”をかけましたからね、聞こえませんよ? しかし偉い人と言うのはどうしてこう短気なのでしょうね? 1回失敗しただけじゃありませんか。そういえばあのクズ勇者を育てた貴族もそうでしたねえ。また攫ってくると申し上げているのに、私を殺そうと斬りかかってきましたね。ああ、もちろん殺しましたが」


 こいつは何を言っているんだ? 近所でちょっと遊んできた、という感じで淡々と話す目の前の男に戦慄していた。それよりも気になるのは……。


 「封音の魔法、だと? そんなものは聞いたことも無い! 貴様一体何者だ? 悪魔の手先か?」


 「ほっほ、人聞きの悪い。れっきとした人間ですよ? そういえば私の恩恵を教えていませんでしたっけ? 私の恩恵は<創造クリエイト>と言いましてね。魔法を創るのはそれほど難しくありませんよ? 他にも色々できますが、まあ機会があればお見せしましょう」


 何だその恩恵は、と国王は思う。そんなでたらめな恩恵は聞いたことが無い。ましてそれがこんな男に授かっているのは何の間違いだ、とも。


 「ですからね? ……この国を破滅させるなんて簡単なんだよぉ? でも俺の目的はあくまでも女神の力だ、だからお前を利用させてもらうって訳だ! 一人は寂しいからなあ……実験台が無くなったら楽しみが減っちまう! そう思わねぇか!! ぎゃはははは!」


 「わ、分かった……これからも、協力を……頼む……」


 「そうそう、それでいいんだよ! ……では、これからもよろしくお願いしますね?」


 そう言いながら去っていくゲルスを見ながら国王は冷や汗をかいていることに今気付く。
 手で拭おうとした時、ゲルスがピタッと止まり、振り返らずに国王へ話す。


 「そこで倒れている騎士は寝ているだけなのでご安心を。まあいつ目覚めるかはわかりませんけどねえ。ほっほっほ……」


 「……俺は取り返しのつかないことをしてしまったのか……? 野放しにするのも危険だが、女神の力……これでは王国の繁栄どころではないぞ……」


 一人残された謁見の間で国王は頭を抱えるのであった。

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