パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その51 二人

 「らぁあああ!!」


 「ほっほ、当たりませんねぇ?」


 アントンはドラゴンスレイヤーを振るうが霞でも斬るかのごとく当たらなかった。
 怒りと焦りが体力を徐々に奪う。


 「はぁ……! はあ……」


 「ほっほ。あの頃と何も変わっていませんねぇ。力を抑え込んだら面白いかと思ったのですが……」


 顎に手を当てて首を傾げるゲルス。笑い声と仕草を見て、アントンは忌々しげにつぶやく。


 「くそ……絶対に殺してやる……!」


 「おお、怖い怖い! では私も奥の手を使わなければなりませんね!!」


 間合いを離され、指先に魔力が集中していく。




 「それ!」


 ゲルスが指をこちらに向けたのを見たアントンは咄嗟に剣でガードをする。
 しかし、魔法の光線は少し右に逸れた。


 「へ、へたくそが……外しやがったな!」


 「いいえ狙い通りですよ」


 ニヤリと嫌な笑みをしたゲルスの言葉の後で、ドサっと地面に倒れる音が聞こえアントンが後ろを振り向くと……。


 「お前!? お前がどうしてここに! つ、ついて来てたのか!」


 アントンが振り返ると、肩から血を流しているメルティが横たわっていた。


 メルティは広場でアントンと目が合った後、衛兵の目を盗んで町の外へ出たアントンを追いかけていたのだ。


 「ほっほ、お知り合いでしたか? ……なぁんてな! 俺はお前を監視していたんだ! そのガキの事は知ってるんだよ! まあ、お前に関わったばっかりに? すこーしだけ寿命が短くなったけどな! お前のせいで!! そいつは俺のとっておきだ! すぐあの世へいけるぜー? へっへぇ!」


 ぎゃはははと、腹を抱えて笑うゲルスを無視してアントンはメルティに駆け寄る。


 「おい! ガキ!」


 「う、お、お兄ちゃん……」


 肩に受けた傷の出血が酷い。
 早く治療をしなければメルティが死んでしまうと判断したアントンは、メルティを抱えて町へと走り出そうとした。


 「ほう? 私がここに居るのに逃げるのですか? この憎いにくーい私を置いて! 今だけかもしれませんよ!! 私を倒せるチャンスは! ほら、自分の欲望に素直に従いなさい!」


 「……うるせぇ!! てめぇは必ず殺す! そこでまってやがれ! ……ああ、俺が怖いなら、逃げてもいいんだぜ? はは!」


 逃げながら挑発に対して挑発で返すと、ゲルスは急に真顔になり冷ややかな目でアントンとメルティを見つめる。


 「……ふむ、おもちゃに反抗されるのも面白くないですね……。ルーナが戻ってくるまで待ちたかったですが、仕方ありません……」


 何やらゲルスが呪文を唱えると、アントンの腰にあるポーチ、例の黒い卵が共振を始める。


 「何だと!?」


 走っていたアントンがポーチを見て驚愕の声を上げる。まるで闇が染み出す様に、ポーチから黒い何かが出てきていた。マズイ! そう判断したアントンがポーチを投げ捨てるとグシャッという音が響いた。




 そして……。




 卵から噴き出した闇が徐々に形を作っていく、完全に姿を形成した後、最後に両目が開かれ雄叫びを上げる!




 「グオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 冷気を伴った巨大なドラゴンが現れた!!


 「ドラゴンだと!? 町にこんなもんを出させるつもりだったのか! ルーナ一人の為に何考えてやがる!?」


 「ほっほっほ!! 手段はどうでもいいのですよ! 肝心なのはルーナを手に入れる事、ただそれだけ! 誰が! 何人! どこで死のうが! 私の知った事ではありませんからね! しかし今はおもちゃを壊すことが優先です! さ、行きなさい!」




 「グルォォォォォン!!」




 「分かってたと思ってたが本気でクソ野郎だな! うお!?」


 ドラゴンが尻尾でアントンを打ち付け、その身体を吹き飛ばす。咄嗟にメルティを抱きかかえ、アントンは木にぶつけられる。


 「お、にい、ちゃん……わたしを置いて、に、にげて……」


 「つう……。おい、ガキ、くだらねぇこと言ってんじゃねぇ! すぐ町に戻るからな。もう少し我慢しろ!」


 よろよろと立ち上がり、再びダッシュする。
 それを見ていたゲルスが、面白くないと魔力の光線を放つ。


 「ぐあ!? ……まだだ……!」


 アントンは肩、足、腕を貫かれながらもメルティを落とすことなく町へと逃げ切ることができた。






 「……クズが……大人しく死ねばいいものを……ドラゴンを出したのは予定外でしたが、まあいいでしょう。ルーナが戻ってくる前に町を破壊するのも面白いかもしれませんね……心を壊してしまえば、後は私の思いのまま……」


 「グルルルル……」


 ドラゴンを連れて森の奥へと消えていくゲルスだった。








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 「はあ……! はあ……!」


 「お、にい、ちゃん……」


 「喋るな! 今医者に……!」


 メルティの顔から血の気が引いていく、アントンも尻尾に打ち付けられ、さらに魔力の光線で貫かれているので満身創痍という状態だった。


 そこへ入り口の衛兵が気付き、駆け寄ってくる。


 「お、おい! 一体どうしたんだ!?」


 「事情は後だ! 俺達を病院へ頼む……!」


 アントンの叫びに衛兵がビクっと体をこわばらせ、肩を貸す。衛兵は同僚に「このまま一緒に行く」と告げて病院へと向かった。






 「……じゃ、邪魔するぜ……」


 アントンが転がるように病院へ入ると、待合室が騒然となる。アントンもメルティもかなり出血しており、見た目だけなら死んでもおかしくない状態というくらいの様相をしていたからだ。


 「こいつを頼む……! お、俺はこいつの母親を連れてくる……」


 「お、おい! お前も……」


 衛兵が制止するのも聞かず、足を引きずりながらアントンは病院を出る。








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 ほどなくして、ソフィアに肩を抱かれたアントンが戻ってくる。妹のメアリも一緒だ。
 メルティは診察台へと移されていた。


 「メルティ!」


 「お、かあさん……ごめんなさい……」


 「……すまねぇ……」


 アントンは涙を流しているソフィアに謝罪をする。


 「……いいえ……この子が勝手についていったんでしょう……ノートナさんの……せい、では……」


 泣き崩れるソフィアを横目にアントンはメルティの止血をする医者へ話しかける。


 「爺さん、こいつは助かるか?」


 「……五分じゃな……せめて回復魔法で傷を塞げればいいんじゃが……」


 「か、回復魔法だな……」


 「おい! どこいくんじゃ!?」


 アントンは再度病院を出て、今度はギルドへ向かう。




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 ギルドの扉を開けて、アントンは受付へと体を預ける。
 今日もイルズが受付かと思いながら用件を伝える。


 「シ、シルキーは居るか? ちょっとケガ人が居てな……金は払う……」


 「お、おい! しっかりしろ! お前も酷いケガじゃないか! シルキー! シルキー!」


 すると一人の女性が奥のテーブルから出てくる。


 「ちょ!? 酷いケガ!? ≪リザレクション≫!!」


 以前、フレーレが隻眼ベアに傷を負わされた際に助けてくれたのがこのシルキーである。
 アントンの傷はみるみる内に塞がっていく。


 「……すまねぇ、急ぎ見て欲しいガキが居るんだ! 来てくれ!」


 「え? え? ちょ、ちょっと!?」


 「……なんだあ、あいつ?」


 イルズがシルキーを引っ張る仮面の男を見て、ボー然とするのであった。






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 「戻ったぞ! まだ大丈夫だろうな!?」


 アントンは病院のドアを蹴破るかのごとく入り、シルキーをメルティの前へ連れて行く。


 「はあ……はあ……」


 荒い息をしているが、メルティはまだ無事なようだ。
 それを見てシルキーがアントンを見て頷く。


 「そういうことなら、お安いご用よ! 大丈夫、怪我はすぐ治すから! ≪リザレクション≫!!」


 回復魔法の最上級を使うと、メルティの体を虹のような光が覆う。


 しかし……。


 「……嘘!? 魔法が……効いていない……!?」


 「なに!?」


 シルキーが再度リザレクションをかけるが、むしろ傷口が広がっているかのように包帯に血が滲んでいく。


 (そいつは俺のとっておきだ! すぐあの世へ行けるぜ!)


 アントンはゲルスの言葉を思い出す。


 「あの野郎……! 何か細工を……!」


 「ごほ……ごほ……」


 悪いことに、メルティは発作も併発してしまった。いつもなら咳だけだが、口から血も吐き出していた。


 「メルティ!?」


 ソフィアがメルティを抱きしめる。母親の直観か、いやここに居る誰もが分かっていたのかもしれない。


 「何とかならねぇのか!?」


 医者の胸ぐらを掴むが医者は首を振るばかりだった。処置はした、後はこの子次第だと小声で呟いていた。


 「おにいちゃん……」


 メルティがアントンを呼び、医者を乱暴に離して駆け寄る。


 「どうした!? 肩が痛むのか!?」


 メルティの手をアントンが握る。


 「う、ううん……ぜ、全然平気だよ。ごめんね……あの変なおじさんを……た、たおしたかったんでしょ……わ、わたしが邪魔……しちゃって……ごほ……」


 「あんなやつぁどうでもいいんだよ! あんまり喋るな、傷が大きくなる……」


 メルティが困った顔でアントンを見ると、力なく首を振って告げる。


 「……ふつかだけだったけど……み、みじかかったけど……わたしは……楽しかったよ……」


 「まだ遊べる……遊んでやるからそんな言い方するな……ほら、お前俺の嫁さんになるんだろうが?」


 何となく思い出し、仮面越しにへたくそな笑顔を作る。


 「ええ……? そ、それ……お、おにいちゃんに言ったかなぁ……? うーん……でもメアリにゆずってあげるよ……わ、わたしはおねえちゃんだから、ね……」


 「不死鳥の血でも霊薬でも俺が持ってきてやるから……だから死ぬなメルティ!」


 「あ……や、やっと名前、呼んでくれた、ね……」




 ニコッと笑い、握っていた手から力が抜ける。


 その瞬間、メルティはその短い生涯を終えたのだった。

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