パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その49 手紙

 
 「じゃあ俺はこっちだから」


 「出るときは声かけますからね! 天井付近は吹き抜けになっているんで、声は通りますから」


 レイドさんが片手をあげて浴場へ入っていくのを見送り、私達も入る。


 「きゅーん……」「きゅん……」「わふ……」


 狼の親子は気乗りしていないが、シルバは私、シロップはフレーレがしっかりと抱っこしていたので逃げられない。子供を置いて逃げるわけにも行かずレジナも大人しくついてきた。


<尻尾! 尻尾を洗うのじゃぞ!>


 ───────────────…………。




 「いい湯ですねー……」


 「そうねー……ってこのやりとり最近あった気がするんだけど……」


 「気にしてはいけませんよー……うふふ……」


 少し温まったところで、チェイシャの尻尾を洗う事にする。チビたちは桶に。レジナはたらいに浸かっている。
 ちなみに湯船につけなければペットを連れて入っても誰も文句を言わない村なのだ。


 <お、おお……そこそこ……お主うまいのう……>


 石鹸で泡立て、チェイシャの尻尾をごしごしと洗うと気持ち良さそうに目を細める。
 よほど気持ちいいのが伝わったのか……。


 「きゅーん?」「きゅん!」


 <お主たちも尻尾を洗ってもらえ、風呂が好きになるぞ……ふみゅみゅ……>


 「わふ」


 「順番だからねー」


 チェイシャが満足そうに脱衣所へ行ったので、今度はチビ達も尻尾を重点的に洗ってあげると「きゅふん」と謎の声をあげてべたっと床に体を預けていた。


 「あら、気に入ったのかしら?」


 珍しく桶の中でじっくり浸かっていたチビ達だった。気持ち良さそうなので、頭に畳んだ布を乗せてあげる。




 「さて、最後にもう一回入って出ましょうか」


 「そうですね。また明日も入れますし! 朝も入りたいですねー」


 何故そんなに情熱が出てくるのか分からないが、楽しそうなので良しとする!
 それにしても……。


 「また育ってない?」


 「? 何がですか?」


 心底分からないという感じで首を傾げるので、その部分を鷲掴みにする。


 「わひゃ!? なななな何するんですか!?」


 「大きければいいってもんじゃないけど……やっぱり気になるのよね!」


 「あはははははは! や、やめ! やめてください! 胸は……胸はダメです! あふん……」


 フレーレが湯船に沈んだので慌てて引き上げる。


 あー楽しかった! そろそろ出ようかな。


 「レイドさーん。私達そろそろ出ますよー」


 シーン……。


 ありゃ? 返事が無い。


 「レイドさーん!」


 「どうしたんですかね? 先に出たとか?」


 「レイドさんの性格だとそれは無さそうだけど……」


 すると男湯からおじさんの声が響いてきた。


 「おお!? どうした若いの!? 大変じゃ、湯船が血で真っ赤に染まっておる! 誰かー!」


 「…………」


 後から聞くと鼻血だったらしい。なぜ……?






 と、そんなこんなで帰省から三日ほど経過していた。


 町よりも土や木が多い村なので、レジナ達も外に出て遊んでいたようだった。


 デスクラブを倒した日の夕食は豪華そのもので、蟹のてんぷらや炊き込みご飯、鍋などがテーブルに並んでいたのだ! 特に鍋が絶品で、私とフレーレは無言で蟹の足を食べていた。


 腰はフレーレのヒールのおかげなのか、少し良くなってたみたい。効くの……?


 それからみんなでお酒を飲みながら、ダンジョンでの事を話したりしていたんだけど……。


 「……女神の腕輪、ね」


 パパには話しておこうと思って、女神の力と腕輪に関して話しておいた。
 「大丈夫なのか? お祓いするか?」と心配してくれたけど、その時のパパ目は冷ややかだった気がした。


 すぐに笑顔になったけど、なんだったんだろう。


 そして……。












 「ふんふふーん♪」


 「あらフレーレちゃん、昼間から温泉かい? ふやけちまうよ? ははは!」


マサラさんがご機嫌のフレーレに声をかけていた。暇があれば温泉に浸かっているのだ、そう言われるのも不思議ではない。私はシルバ達とボール遊びをしながらそれを見ていた。


 「きゅんー」


 「はいはい、ほらとっておいでー!」


 「「きゅーん♪」」


 「わふ」


 「レジナは行かないの?」


 「わふわふ!」


 <子供に混じっては遊ばないと言っておるぞ>


 相変わらず私の頭に乗っているチェイシャがあくびをしながら言う。この前尻尾を洗ってあげたらご機嫌で、ちょっと仲良くなれた気がする。


 レジナやチビ達もぬるめのお湯を風呂桶に入れて浸かるくらいはしてくれるようになった。
 尻尾は石鹸で洗った後乾かしたらめちゃくちゃふさふさになり、チビ達がドヤ顔で振っていたりする。


 「そうなんだ、 偉いねえレジナは」


 お腹を見せて喜んでいるこの姿は母親としていいのだろうか? と思いながらお腹を撫でてあげる。
 ちなみにレイドさんは村を散歩した後、部屋で読書らしい。何を読んでるのか気になるなぁ。






 とまあ、今日も何事もなくゆっくりとした時間を過ごしていた。そして帰る時がやってくる。


 私は特に急ぎの用事もないけど、レイドさんとフレーレは冒険者以外にも仕事があるため明日出立しようと決めていたのだ。
 その夜、最後の日という事でパパが”ヘビーオックス”を狩ってきてステーキにしてくれた。肩ロースが美味しいのよね。


 というかパパ……腰……大丈夫なの?




 「いやあ、楽しかったよ! また遊びにおいでよ!」


 「こちらこそお世話になりました!」


 「すいません、色々とお任せしてしまって……」


 フレーレとレイドさんが、ぺこりとおじぎをしつつ、ステーキをナイフで切り分ける。
 ちなみに狼親子とチェイシャもお皿にお肉を出している。喧嘩しない様に、きちんと一匹に一皿である。


 「またお金を稼いだら戻ってくるわよ! その時一緒に来ればいいじゃない。温泉、気に入ったみたいだし、おチビ達も村でのんびりしてたからちょくちょく戻ってきたいわねー」


 「きゅーん♪」
 シロップがパタパタと尻尾を振って応えてくれる。


 「ははは、まあこんなところで良ければいつでも……ほら、レイド君も」


 「ありがとうございます」


 パパにグラスへお酒を注いでもらい、レイドさんがグイっと飲む。


 「……ルーナをよろしく頼む」


 「は? え、ええ、それはもちろん」


 「(ですってルーナ。いいですねー)」


 「(何? 何の事?)」


 フレーレが別にー、と口をとがらせてまたステーキをモグモグと食べだす。んー?


 <ほほほ、人間の女は色恋沙汰が好きじゃのう>


 小さい声でチェイシャがそんなことを言っていた。


 でも、この時パパが言った意味はそんな甘いものでは無かった。










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 「んー……おはようーって朝食がもう出来てる!? 流石はパパ……」


 しばらくテーブルで水を飲みながら待っていると、フレーレとレイドさんが起きてくる。


 「おふぁようございますー……」


 「おはよう、今日も豪勢だね、はは……」


 フレーレは最後だからと、温泉に入りすぎて疲れたのだろう。私より遅いのは珍しい。
 レイドさんはテーブルに並べられた食事を見て馬車で酔わないかな……と心配そうな顔だった。


 「きゅん!」「きゅーん!」
 「わっふ!」


 <パパ上は居らんのか、なら喋ってもいいかのう>


 「おはようー、パパは起きているハズなんだけど……二度寝してるのかも。ちょっと見てくるわ、先に食べてていいよ!」


 私は寝室へと向かい、ドアをノックしながら呼びかける。


 「パパー、みんな起きたわよー。張り切って作ったんでしょ? 今日で一旦最後だし一緒に食べましょう!」


 ………………返事が無い。




 「開けるよー?」


 扉を開けると……寝室には誰も居なかった。念のためクローゼットを開けてみるがやはりもぬけの殻……。どうやらいたずらをしている訳ではないらしい。


 さて、どこへ行ったのかと考えていると、ベッドの横にある机の上に封筒があるのを発見する。


 「……手紙?」


 ”ルーナ”へと書いているから私宛のようだ。んー? なんだろ?
 封筒を持ってダイニングへ戻り、パパが居ないことを二人に話す。


 「どうしたんですかね? 腰がぶり返したんでしょうか?」


 「手紙には何て書いてあるんだい? あの人が出発を見送らないとは考えにくいが……」
 すっかりレイドさんもパパに毒されていた。気持ちは分かる。


 「えーっと……ルーナへ、パパはしばらく旅に出る……はあ!?」








 ”ルーナへ。


 急で悪いが、パパは旅に出る。しばらく戻ってこないからそのつもりで……と言いたいが、お前は女神の力を回収しながら俺を探しに来い。


 理由は……そうだな、俺の所まで辿り着いたら教えてやる。お前が忘れているであろう、10年前の事もな。女神の力を回収していけばおのずと思い出す可能性もあるが……これは賭けだ。


 最低でも女神の力を4つ。それが俺と会う条件だ。ひとつ持っているから残り3つ必要という事だな。


 ちなみに集めるのが嫌ならそれでもいい、強制はしない。その場合は好きに生きるんだ。
 その時は……俺もお前とは二度と会う事は無いだろう。パパは寂しいがそう言うものだと思ってくれ。


 お前が腕輪を手に入れたのは偶然じゃない……。好きに生きていいと書いたが、難しいかもしれん……。
 恐らく強制的に力を引き寄せる可能性が高いからだ。


 お前が無事、俺の所まで来るのを待っている。    パパより”








 「な、何……これ……? どういうこと、なの……」


 「お父様は一体……」


 そして最後の一文を読んで、レイドさんが驚愕する。




 追伸:レイドの妹は生きている。




 「……!? 何でルーナちゃんのお父さんが俺の妹の事を知っているんだ? しかも生きている、だと?」


 <少なくとも、タダものじゃないのは確かじゃの。わらわに威圧をバンバンかけてきておったからのう>


 チェイシャがしれっとテーブルに乗り、そんな事を言う。そんなことしてたのパパ!?


 「そ、そういえば手紙にも「パパより」って書いてますけど、名前何て言うんですか? ずっと『パパ』としか自己紹介していなかったですけど……」


 「え? パパの……なま、え?」


 フレーレに言われて咄嗟に名前が出てこなかった。そういえばなんだっけ……?


 頭にもやがかかったみたいに何故か思い出せない……一瞬腕輪が光り、そこでパッと思い出す。




 「……た、確か……ディクライン……そう! ディクラインだわ! 間違いない!」


 私が何とか思い出すと、レイドさんは私の肩を掴んで「間違いないね?」と顔を青くしていた。


 「ど、どうしたんですか……? すごい汗ですよ……?」




 「ディクライン……昔その名を聞いたことがある。俺が……俺が倒し損ねた魔王を倒し、行方をくらました……勇者と同じ名前だ……」


 「「え!?」」
 私とフレーレがここで出るはずのない人物の名を聞き驚く。ま、まさかあ……ねえ?


 <……なるほどのう、ならあの威圧感はわらわに向けてしかるべき、か。……しかし女神の力を回収しろとはどういうことじゃろうな……>


 「……分からん、が、セイラが生きているというのも気になる……もしそうなら……」


 「ほ、ほらみんな! あれよ、パ、パパのいつもの冗談よ! ね、もうーどこに隠れてるのパパー!」


 「ルーナ……落ち着いてください……大丈夫、大丈夫ですから」


 フレーレがふいに私を抱きしめてくる。


 「わ、私取り乱してなんか……」


 「……ごめん、俺も焦っていたけどルーナちゃんは当事者だ、君の事を考えるべきだった……」


 レイドさんも私に頭を下げてくる。や、やだなー!


 「だ、大丈夫ですよー! あ、あれ」


 「なら! どうして泣いてるんですか……」


 フレーレに言われるまで気付かなかったが、私の目からは涙が溢れていた。


 私……一体どうしたらいいの……?

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