パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その44 原点

 
 「アントンの恩恵は<勇者>か! これはいい!」


 「すごいの?」


 「ええ、そうよ。勇者の恩恵は何にでもなれるの! アントンは好きな事をして生活できるのよ」


 「じゃあ僕、お父さんみたいな剣士になるよ!」


 「嬉しい事言ってくれるじゃないか! よし、今日はお祝いだ!」












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 「いいか、よく見ておけよ……≪重撃斬≫!」


 「すごいすごい! あんなに大きな木がバターみたいに切れた!」


 「この斬る時の角度がな、重要なんだよ。そしたらドラゴンの固い鱗でも斬れるんだぞ」


 「えー嘘だあ」


 「本当だぞ!? ほらアントンもやってみるんだ」


 「うーん、難しいよー」


 「あなた、アントンはまだ5歳なんだから……」


 「そ、そうだな! また見せてやるからな!」


 「うん!」








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 「アントンを、アントンを返して!!」


 「貴様等! 俺の息子をどうするつもりだ! ぐあ!?」


 「おとうさーん! おかあさーん!」


 「ほっほっほ、連れて行きなさい」


 「ま、待ってぇ! アントン! アントーン!!!」












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 「この子が勇者の恩恵を?」


 「ほっほっほ、そうでございます。息子として育てれば、勇者を育てた者としてあなた様の名声はきっとあがりますぞ?」


 「そりゃあいい! 今日からお前は私が鍛えるからな!」


 「……」










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 「違う! そうじゃない! 何回言ったら分かるんだ! この愚図め!」


 「難しいよ……ボクをお母さんたちの所へ帰して……」


 「ここがお前の家だ! 出来るまでご飯は無しだからな!」


 「う、うう……お父さん……お母さん……」






 「ほっほっほ。アントンや、勇者として立派に成長したら家へ帰してあげよう」


 「ほ、ほんとに!?」


 「ああ、本当さ。だから、ほら、頑張るんだよ? ほっほっほ」


 「う、うん!」










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 「今まで育ててきたがもう限界だ! ゲルス、貴様の言うとおりに育ててみたがちっとも勇者らしくならないではないか!! こんなクズにもう金はかけられん!」


 「ほっほっほ、申し訳ありません……わたしめの見込み違いだったようで……。では、今日で捨ててしまいましょう」


 「う、うむ。アントン、今日で家を出てもらう。どこへなりとも好きな所へいくがいい。流石に私も鬼ではないのでな。ほら、金だ」


 「え? ボ、ボクを捨てるの? お母さんたちの所へ帰してくれないの?」


 「知るか。勝手に帰ればよかろう。お前ももう10歳だ、何とかなるだろう? まったくとんだ無駄骨だった……」






 「ほら! 出て行け!」


 「わ!?」












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 「お、お前アントンか!? よ、良く無事で……でも遅かった……お前の両親は……」










 「……お墓?」


 「お前が連れ去られて、奥さんは寝込んでな……先日亡くなったよ……お前の事をずっと心配していた。親父さんはあの時の傷が元で2年前に……」






 何で……何でこんなことに……父さん……母さん……! うわああああああ!














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 「……夢か」


 アントンは起き上がり、拭きだした汗を拭う。背中までぐっしょりだった。


 「今更……」


 つまらない夢を見たな、と呟いてベッドから這い出ると、ふいにドアがノックされる。


 「お兄ちゃん起きたー?」


 「たー?」






 昨夜アントンの目の前で倒れた女の子の声だった。続いて発された声はその妹のものだ。


 結局あの後、女の子の家を探す羽目になり、何とか見つけて立ち去ろうとしたが、助けてくれたお礼にとご飯と寝床を提供されたのだった。


 「(女だらけの家に男をあげるとはとんだ間抜けな家族だぜ。襲われるとか思わねぇのか?)」


 母親は美人だったが、子持ちには手を出さないアントンは、大人しくあてがわれた部屋で寝ていた。
 そんなことを考えていると部屋へ子供が入ってくる。


 「おはようございます! 朝食の用意が出来てますので一緒に来てください!」


 「さいー」


 「……朝からうるせぇよ……」








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 「おはようございます。よく眠れましたか?」


 食卓へ行くと、母親が話しかけてくる。名をソフィアと言う。


 「……おかげさんで、朝からキンキン声で起こされた」


 「まあ。ダメよ、メルティ。お客様を困らせたら」


 「はーい……ごめんなさいお兄ちゃん」


 昨日何となくアントンが助けた女の子の名前はメルティ。妹はメアリと、昨日、家まで運んだ時に紹介されたのだ。歳は10歳と8歳らしい。






 「もう動けるのか?」


 「うん! たまにふらっとしちゃうんだけど、だいたい元気なんだよ!」


 目玉焼きをつつきながら、元気に返事をするメルティ。ガキはこれだからとアントンはため息をつく。


 「そういえばまだお名前を伺っていなかったですね?」


 ソフィアに言われ、そういえば昨日は強引に食事と寝床に押し込まれたので言っていなかったことを思いだす。


 「俺はア……ノートナ、だ」


 危うく実名を名乗りかけて留まる。


 「ノートナさんですね、覚えました!」


 「ねえねえ、お兄ちゃんその仮面暑くないの?」


 この一家は大人しくするということを知らないのか? 矢継ぎ早に言葉を投げかけられゆっくりと食事もできないとアントンはうんざりしていた。


 「名前は覚えなくていい。どうせもう出て行くしな。顔に傷があるんだ、だから外さない」


 ぶっきらぼうに答えてパンを齧ると、メルティが泣きそうな顔をしていた。


 「もう行っちゃうの……?」


 「お前を助けたのは偶然だ。こんな女だらけの家に俺みたいな見ず知らずな男が居たらダメだろうが……」


 夜這いもやるアントンにしては珍しいが、子供と人妻に興味は無いため割とちゃんと答えていた。
 というか仮面をつけた男を信用するのもどうかと思う。


 「そうよ、ノートナさんも忙しいんだし……男手が欲しいけどちゃんと見送らないとね? そういえばこの町へは何か目的があるんですか?」


 ソフィアが一瞬何か不穏な言葉を言っていたようだが、アントンはスルーし返事をする。


 「まあ、な。お前達に言っても仕方ない。朝食助かった、じゃあな」


 「あ……」


 何か言いかけていたメルティを無視してアントンは家を後にした。




 「さて、今日こそは見つかるといいけどな」








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 ゴトゴト……




 「もう少しで到着するよー」


 「あ、はい! ありがとうございます!」


 「きゅんきゅん♪」
 「きゅーん♪」


 <これ、わらわの尻尾を甘噛みするんじゃない! 汚れるじゃろう!>


 のんびりと進む馬車がそろそろ私の故郷へと到着する。


 途中、寝泊りする村へ寄ったりしたので寝不足などは無い! 馬車は定期便だけど、今回は誰も居なかったので貸切状態なのものんびり出来る理由だった。


 おチビ達はチェイシャと遊んでいて、レイドさんは持ち込んだ本を読んでいた。


 「……うぷ……馬車で本を読むもんじゃないな……」


 「温泉♪ 温泉♪」


 レイドさんは長時間本を読んでいて、どうも酔っているらしい……。
 フレーレは例のメイスを丁寧に、そして念入りに磨いていた。セリフとまるで合っていないのが逆に恐怖を思い起こさせる。


 とりあえずレイドさんを横にして、濡らした布を頭に乗せてあげる。


 「ずいぶん熱心に磨いているわねー」


 「これですか? わたしの唯一の武器ですからね! こういう暇な時に手入れをしておかないと。ルーナはお店でやってもらっているんですよね?」


 「そうそう、剣って切れ味が悪くなると危ないから」


 「あの隻眼ベアーマーも手入れをしてもらっているんですか?」


 「……隻眼ベアーマー?」


 「防具って手入れをするってあまり聞かないですから気になって。わたしは耐刃の服を……」


 途中からフレーレの言葉は耳に入っていなかった。この前の呟きといい、フレーレは怪しい。
 ふむ試してみよう。


 「ところで話は変わるけど、私アルファの町で『レンタルーナ』ってあだ名がついているのよねー。中々語呂がいいわよね」


 「あ! ルーナもそう思いますか! ギルドであっちこっちのパーティを行き来するルーナを見て思いついたんですけど、我ながらいい語呂だと思ったんですよ!」


 「あんたが犯人かぁぁぁぁぁぁ!!」


 「ふゅえ!? な、何がですか!? あ!? ほっへはほひっははないふぇー!?」








 「……元気なお嬢さんたちだねえ……ほら、アラギの村に着くよ」


 御者さんが荷台に居る私達を見て呆れ顔で言ってくる。
 私の手を逃れて、フレーレが前へと移動する。


 「わあ! 煙! 煙が出てますねー」


 「温泉の湯気ね、みんな元気かなあ」


 「わふ」


 馬車の横をてくてくと歩いていたレジナが荷台へ乗ってくる。
 この母狼は周囲の警戒をしてくれていたようだ。


 「おかえりーよしよし、偉いねレジナは」


 「わふーん……」


 「きゅん!」


 「きゅきゅん!」


 「はいはい……お前達もね」


 レジナを撫でていると、チビ達も参加してくる。チビ達から解放されたチェイシャは半泣きで私の頭に乗ってくる。


 <うう、わらわの立派な尻尾が涎でベタベタじゃあ……温泉で洗ってくれ……>


 こっちは深刻なダメージを負ったようだ。


 そんなやりとりをしつつ、ほどなくして私の育った村、アラギへと馬車は入っていくのだった。

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