パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その41 黒幕(?)

 チチチ……


 リーンリーン……






 ガラスの無い鉄格子の窓から差し込む月の光。
 静か過ぎる夜の中、虫の鳴き声を子守唄にしてアントンは寝ていた。






 ここは犯罪者が送られる鉱山。


 そして労働者として働くアントンにあてがわれた部屋である。


 狭い部屋だが一人で生活するには十分なスペースで、トイレはきちんと別に部屋が設置されている。
 風呂は決められた時間に集団で入るようになっていた。


 一人一部屋は効率が悪いのだが、二人以上の部屋にすると例外なくいざこざが起きる為、このように一人部屋となっているのである。元々犯罪者が送られる場所と考えればいざこざが起きないはずが無いとも言える。


 そのアントンの部屋へ、一人の看守がやってくる。


 「……起きろ」


 「ぐがー」


 「おい、起きろ」


 「ん、んん……これ以上は無理だって……へへ……」


 「起きろアントン!!」


 「お、おお!?」


 大越で怒鳴られ飛び起きる。何がなんだか分かっていないアントンが、寝ぼけまなこできょろきょろと周りを見ていると、起こした張本人に声をかけられる。


 「……すぐに着替えろ、お前に会いたいという酔狂なお客さんがいらっしゃった」


 「あん? 客だと? まだ夜じゃねぇか……明日にしてくれよ……毎日毎日石を掘って疲れてるんだよ俺は……」


 再びベッドへ寝転がるアントン。それは予測できていたのか、ニヤリと笑い言葉を続ける。


 「いいのか? もしかしたらここから出られるチャンスかもしれんぞ?」


 「詳しく」


 アッというまに牢屋越しの男の前へやってくるアントン。相変わらずな男であった。










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 「いやー、やっぱりここの生姜焼きは美味しいよマスター!」


 アルファの町へ帰ってきた翌日。


 私はお世話になっている山の宴で昼食を食べていた。
 昼はサリー(既婚)が働いているため、私のバイトは夜からである。
 お金も増えたから宿屋暮らしでもいいんだけど、レジナ達がいるので結局おかみさんのところに居ついてしまっていた。




 「……相変わらず、生姜焼きなんだな……それにしても狼親子が帰ってこないと思ったらルーナちゃんの所に行っていたとはな」


 ピークを過ぎて落ち着いてきたので、マスターが厨房から私に話しかけてくる。マスターはレジナ達を可愛がっているので、居なくなってちょっと寂しかったみたい。


 そこにおかみさんも出てきて労ってくれた。


 「何にせよ無事で良かったよ、狼達も元気そうだしね。お客さんが『チビ達が居ない』ってガッカリしてたよ。あの子達人懐っこくて可愛いから、会いに来る人も増えたんだよねえ」


 いつの間にか山の宴のマスコットになっているシルバとシロップ……。


 「あらら……今日は多分疲れて寝てると思うんで、小屋に居ると思いますよ! ごちそうさまでした! ちょっとギルドへ呼び出されているんで行ってきます!」


 「夜はまたバイト頼むよ!」


 「はーい!」


 昨晩、戻ってきたことだけをイルズさんへ伝えると、伯爵の件で話があるからまた来てくれと言われていた。
 うーん、いい話だといいけど……。


 <わらわを置いていくとはいい度胸じゃの>


 「あ、チェイシャ。あなたも行くの?」


 <チビ共がじゃれてくるから疲れるのじゃ……お主の部屋に居ても退屈じゃし、いいでは無いか>


 「皆がびっくりしちゃうから喋らないでよ? 一応レイドさんとフレーレ以外は魔神だって知らないんだから」


 <分かっておる>


 大丈夫かな……チェイシャを抱いてギルドの扉をくぐると、相変わらず受付で新聞を読んでいるイルズさんがこっちを見ないで声をかけてくる。戻ってきたって感じがするなあ。


 「いらっしゃーい……お、ルーナちゃんか、早速で悪いんだがこっちへ頼む」


 ファロスさんの執務室へ行くと中にはレイドさんとフレーレが居た。それと侯爵様も居るわね?


 「揃ったか。まずはダンジョンの調査、お疲れ様。パーティを組んで調査をしたとレイドから聞いたよ。その報酬を渡そうと思ってね」


 そうしてイルズさんから手渡された皮袋に白金貨が10枚入っていた。おおお……!


 「こ、こんなに!? いいんですか? わたしはあまりお役に立っていませんけど……」


 フレーレが申し訳なさそうにファロスさんへ尋ねるが、笑いながら「気にしないでいいから」と皮袋を握らされていた。


 「……その抱いている狐の事も聞いている。女神の腕輪のこともね。その話の前に、侯爵から伯爵について話があるそうだ」


 ファロスさんが侯爵様へ目を向け頷くと、侯爵様が一歩前へ出て話し始める。


 「ルーナを狙っていた伯爵だが、調査によると何者かがすり替わっていたらしい。女性冒険者を襲っていたのは本物の伯爵では無かった。なので、今後、伯爵筋からルーナを狙うものは居ないと思っていい」


 「え!? 調査って……わ、私依頼してませんけど……」


 「私が気になったので、独自で調査をしたまでだ。安心していいぞ」


 侯爵がドヤ顔で微笑む。私はそれを愛想笑いで返すしかできなかった……。




 「正体は分からずじまいですか?」


 レイドさんが侯爵様へ尋ねると、首を振って答えていた。


 「ああ、調査の最終段階ではすでに逃げられた後でな。目的が何だったのかは分からない。ルーナに好意があって、自分のものにしようとしたくらいだろうか……」


 当事者の私としては気になるけど、これ以上調べようがないなら無理しても仕方ないと思う。
 狙われないなら今はそれでいいかな。


 「ならこの件は終わりだ、それじゃあ……」


 と、ファロスさんが話し始めたところで侯爵様がそれを遮った。


 「それじゃあルーナ。今日は私とディナーに付き合ってもらえないかな? 問題は解決したし、帰ってくるのを待っていたのだよ。どうかな?」


 あ、この人、私のこと諦めて無かったんだ!? もしかしてそれで調査したんじゃ……!


 「あ、その……今日はお世話になっている山の宴でアルバイトがありまして……夜はちょっと……」


 「な、何と!? 今日もダメだと言うのか!? クッ……神は私に試練を与えているとでもいうのか……! な、ならウチのメイドをそっちへ派遣しよう! それなら……」


 「ええー!? ダメですよそれは!」


 「じゃあどうすれば一緒に来てくれる?」


 困った……悪い人じゃないんだけど、私が絡むとどうも冷静じゃなくなるっぽいなあ。
 何て答えようか考えているとレイドさんが助け船を出してくれた!


 「……フォルティス様、ルーナちゃんも予定があるみたいなのでまた今度にされてはいかがか? ルーナちゃんも困っていますし」


 あ、あれ? レイドさんちょっと怒ってない? 口は笑ってるんだけど、目が……!?
 それを見ていたフレーレがぼそりと何か呟いていた。




 「……(いろんな人に狙われルーナ……)」


 「え?」


 「え?」


 「フレーレ、今何か言わなかった……?」


 「いいいいいえ!? 何も言ってませんよ!?」


 ……怪しい……何かよからぬことを言っていたような気がするんだけど……。
 そんな光景を前に、ファロスさんが苦笑いで呟いていた。


 「……話を進めたいなー……」


 何というか、すいません……私のせいじゃないと思いたい……。


 <ふあーあ……騒がしい人間たちじゃのう……>


 そしてチェイシャは着いて来てもやっぱり退屈だったようだ。

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