パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その28 不義

 
 「いらっしゃ……なんだ侯爵様か」


 イルズは新聞を畳みながら珍しい来客の対応をする。侯爵ことフォルティスは滅多にギルドに来ないからだ。


 「なんだ、とはご挨拶だな。私が来てはいけないというルールはないだろう?」


 「ま、そうだな。でも一体どうしたんだ?」


 イルズが目的を尋ねると、フォルティスは若干目を泳がせてから一呼吸し、そして用件を告げた。


 「……あれだ、この前の娘に会いに来た」


 その言葉を聞いてイルズは一瞬キョトンとなったがすぐに戻り、真顔になる。


 「この前の……本気だったのか……? 俺はてっきり酒の勢いかと思ってたんだが……」


 「冗談で告白などできるか。あれから会いに来ると言ったものの暇が無くてな……ようやく今日休みが取れたんだ。彼女……ルーナと言ったか? 今は依頼の最中か?」


 「そういうのはいくらお前さんでも言えないからな? まあどちらにせよこの町にルーナちゃんは今居ないからいくら待っても無駄だぞ」


 フォルティスは「どういうことだ?」とイルズに問い詰める。まさかあの時の告白で逃げられたのでは……という考えが脳裏に浮かんだが、返答を聞く限りそうではないらしい。


 「(ベタの町の伯爵の噂は知っているか? 宿泊させた冒険者の女性を夜這いするってやつだ)」


 声を小さくして話しかけてきたのでフォルティスもそれに倣い、ひそひそと喋りはじめた。


 「(噂程度なら。しかしそれが今何の関係があるのだ?)」


 「(ルーナちゃんが先日その被害にあいかけたんだよ。で、俺はそれを報告として聞いた。その後、誘拐未遂やら伯爵が指名依頼でルーナちゃんを雇おうとしたりとキナ臭い感じでな。誘拐については証拠は無いしうまく逃げられている。伯爵の依頼は俺が却下したから今の所は大丈夫なんだが……)」


 「(ふむ)」


 「(この町に居たら危険だという事で、レイドともう一人を連れて最近ダンジョンが発見されたガンマの町へ行ったんだよ。だからしばらくは会えないと思う。まあ、二度と帰ってこない訳じゃないから安心しろ)」


 一連の話を聞いたフォルティスは目を閉じてゆっくり考える。せっかく休みに会いに来たのに居ない……しかもそれが貴族の所為……。


 色々考えた挙句、目を開けてフォルティスはギルドを後にした。


 「分かった、情報提供感謝する。また様子を見に来るとしよう」


 「おう、残念だったな!」


 ヒヒヒと意地の悪い笑い声を背中に浴びながら待たせていた馬車に乗りこむ。
 もしルーナが居ればこの馬車で一緒に町を散策するつもりだったのだが……。


 「……パリヤッソ、ベタの町の伯爵を少し調べてくれないか? 費用は私持ちで構わない。例の噂を中心にできるだけ情報が欲しい」


 馬車の中に居たパリヤッソと呼ばれた初老の男はフォルティスの執事であった。
 その男が頭を下げオーダーを受け入れる。


 「かしこまりました。3日以内にはお手元へお届けしましょう」


 「2日だ。お前なら出来るだろう?」


 「はは、これは手厳しい……必ずや……」


 そういうと移動中の馬車にも関わらず、パリヤッソはスッと姿を消したのだった。


 「(さて、今日のディナーはどうするかな……)」


 返答に満足したフォルティスは、のんきに夕食のことを考えながら馬車に揺られ自宅へと戻って行った。


 そんなアルファの町は今日も平和だった。








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 「≪シニアヒール≫」


 フレーレの回復魔法が、地面に寝かせていた女性冒険者に降り注いだかと思うと見る見るうちにケガが治っていった。茶髪のポニーテールをした美人と言うよりも可愛らしい感じの人だった。


 「おお……!」


 彼女の負っていた傷は火傷で、顔や腕はかなり焼けており、痛みで気絶したのだと男性は語った。
 その男性も傷だらけだったのでフレーレが治していた。


 「いったい何があったんですか? 地下2階ってこんな大火傷をするような魔物が居るんですか?」


 私の質問に、ちょっと押されながらも男性冒険者は口を開いた。


 「その前に名乗らせてくれ、俺はライノスでこの子はアイビスと言う」


 「あ! 私はルーナって言います!」


 「俺はレイドだ」


 「わたしはフレーレです。多分もうすぐ目を覚ますと思いますよ!」


 「わふ!」
 「きゅん!」
 「きゅーん!」


 狼親子も尻尾を振って挨拶をしていた。


 「何度も言うけど、本当に助かったよ……オレ達はモスと言う男のパーティに一時加入で入っているんだけど、地下2階でファイヤーフライの群れと遭遇してね。敵の数が多かったからオレとアイビスは逃げようと言ったものの、リーダーのモスが戦闘の指示を出し仕方なく……それで分が悪くなったところで俺達を囮にして、元のパーティメンバーだけで逃げ去ったんだ……」


 「ファイヤーフライの群れか……あのハエは一匹か二匹なら対して脅威じゃないけど、まとまって襲われるとブレスがきついんだよなあ。小さいし」


 レイドさんがどこかで戦ったことがあるのか、しみじみと話していた。


 そして仲間を置いて逃げる……どこかで似たような話を聞いたことが……。


 そう思っていると、フレーレがぷりぷりと怒り始めた。


 「自分で戦うと言ったのに逃げたんですか? 許せませんね! 仲間を置いて逃げるなんて天罰が下るといいんです!」


 「はは、ホントですよ……それで何とか近くの部屋へ入ってやり過ごした後、ここまで這うようにして逃げ帰って来たって訳です。アイビスもオレと一緒で一時加入メンバーだったから放っておけなくてね」


 「何にせよ運が良かったな。メンバーが死ぬのは見たくないもんだし……そうだ、一緒に町へ戻るか? 俺達はもう今日の探索は終了の予定だけど」


 レイドさんがライノスさんへ提案すると同時にアイビスと呼ばれていた女の子が目を覚ました。


 「う、ううーん……おはようございますぅ……」


 間延びした喋りが緊張感を無くすが、どうやら回復できたらしい。


 「アイビス、この人達が治療をしてくれたよ。歩けるかい?」


 「あーライノスさんー。私達、助かったんですねぇー! 申し遅れました、私、アイビスと申します。助けていただいてありがとうございますー!」


 ふらつくこともなく立ち上がり、ぺこりと頭を下げて私達を見まわした後、チビ達に目をつけていた。


 「あらぁ! かわいいわんちゃん! おいでー♪」


 しゃがみこんでシルバとシロップを呼ぼうとするが、ライノスさんに止められていた。 


 「それどころじゃないから!? 町に戻ってギルドに報告しないと!」


 「うーん、残念ー……分かりました! では行きましょー!」


 「あはは……あれだけ火傷を負っていたのに……のんきな人ですね……」


 「そうね……全然ショックを受けた様子もないみたい……」


 私とフレーレがマイペースなアイビスを見て苦笑いを浮かべていた。




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 帰り道は魔物もそれほど多くなかったのですんなり帰る事ができた。


 ライノスは軽装備で早さを活かした戦士で、アイビスは属性魔法使いだった。


 火属性が得意で水属性が苦手らしく、ファイヤーフライ相手では役に立てなかったと嘆いていた。


 
 五人と三匹になった私達は楽勝モードですぐ町へ戻ることができ、ギルドでハダスさんへの報告を横で聞いていた。


 「……話は分かった。さっきリーダーのモスが契約は破棄だと告げて行ったよ。ヤツの言い分は『アイツらは役に立たない上に、先に逃げやがった』と言っていたが……」


 「確かに実力はあまりなかったかもしれません。しかし、ファイヤーフライと戦うと言ったのはリーダーのモスさんですし、先に逃げたのもあの人ですよ?」


 「そうなのか? ヤツめ、この俺に嘘を……後で締め上げねばならんか。どちらにせよモスが誘って、モスが一方的に契約を切ったから、お前さん方には金貨2枚ずつ渡すぞ。罰金としてモスから回収しておいたが、先に逃げたのがヤツならまだ絞れる。その時はまた声をかけさせてくれ」


 ライノスさんはお金で逃げる気かと、納得いっていない感じだったけど、それよりも早く抜けたかったのか、契約書をギルドマスターに渡してパーティから抜けた証明を貰っていた。


 「私もーお願いしますねー」
 アイビスも契約破棄の証明をもらい、晴れて二人はパーティを抜ける事ができた。


 「処理は完了だ。モスのパーティは次に会ったら締め上げておくよ、別の町からわざわざ来たのにすまなかったな」


 「いえ……それでは……」


 ハダスさんが申し訳なさそうに見送ってくれた後、ギルド入り口で解散しようとしたところでアイビスから声がかかった。


 「あのぉー。もしよかったら夕ご飯をごちそうさせていただけませんかぁ? 金貨も入りましたし、助けていただいたお礼もしたいですしー」


 「あ、いえ。わたしがシニアヒールを使っただけですし、気にしなくていいですよ?」


 フレーレはまだいい、それを言ったら……。


 「私なんて何もしてないですし……」


 「ううんーそんなことないよぅ。帰り道一緒に戦ってくれたしー。それにぃワンちゃん達とも遊びたいですしー是非是非♪」


 「オレからもお願いしたい。もしかしたら無くなっていた命だし、むしろ食事くらいで申し訳ないが……」


 ライノスさんも頭を下げて、ついて来てほしいと言う。


 「そんなことないですよ! レイドさんどうします?」


 「そうだな、ここはお言葉に甘えるとしようか。あまり遠慮するのも失礼だしな」


 「ありがとうございますぅ♪」


 この日の探索はこれで終わり、私達はレストランへ向かう。


 今日は収入も良かったし、助けたお礼で夕食だなんてラッキーだったなあ♪


 この二人はこれからどうするんだろう? そんなことを考えながらレストランの扉を開けるのだった。












 しかしこの日を境にダンジョンに不穏な空気が流れ始める。






 “帰ってこない”






 そんな話がギルドに流れ始め……。

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