パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その12 長い夜の始まり

「来るとしたら、そろそろね……」


 岩陰に隠れ、道中こぼしてきた血の跡の方向を見ながら、私は隻眼ベアを待つ。
 これで町の方へ行っていたら……何度も嫌な想像が出てくるがその度に頭を振って追い出していた。
 しばらくしてガサガサと草をかき分ける音が聞こえてきた。


 「……来た……!」


 ゆっくりと坂を上ってくる隻眼のデッドリーベアを見た私は、姿奥へと走っていく。私の姿に気付いた隻眼ベアが速度を上げて走ってくるのを一瞬振り返り確認し、今度は辺りを見渡しながら駆けて行く。


 「レイドさんが言っていたのが本当ならこの辺に居るはずなんだけど……」


 私の作戦はこうだ。


 まずフィオナの血と装備で森の奥に隻眼ベアをおびき寄せる。その後、レイドさんが見たと言う、マンティスブリンガーかパイロンスネークと戦わせるつもりなのだ。
 他の魔物でもいいんだけど、今は見たことがあるという魔物を見つけた方が良い。
 できれば猛毒を持っているパイロンスネークなんだけど……。


 グルォォォォォォ!!!!!


 「嘘!? 思ったよりはやい!」


 雄叫びが聞こえたのでチラッと振り返ると、かなり接近されていた。


 でもこちとら人間よ! そう簡単に捕まってなるものですか!


 これ以上は必要ないと、血の付いた布を眼前ある崖壁へ投げて私はスピードを下げずにほぼ直角に曲がる。


 隻眼ベアは匂いで追跡しており、また片目のハンデで距離感がつかめないため、曲がりきれず崖壁へ突っ込んでいた。


 「いよっし!」


 私はなおも距離を稼ぎ、北の森の魔物を探すが、やはり遭遇しない。
 陽も暮れて薄暗くなり、走るのが危なくなってきたので≪ナイトビジョン≫の補助魔法で視界を補助する。


 ハッキリと見えるようになるわけではないが、真っ暗闇を走るよりはマシなのだ。
 普段出番が無く、ダンジョンや洞窟で松明が切れた時に緊急的に使うくらいだが今日は使えて良かったとホントに思うわ……。




 「もう深淵の森に着いちゃう……この先は流石にマズイ……どこに居るの……」


 深淵の森は西に広がる巨大な天然の迷路のような場所で、陽が暮れて侵入した場合、帰還するのは不可能に近い。
 そして≪バイタリティアップ≫を使っているとはいえ、体力が無限になる訳でもないため疲労も増してきた。


 しかしその時、前方に巨大な影が視界に入って来た! あれは……パイロンスネークだ!!


 「み、見つけた!! こっちを向いてぇぇぇぇぇ!!!」


 即座に大きな石を拾い、全力で投げると胴体へクリーンヒット!
 一瞬呻き、パイロンスネークがこちらへ鎌首をもたげる。


 しかし悲しいかな、緊張で気付かなかったけど、私の足は疲れていたらしく投げた反動で転んでしまった。


 「きゃあ!?」


 ゴロゴロと前のめりに転がる。
 すると活きのいい餌を見つけたと、パイロンスネークがこちらへ迫ってきた。
 そして後ろから隻眼ベアが追いついてくる。


 前門のスネーク、後門のベア……は、早く逃げないと……!


 何とか立ち上がり再び走り出したが、逃げる方を無意識に見ていたせいだろうか。私が走り出した方向へ隻眼ベアが回り込んでいたのだ!


 「あ……!?」


 私は助走がつきはじめていたため急に止まることができず、また転んでしまった……。
 月明かりが隻眼ベアの赤い瞳を怪しく照らし私を見下ろしていた。


 鬼ごっこは終わりだとでも言いたいのか、何となく笑っているように見えた。


 そして転んだ私の頭上に隻眼ベアの剛腕が……振り降ろされた。




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「お、お前アントンか!? どうしたその傷は!? ディーザもか?」


「ちょっとツイて無いことがあってな……」
 アントンは無事に町まで辿り着くことに成功していた。
 それというのも、ルーナから奪っていたハイポーションのおかげである。


 フィオナが北の森で襲われた際、一本消費していたが、まだ三本残っていたからだ。
 リーダーが持つんだと、カバンに入れておいたのが幸いした。


 しかし、あまり怪我をしていないと「命からがら逃げてきた」という話が薄れるため、ディーザと半分ずつ飲んでリジェネイト効果でゆっくり治しながら帰ってくるという小賢しい真似もやっている。
 そのため見た目は血だらけだが、傷はある程度塞がっているので動くことに支障は無くなっていた。


 その足でギルドの扉をくぐる二人。


「すまねえ、依頼は失敗しちまった、荷車は弁償する……」


「ん? アントンか……その傷はどうした!?」


 慌てるイルズを制し、ディーザが代わりに口を挟んでいた。


「北の森に居るはずのデッドリーベアが近隣の森に現れて、いきなり後ろから襲われたの……。アントンはその時頭を殴られてケガを負ったわ。私は魔法で援護していたんだけど全然敵わなくて……。イルズさんの言った通り、私達じゃ力不足だったわ……」


 うう、と泣くふりをして同情を誘う。イルズはふとあることに気づき、アントンへ問いかけていた。


「……フィオナとフレーレはどこだ? まさか……」


「あ、ああ……あの二人は……その、デッドリーベアに……」
 アントンが悔しそうに目を瞑ると、周りがざわつき始めていた。


「(マジかよ……)」


「(冒険者をやってりゃこういうこともあるが……やるせねぇな……)」


「(口は悪いがかわいい子だったのにな)」


「(フレーレも可哀相にな……まだこれからだって歳だろ?)」


 イルズが冒険者達に「それくらいにしておけ」と声をかけ、静かにさせる。
 パーティメンバーを失う辛さはそのパーティにしかわからないからだ。


「……話は分かった。フィオナ達がやられたのであれば、捕食されるだろうから町まで来ることはないだろう。今日はもう遅いから、明日、討伐隊を組んで弔い合戦だな」


「頼むよ……俺達じゃ、二人だけじゃあれには勝てないんだ……あんたの言う事は正しかったよ……」


 涙を流すアントンを見て、息を吐くするイルズ。


「それが理解できたならまだいい方だな。これからはキチンとレベリングを地道に行っていくんだ。勇者の恩恵があるならその内勝てるようになる。今回は我々に任せておけ」


 イルズの言葉を聞きながらアントンはほくそ笑んでいた。これであの隻眼ベアが退治されれば俺達を追いかけてくることもない。さらに俺達が仲間を置いて逃げ出したことを知るやつもいないので大手を振って冒険者を続けられると。


 「そうだ、そのデッドリーベアだが片目だったか?」


 イルズが不意にアントン達へ問いかけていた。片目と聞いて一瞬ドキっと心臓が跳ね上がった気がした。


 「あ、ああ、確かそうだった。それがどうかしたのか……?」


 「北の森へワッツ達を派遣したんだが、北の森に到着する前に片目のデッドリーベアを発見したと言って急いで戻って来たんだ。どうもそいつが近隣の森へ向かっているようだったから、そいつにやられたのかと思った訳だ。どうやら悪い方で当たったみたいだが……」


「そ、それじゃ私達はもう行くわね。ほら、アントン寺院へいきましょう」
 ディーザがボロを出す前にと、アントンと共にギルドを出ようとするが、一人の少女によって阻まれる。


「み、見つけましたよ……! 先に戻っていたんですね! イルズさん聞いてください、この二人は……!!」


 入って来た少女の正体は……たった今、死んだと思われていたフレーレだった。


 二人を見つけたフレーレは涙を流しながら語り出す。

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