パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その14 帰還

 ファロスは一人、近隣の森を歩いていた。


 ルーナ救出のため、冒険者時代の装備を身にまとい、右手に槍を持ち、腰に剣を下げている。
 鎧兜も全身を覆うタイプで、大型の魔物と戦うにはうってつけという、パワータイプ型の冒険者だった。


 「(まだまだ僕も捨てたもんじゃないな)」


 装備の重さを感じさせず、ひたすら前を向いて歩く。


 日も暮れてしまい、月明かりだけが頼りの森の中で、目を凝らしながらルーナを探す。松明をつけてしまうと目立ち過ぎて魔物を寄せてしまうことを考慮し、仕方なくこの方法を選んだ。


 お供を連れてこなかったのは、一人の方が動きやすいと思ったからだ。だがそれにしても見つからない。入れ違いになっていたら……もうやられてしまったのではと嫌な想像がよぎる。やはり2、3人連れてくるべきだったか? 


 「まだ奥だろうか……? 無事だといいんだが……」


 ルーナは無事だ絶対にと、自分に言い聞かせるように森を進んでいくと、複数の足跡が聞こえてくるのが分かった。


 一つは人間の足跡、もう一つは獣の足跡のようだとファロスは経験から感じ取っていた。


 「(……当たりかな? 獣の足跡は隻眼ベアにしては軽いが、人間の足音は恐らくルーナちゃんだろう。無事で良かった……)」
 隻眼ベアを警戒し、槍を構えて足跡の方へ向かう。


 足跡の主はすぐにファロスの前に現れた。








---------------------------------------------------










「だ、誰!?」


 人の気配を感じた私は、足を止めて気配の方へ声をかける。
 母狼が唸りをあげて威嚇しているが、その姿を見てホッとした。


「ギ、ギルドマスター!?」


 冒険者ギルドを仕切っている、ギルドマスターのファロスさんだった。
 まったく偉ぶらない、人の好い笑顔でいつも皆を見送ってくれている人だけど……。


 「どうしてここへ?」


 「はは、酷いなあ。ルーナちゃんを助けに来たんだよ。フレーレって子がね、知らせてくれたんだよ」


 フレーレ! 良かった……ちゃんと町へ帰り着けたんだ……。


 「す、すいません……お手を煩わせてしまって……」


 「それは構わないよ、隻眼ベアはもう町の脅威とも言える存在になってしまったようだし、あのアントンとか言う馬鹿者のせいだからルーナちゃんが謝ることじゃない。ところで隻眼ベアはどうなった?」


 ファロスさんは槍を担ぎ、隻眼ベアについて私に尋ねる。すごい、いつもあんなにニコニコしてるのに、今日はものすごく強そうだ!


 「パイロンスネークと同士討ちさせる作戦がうまくいったから、深淵の森入り口近くで足止めできていると思います。トウガラシ爆弾も使ったんで鼻もしばらく利かないはずです。できればパイロンスネークに倒されているといいんですけど……」


 するとファロスさんは「ほう」と一言つぶやき、今から町へ戻ると言いだした。


 「僕は隻眼ベアを倒しに来たんだけど、ルーナちゃんだけ見つけるができたから一度引き返そうと思う。できれば夜に森で強敵と戦うのは避けたい。他の魔物が寄ってこないとは限らないからな。町で冒険者全員で一気に倒した方が逃がさなくていいだろう」


 「私の匂いで町に来ると思いますから、待ち伏せは大丈夫だと思います……でも町に迷惑がかかっちゃう……」


 「仕方ないさ、さっきも言ったけどあの馬鹿者のせいだからな。これはギルド全体の責任さ。そうと決まれば早い所町へ帰って無事を報告しよう」


 「はい!」
 「きゅーん!」
 「きゅんきゅん!」
 「わふ」
 私が返事をすると、何故か狼親子も返事をしていた。


 「ははは、元気がいいね。その狼達はルーナちゃんが飼っているのかい?」


 「いえ、そうじゃないんですけど懐かれちゃって。 でもこの子達が居なかったらもうとっくにやられてました! 命の恩人ですよ、ねー?」


 「きゅーん!」
 ペロペロと私の顔を舐めてくるチビちゃん達。帰ったら名前をつけてあげようかな?


 「なるほど、それは丁重に迎えてあげないとな? じゃあ行こうか」


 私達は町へ戻るため再び歩き出す。


 これでようやく討伐できる……そう思っていたんだけど……。






 ---------------------------------------------------












 熊という生き物はとても賢い。


 匂いで相手を覚えることはもちろん、ドアを開けたり、数字を数えることができるそうだ。


 そして、自分の足跡を逆に辿り、影に身をひそめて狩人を罠にかけたりすることもある。


 では、魔物である隻眼ベアはどうだろうか……?




 ─────────────
 ────────────
 ───────────
 ──────────
 ─────────






 隻眼ベアはパイロンスネークとの戦いに勝利していた。


 通常のデッドリーベアであれば互角か、毒によるダメージで不利になることがあるが、この個体は身体が大きくなり、毛皮や腕力が桁違いに強くなっていた。


 毒の牙が効かず、締め付けも効果が薄かったため、しばらくもみ合っている内にパイロンスネークは胴体を引きちぎられ絶命した。




 面白くないのは隻眼ベア。
 雑魚を相手にしたせいで獲物に逃げられてしまったからだ。


 しかし鼻はそろそろ感覚を取り戻すので、このまま追いかけようと歩き出したが、ふと隻眼ベアは考えた。
 最初に齧った人間のように群れられたら厄介だと。


 あの時は弱いながらも、人間どもが群れていたせいで片目と口の中をやられたのだ。


 逃げられた先に人間がたくさん居たら?


 そう考えた隻眼ベアは思いつく。


 数を増やして襲えばいいのだと。








 ---------------------------------------------------








 町へ戻った私とギルドマスターは、まず冒険者ギルドの扉をくぐった。


 「ルーナ! 良かった……本当に良かった……」


 フレーレが泣きながら、駆け寄ってきて抱きついてきた。


 「フレーレも無事で良かったわ、何とか逃げて来たわよ!」


 「あまりひやっとさせないでくれよ? でも良かったな。ギルドマスター、ありがとうございます」


 兜を脱ぎながら、ギルドマスター……ファロスさんが「僕は何もしてないよ」といつもの調子で笑っていた。




 「それより、皆を集めてくれ。隻眼ベアの脅威はまだ去っていない。恐らく今夜中、遅くても夜明け前には町にきてフィオナかルーナちゃんを探しに来るだろう。いつ来てもいいように、これから仮眠を取るパーティのローテーションを組むぞ。相手は一頭だ、一気にかかれば……」




 ファロスさんがイルズさんと打ち合わせに入ったところで私はお腹が空いていることに気付く。
 カバンから干し肉を取りだし、狼親子と分ける。


 「きゅん♪」
 「きゅーん!」


 チビちゃん達が尻尾を振りながら干し肉をかじっていた。ふふ、さっきまで震えていたのにね?
 少ないがまだ事が終わったわけではないので、お腹いっぱいにせず待機する。


 「そうだ、あなた達に名前をつけようかな? いつまでもチビちゃんじゃ呼びにくいし」


 「きゅーん?」
 「きゅんきゅん」


 相変わらず手を甘噛みしてくる子と、体当たりをしてくる子である。
 これで遊んでいるつもりのようだけど。


 「それじゃあ、甘噛みしてくる女の子はシロップちゃんね。男の子のチビちゃんは……シルバ! どう?」


 「きゅーん!」
 「きゅん!」


 どうやら気に入ったらしく、私の周りをぐるぐる回っていた。
 すると母狼が私の前にきて鼻をこすりつける。


 「えーっと……お母さんも名前欲しいの?」


 「わふ」
 どうやらそうらしい。子供たちにはつけて私にはつけないのはどういうことか、と。


 「そうねえ、お母さんだし……レジナなんてどうかしら?」


 「わおん!」


 お気に召したらしく、私の足に顎を置いて撫でてくれとせがんできた。
 それをみたシルバとシロップがお母さんずるいと毛に噛みついていた。


 「あとはこれね」


 名前をつけたとはいえ、首輪は可哀相なので色のついた布をスカーフみたいにして首に結ぶ。
 シルバは青、シロップは赤でレジナは黄色のスカーフだ。


 「うん、かわいい!」


 撫でてあげるとコロコロと転がってじゃれついてきた。かわいいなあもう!


 「慣れてますね……どうしたんですか? この狼さん達」
 フレーレがチビちゃん達を撫でながら聞いて来たので、出会いから話すことにした。






 町へ戻ってきてから何時間経っただろうか? 
 隻眼ベアの襲撃もなく、狼達と遊んでいたが、束の間の平和はすぐに破られることになった。






 「た、大変だ!? も、森が森が!!」


 「どうした、そんなに慌てて? 森がどうしたって言うんだ?」


 「あ、ああ、森から大量の魔物が町に向かって走ってきている! ナイトビジョンが無くても分かるくらいの影が蠢いているんだ!? こ、この町は終りかもしれん……!」


 「な、何だと!?」




 恐怖の夜はまだ続いていたのだ。それも最悪の形で。

「パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く