パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その11 逃走

「フレーレじゃない! どうしたのそんなにボロボロで!?」


「あ、ああ! ルーナ! た、助けて……み、みんなが!」
 駆け寄ると、私に抱きついて「助けて」とだけ連呼する。この怯え方は尋常じゃない。


「何があったか分からないけど……みんなってアントン達よね? そこまで案内してもらえる?」
 嫌な予感はするが、見て見ぬふりはできない……よね……。


「は、はい! こ、こっちに!」


 フレーレに≪ムーブアシスト≫をかけ、沈静の意味も込めて一緒に≪マインドアップ≫もかけておいた。


 もちろん自分にも。


「あなた達は森に帰るのよ! 絶対着いてきちゃダメだからね!」


 私の靴を噛み、尻尾を振りながらきゅーんと鳴く子狼を母狼の背中に乗せて、振り向かずにフレーレを追いかける。
 後ろから子狼の鳴き声が聞こえるが、振り返ると追ってきそうなので無視することにした。ごめんね……。


 それより、一緒に戦っていた頃でもフレーレはこんなに怯える子じゃなかった……もしかして噂の北の森の魔物に襲われたのだろうか? でも、この子だけが逃げきれて他の三人が逃げ切れないと言うのは考えにくい……。


 私は走りながら色々考えるが、結局のところ現場を見ないことには分からないと思い、ダッシュしていると、程なくして到着した。










「な、何よこれ……」


 案内された場所は血の匂いで充満していた。


 ポツンと佇んでいる、白かったであろう荷車は前の部分が血に染まっており、地面にも血の跡が点在していた。


 その中心に、巨大なデッドリーベアがフィオナの前に立ちふさがっていた。
 フィオナは右手に剣を持っているが、木の棒を振っているのではないかと錯覚するほど心もとなく見える。


 それほどまでにこのデッドリーベアの大きさは規格外だったからだ。


 左腕は折れているようでフィオナが動くたび、プラプラと揺れていた。


「フィオナ!!」


「あ、ああ……ルーナ……た、助けてくれよ……こいつ、アタシばっかり襲ってくるんだよ……死んだと思っていた……ア、アントンはディーザと一緒に逃げちまうしよ……なあ……頼むよ」






「逃げた!?」


「ア、アントンは生きていたのですか!?」


 ゴァァァァァァァァ!!


「あ、あう!?」
 フレーレの言葉と同時にフィオナにデッドリーベアが襲いかかる


「いけない!」


 隻眼のデッドリーベアがフィオナを掴み、動きを封じる。
血まみれのその口からは唾液がしたたり落ち、ゆっくりとその口を開けていた。


「い、いやああああああ!?」


 デッドリーベアは頭をばっくりといこうとしたが、フィオナが暴れたため頭をかすめて肩に噛みつく形になった。
 肩アーマーをバリバリと砕かれ、そのまま左肩に食らいつき「ぐじゅり」と肉が潰れる音が聞こえてきた。


「うわあああ、痛いぃぃぃ!?」


 ぶちゅっと肉が食いちぎられる音で私は正気になる。
 この異様な光景に頭が追いついていなかったのだ。


「は!? ≪ディフェンスアップ≫!」
私は反射的に防御を上げて、デッドリーベアへ走る。
力も上げてはいるが、私の力ではダメージが与えられないのは明白。それでもいい、隙をつければ……!


 デッドリーベアの目が潰れている方から、顔へ。いわゆるT字と呼ばれる個所へ剣を叩きつける。
 幸いフィオナに齧りつくため姿勢が低くなっているので、労せず攻撃を加えることができた。


 グオォォォォォォ!?


 熊は鼻が弱点だ。二度三度と叩きつけたところでフィオナを取り落す。


 今だ!!


 フィオナを抱き上げて、一気に加速しフレーレの所まで戻る。


「ひ、酷い傷……!? ≪シニアヒール≫!」


「待って! ≪マジックアップ≫! これでかけてあげて!」


「は、はい! ……すごい!? 効果が全然違う! でも傷が深すぎます……」


 それでも初級の補助魔法なんだけどね、と思いながら体勢を立て直した隻眼のデッドリーベアへと向き直り考える。


(どうしよう……。このまま町へ逃げてもこいつは恐らく追ってくる。フィオナを齧ったということは餌として認識したはず……。かといって倒すのは無理だし……)


 狩人の経験から、熊の生態は分かっている。人を食べた熊は危険なのだ。まして相手はデッドリーベアという魔物、執拗に狙ってくるに違いない。




「ふう」


 ため息をついた私は、一つだけある方法を思いつく。かなり博打要素が強いがここで全滅するよりはマシだろうと思った手だ。


「フレーレ、一旦あの崖の影まで走れる? 走れなかったらここであの熊の餌になるけどね。あ、フィオナの剣持ってて」


 青い顔をしたフレーレはコクコクと頷く。


 フィオナは死んではいないが意識は無い。この子は私が担いでいこう。


「せーの……行くわよ!」


「はいっ……!!」


 私は合図と共に大きめの石をデッドリーベアへ投げつけその場を後にする。


 ストレングスアップを使っているので、当たればそれなりに痛い。


 怯んだ隙に、私はフィオナを抱えて走り出した!






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 「くそ……! どうしてこんな目に……何であのデッドリーベアがここに居るんだ!?」


 「でも何とか逃げて来たわね……」


 フィオナを置いて逃げ出した二人がフラフラと町を目指していた。
 アントンは頭から、ディーザは背中から血を流しており、足元がおぼつかない。




 フィオナがデッドリーベアを視認したあの時、一番近かったアントンの頭をデッドリーベアが吹っ飛ばしていた。
 自分から吹っ飛んで威力を殺したものの、剛腕と木にぶつかったショックで頭が割れ、血が溢れだしていた。


 アントンと言う邪魔者を排除したベアは、次にフィオナの前に居たディーザへと襲いかかる。
 ディーザの後ろに居るフィオナへ迫るため、ディーザが邪魔だったからだ。


 ディーザが逃げようと後ろを向いた所に、ベアの攻撃を背中に受けてしまった。
 そして一番先頭を歩いていたフレーレがその光景を見て助けを呼びに走り出したということである。


 動けなかったアントンとディーザを無視してフィオナへ向かったのを見た二人は、気絶したフリをし、機を見て脱出したのだった。




「フィオナはもうダメだろうな、惜しかったがしかたねぇ……命あってのってやつだからな……」


「可哀相だけど、あの子が狙われていたおかげで助かったわ」


「フレーレは真っ先に逃げたみてえだが、あいつの足で逃げ切れるとは思えない……何とかなりそうだな」




 アントンは同じ冒険者腰抜けだと思われるのは嫌だ、と思っていた。勇者の恩恵を持つ俺が、そんな屈辱は受け入れられないと。
 なので、あんな危険な魔物から逃げて何が悪いのだと逆ギレをしていた。


 幸い仲間を見捨てて逃げた事を知るのは恐らくベアに食われるフィオナだけ。


 ならば、いくらでも言いようはある。頑張って戦ったが、フィオナは残念だったとでも言えばいい。


 ディーザもライバルが減ったなどと、不謹慎な事を考えてたりする。


 まずは町に帰って傷を癒さなければ……救いようのない二人は、必死に町を目指していた。








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 身を隠せる崖の影に身を隠し、一旦デッドリーベアをやり過ごす。


「はあ、はあ……」


「はあ、はあ……こ、これからどうするんですか……」


「そうね……フレーレ。あなたはフィオナを連れて町へ帰ってこの事を伝えて。私はアレを何とかするわ」


 荒い息を整え、フレーレへ今からやることを伝える。




「そんなの無茶ですよ!?」


 フレーレは無茶と言ったが、この作戦ならデッドリーベアが町へ向かう時間は稼げるだろう。
 その間に戦力を整えてくれれば、町に向かったとしても強襲されるわけではないので迎撃は可能だと思う。
 そしてこの作戦は、この中で逃げ切れる可能性が一番ある私が囮になるしかない。


「フィオナの装備、貰っておくわね」


 なるべくたっぷりとフィオナの血をつけたガントレットと剣を装備する。
 代わりにフィオナはフレーレの≪ピュリファイケーション≫で血を落としてもらう。


「ごめんなさい……ごめんなさい!!」


 ≪ストレングスアップ≫をかけたフレーレがフィオナを持ち上げて町へと走っていく。
 町には寺院があるので≪リザレクション≫を使える人が居るはずだ。少し値段は高いがフィオナは恐らく助かる。


「さて、私は森の奥へ行かないとね……お願い、こっちに来てよね……」


 フィオナが流した血を撒きながら、私は森の奥を目指していた。






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 グルルルルルル……!!




 デッドリーベアは怒っていた。


 食事をするチャンスをまたも失ってしまったからだ。


 少し食べることが出来たが、とてもではないが足りない。後から来て自分を攻撃してきた人間も美味そうな匂いをしていたが、まずは最初に食べた人間を食い尽くしたいと考えていた。


 先程、顔に攻撃を食らったことを警戒し、一気に襲いかからず慎重に匂いの後を辿る。




 おかしい? 匂いが二つに分かれている?


 デッドリーベアは先ほどまでルーナ達が居たところをくまなく匂いを嗅ぐと、血の跡があることに気付く。
 そして血の跡が続いている方が匂いが濃いと感じていた。


 隻眼のデッドリーベアは走り出す。フィオナではなく、ルーナの元へ。




 ルーナは<一つ目>の賭けに勝った。

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