パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その8 北の森、動乱

少し時は遡り、アントン達に襲撃を受け、思いの他ダメージを負ったデッドリーベアは暴れていた。


 片目が見えなくなり、口の中はマジックアローにより損傷したため、痛みで気が狂いそうになるほどだった。


 近くに居たマンティスブリンガーなど、他の魔物へ攻撃を加えたり、木を次々となぎ倒すなど、誰も止める事が出来ないほどの勢いで。


 腹が減り見つけた鹿を捕食する。しかし、口の中は傷だらけでうまく食べる事が出来ず、仕方なく食事を諦めていた。


 そして襲撃から四日。


 ようやく体と口の傷が癒えはじめたデッドリーベアが、餌を求めて森を徘徊しだす。
 人間にやられた怒りと空腹がこの個体を狂気へと掻き立て、次々と森の動物や魔物を襲いはじめた。


 そしてさらに二日経過し、何頭もの動物を餌に、そして向かってくる魔物をも倒してそれすらも食料にしていくデッドリーベアだったが、ふと気づくと森に生き物の気配が消えていることに気付く。


 そう、狂気のデッドリーベアに恐れを為し、森から逃げ出していたのだった。




 このままでは食べるものが無くなってしまう……デッドリーベアはそう思ったが、自分にはあの極上の肉があったのだということを思い出す。匂いは覚えているし、体力も完全とは行かないが回復した。


 匂いの先にはご馳走が待っている。


 デッドリーベアは匂いを辿り、歩き始めた。








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 魚釣りの依頼を終わらせて町へ戻った私は、ウェイトレスのバイトへシフトチェンジ!


 ちなみに昼間に釣った魚は全部で銀貨7枚になり、少しホクホクしてます。
 お客さんもだいぶ少なくなってきた頃、あるテーブルの二人組が深刻な顔をしているのを見つけました。




 「北の森近くの街道で、商人の馬車が襲われたらしいぞ」


 「マジか? 被害は?」


 気になったので、二人の近くでお客さんの居なくなったテーブルの食器を重ねて拭いていると、物騒な話が聞こえてきた。
 こういうところで情報収集するのも冒険者のお仕事なので、そのまま二人のお客さんの話へ耳を傾けます。




 「幸い護衛に高レベルの護衛がついていたから大事にはならなかったが、もう少しで富豪のお嬢さんが大怪我をするところだったらしい」


 「怖いな。そもそもデッドリーベアが街道まで出てくること自体おかしいな……森からそれほど出ない魔物だろう? 増えすぎるのを防ぐために討伐依頼は定期的に出るけど」


 「とんでもなく興奮状態で、お嬢さんを執拗に狙っていたそうだ。しかも片目が潰れていたらしい」


 「何だって? 手負いか?」


 「聞いた話だとそうらしいが、実際は分からねえ。だが、交戦して生き残った個体ならあるかもな。しかも執拗にお嬢さんを狙ってたということは、女を食った事があるやつかもしれん……」


 「そうなると厄介だな……そういう個体は女をまず狙うからな……ならギルドは───────────」






 そこまで聞いた私はその場を離れました。
 デッドリーベアはアントン達と一緒の時に一度倒したけど、そんなに凶暴じゃなかったんだけどなあ。
 補助魔法をかけてるから咆哮も怖くなかったし……。


 もしかしたらすごく怖いのかも……? 私なんて一人だったらすぐ食べられる?


 でもこの辺りだと北の森にしか居ないし、一人で戦えるほど私は強くないから会う事はもうないかな?


 「ルーナちゃん、5番テーブルにビールと軟骨のからあげ持って行ってー」


 「あ、はーい!」








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 ルーナが酒場で男たちの話を聞いていた同時刻、ギルドでも隻眼のデッドリーベアの話で持ちきりだった。
 護衛についていた冒険者がギルドへ報告に来ていて、受付のイルズがその対応に当たっていた。


 「話は分かった。とにかく無事で良かったよ、その隻眼のデッドリーベアはその後どうなった?」


 「お嬢さんが食えないと判断したのか、馬車の馬を咥えて森へ逃げて行ったぜ。すまねぇ、急な襲撃でこっちも立て直しと護衛が精一杯で、追いかけて討伐は出来なかった」


 立派なシルバープレートとガントレットを装備した手練れの冒険者が頭を下げる。高レベルの冒険者は礼節に長けていたりするものだ。武器や防具、食料など自分の力だけで魔物を倒す事が出来ないと分かっているからである。


 「それは仕方ない。お嬢さんや商人の富豪を護衛を完了させただけでも、十分だと思うからな。とはいえこのままではマズイな……」
 イルズが顎に手をあて思案していると、受付の後ろにある執務室のドアが静かに開いた。


 「話は聞いていたよ。イルズ、明日は斥候を北の森へ派遣しよう。戦闘力よりも、調査に長けて逃げ足が速いヤツを3、4人。頼めるか?」


 「ギルドマスター……かしこまりました。今から緊急依頼書を作って張り出します」
 イルズは軽く会釈をし、事務室へ入って行った。


 そこへ入れ違いにレイドがギルドへ報告にやってくる。


 「あれ? イルズは居ないのか? ギルドマスターが受付を?」


 「ははは、ギルドマスターとは水臭いじゃないか、レイド。昔みたいにファロスと呼んでくれよ」


 「そうはいかないだろう? それよりも報告したいことがあるがいいか?」


 「ああ、ちょうどイルズに仕事を頼んだところだ、僕が代わりに聞こう」
 レイドが頷くと森の調査の報告を始め、ルーナにも話していた内容と同じだが北の森でしか見ない魔物が徘徊していること、やけに傷ついた魔物や動物が増えており、やせ細った動物もいることを報告していた。


 「調査、ご苦労様だった。もしかするとその隻眼のデッドリーベアに北の森を追われたのかもしれないな、凶暴だったんだろう?」
 ファロスがシルバープレートの冒険者に聞き頷く。


 「よし、周辺の森に入る際も注意するよう冒険者に通達するようにするんだ、いいな?」
 近くに居た職員に声をかけ、全員が「はい!」と返事をしたのを見て満足したファロスが冒険者とレイドへ報酬を渡し執務室へ戻って行った。


 一連の話が終わった後、ギルドはいつもの喧噪に包まれ、元の活気を取り戻していたが「おいおい、マジかよ」「手負いの魔物は戦いたくねぇな」と言った隻眼のデッドリーベアの話が中心になっていた。


 その中にはアントン達も居た。


 ちょうど、イルズとデッドリーベアの話をしていた所、隣の受付で報告を行っていたのだ。


 アントン達のパーティは何とか復帰できていた。
 壊れた鎧の代わりを購入し、ディーザはフレーレの回復魔法を何度かかけてもらい顔の傷を消すことに成功。それでもうっすらと残っているので化粧で誤魔化している。
 一番重傷だったフィオナも、ハイポーションと≪シニアヒール≫で剣を振れるくらいになったので、依頼を受けていた。


 「……な、なあアントン、隻眼のデッドリーベアってまさか……」
 噛まれた時の恐怖が蘇りフィオナが震えだす。


 ディーザも青い顔で自分を抱きしめるようにしながら、アントンへ質問していた。


 「北の森だし、だ、大丈夫よね……私達がやったってバレないわよね?


 「俺達は何もしらねぇ……いいか? 何も知らないんだ。俺達が言わなければバレることは無い……」
 呻くように呟き、早足でギルドを去っていくアントン。それを慌てて追っていく二人を見て、フレーレが追いかけながら叫ぶ。


 「え!? い、言わないんですか!? 後から知られたらどんな罰があるか分かりませんよ!」


 「うるさい! 黙ってついて来い!」
 なんて事を叫びだすんだと言わんばかりに、フレーレの髪を引っ張りながら、引きずるように宿へ戻っていく。


 「きゃあ! い、痛い! や、やめてください!」


 「いいか、お前も共犯なんだ。よく考えるんだな、ヘタな事は言うんじゃないぞ!」


 床へ叩きつけながら怒声を浴びせ、アントンは自室へ戻っていく。


 乱暴に叩きつけられたフレーレはその場で泣くしかなかった。










 この時点で報告しておけば人の味を知ったデッドリーベアということがギルドに伝わり、脅威に対して対策ができたかもしれなかった。


 だが、保身のためアントンはそれをしなかった。


 この選択が後にアントン達をさらなる恐怖へ陥れることになる。

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