パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その9  戦慄

 早朝。


 ギルドに北の森を調査するための人材が集められた。


 「朝早くから済まないが昨日依頼した通り、北の森へ向かってもらう。目的は生態調査と商人の一団を襲ったと言う隻眼のデッドリーベアの確認だ」


 ギルド長のファロス自ら会議室へ出向いて説明を行っており、集められた四人は「事態は深刻だ」と、気を引き締める。そしてファロスが話終わるのを待ってからハンターの一人が口を開く。


 「依頼は分かりました。念のため確認ですが、デッドリーベアは倒せそうであれば始末しても構いませんか?」


 「ワッツか。それは願っても無いことだが、無理はするなよ? 奇襲を受けたとはいえリーブルが取り逃がした相手だ」


 「それは厄介ですね……ワッツ、ここは調査に徹しましょう。位置さえ分かればギルド総出で倒すことも出来るでしょうし」


 緑の髪をした男がワッツと呼ばれた男へ提案を促す。あくまでも我々の任務は生きて情報を持ってくることだと暗に伝えていた。


 「すまんな、本当なら腕利きを集めて討伐をしたい所だが人手が足りなくてな。近隣の森も不穏のようだし、こちらも戦力残しておきたい。一応何かあった時のためリーブルには依頼をしないで残ってもらっている。明日には高レベルの冒険者も戻ってくるから討伐は調査の結果を見てからになりそうだ」


 「大丈夫ですよ、危険はありますが油断はしません。このメンバーなら逃げ切ることもできますよ」


 「ま、少しお待ちくださいってところですな! はっはっは!」


 こうしてワッツ達四人は北の森へ出発することになった。




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 北の森までは馬車を飛ばせば四時間程度で到着する。


 近隣の森とは地続きで繋がってはいるが、途中に大きな渓谷があるため近隣の森を真っ直ぐ突き進んで北の森へ行くことができない。西の深い森から迂回するか、東の街道を通って北の森へ侵入する必要があるのだ。




 隻眼のデッドリーベアはフィオナの匂いを追跡しているため街道に近い森を歩いていた。
 匂いが薄くなっているので少しずつ進んでいたのは僥倖といえる。
 しかしこの魔物が歩いている所は#すでに近隣の森の近くである__・__#という事実はかなり問題だった。








 街道から馬車で行くと調査にならないと、≪ムーブアシスト≫で北の森へ向かっていたワッツ達は運良く……もしかしたら運悪く、発見することができていた。嫌な気配を感じたワッツが木の上に登る指示を出していたので、遭遇戦になることが無かったのは幸いであった。


 「な、何だありゃ……」


 「デッドリーベア、ですよね?」


 「毛並からして間違いないな、片目が潰れているのも情報通りだ。しかしあれは……」


 木の上から観察するハンターたちは戦慄する。無理もないだろう、隻眼のデッドリーベアは大きさがゆうに3mを越えていた。


 通常の個体であれば2m半程度だが、この個体は口内に傷があった時、動物や魔物を丸のみで食い貪り、傷を治そうと身体の新陳代謝が活発になったため短期間で急成長してしまっていた。


 手負いの魔物はこういった理由で強力な個体になる可能性があるため、冒険者は必ずトドメを刺すように心がけているのだ。


 「……マズイな、近隣の森が近い。早く報告しなければこのままでは町まで来てしまうぞ」


 「だな、ヤツが見えなくなったら一気に戻ろう。街道から行けば早いだろう……」




 ここで交戦はまずい。ベテランの勘で誰一人攻撃を仕掛ける者は居なかった。


 しかしワッツは焦っていた。今の所デッドリーベアの歩みはそれほど速くないが、遅くとも夕方には近隣の森へ侵入してしまう可能性が高い。


 早く……早く居なくなってくれ……。冷や汗をかきながら一行は脅威が過ぎ去るのをじっと待ち続けた。




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「……というわけだ、君の依頼は近隣の森で済むが一人行くなら奥までは行かないこと。危ないと思ったら町へ逃げ帰るんだぞ?」


 今日もお昼は依頼をこなす為ギルドへ来ました。
 昨日、お客さんが話していた事がすでにギルドにも伝わっているらしく、依頼を受ける時にギルドの職員さんから色々と聞かされました。


 北の森の魔物が近隣の森に出現していると。


 今の所、#魔物の暴走__スタンピード__#に発展する程の数は確認されていないので、深い所へ行かなければという条件付きで私のキノコ狩りとホーンドラビットの狩猟は許可してもらえた。


 「うーん物騒だなあ……一応、武器を手入れしてもらっておこうかな? 補助魔法があっても武器は強くならないからなあ……」


 腕力や素早さは上がるが、武器自体が強くなることは無いので手入れはかかせない。
 私の鉄の剣はこの町に来て初めて買った武器で、結構なお値段だった。
 しばらくはこれを使い続ける必要があるのでないがしろにはできないのだ!
 そうと決まれば早速武器防具屋へ向かおう!








 「こんにちわー、ダックルさん居ますか?」


 「おお? ルーナちゃんか、久しぶりだな。ダックルってことは剣の手入れかい? 少し待ってな呼んできてやるよ」


 この人は防具職人のフントさん。
 武器職人であるダックルさんと一緒に資金を出しあって作ったお店なんだとか。
 腕はピカイチで、作る武器や防具はもちろん手入れも手を抜かないので信頼もできる。


 ただ、店の名前がね……『フン・ダックルズ商店』と言う名前なんだよね……。
 もう少しマシな名前は無かっただろうか? 私が初めて来た時はドキドキしながら買い物をしたものだ。
 さっきも言ったけど結構なお値段だったしね……。




 「あ、ルーナさん。お久しぶりです。購入ですか? お手入れ?」


 名前の割に線の細い男性がダックルさん。見た目から武器を打つ人には見えないんだけどなあ。


 「あはは、お手入れです。購入はまだまだですよ……」


 「そうですか? 最近高レベルの魔物を倒していたって聞きましたよ?」


 「あー……少し前にパーティを追い出されまして。今は一人なんですよ」


 「あらら……まあ合う合わないはありますからね。では剣をお預かりしてもいいですか?」


 くそう、パーティを追い出されたのは事実だけど何か悔しい。
 それをダックルさんに言っても仕方ないので、鉄の剣を渡し手入れが終わるのを待つ。




 「はい、終わりましたよ。少し刃こぼれしていたので砥いでおきましたよ」


 銀貨5枚(痛い)を渡し、挨拶をして店を出て行く。
 フントさんに今度は防具もよろしくと言われたが、今はその余裕が無いんです……すいません!




 入り口の門でいつも立っている衛兵さん(名前は知らない)に挨拶をして森へ出て行く。
 この調子なら夕方には戻ってこれそうだ。
 待っていろハルシメジにホーンドラビット!! 今日の私の夕食を豪華にしてください!!


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 「今日は依頼どうするかな……」


 「もう昼近いわよ? ロクな依頼が残っていないんじゃないの?」


 遅くに起きてきたアントンとディーザが宿屋の食堂で今日の予定を確認する。
 ディーザの言うとおり昼を過ぎるとロクな依頼が残っていないことが多い。


 「金は必要だからな。今はいいが宿賃も馬鹿にならねぇからな、適当なやつを探しに行こうぜ」


 「そうだなぁアタシも酒を飲みたいし、いいぜ。ディーザはここで待ってりゃいいだろ? また置いて逃げようとされちゃたまらねぇからな……」


 ディーザとフィオナの仲は険悪になっていた。デッドリーベアとの戦いの際、怪我をしたフィオナを置いて逃げようとしたことを忘れていないからだ。


 「あんたこそ、大けがをして足手まといにならないでよ? 今度は置いていくからね!!」


 売り言葉に買い言葉を続ける二人を見てため息をつくアントンがフレーレを引っ張って無言で出て行こうとする。


 「あ!? き、昨日のギルドの話だと北の森の魔物も居るみたいだし、少し様子を見た方がいいんじゃないですか?」


 「ああん? そんなのにびびってたら勇者が笑われるだろうが。いいから行くぞ。二人も早く来いよ」


 「…………」


 「「い、今行くわ(ぜ)」」


 アントン達のパーティは昼過ぎにもかかわらず、ブルホーンという牛型の魔物を倒す依頼を受ける事が出来た。
角と毛皮が高値で売れ、肉も食べてよし売って良し、そしてアントン達でも倒せる程度の魔物なので人気の依頼なのだ。


 職員は重々注意したうえで許可をしたが、喜んだアントン達が聞いていたかは怪しい。 そしてどうしてそんな割のいい依頼が残っていたのかまでは考えなかった。


 冒険者達は様子を見ていたのだ。浅い場所ならいざ知らず、それなりに森の奥へ行く依頼をするには今日は分が悪い、と。


 もちろんルーナを含め、出かけている冒険者も居るため今回に限りアントン達は無謀というわけではない。






 ただし……。

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