パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その7 不穏な空気

 あの日、馬車の中でルーナが置いていったハイポーションとフレーレの中級回復魔法≪シニアヒール≫を駆使し、何とか町まで戻ることには成功していた。


 ただ、シニアヒールで骨折や傷は治せるがフィオナの食いちぎられた部分は「欠損」としてみなされるため肉を回復することはできなかった。
 幸い神経に異常は無かったようで安静にしていれば肉は再生する。ハイポーションは傷にかければヒールと同じ効果を発揮するが、飲めば肉体のリジェネーション効果が向上するため、フィオナは半分を傷につけ、半分を飲み干した。


 町に戻ったアントン達は、一旦宿に戻り依頼の報告と素材売却へ行こうと言うが、顔に傷を負ったディーザは外に出たくないとギルドの報告へ行くのを拒否。フィオナは安静のためベッドで休んでいた。


 エルダーフロッグの依頼完了報告と素材を売却したアントンとフレーレは、明らかに少なくなった報酬に落胆。
また、しばらく依頼が出来なくなったため、”ダンデライオン”に泊まり続けられないとフレーレが進言し、二日目には安宿へ移動していた。


 フィオナはケガ、ディーザは部屋に引きこもったため、夜の相手をフレーレに求めるアントンだったが、フレーレはそれを拒否していた。
  実はフレーレはルーナに「体の関係がある」と見栄を張ったもののビショップと言う職業柄、確実に結婚する相手としか性交渉をするつもりは無かったのである。
 酒に酔っていたアントンはフレーレを無理矢理押し倒したが間一髪、手元にあったメイスで気絶させることができ、フレーレは事なきを得ていた。


 「ルーナに謝らないといけないですね……」
 ないがしろにした罰が当たったのだとフレーレは思っていたのだった。




 そしてあの日から一週間が経過。






 そんなことがあったことも知らないルーナは今……。




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「よーしよし、きたきたきたー!! アジ! まあまあ大きい!」


 パーティを追い出されてから一週間、私はようやく冒険者稼業を復帰することにしました!!


 というのもこの一週間、おかみさん達の所で一日中バイト漬けになってしまい危うくそのままずっと働かされるうところでした。町を出たいと言ったのが原因かなあやっぱり。


 そんなこんなで、病気で休んでいた、女の子のサリー(既婚)が復帰したので、これを機に昼は冒険者稼業へ復帰したのです。


 一週間ぶりの冒険者稼業のため、リハビリを兼ねて簡単な依頼をと思い、選んだのが現在進行中の魚釣りだったりする。
 私の居る町、エルピダは海と繋がる湖があるのだが、湖とは名ばかりで水質は完全に海水。海の魚がうようよいる。
マグロやブリなどの大きい魚は船を出さないと無理だけど海岸沿いからでもそれなりに釣れたりする。




「”強固なイシダイ” ゲット! あ! また引いてる……やった! 今度は”ハラノナカマックロダイ”だー♪」


 その後、他にもアジを十匹ほど確保した私。コツは餌に補助魔法をかけて活きを良くすると、バタバタ暴れるので食いつきが良くなるようなのだ。補助魔法万歳!!


 とりあえずそれなりに釣れ、お昼も近い事もあり、少し休憩することにした。
 魚の種類と数は特に明記されていない依頼のため、持っていった分が私の報酬になる。


 なので、釣った一匹をお昼ご飯として現地で刺身にすることにした。
 簡易テーブルや調理器具一式を持ってきているので、早速調理開始だ!
 私が冒険者になる時にパパがくれたマジックバッグ、重宝するなあ。どこで手に入れたんだろ?


「ふんふふーん♪ 内臓をとって三枚に~♪」


 母親の居ない家庭に育ったので料理は得意なのだ。魚を捌くことくらいなんてことなかった。


「頭は味噌汁のダシにしようかな」


 海岸から少し離れた砂浜で石を積み上げて簡易かまどを作り、魔法で火を起こす。
 簡単な火を起こす魔法くらいならできるんですよ?


 スパッと刺身とみそ汁と作り、朝おかみさんに握ってもらったおにぎりを取り出す。


「いただきまーす♪ んー美味しい、新鮮ー」


 釣ってすぐ食べる。これほどの贅沢はない。


 けど……


「やっぱりパーティを組んでないとお金貯まらないなあ」
アントン達のパーティはアレだったが、人数は居たのでそれなりにお金になる魔物を狩ることができていた。


「マンティスブリンガーは山分けで一人金貨5枚……ワイルドバッファローは素材込みで金貨3枚……デッドリーベアに至っては8枚……」
 勇者パーティと組んでいた時の収入を数えるとさらに憂鬱になる。金貨2枚あれば贅沢をしなければ1ケ月暮らせるので今の手持ちで余裕はあるんだけど、パパに仕送りしないといけないので、あまりのんびりとはしていられないのよね。


 いつ貞操を奪われるか分からない状況だったので、追い出されたことは好都合だったが収入が激減してしまったのは事実だった。
 この魚を全部持って行っても銀貨5枚がいいところだろう。


「ま、まあ明日から頑張ろう……」
 出来の悪い学生のような独り言をして味噌汁を飲んでいると、近くの草むらから何かが飛び出してきた。


「ひゃ!? な、何!」


 音のした方へ顔を向けると、そこにはとんでもなくガリッガリの狼とその足元に二匹の子狼が立っていた。
 子狼は今にも倒れそうにプルプルしている。恐らく味噌汁の匂いに釣られたんだろう。
 今にも飛び掛かってきそうな感じだが、魔物じゃない普通の狼なので私でも倒せる、けど……。


「流石に子供連れを殺すのはねえ……」


 私は味噌汁の鍋から魚のアラを取り出し狼たちの前に置く。
 ふんふんと母狼が匂いを嗅いだ後、子供たちに食べさせていた。
 自分のガリッガリなのに、子供優先とは親のかがみである。蒸発したウチの母親にも見習って欲しい。


 あっという間に骨だけにされた魚のアラだが、足りないだろう。
 売らずに少し取っておいたワイルドバッファローの肉(霜降り)を焼いてあげることにした。
 うう、何かのお祝いの時に食べようと思ったのに……。


 少し元気が出たのか子狼が私のところへ歩いて来て頭突きをかましてくる。
 早く食べさせろと言いたいのだろうか?
 もう一匹は私の腕を甘噛みしてくる。子犬みたいでかわいい!!


 頭突きをしてくる子を抱っこして大人しくさせるときゅーきゅーもがいていた。
 母狼をちらっと見ると寝そべってこっちを見ていたので、私を安全だと認識したのだろう。


「ほーら、霜降り焼肉ですよ~♪」


 ステーキサイズの肉を半分にして二匹に与え、もう一枚を母親に持って行ってあげると、ひと声「ウォン!」と鳴いてもくもくと食べ始めた。


私も残った刺身とステーキの切れ端をおかずにおにぎりを食べていると、街道沿いを歩くレイドさんの姿を発見したので声をかけてみる。


「レイドさーん! 魔物退治ですかー!」


「おや、ルーナちゃん? お、狼! 危ない!!」
 私の近くに居る狼を見て剣を抜いて走ってくるレイドさん。あああ!?


「だ、大丈夫です! この子達、お腹すいていたみたいで食べ物をあげたところなんです」


「な、何だびっくりしたなあ。確かによく見ればガリッガリだな……」


「でしょう? 何か可哀相になっちゃって。レイドさんは何していたんですか?」


「今日は近くの森で”マンティスブリンガー”が出たという情報があってね、調査の依頼をしていたんだ」
マンティスブリンガーがどうして町の近くの森に? あれは北の森が生息地域のはずだけど……。


「実際行ってみて驚いたよ、本当に居たんだ。他にもやけに動物が多かった気がする。それこそ、そこにいる狼みたいな普通の動物がね。魔物にいたってはやっぱり北の森にしか居ない”パイロンスネーク”も見たよ」


 それが本当ならかなりやばい事態なんじゃないだろうか?
 この辺りは私がソロでも狩れる魔物が多いので初心者がよく入るのだ。もしそんな強力な魔物が徘徊しているなら犠牲者がいつ出てもおかしくない。


 ブルリと震える私を見て気を使ってくれたのか頭をポンポンと撫でながら、ギルドへ報告して対策と調査を改めて進言するよと言いながら私の刺身を咥えながら町へ戻って行った。いつの間に。


 一人砂浜にポツンと残された私は、急に不安になり早く戻ろうと片づけ始めた。


 その間も子狼は甘噛みをするわ、頭突きをしてくるわで忙しかった。その内、母狼が私の匂いを鼻をこすりつけるくらいの勢いで嗅ぎまくった後、一鳴きして子狼を連れてどこかへ行ってしまった。
 これで狩りが出来るようになったならいいけどねえ。


 それにしても魔物が町の近くの森に集まっているのが気になるわね……。
スタンピードが起こる予兆、とかじゃないわよね?






 悪い予感は的中する。
 この後、私は山の宴のアルバイト中に恐ろしい噂を聞くことになる。

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