パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神

その5 始まり

 話は少し遡り、アントン達は朝食を取った後にギルドへ来ていた。


 いつも通り依頼を確認して受付で受理してもらうだけだが、この日はいつもと違っていた。


 デッドリーベアの討伐依頼を受けにきたアントン達だが、受付に居たイルズが受理しなかったからである。


「今の君たちにはこの依頼は厳しい。だから受理しかねるな。他の依頼を探してくれ」


 イルズはそれだけ告げると次のお客さんが居ないのを確認し、新聞を読み始めた。
 馬鹿にされたと感じたアントンは苛立たしげにイルズに食って掛かる。


「おい、依頼を受理できないってのはどういうことだ? この前倒してきたんだから、厳しいってことはないはずだ」


 イルズは「ふう」とため息をつき、一旦新聞を畳む。
 再度アントンに言い聞かせるように説明を始めた。


「いいか? デッドリーベアの討伐はパーティレベルが少なくとも75は必要だ。依頼書にも書いているだろう? 今のお前たちのパーティレベルはいくつだ? ああ、いい。どうせギルドカードを見ていないだろうから教えてやるが、42。これで討伐なんて自殺しにくようなものだ。そしてそれを分かっていて受理し、何かあった場合、俺にも処罰がある。だから許可できない。これで分かったか?」


 なるべくやんわり、苛立たしさを出さないようにイルズは一つ一つ「何故」をアントンへ伝える。
 ここで気圧されたアントンを助けようと、フィオナが横から口を挟む。


「なら何で前回は許可してくれたんだよ、何が違うってんだ?」


「ふむ、俺は今朝、ルーナちゃんの契約破棄の書類を片づけたんだが、あれは幻だったのか? ルーナちゃんがパーティから抜けたんだからパーティレベルが下がるのは当たり前だろう? ルーナちゃんが居た頃は76で、ギリギリ条件をクリアしていたから許可していたんだぞ。さらに言えば、先週お前達が倒してきた”マンティスブリンガー”あれも討伐レベルは60必要なんだからな?」


「で、でもでも、ルーナは私達の中でも一番レベルが低かったはずですよ、なのになんで……」


「そうよ、あの子一人で34もある訳がないわ!」
 フレーレが焦るように、ディーザは明らかに怒っている口調でイルズへ問いかける。


「なるほど、お前達は『パーティ』について何も知らないんだな? いいか─────」






 イルズの話はこうだった。
 パーティを組むとパーティレベルがギルドカードに記載されるようになる。
 これは各人の能力・装備など総合的なものを加味したものが表示されるようになっていて、このレベル内の魔物であれば「協力」すれば勝てるハズ、という目安になっているのだ。


 ルーナが加入した時に高かった理由は「補助魔法」の性能が群を抜いて優秀だったからに他ならない。
 アントンは現在器用貧乏な上がり方をしているため、総合評価的に低かったりするが、フィオナ・ディーザ・フレーレはそれぞれ剣・攻撃魔法・回復魔法(プラス弱い攻撃魔法)を鍛えているため何とか4人で42という数字が出ている。


 ちなみにルーナの補助魔法が何故優秀なのか?
 魔法と言うのは使えば使うほど習熟度が増し、より強力になるのが基本なのだが、攻撃魔法は標的が居ないと上げにくく、回復魔法もケガ人を治療することで習熟度があがるので、一般的に上げにくいのだ。


 一方、補助魔法は自分にかけてもいいし、他人にかけてもいいという魔法なので、魔力さえあればいくらでも鍛えることができる。


 5歳に補助魔法の恩恵を授かったルーナは、毎朝父親に、学校で友達に、遅刻しそうな時の自分に、畑を耕すお供も(牛)などへ、遊び半分で使いまくっていたおかげで高レベルの補助魔法まで使えるようになってしまい、そのためアントン達のパーティが底上げされていたという訳だ。


 ではレイドのようなソロの場合はどうなるのか?
 ソロの場合は実際のレベルの横に()かっこで疑似パーティレベルが表示されるようになっていて、もちろん装備品と能力は加味される。


 例えば レイド:レベル64(81)といった具合である。
 依頼書にはソロ討伐レベルも記載されており、いけるかどうかはギルド職員と応相談なので、ソロは不利にできていたりする。デッドリーベアであれば130以上は欲しい所だ。ポーションは忘れずに。




「話は分かったか? 今のお前達は”エルダーフロッグ”くらいが丁度いいだろうな。どうだ、受けるか?」
 一気に説明され、目を白黒させていた4人だったが、他のギルド職員や、冒険者が失笑しているのを見て「実力不足」というレッテルを張られたということは理解した。


 これ以上イルズと話しても仕方がないと判断し、渋々エルダーフロッグを受けるのだった。


「……分かったよ、とりあえずそれでいい」
 睨みつけてくるアントンを見てやれやれと肩を竦めて、依頼表へ「受理」のスタンプを押したのだった。




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「くたばりやがれぇ!!」


 ゲロッゲー!?


 アントンの突きが見事脳天にヒットし、一匹が息絶える。


「はあ!」


「今ね! ≪ブレイズ≫!」


 ゲッコゲコー……


「あ、フィオナちょっと怪我してるみたいですね。≪ヒール≫です」




 依頼された二匹の討伐を終え、解体作業に入る4人。


「エルダーフロッグはもも肉とどこが売れるんだっけ?」
 フィオナが解体の手を止めずにアントンへ聞く。


「確か舌が良く伸びるとかで何かの素材になるらしいから持っていこうぜ。他は使えるもんがねぇから埋めるか」


「そ、それにしてもルーナが居ないだけでパーティレベルがこんなに下がるなんてやっぱり信じられません……」
 フレーレがギルドでのやり取りを思い出し、怒りがぶり返す。ディーザも同じくルーナに対して納得がいっていなかった。


「あの子、色んな人と仲が良かったわよね。イルズも『ルーナちゃん』なんて呼んでいたし……もしかして、あちこちで体を売ってレベルを偽造してるんじゃないかしら……」


「あ、それあるかもしれねぇな。あいつ、この町に来たとき冒険者ですらなかったんだよな。今はレベル4か5だっけ? それで34もパーティレベルがあがるわけねぇもんな」
 フィオナがディーザに呼応し、アントンがそれを聞いて憤慨する。


「チッ、ちょっと可愛いからってとんでも無いヤツだったってことか。良かったぜ、お前たちが追い出してくれて」


 少し考えればそんなことはできるはずも無いと気付くのだが、4人はプライドを傷つけられたこともあり、ルーナを悪者に仕立てて、結束を固めていた。


 影口くらいなら良かったのだが……。


「そうだ、今から北の森に行ってデッドリーベアを倒しに行こうぜ! そしたら俺達が正しかったって証明できるだろ?」


 名案とばかりにアントンが3人へ向かって笑顔で言い放つ。


「そうね、ギルドの連中を土下座させてやりましょう!」
「へへ、そうこなくっちゃな。それでこそアタシが見込んだ男だ!」
「だ、大丈夫ですか? 私達徹夜で寝不足ですけど……」


 フレーレだけは気乗りしないといった感じだったが、押し切られる形で北の森へ向かう事になる。


 そしてこれが、このパーティの行動が。町一つを巻き込む騒動の幕開けだった。

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