ろりこんくえすと!
4-2 旅立ちと更なる旅立ちの予感
4-2 再開と更なる旅立ちの予感
一旦バーベキューの肉とギルマスを放置して、僕はエマに誘導されるまま噴水の広場まで歩いていった。
しかし誰だろうか。僕に会いに来る人間なんてそうパット思い浮かばはない。
自慢じゃないが僕の交友関係は希薄だ。例えどんな活躍をした所でこの街の住民からは白い目で見られ続ける運命を背負っているから。
そのため僕に会いに来る人間は余程の物好きぐらいしかいないのだ。
「ほら変態。ちゃんと挨拶しなさいよね」
考え事をしている間に噴水広場まで着いていたようだ。
くエマに背中を押されるがままに前に押し出されると、ベンチの端に座っている一人の男を見つけてしまった。
「ああっ! お前は!」
忘れもしない。奴は貪食の食人鬼を倒した僕を偽物と断定し牢にぶち込んだ張本人だからだ。
「連れてきてくれたか」
「ええ、ちゃんとね」  
ジョサイア=マルティニス。エマとアシュレイの兄であり、第五騎士団の団長も務めている人間だった。
「さ、変態も連れて来たし私がここに居ても邪魔なだけだからもう行くわ。じゃあね変態。また捕まらないように気を付けなさいよ」
「よくいけしゃあしゃあとその台詞が言えるよな。元はと言えばそっちのせいだろうが」
船を盗んだこのちびっこはどんだけ図太い精神をしてるんだか。つーか罪悪感や良心といったものを何処に捨ててきた。
「少し待ってくれ」 
「なによ? 私はエルフの大陸で得た情報を元に論文を書いてるから忙しいのよ」
「それよりもだ。その、妹の.......最近のアシュレイはどうだ?」
用事が終わり、帰ろうとしたエマをジョサイアは引き止めた。
アシュレイに性格が悪いと烙印を押されているジョサイアであったが、やはり兄なら兄なりに心配はしているらしい。
「あえていうなら普通、かしら」
「.......そうか。ならもう行ってくれて構わない」
睨み合った末、先に折れたのはジョサイアの方だった。エマは肩に載せられた手を振り解くと、スタスタとその場から行ってしまった。
一言で言えば冷たい。アシュレイにも嫌われている癖にエマにまで嫌われているなんて。こんなんでも実の兄だというのに、あまりにも無関心すぎやしないか。僕でもジョサイアに同情するぞ。少し可哀想だ。 
まあエマとジョサイアの関係はあまり触れないでおこう。僕が首を突っ込んでもいいことはないし。それよりも、だ。
「で、一体お前が何の用だよ。どんな風の吹き回しだ?」
肝心なのはジョサイアの要件。こいつが一体、なぜ僕に会いに来たのかが不思議で仕方なかった。
「聖都バルト、と言えば分かるだろうか」
「なにそれ」
「.......。簡潔に説明しよう」
ジョサイアのこの微妙な顔。言葉には出していないが、明らかに僕をイロモノとして見ていることだけは分かった。
「聖都バルトとはここネメッサの街からかなり離れた所に作られた大都市だ。エルクセム王都と合わせて普人族の二第都市とも言われている」
「.......? それがどうしたんだよ」 
「開かれたのだ。武闘大会が」
ぶとうたいかい?
「武闘大会ぐらいは君でも知っているだろう。腕に自信のある者達が集まって戦い、大会に参加した中で一番強い人間を決める戦いだ」
世の中そんな物があるんだな、と関心を示した僕だが同時に常識に欠けていることも気が付いた。
あまり気が進まないけど.......そろそろエマにでも教えて貰った方がいいのかもしれない。
「そして大会の優勝者には景品が与えられる。その景品は聖都バルトの王家が叶えられる範囲の願いならばなんでも叶えてくれるというものだ」
「へー。じゃあ優勝して金くれって言えば金くれんのか」
「まあそうだな。ただこれまで金銭を王家に要求した優勝者はいなかったが」
.......。普通、お金欲しいと思うのが当たり前なんだけど、僕がおかしいのか。
「さて、ここで本題に入ろう。それに騎士団の団長及び副団長全てを派遣しろとの通達があったのだ」
「全員? それはいくらなんでも無理だろ」
「その通りだ。武闘大会を開くことはまあいい。そして盛り上げるために何人か実力者を寄越して欲しいのも分かる。だが、いくらなんでも全員を寄越せと言うのは現実的では無さすぎる」
エルクセム王都の騎士団全員、か。確かにクラウディオとかを派遣すればそれはそれはある意味楽しいことになりそうだけど。
「.......あ、そうか!」
「どうした? 何か気付いたのか?」
「ほら、第一騎士団の団長といい、第三の騎士団長といい、あいつら頭おかしいじゃん? だから聖都の王家はエルクセム王都から別にいなくなっても大丈夫だって考えたんじゃないかな?」
「否定は出来ないがやめてくれ。だが目を付けた所はそこだ。騎士団長らは王都を防衛する要となる者達。それらを全て出払いさせるなぞ無理な話。少し考えれば分かるのだが、何故、バルトの王家はこんな無理難題を要求してきたのだろうか」
ジョサイアは深く唸り重い息を吐き出した。
なぜこうも変なことで僕を呼び出したんだ。昔から現場を見ることがないお偉いさんはズレた要求をしてくるなぞ普通のことだろう。悩む必要もないし、杞憂なだけだ。
「そんな細かいことを気にしていたのかよ。それならさ、適当な部下とか派遣したりジョサイア自身が行けばいいじゃないか」
「それもそうなのだが、調査員の枠がもうないんだ。本当は私が行くのが一番良いのが知っている。知っているのだが、勝手にとある人物が今回の調査をかっさらって行ってしまった」
 
多分、その調査枠をかっさらった人間は戦闘狂で、金髪で、武器を無数に生み出すスキルを持った男なんだろうな。
「それに現在のエルクセム王都を指揮決定権の多くは私にある。二日三日は王都から離れることができるが、流石に数週間単位となると難しい話なんだ」
「ということは」
「だから君に調査をお願いしたい。なに、調査と行っても難しい話ではない。武闘大会に出場し、そこそこ勝ち上がって様子を見てきて欲しいだけだ。何も無かったらそれでいい。もし、異変があれば報告してくれだけでいいのだ。少しばかりの謝礼も私から払おう」
「.......なるほどね」
僕は話の内容を頭で纏めると、突き付けるように言葉を口から出した。
「お前の考えることが分かったぞ。聖都は騎士団長ら全員を寄越せと言ってきた。それはなるべく人が欲しいから。でもエルクセム王都からの派遣はできない。だから僕を頭数に入れようとしてるんじゃないか?」
ピクリと眉が引き攣った後、しばらくして観念したようにジョサイアはやれやれと肩を竦めた。
「恐れ入ったよ。本当は騎士団長らの代わりにそれに匹敵する実力者を送ると返答したからだ」
「だから僕の白羽の矢を立てた、と。最低だなお前」
「まあ内部の諸々の事情はあるが悪い話じゃない。例えばだ」
ジョサイアは自分の荷物を荷解きすると拳大の布袋を僕に投げて寄越した。
慌てて受け止めるが中に入ってる物がかなり重く、あとほんの少しで地面に手が当たってしまうぐらいだった。
「なに、ほんの交通費だ。ネメッサの街から王都まで行くには馬車ぐらい使うだろう。それぐらいは経費で落としてやれる」
「ほんの交通費、ねぇ.......」
僕の手にずっしりと重くのしかかるゴールドは交通費なんて物ではなかった。明らかにギルマスから貰うはずの報酬金よりは多いのは間違いない。
「とまあ、これが私の要件だよ。行くか行かないかは早めに決めてくれ。武闘大会の開催は二週間後。ここから聖都まで早くても六日は掛かるからな」 
伝えたい事を伝えきるとジョサイアは荷物を纏め始めた。話からして、忙しい中わざわざネメッサの街まで来たそうだ。もう今から王都に戻るかもしれない。
「ああ、最後にそうだ」
荷物を弄る途中、ふとジョサイアは顔を上げて僕に話しかけた。
「なんだよ?」
「妹達をよろしくな」
ジョサイアよ。あいつらを僕に丸投げしないでくれ。
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