ろりこんくえすと!
4-1 訪問者
「あああああああああああああ!!! ふざけんなギルマス! なんでこんな魔物を野に放ったんだよ! エサあげようとして柵開けたらそのまま逃げたとか馬鹿か! つーかこんな魔物を飼おうとするんじゃねえよ! 死ね!」
僕を追いかけるように後ろから灰色の球体が転がっている。一目みただけでは丸い岩が転がっていると錯覚してしまうが、れっきとした魔物だった。
脅威度B。アルマルマルマジロ。
なんともふざけた名前だが、甲殻が鋼鉄以上の強度かつ、目に付いたものをとりあえず轢き逃げするという習性から極めて危険な魔物に認定されている。
そんなアルマルマルマジロを無知で低能なギルマスはペットにしようと購入した。なぜ魔物を血統書付きの犬猫感覚で購入できるのか、そもそもアルマルマルマジロを捕まえる人間がどこにいるのか。疑問が多すぎて謎は深まるばかりだが、こうして僕が轢かれそうになってるのは夢ではなく現実だった。
「のもももももももも!」
ゴロゴロと心臓に悪い音が近付いてくる。逃げようとしても現在進行中で僕と大きな球体は坂道を転がっているので逃げられない。
そして眼前には岩に囲まれた天然の通行止めが出来上がっており.......。
「あの野郎! 帰ったら報酬金全額払って貰うからなぁぁぁ!!!」
◆◇◆
冒険者ギルド。
土だらけでボロボロになった僕はギルドのカウンターの前に座っていた。
貪食の食人鬼の襲来から約1ヶ月が過ぎ、冒険者ギルドの建物は完全に復旧をし終えていた。
ケチなギルマスのお陰で元がボロボロだったので、復旧後の冒険者は新築の建物と目を疑う程に綺麗になっている。朽ちそうな机やカウンターやひび割れた壁もついでに修繕されていて、ギルド内は以前よりも盛り上がりを見せている。
僕とはまるで正反対だ。
「ロリ.......ロリコンさん。お疲れ様です。無傷で捕獲してくるのは凄いですね。実力だけは」
「顔と性格は?」
「ノーコメントで」
「.......」
受付嬢は相変わらずこの調子だ。最初のコミュニケーションも関係も上手くいっていたんだけど、どうしてこうなってしまったのだろうか。
原因はリフィアとかローションとかなんだけど。
「んじゃ、早く報酬金くれよ。言っとくけどピンハネとかヒュージスライムの時のような誤魔化しは無しだからな? 1000Gを耳揃えて渡してもらうから」
僕は横に転がされたアルマルマルマジロに軽く蹴りを入れて言った。
今回の報酬金は脅威度Bの魔物、それも内容が捕獲だけあって1000G。分かりやすく言えば、アリアの宿に三週間は泊まれるそこそこの金額だった。
そこそこと言ってもいささか安すぎる気もするが.......強さはC寄りのBなので妥当と言えば妥当だろう。捕まえられたアルマルマルマジロもそう思っているに違いない。
おっと、体を揺らされた当の本人は恨めしそうな顔で僕を睨んでいる。ランドホースといい、動物や魔物には好かれないな、僕は。
「ではギルマスを今から呼んできますね。しばらくお待ちくださ」
「その必要はない」
受付嬢の声を遮るようにカウンターの後ろの扉が開き、中からでっぷりと太ったむさ苦しいおっさんが現れた。
このおっさんこそ冒険者ギルドを束ねているギルマス。金にがめつい、いつも欲に目が眩んでいる小悪党であった。
「いやあウェルト君。素晴らしい素晴らしい。ギルマス直々に礼を言うよ。よく逃げたしたジョンを連れ戻してきてくれた」
「いいからとっとっと金を寄越せ豚野郎。こっちは今日の宿代も今から食べる食事代もねえんだよ」
拍手しながら歩いてくるギルマスを先制するように啖呵を切る。ついでとばかりに弱めの魔力を放って威圧をかけておいた。
僕がこうも報酬金に拘るのには理由がある。
ノルドの村で奪った船で帰ってきた僕は船の窃盗の罪で指名手配をされていた。
ここで重要なのは『僕達』ではない。『僕』だけが指名手配を受けていたこと。主犯格であるエマと一緒じゃない。何故か僕だけが手配されていたことだ。
ニゲルとの激闘を終え、乗っていた船が人様のものだということを頭から抜け落ちていた僕はまんまと御用となった。
そして、持ち主であるおっさんに僕の全財産を奪われるハメとなり、エルフの王城で働いて得たお金は全て溶けて消えて無くなった。
こうして晴れて一文無しになった僕は仕方なくクエスト受けることになり、金払いがよく手っ取り早いギルマスが依頼したが誰も受けなかったこのクエスト、という訳だ。
「ははは。いやぁ.......いつにも増して怖いなあウェルトは。うん、ちょっと目が本気だよね? ああ、早く渡すよ。渡すからさ、あんまり睨まないでくれよ。おい、ちょっと、早く謝礼をウェルト君に渡してやってくれ!」
ギルマスは冷や汗を額から垂らしながら受付嬢に分厚い封筒を手渡した。
封筒を渡したギルマスはそそくさにその場から距離をとる。
「怪しさを隠しきれてねえよ! 封筒は分厚いけど絶対になにか別のもん入ってるだろ!」
僕は窃盗を使って強引に封筒を奪うと封を切って中身を取り出した。中から出てきたのは1000G.......ではなく、へんてこな形が描かれた紙だった。
「なんだこれ」
「ふっふっふっ。何を隠そう、この券は1枚100Gの価値がある優れものなのだよ」
「あ‴?」
受付嬢を盾にしながら得意気にギルマスは答える。
「それはネメッサの街の冒険者ギルドだけで使える公認の引換券だ。1枚で貸し倉庫が1ヶ月間無料、10枚集めると貸し倉庫が1年中無料で使えるぞ! どうだ! 凄いだろ!」
僕は迷いなく引換券をまとめてビリビリに破り捨てると、アルマルマルマジロをギルマスから遠ざけて声高に叫んだ。
「おいみんな! ちょうどいい肉手に入ったから今からバーベキューやろうぜ! 僕の奢りで!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」」」」
バーベキュー開始の合図。それと同時に、他の冒険者達による喝采とどよめきが上がった。
「ちょ、」
「いやぁ、前にエマが言ってたけどアルマジロの肉って美味しいんだって。さっき生け捕りにした『野生』のアルマルマルマジロ。きっと美味しく食べれるんだろうなぁ」
僕は薄ら笑い、岩肌のような質感の甲殻を優しく撫でた。当のアルマジロは嬉しいのか怯えて身を縮ませて強ばらせてくれた。
「待って! やめて! やめてくれ! 300G、いや500Gは払うから! お願いしますやめてください! お金! お金払いますから!」
「剣士くん、とりあえず炭火と金網用意してくれない? ギルド裏にあったでしょ?」
「お、そうだな」
「ああああああああああ嫌だあああああああやめてくれええええええええええええ!!!」
必死にいい歳したおっさんが僕の足に縋り付くが知ったことではない。当然の報いを受けただけに過ぎないのだ。
「なにやってんの変態」
喧騒が止まない騒がしいギルドの扉を誰が開く。ぺたぺたと足音を立てて店内に入り込んだのは赤髪の子ども。僕のことを変態呼ばわりする人間は一人しかいない。そう、エマだ。
「見ての通りバーベキューだよ。ついでにギルマスも炭代わりにして燃やすけど。それより僕になんの用だよ?」
「なんの用って、私が好き勝手で変態に会いに来るわけないじゃない。自意識過剰も程々にしたらどうかしら?」
酷い。
「お客さんよ。変態にね」
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