ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

第3章 エピローグ



 エピローグ



 ニゲルを倒してから一週間が過ぎた。

 僕とオウカ、そしてメルロッテは遅れて抗体を飲んできたエキューデに救出されて黒の境界を後にした。

 四本目の抗体はリフィアとエマがなんとか作ってくれた。なんでもナルが使われていた材料をたまたま持っていたらしい。持っていた理由は料理で作るかもしれないから、と。

 こうして王城へと運び込まれた僕はリフィアに看病.......されることなく普通にピンピンしている。

 神秘の自然石の一部を取り込んだ際、風の魔力回路を含めて全ての傷は治ったからだった。生々しい傷跡は残ったままだが、これまでの傷は残らず消え去っている。久しぶりに体の痛みを感じずに動けたのが少し感動したのは初めてだった。

 黒い魔物の騒動と裏にいたニゲルの企みは潰えて消えた。少なくない死者の数も出て王城や村も爪痕が残っているが近いうちに復旧が行われるらしい。

 そして復旧が終わるその前に、アシュレイもミナトも目を覚ましたことだしネメッサの街に帰って本格的な治療を受けることになりそうだ。

 歩きながら思い出す。

 メルロッテの計らいで僕がやったことの一部は伏せて貰った。ニゲルを公表し、全ての功績をオウカに擦り付けて。

 ニゲルの存在を公表するかどうかは、この一連の事件に関わっていたみんなと相談して迷い出した結論だ。

 メルロッテはニゲルを公表することに否定的だった。歴史の闇と王家の恥を曝け出すのが嫌と言うわけではない。折角、母親であるアリアナが人生を捧げて今のような差別がない世界を遺してくれていた。

 無闇に過去のことを掘り返すよりも、今は傷を癒すことが先決だと。

 しかし、反対したのは意外にもオウカでニゲルを公表するべきだと声明を表した。ナルのようなダークエルフもいること、そして過去の間違いを見なかったことにして隠蔽するのは間違っていると。

 オウカの言い分は正しいことだろう。今回のような出来事を二度と起こさせないようにする為にも、現在の人々にニゲルという存在を教え悲劇を生まないようにしたい。倒すべき敵であったが、彼は悪ではなく被害者なのではないかと。

 後世に伝えていくためにも石碑を立てて弔ってやるのがいいと考えた。

 公表するかしないか。どちらの意見も間違ってはいなく正しい答えだった。

 迷いあぐねた挙句、僕やアシュレイがオウカに賛成しニゲルを公表することになった。

 この大陸で暮らしている人々には動揺が走り、少なからず混乱が生まれてしまう。王家にも不信感が募り信頼が揺らぐのは間違いない。

 されでも優先すべきは手を取り合える未来。メルロッテも意を決して即位式で発表すると決めた。

 しかしてそれまでの間、僕は他の森人族や植人族の手伝いをしていた。そうして、手伝いもそろそろ終わりに近い。

「オウカ、ここにいたのか」
「ああ、お前か.......」

 王城の裏に位置する雑木林に隠された庭園。手入れも一切されていないこの場所は草木がぼうぼうに生い茂っている。

 どうしてオウカがここにいたのか分からなかったが、足元に埋められているみすぼらしい石を見てすぐに察しが付いた。

「剣聖の墓標、か」
「そうだ。今しがたお師匠様の墓場を作り終えたところだ。他のエルフやドリアードの反発が酷くてな。このような人目につかないひっそりとした場所にしか墓標を立てるしかなかった」

 気配感知と地図作成を持つ僕がやっと見つけられた在所。まちがいなく誰にも見向きされないどころか来る人も限られるだろう。

「まあ.......理由はどうあれここなら安らかに眠れそうだ。お師匠様も本望だろうか」

 切なさそうに墓標を撫でたオウカの横顔は悲壮さを含んでいて胸が痛くなった。

 装飾も施されていなく、両手で抱えられる程の大きさしかない石の墓標は拙く感じられる。

 墓銘には雅な文字で『親愛なるお師匠様へ』とだけ掘られており、剣聖イアソンの名前はどこにもない。

 静かに近付いて僕はオウカの隣に屈み、墓標の上に付いている粉を払い深く息を吐いた。

「エキューデも言ってた。死人は静かに眠らせておくに限るって。あいつには似合わない台詞だけど」

 墓碑を触れて感じる。寒く、火の消えたような冷たさだ。だけとオウカが掘った銘には温もりがあり、埋められた剣聖も寂しくはなさそうだ。

 そう、信じたい。

「拙者は.......お師匠様を止めるどころか自害の道を選ばせてしまった。それなのに、皆の者は立派だとかよくやってくれたとか賞賛の言葉を浴びせる。こんな拙者に、だ」
「.......」
「己の不甲斐なさでいっぱいだ。弟子の鑑とも言われたが、拙者はお師匠様の弟子失格だ。結局、拙者は人を一人殺しただけに過ぎないのに」

 ちょんちょんと肩を叩いて、僕の方に振り向いたオウカのほっぺたを両手で掴むと、むにっと引っ張って広げてやった。

「.......なにをしてる?」
「僕は自分を責めるなとか仕方がなかったとかそんなことは言わない。でもさ、オウカがやったことは間違ったことだったか? 少なくとも僕はそう思わない」

 頬を離し、僕は立ち上がった。

「剣聖とオウカの戦いは僕は見てないから分からない。ただ、自分で命を断ったってことはオウカに見送りることだけは嫌だったんだろうさ。ニゲルと手を組んで裏切った剣聖だけど、剣聖なりの流儀だけは裏切れなかったんだろ」

 もし、オウカが剣聖を自身の手で殺していたならば一生に渡ってそのトラウマが付き纏う。

 自ら命を断った。それは、身を堕とした剣聖が心根が優しすぎるオウカに残せる唯一のものだったのかもしれない。

「.......強いな、お前は」

 吹っ切れたような笑顔でオウカが言った。

「もっと早く出会っていれば良かった。そう、本気で拙者は思う」
「感傷に浸っている暇はないって。明日即位式やるんぞ。メルロッテの」

 メルロッテが王と認められる即位式は明日。自然石が消滅しハイエルフにはなれずしまいだが、王たる条件はもう揃っている。

 これからは自然石なくして王政が続いていく。その時代をメルロッテが作っていくことになったから。

「後ろ向かないで前向いてろ。立ち止まってクヨクヨしている場合じゃないぜ。なんせ支えないといけない相手がオウカにはいるんだから」
「そう、だな。お師匠様は死んだ。もういない。ならば、お師匠様の代わりに拙者が姫様を支えていかなければならないな」

 ごしごしと目元を拭ったオウカの顔は晴れ晴れとしていた。

 この様子じゃ、心配はいらなそうだ。

「じゃ、僕はそろそろ行くよ。僕達はもう要らなさそうだし、用も済んだからね」

 僕はオウカに自然石を象ったバッジを押し付けて背中を向けた。

 メルロッテに頼まれた最後の手伝い。それが、僕の手でオウカに勲章を授けること。

 オウカも、メルロッテも、もう一人でやっていける。これからのエルフの大陸がどうなっていくのかはきになるところだが、僕達は要らぬお世話だろう。

「即位式は出るのか?」
「出ないよ。お堅い場所は僕には似合わないから」

 僕はひらひらと手を振って去っていく。

 これでオウカとはお別れだ。少し寂しい気持ちもあるがどうということはない。

 また、会える日がくると分かっているから。

「やれやれ。ほんと、お前らしいな」

 呆れたような、吹き出したような、オウカなりの言葉を背中に受けて僕とオウカはそれぞれの道に別れていった。



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