ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-62 吹き荒れる風の魔力回路


 3-62 吹き荒れる風の魔力回路


「いい、メルロッテ?」

 優しく頭を撫でられている。

 チクタクと秒針が動く年季が入った柱時計。その隣のベッドで少し年老いた女性が腰をかけ、膝の上に私は乗っかっていた。

 昔の記憶。古い断片。

 私は自分の母親のことをよく覚えていない。まだ小さい頃に死別してしまったから。気付いた時にはもう遅く、母親がどんな人間だったのかも分からなくなっていた。

 ただ、母親との思い出は一つだけ、たった一つだけ頭に残っている。

 私の部屋で優しく頭を撫でられて話を聞いている。それだけが、私が母親と一緒に過ごしたことを覚えている時間だった。

 頭を撫でる母親が言葉を紡いでいく。この記憶ぁけは一字一句、忘れてはいなかった。

「私はどんな人間とでも手を繋げることが出来なかった。でも、貴方は私とは違う。きっと、誰とでも手を繋げることができるわ」
「.......?」
「ふふっ、小さい貴方にはまだ分からないかもしれないけど、いずれわかる時が来るわよ」

 わしゃわしゃと髪を撫で回されくすぐったさそうに目を細める私。無邪気で何も分からない私に、母親は耳元で穏やかに口ずさんだ。

「お金持ちでも、貧乏人でも。貴族でも、平民でも。エルフでも、ダークエルフでも。誰に対しても平等に接しられる人間になりなさい。もしも、貴方がそんな人間になれたのなら。どんな困難な目にあっても誰かが助けてくれる」
「そうなの?」
「そうよ。ね、素敵でしょう?」

 ぎゅっと抱きしめられ、寂しそうに私の母親は呟いた。

「残念ね。私にあともう少しだけ生きられる時間があったのなら。貴方の花婿をこの目で見れたのに」

 母の言葉が終わりを告げ、思い出はここで途切れていく。視界の隅から染みが広がり、塗り尽くされた。

「お母、様.......」

 私には母親の言っていた意味は分からない。だけど、今ならわかる気がする。

 濡れた瞼をそっと開けた。

 黒髪の少年が立っている。拳を掲げて、私を守るように。

 少年の背中は頼りなく、ちっぽけに見えた。なのに、何故か立ち向かう少年の姿は大きく見えた。

「どうして、どうして来たんですか.......?」

 彼には関係ないのに。

 彼には帰る場所があるのに。

「ウェルト、さん.......」

 年相応に明るい彼の顔が浮かぶ。その裏には人よりも多くのものを背負っている重さがある。

 彼は、これまでどれだけ他人の為に傷付いてきたのだろうか。私は、彼の助けを欲していた誰かと同じように、また無用な物を背負わせてしまったのだろうか。

「ウェルトさん――ッ!」



 ◆◇◆



 僕とニゲルの拳が交差した。勘だけでニゲルが攻撃する方向を予知して躱し、僕の殴打だけが入り込む。

 衝撃と鈍痛で顔を凹ませのぞけるニゲルは怒り狂い、汚い言葉を吐きながら襲いかかる。

「くそっ、くそが! なんだお前は! 一体なんなんだ! 俺の復讐を邪魔する道端にへばりついた犬の糞ようなお前は何者だ!」
「知るか! 僕は僕だ。それだけだ!」  

 大上段に振り下ろされる踵を避けて旋風脚を腹に打ち込む。血を吐きながらニゲルは吹っ飛び、水上で二、三度跳ねて倒れ込んだ。

「ちくしょうが.......自然石! 自然石だ!」

 悔しそうに血が出るほど唇を噛み締めニゲルは立ち上がる。

「俺はハイエルフに上位進化する! 雌ガキから取り上げれば俺が唯一の王族の血統だ! 自然石を俺のものとし、葬り去ってやる!」

 地面を蹴りあげ、矢のような素早さでニゲルはメルロッテがいる場所まで向かう。

 僕が戦ってる間に自然石は殆ど分離し終えている。緑色に輝く石がメルロッテの胸から半分だけ露出している。

 間に合わない。身体強化を行った今のニゲルに僕は追いつけない。

「寄越せええええええええ!!!」

 カッ! 

 自然石はニゲルが手を触れた瞬間、粉々に砕け散った。パラパラと乾いた泥のように崩れ落ちその場で消滅した。

 自然石が砕けてニゲルは呆然とする。キラキラと輝く破片を握りしめ、メルロッテの前で立ち尽くした。

「そんな、馬鹿な.......。また、俺は選ばれなかったのか? 自然石に、選ばれなかったのか.......?」

 流星夜のように自然石の欠片は光を失って散る。追い付いた僕は軽く息はいて、哀れみを込めて言った。

「言った通りだな、ニゲル。誰もお前を王になんか選びやしない。自然石にも選ばれない」
「くそぉぉぉ.......!! クソがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 砕けた破片を放り捨て、絶叫が空間に木霊した。

 怒り。憎しみ。悲哀。絶望。

 これまで受けてきた仕打ちがニゲルを歪ませていた。そして最後に、自然石に再び見捨てられたことにより心の堤防が壊れる。

「俺は、俺は! 俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺ははははははははははははははははははひひひひひひほひひひひひひひひひひひひひにひひひひっっっ!!!」

 どっと洪水のように闇の魔力が押し寄せ辺りを呑み込んだ。

「ぐっ.......!?」

 暴走しやがった。魔力の強さと量だけならユリウスを超えていやがる。

 この場にいるだけで窒息してしまいそうな程の濃密さ。気を抜けば魔力の流れで押し流されてしまいそうだ。

「壊してやる。何もかも。俺を拒み、拒絶するこんな世界は要らない。俺が全て、壊してやる!」

 野太い咆哮と共に黒い巨腕が落とされた。水柱が立ち上って土石流が発生し、前方が残骸に埋め尽くされる。

「メルロッテ!」

 叫んだ時にはもう遅く、メルロッテは土煙に隠されて、禍夜の遺体と巻き込まれて見えなくなっていた。

 手始めに自然石の持ち主を潰したニゲルは満足気に笑うが、違和感を感じたのか表情がすぐに元に戻る。

「..............!?」

 光が弾けた。ニゲルを押し返し、輝く障壁の中にメルロッテが立っていた。

「自然石が、守ってくれた.......?」

 粉々の破片が空中に漂い、メルロッテをニゲルの攻撃を塞いでいた。

 光のベールの中に僕は見た。エマと一緒に図書室で見た人物を。

 儚げに映るその姿はメルロッテの生き写し。

 アリアナ=セシル。メルロッテの母親を。
 
「お母、様.......」

 彼女は振り向くと微笑みかけ、そっとメルロッテの頭を撫でた。

 次に僕の頬をに触れると優しい緑色の粒子が降り注いだ。

 言葉は出ない。聞こえない。けど、メルロッテの母親は口頭で僕にこう伝えた。

 お行きなさい、と――。

「おおおおおおおおおおおお! 俺を選ばないどころか消滅してまでも邪魔をするのか! ぶち壊す! 俺が残らず! 何もかもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 闇の魔力は尚暴走を続ける。もう、ニゲルを止めるには倒すしかない。

 僕は頷き、見届けた彼女の姿は掠れて消えていった。幻だろうが幻覚だろうが確かに彼女は僕達に伝えいことを伝えて消えていった。

 メルロッテを抱いて立ち上がる。そんな僕の体からは風が渦巻いていた。

「ウェルト、さん.......?」

 パチリと目が開いて僕とあった。僕は緊張がゆるんで笑いが漏れ、その場でメルロッテを立たせて背中を向けた。

「終わらせてくる。少しだけ、待っててくれ」

 温かい。失った物が戻ってくる感じだ。

 僕を中心に力強い風が渦巻く。翡翠色の魔力が溢れ出し、竜巻となって僕を包む。

 暴風が辺り一帯に吹き荒れた。周りを包んでいた闇が晴れ、光が射す。

 完全復活。

 風の魔力回路は元通りになった。違う、それだけじゃない。今の僕は、以前よりも数倍以上の魔力の強さになっている。

 これが神秘の自然石の力。魔力回路を治すどころか凄まじい魔力が溢れ返り、まるで自分の魔力とは思えない。

 風狂黒金を構える。

 風の魔力回路が復活した影響か、風狂黒金を思いのままに操ることが出来る。更には刀身も風の魔力を吸い取って元通りになっていく。
 
 僕の強化された魔力を吸い取った刀身は以前よりも長く伸び、小刀と言ってもいいほどの大きさとなった。風が渦巻き、魔力が刀身に波打っている。

「決着を付けようぜ、ニゲルッ!」



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