ろりこんくえすと!
3-61 魔物化の果てに
3-61 魔物化の果てに
裏歪風。
固有属性で放たれた新たな技能は、僕がこれまで戦ってきた再生能力が高い相手に対するひとつの回答であった。
裂傷で再生が阻害される。絡まり、まとわりつくように魔力が滞留し、皮膚が避けて血が止まらない。
再生した直後に傷が弾ける。掻きむしるように腕を乱暴に扱って取り除こうとしても、逆に手に滞留した魔力が広がり指が落ちた。
「おのれぇ!! おのれおのれおのれぇぇぇっっっ!!」
深紅に染まったニゲルが狂声をあげる。魔力を暴走させて打ち消そうとするも、固有属性は闇の魔力すら吸収し裂傷の範囲と威力を広げることになった。
裂傷は止まらない。いつの間にか時間差で襲う回避不可の斬撃となり、ニゲルの体を捩らせる。
「この俺が子供の普人族に遅れを取っているだと!? あるはずがない! あってはならないのだ!」
血塗れになって叫ぶその様は断じて許容できない現実にあった。
僕に追い詰められている。ユリウスと同じ力を手にしたニゲル。そのニゲルが対して力を持っていない僕に大傷を負わせられ、自尊心を乱雑に踏みつけられている。
番狂わせの戦局。ダークエルフのニゲルからしてみれば、ちっぽけな普人族の僕に痛み付けられているのは悪夢でしかないだろう。
「非現実的だ! 身を堕とし、闇魔法を極めた俺が子供一人に苦戦するなど! 解せぬっ! 俺は誰にも負けない力を手に入れた! この力を使って父親、そして俺を見下しコケにした奴は残らず殺した! なのに何故だ! 普人族のお前如きが部相応にも盾突いているのに何故殺せない!」
「.......そうだな。おかしいよな。永遠の命とか不老不死とか凄い力手に入れたなのに矮小な虫っ子一匹殺せないんだもんな」 
風狂黒金の刃を向ける。風が靡き、水面が泡立つ。
「教えてやるよ、ニゲル。人間を辞めたやつが人間に簡単に勝てると思うな。その誰にも負けない力とやらを手に入れた代わりに大事な物失ってんだ。何が誰にも負けない力だ。何が闇魔法を極めただ。そんな大それた人間じゃねえ。前は賤陋な小物。今は過去にしがみついているだけの負け犬だ」
ニゲルはプルプルと体を震わして怒りを表し、こめかみに筋を立ててまくしたてた。
「どいつもこいつも俺をコケにしやがってぇっ.......! その生意気な目、気に食わない態度。ムカつくなぁぁぁ!!」
魔力が一気に放出される。爆発した魔力は水源一帯に残響音を籠らせ、石や岩が上から落ちてくる。
僕の胸がザワつく。これはあの時と同じ。ユリウスと感覚だ。
ユリウスは翼と角が生えて白銀の悪魔に。
剣聖は筋肉が肥大化して鬼のような化け物に。
だが、ニゲルは違った。目が赤く染まり、爪が鎌の形に伸びて曲がる。肌に斑点が浮かび上がり、まるで吸血鬼のように二本の牙が上唇の下から覗かせた。
見た目はまるで醜い小悪魔。虚仮威しにすらならない見えない姿だった。むしろ放出されていた魔力が無くなり、弱くなった印象が見受けられた。
「殺すっ.......、コロスコロスコロスコロスコロスコロスぅぅぅぅぅ!!!」
台詞が終わると同時にニゲルの姿が消え、気づけば僕は宙に浮いていた。
両腕に痛みが走って痺れる。青アザが出来上がっており、強い衝撃を受けて痙攣を起こしていた。
「づっ.......!」
飛ばされながら一瞬で理解する。
見えなかった。
ニゲルの動きがこれっぽっちも。俊敏のステータスに特化した僕がニゲルの動きを目視で負えない。
さっきの攻撃を防げたのはまぐれだろうか。それとも鍛えられすぎた戦闘経験故か。
とにかく勘だけは鋭くて助かった。ニゲルが見えなくなった時点で無意識のうちに両腕を重ねていた。それが結果的に僕の命を紙一重で繋ぎ止めていた。
だとしてもまぐれはそう二度も起きない。予想は付いているがニゲルに起こった変化を知らなくてはいけない。
眼を切り替える。魔力視をしてみればニゲルの魔力は一切見えない。
これは.......身体強化か? それにしてもあまりにも異質すぎる。
ニゲルは魔力の全てを身体強化に費やして大きく魔力とMP以外のステータスを底上げしている。そうとしか考えられなかった。
「コロスッ! まずは俺自身の自らの手で四肢をもいでやるっ!」
理性がぶっ飛んでやがる。かなりまずいぞ、これは。ちんけな見た目な割にステータスの強化具合が尋常じゃない。
奥の手はあると分かっていたけど、まさかニゲルがこんな想像を外れた奥の手を隠し持っていたのは予想外だ。覚醒を使えない僕にとってステータスの差は圧倒的に不利になる。
「あがあああああああああああッッ!!」
ニゲルの手の突きが繰り出される。間一髪で躱すが、突き出しただけの気流で地面が抉れ僕の服が破ける。
連続で繰り出される蹴りや殴打に対応するが、動きが単調だ。
「ニゲル。やっぱりお前は弱いな。.......こんな風に、丸わかりなんだよッ!」
僕は気掌拳を発動して上に繰り出した。
直後に来る重たい衝撃。ニゲルの体が半回転して回り、無様に吹っ飛んだ。
「ぐ、おっ.......!? 俺の動きについてきた、だと.......ッ!」
「違う。僕はついていけない。だけどな、今のはお前から向かってきたんだよ」
接近戦はてんでダメだな。この言葉は何も間違ってはない。
魔法ばかりを使っていた人間がいきなり接近戦をしようとしても流石に無理がある。例え身体能力を大きく上げてもだ。
ニゲルの動きは早い。ただ、早いだけであって動きは単調で読みやすい。
慣れていないんだ。急激な身体能力の上昇にニゲル自身が追い付いていない。僕のように覚醒や限界突破等のスキルを多用していれば慣れてくるだろう。だが、ニゲルはこの奥の手を奥の手らしく隠して長い間使わないでいた。
だからこそ僕が向かってくる方向に気掌拳を置いただけでニゲルは当たった。
しかもニゲル自身も自分が何をされたのか分かっていなかったようだ。どうやら大雑把に目標を定めて攻撃しているだけ。その上に咄嗟に反応することさえも出来ないらしい。
「最初は焦ったけどやっぱり弱いな、ニゲル。こんな奥の手があっても、その様子だととんだ宝の持ち腐れだぜ!」
「死に晒せぇぇ!!」
早い。目視ではとてもじゃないが追い付けない。だけど動きは丸わかりだ。一直線に向かって弾丸のように飛んでくるだけだ。
空気を集める。指の間から蒸気のように風が吹き出しす。
「気掌拳!」
クロスカウンター。ニゲルの腕は僕の頬を滑り、気掌拳が顔面に入り込んだ。
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