ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-56 秘められた成長性

 

 3-56 秘められた成長性


 剣聖から教わった剣術をもってして、剣聖を止める。

 そう誓ったオウカはかつての師に刃を向け、駆け出した。

 譲り受けた愛刀を握り、振るう。ピッケルのように弾かれようが関係ない。

 振って、振って、振りまくる。

 その都度に火花が散り、刃こぼれが起こる。

 刃がギザギザになろうがお構い無しに振るう。

「耳障りだ!」

 剣聖には掠り傷ひとつすら付かない。唯一与えられたのはジャリジャリと擦れる音の不快感だけ。

 刃先が筋肉の分け目に引っかかりオウカの動きが止まった瞬間、足を掴まれ地面に叩き付けられた。

「その程度では無意味! お主の剣筋などとうに見飽きたわ!」

 剣聖は拳を振り上げる。筋肉が盛り上がり、腕全体に力を込めてオウカごと地面を粉砕した。

 もくもくと砂煙が上がる中、オウカは拳で潰される直前、手の平を犠牲にして防ぎ受け止めいてた。

 完全に指が折れていた方の手を捨てる。血が跳ねようがお構い無しに爪を立て、倒れ込んだ姿勢から頭を勢いよく起こしあげた。

「ぬあっ!!」

 ど根性の頭突き。流石の剣聖も不意を付かれたのかのかまともにくらい体をのぞける。

 火事場の馬鹿力と言うべきか。残された片手でオウカの持てる力の全てを込めた殴打が鼻っ柱をへし折る。グギリと鼻の骨が砕け、体をくねらせて剣聖は体を後ろに動かした。

「ぐっ.......!? 戦い方まで汚くなったようだな!」

 腕を伸ばし、前に飛ばされていた刀を掴む。

「言ったであろう! 拙者はぶん殴ってでも止めるとっ!」

 跳躍。跳躍からの跳躍。

 オウカはせわしなく動く。無駄だと分かっているのに刀を振るのを止めない。

 驕傲きょうごうにも口うるさく剣聖を止めると言い張り、諦めない。それが気に食わない。

 そう、剣聖にとってオウカは邪魔な小バエでしかない。手を動かせばすぐに殺せるはずだ。それがなかなか潰せない。この現状が、剣聖の苛立ちを高めていく。

「煩わしいわ!」

 殴打の連撃。先に放った二、三発は当たるも、次の殴打は刀で受け止められ、その次は避けられていく。

 何度も何度も殴るが結果は変わらない。体の至る所から血を流そうがオウカは動く。

 なにゆえにまだ動ける?

 なにゆえにここまで食らいついてくる?

 勝ち目はないのに、負け犬のように威勢をはる?

「はああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 刀が振るわれる。そして弾かれる。
 剣聖が殴る。そして避けられる。
 もう一回殴る。今度は受けとめられ、いなしてみせた。

 そこで、剣聖は違和感を感じた。

 最初こそオウカは手も足も出なかった。力比べに負け、体術、ましてや刀による攻撃も全くの無意味であった。

 だが、それはほんの前の話。今のオウカの何かが変わっている。一刻一刻と時間が過ぎる度に変化が訪れている。

 ついてくる。剣聖の動きに。この、剣聖に。

 少しずつ、少しずつだが見切り始めている。

「ぬおおおおおおおおおおおっっ!!」

 全身の重さを利用した殴打。オウカは刀でそれを受け止め、カタカタと刀身で何かを探っているかのように動かすと大きくずらして捌いてみせた。

 まただ。さっきより受け止めている時間が長くなっている。

 それだけではない。数秒後の未来を知っていたかのように、こちらの動きも読み始めている。

 剣聖の攻撃が当たらなくなってきている。避けるか、捌くか。どちらにせよオウカの反応が鋭さを増していく。

「――く」

 足の筋肉を縮めて反動をつけて伸ばす。急加速を行い懐まで肉薄する。

 振り向け様に一閃。返しにまた一閃。カウンターとして伸ばされた腕を避けて更に一閃。

 全て弾かれるが、これまでとはひとつだけ違うことがあった。

 剣聖の肌に傷が付いている。爪楊枝で引っかかられたような、ほんの小さな傷だがオウカの刀により付けられたのだった。

 傷は一瞬で再生され、剣聖にとっては痛くも痒くもない。が、オウカの剣筋は成長し、威力と素早さが増している。  

「―やく」

 傷を付けられる度に長らく感じていなかった不安とも呼べる感情が渦巻く。

 体力は無尽蔵。ニゲルから与えられた不死の力によりスタミナ切れなどない。

 だがオウカは違う。生身の人間だ。

 確かに多少は鍛えたやったこともあるがそれでもとっくに限界を迎えている。それなのに、何故かオウカの勢いは全く衰える気配がない。

 斬り掛かろうと刀を振り上げるオウカの目を見た。その瞳は、なんとしてでもやり遂げてみせるという、凄みがあった。

 やっと分かった。目の前にいるオウカは、かつて剣聖に教えを乞いていたオウカではないことに。

「もっと、もっと.......早くッ!」

 掛け声と共に素早さに磨きがかかる。

 地面に倒れるかのように体を傾かせ斬る。地面に倒れたかと思うと突如跳ね上がって肩を斬られる。身動きが取れない空中で止まったかと思うと腕を蹴りあげられて斬られる。

 急加速と急停止。不規則な動きに剣聖はついていけずに拳が空を切る。

 こんな戦闘スタイルを教えた覚えはなかった。独学で編み出したのならばとっくに使っている。つまり、オウカが戦いの中で無意識にやってのけている芸当であった。

「この死に損ないがあああああぁぁぁ!!!」

 血管が張り上げ、筋肉の膨張が起こった。強すぎる体温熱量故に白い蒸気が一気に吹き出し、視界を少しの間曇らせる。

 唸り声をあげて全力の殴打を放つ。その殴打は今までの比ではなかった。蒸気と共に放たれた拳は、以前の数倍の速さと威力が篭った必殺の一打だった。

 刀が空振り、剣聖の鉄の拳が直撃する。 

 ぐしゃり。体が曲がり、オウカは思いっ切り吹き飛ぶ。

 脇骨が折れたのか激しく空中で血を吐き、岩面に磔されて沈んでいった。

「ぜぇ.......ぜぇ.......ぜぇ.......!」

 息切れを起こしている。その理由は、体力面での疲れは全くないが、精神面での疲れであった。

「手こずらせやがって.......愚かな弟子よ.......」

 吐き捨てるように言って、腕を握りしめた。

 最初から剣聖が勝つのは当たり前であった。いかにかつての弟子であろうが容赦はしなかった。

 そもそも、元からオウカが勝てる見込みは1%もなかったのだろう。剣聖は刀を持っていなくても充分に強い。体術しかり、今の強化された身体能力では歯が立たない。

 そう、歯が立たないはずであった.......。

 ――ピシッ。

 石が割れるような音が聞こえた。

 最初、剣聖は戦いの跡地であるこの場所のどこかで物音がしただけだと思った。

 ――ビギッ! ビギビギビギッ!

 その当ては間違い。ザクロを潰したかのように剣聖の腕から血が迸る。膨張しすぎた筋肉が張り裂けると同時に、ズレる。

 血の華が咲いて剣聖の腕が落ちた。真っ二つに輪切りされたとかではない。不思議な形をした肉塊にされて。

「なん.......じゃと.......?」

 直感で理解する。オウカはすれ違い様に筋肉と筋肉の薄い隙間を沿って斬ったのだと。プロの料理人や熟練の解体師が慎重に時間をかけてやることを、オウカは戦闘中、それも動き回る標的相手にやり遂げた。

 そしてそれは、ある種の恐怖を剣聖に抱かせた。

 刀は空振っていたのではない。既に剣聖の腕を斬り捨てていた。即ち、殴打の威力は弱められていた。

 ピクリと指が動いた。指から手へ。手から前腕へ。前腕から腕全体へ。

 刀を力強く握り締め、オウカは動き出す。切っ先が欠けた刀を構えて。

 満身創痍。傷だらけの体。ボロボロの状態。

 そんなオウカに剣聖は思わず押され、その場で揺らいだ。

 なんとしてでもやり遂げようとする気迫が剣聖を圧倒する。

「止め、る、のだ.......!」

 血泥沼の中からオウカが立ち上がる。

「拙者がぁッ! お師匠様を止めなければならぬだッ!」



「ろりこんくえすと!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く