ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-55 もう迷わない

 

 3-55 もう迷わない


 二刀流で押さえ付ける。人並外れた怪力を持った剣聖を食い止めるのは精一杯だった。

 オウカの腕は青筋が浮き上がり、ガタガタと体全体が強ばって震える。

 傍から見ればオウカの部が悪いのは明らかだった。今の剣聖は言わば人の形をした巨大な象。それを小娘がたった一人で押し潰されないように耐えていること自体が奇跡としか言いようがなかった。

「小癪なぁ!!」

 咆哮をあげた剣聖の腕は更に一回り膨張する。

 まるで筋肉の塊。圧倒的な力には適わずオウカは力負けし、重たい衝撃と共に後ろへ下がった。

「.......変わったな、オウカ。ここで爺やの相手をしてウェルト殿をニゲルの元に向かわせるとは。かつてのお主だと考えられぬ」

 オウカは乱れた息を拭うが、剣聖から少し足りとも目を離さない。

 その通りだった。もし、エキューデの手を借りずに自分で決心して助けに行けば一人だけで黒の境界に向かっていただろう。

 だが今のオウカは違う。ウェルトとエキューデの心の在り方を見て、オウカの考え方は変わっていた。

 少年ウェルトからは信念を得た。例えどんなことがあろうと、対峙する相手がいくら強大であろうと、決して挫けず前へと進む信念を。自分の信念を貫き通す覚悟をオウカは教わった。

 屍霊魔術師の男エキューデからは繋がりの強さを知った。弟子が過ちを犯せば師が正す。同じように師が過ちを犯せば弟子が正す。オウカはただ納得がいかなくて逆らっているのではない。人の道を踏み外した者を恩師を正そうと戦うことを決めていた。

「そうだ、拙者は変わった」

 オウカは変わった。オウカは変わって、元のオウカには無かったものを得た。

 剣聖から教わったのは剣の扱いから始まる腕っ節だけの強さ。

 しかし少年達から教わったのは心の強さと言うべきもの。

 そして知った。腕っ節だけが強さなのではないと。

 自分の弱さを受け入れるのも強さ。誰かの為に動けるのも強さ。心の在り方もまた一つの強さ。

 元々オウカに備わったのは技と体の強さのみ。そこに少年達はオウカには無いものを、なくてはならないものを教えてくれた。

 心・技・体。

 そして一つだけ残されたいたものを獲得し、オウカは成長を遂げていた。

「お師匠様を止めると、決めたのだからッ!」

 気迫と共にオウカは地面を蹴り出す。

 その様は以前のオウカの面影を残しながら変わっていた。

 全てを兼ね備えた完璧である武人へと。

「力の差を知っておきながら歯向かうのか! 生意気な!」

 走りながら剣聖を見据える。一本を腰に納め、一本を正眼に構える。

 伸ばされた太い腕を紙一重で躱し、オウカは剣聖の懐に入って叩き斬った。

 しかし感じたのは肉を斬る独特の感覚ではない。まるで岩に斬りかかったかのような硬い感覚だった。

 火花が散り、刀が弾かれる。一閃はギャリギャリと不快な音を立てて体の表面を滑るだけ。鍛え上げられた鋼鉄の如き筋肉には歯が立たず、逆に今度は剣聖に打ち飛ばされてしまう。

 腕が痺れ、痛みが頭の芯まで突き抜ける。

 それでもオウカは刀を手放さず、受身を取って猛然と剣聖に挑む。

 続け様に刀を振るう。筋肉がさほど付いてない腕の付け根や足の膝下を狙うが、余程骨が頑丈なのかまたしても弾かれてしまう。

「甘いわ!」

 剣聖の反撃。

 凄まじい速さで出される正拳突きがオウカの腹へと放たれた。

 咄嗟に両腕を重ねて固める。直後にやってきた重たい一撃に耐えたが、あまりの痛みと衝撃で手から刀が離れ、遠くに飛ばされてしまう。

「ぐううぅ!?」

 足を踏ん張り、吹き飛ばされないように全力で太腿に力を込める。

 力の差は歴然。それでもオウカは一歩も譲らない。

 例え至近距離で剣聖と戦ってる今、もう片方の刀を抜刀する隙は残されていなくとも。

「弟子が師に勝てるとでも思ったのか!」
「勝てるとか勝てないとかではない! 拙者はただの止めきたのだ! ぶん殴ってでもな!」

 体術と体術が交差する。洗練された徒手空拳を用いて掴み合い、殴り合い、身一つ同士での攻防が繰り広げられる。派手さこそないが両者のレベルの高さが伺えた。

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はああああああああああああああ!!!」

 剣聖とオウカ。両者の拳による突きが衝突する。

 一瞬だけバランスが取れた天秤のように均衡を保つが、すぐさま剣聖の拳がオウカの拳を押し出し、吹き飛ばす。 

「ぐっ.......うっ.......」

 ごろごろとオウカは石の上を転がった。拳を握ろうとしたが上手く握れない。

 自分の手を見ると指の骨が折れているのか赤く腫れ上がってる。それでも無理矢理握り込み、不細工な拳を形作る。

「見たことか。これこそが爺やが欲していたもの。ふぉっふぉっふぉっ.......。漲る、漲るぞ! 歳老いた体とはお別れだ! 強靭な肉体! 息切れをしない強化された臓器! そして全盛期を越えたこの力! ニゲルに協力した甲斐が有る。これこそ爺やが求めていたものだ!」

 剣聖の肉体がギチギチとぎこちない音を立てた。真っ赤に染まった筋肉が脈動し、血管が鮮明に浮き出ていた。

「.......違う」

 震える拳で地面を叩き、オウカは四肢に力を込めて立ち上がった。

「違うッ! 断じて違うッ! そんな力をお師匠様が求めていたものだというのか! 力任せに暴れるだけの力など、お師匠様が語っていた強さとは全くかけ離れた紛い物だッ!」

 オウカは怒りに震えていた。

 今の剣聖は怪力を振り回す魔物同然。それは、オウカがかつて憧れていた素晴らしき剣術の使い手とはかけ離れていたからだった。

 刀というひとつの武器だけを極め、それに人生の全てを捧げた。

 子どもであった頃から、剣聖の振るう刀は強さと美しさを兼ね備え、ある種の芸術だとも感じていた。

 その剣聖がおぞましい体を手に入れて喜んでいる。刀を使わず、素手による格闘で戦いを興じている。

 ニゲルに手を貸したこと、メルロッテを連れ去ったこと。これらの行いも許せなかったが、何よりも剣聖自身が剣術を否定するのが許せなかった。

 剣の道を歩み、極意まで体得した人間がこのような戦い方をしていることがオウカは許すことができなかった。

「まだ減らず口を叩ける余裕があるようだな.......。その紛い物とやらに太刀打ちが出来ない分際で!」

 かつての師を取り戻すために。剣聖の教えが正しいものだと信じたから。

「お師匠様。今、拙者が目を覚まさせてみせる!」

 息を整え、オウカはもう片方の刀を引き抜いた。

 剣聖の剣術をもってして、剣聖を止める。


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