ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-52 突入



 3-53 突入


 僕とオウカは歩いている。

 視界は真っ黒な煙に覆われているかのようにくすんでいる。灰色の地面は水分がないのかカサカサに乾き、足を踏み出す度に固まった砂が沈む音がする。

 黒の境界。そこは、言葉で到底言い表せない異質な場所だった。

「さっきから迷いなく進んでいるが行き先は分かるのか?」

 隣を歩いているオウカが聞いてきた。

「なんとなくね」
「まて、なんとなくとはどんな意味だ? 地図作成のスキルを使っているんじゃないのか?」
「使ってないよ。なんとなくここの地形は分かるんだ。例えば.......この先は少し傾斜になっているとか、ね」

 船でエルフの大陸まで向かう時、僕は黒の境界を見て懐かしいと感じていた。それが勘だけで地形を把握している理由かもしれない。

「それにしても酷く殺風景だ」
「.......そうだな」

 足を止めれば耳が痛くなるほどの静寂だけが支配する。

 生命の息吹が全く感じられない空間。

 小動物も、虫も、草木も、僕達以外の生き物はどこにもいない。

 今まで体験のしたことがない感覚に襲われ、この場所に留まっているだけで不安になる。唯一の救いが、時折稀にくる風の音だけだった。

「オウカ、体に異常はないか?」
「今のところは問題ない。抗体は機能している」

 僕は少しだけ安堵する。

 不安だったけど、エマから貰った抗体を飲んだおかげで今の僕達に対して感染源は効力を失っているみたいだ。

 自分の勘に従ってしばらく歩いていると、眼前に黒い溝のようなものが見えてきた。

 近付くにつれて鮮明に見えてくる。それは溝というよりは深い谷底だった。

「どうやら当たりみたいだ」

 試しにその辺に転がっていた石を蹴って谷底に落としてみる。

 耳を澄ますと何も聞こえない。これはかなり深いようだ。

「うん、当たりだ。この先の奥の奥にメルロッテがいる。エマの話が本当なら一番深い場所にいるはずだから」

 ふくろを地面に置いてダガーとロープを取り出した。

 上物のダガーにロープの先を括りつけて地面に突き刺す。地面は固くないので割と簡単に刺さってくれた。残ったもう片方のロープの先を腰のベルトに括り付けたら準備完了。

「ほら、乗れよ」
「乗れ.......とは?」
「僕の背中に決まってるだろ。一人で降りられるとでも思ってるのかよ?」

 別に僕だけなら紐なしバンジーしても良かったのだがオウカはそうは行かない。ここから飛び降りれば良くて骨折、普通に落下死だ。

 谷底を覗き込んだオウカは眉を顰めて、渋々ながら僕の肩に掴まった。

「しっかり掴まっとけよ。離したらもう助けられないから」

 そうして崖につま先を差し込みながら僕は降りだした。

 元々、海の上に立ったり壁面を登ったりすることができるので、オウカを背負うハンデがあっても安全に行くことはできるだろう。

 慎重に足を降ろしていく。つま先だけではなく、崖のでっぱってる石の突起を手で掴みながら体を安定させて降りていく。

「こ、怖いな。ここから落ちたらどうなるのだ?」
「怖いなら下見るなよ。手が震えて落ちてしまうぞ」
「お前こそ急に落下とかするのではないのか?」
「大丈夫大丈夫。そんなヘマ僕がするわっ」

 ボキッ。

 数十メートル程降りた所だろうか。掴んでいた突起がぽっきりと抜け、僕は片手で宙ぶらりんになった。

「ひゃわあああああああ!」
「あ、すまん。手が滑った」
「馬鹿者! ヒヤヒヤさせおって! 寿命が三年は縮んだぞ!」

 よっぽど怖かったのか僕の首を強めに締めて耳元で叫んだ。

「そう怒るなよ。元はと言えばオウカが重いのが悪いんだから」
「待て、拙者の重量の殆どはこの鎧だ。ちゃんと絞れるところは絞っている。勘違いをするでない」

 なんだろう。とりあえずアシュレイも同じ言い訳してそうなセリフだった。

 こうして何回か同じようなアクシデントはあったものの、僕達は順調に降りていく。

「なあ、」

 体感でかなり降りてきた所でオウカが口にした。

「随分と平気な顔をしているが、お前は怖くないのか? これから戦いに行くんだぞ」

 怖い、か。そりゃ怖いに決まっている。

 それでも、僕がこうして黒の境界に来ているのもまた別の怖さがあるからだ。

「そうだけど、僕と同じでオウカも一番怖いのはメルロッテを失うことだろ? その恐怖に比べたら剣聖とニゲルと戦うことなんて屁でもない」

 前にリフィアがユリウスに連れ去られた時も僕は同じ気持ちになっていた。

 戦い、傷付くよりも失うことの方が怖い。

 その恐怖が背中を押してくれている。
 
「そう、だな。拙者も姫様を失うのが嫌だった。認められなかった。だから腹を決めてここに来た。それでも、お前と崖を降りているこの直前までお師匠様になんと声をかけようか迷っている」

 僕の肩を掴むオウカの手は小刻みに寒気だっていた。

 体を止めて、そんな震える手を僕は優しく包み込んだ。

「上手く言えないんだけどさ、オウカと剣聖は家族に近いんじゃないかな」
「家族.......?」
「血は繋がってないけど、見ているだけで孫娘と祖父みたいな関係だったよ」

 剣聖とオウカのやりとりだけ見ていたら本当にそんな感じだ。

「僕の両親はまあ.......なんていうかそんな御大層な人間じゃないし、むしろクズに近い方だから言う資格はないんだけど、もし僕が剣聖を止めるなら殺すしかない。だけどオウカと剣聖の間には僕にはない繋がり・・・がある。違う方法で止めれるはずなんだ」
「そんなこと、拙者にできるだろうか?」
「できるさ。間違ってることしてたらぶん殴ってでも止めるだろ? オウカにはそれができる」

 オウカの震えが止まった。何のきっかけで緊張は抜けたのか分からない。鼻息でふふっと笑い、今度は力強く僕の手を握り返した。

「ぶん殴ってでも止める、か。それが一番正しいのかもしれぬな」
「さあ、下に着いたぞ」

 足を一歩下に降ろせば地面があった。

 深い谷底。

 そして、暗い洞窟の入口に老いた人影が見えていた。



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