ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-49 乱入者



 3-49 乱入者


 嵐が過ぎ去った静けさのように、激しい戦闘の音は鳴り止んで場は静まりかえった。

 剣聖は壁から崩れた瓦礫に埋もれてピクリとも動かない。

 当然だった。

 強者殺しジャイアントキリングの効果が乗った気掌拳きしょうけんが直撃し、心臓や肺といった臓器を背骨と一緒に体の外へとぶちまけていたのだから。即死。そうとしか言いようがなかった。

「終わったの、ですか.......?」
「ああ」

 僕は溜め息混じりに息を撫で下ろした。

 剣聖は死んだ。まだ黒の魔物の件については一件落着とはいかないが、ひとまずは落ち着きを見せるだろう。

 こうして僕と剣聖との戦いが終わり、次のことを考えていた矢先のことだった。

「エマ、危ない!」

 僕はエマを庇うように飛び出した。飛んできたのは闇魔法で作られた槍。それらは背中、四肢、脇腹、の合計六本が突き刺さり、その場で拘束を行う。

「変態!?」
「僕は大丈夫だ。それよりこの闇魔法、あいつも来たのかよ」

 通路の奥側を暗視を使って注視する。黒闇の中からフードを纏った人影の輪郭が覗き、頬の痩せこけた一人の男が歩いてくる。

「まさか剣聖をここまで痛み付けているとはな。しかもあの状態で、だ。とんだ人間が居たものだ」

 現れたのは黒衣の男。いや、剣聖が呼んでいた名前が本当ならばニゲルだった。

 僕は顔を歪めながら考える。

 なぜ追い付いてこられた?

 怪我を負いながらも黒の境界からエルフの王城まで往復してきた僕も大概だが、ニゲルもエキューデの話からは腕を千切られて瀕死の重症を負ったと聞いている。 

 しかしどうだ。目の前に佇むニゲルはそんな怪我はどこにもなく、五体満足の状態だった。

「この有様、剣聖が警戒していたのも分かるな。見た目に似合わず危険な存在だ。.......悪いが、消えてもらおうか」

 突如十数を越える魔法陣が展開され、雨のように黒い槍が横向きに降ってくる。

 こいつ、後ろにいるエマ達まで巻き添えにするつもなのか! 

「閃光斬!」

 弾く、弾く、弾く。

 魔力干渉で刺さっていた槍を力ずくで無理矢理引き抜き、風狂黒金で撃ち落とす。

「オウカッ!」

 僕の一喝で我に返ったオウカも一緒に迎撃に回る。粗方撃ち落としたオウカはニゲルに予備の刀で斬り掛かる。

 しかし赤子をあやすか如く、エキューデがされたように闇魔法で拘束されて地面に転がされた。

 やはりあの魔法、魔力干渉を使える僕じゃないと対処のしようがない。やはりこいつは僕でしか戦いようがない。

「くそっ、厄介だ」
「そうだな。それと、後ろにも注意したらどうだ?」
「なん.......ぐあっ!?」

 鋭い痛みが背中を襲う。僕は吹き飛ぶと共に血を流し、通路に転がり倒された。

「っ.......剣聖.......!」

 後ろを振り向けば、立っていたのはなんと剣聖だった。
 
 体の三割がぐちゃぐちゃにされて消し飛ばされたのに剣聖は立っていた。それだけじゃない。かつて戦ったユリウスのように壊された肉体の再生が始まっている。

「はっはっはっ! 面白い顔をしてるいるな! そうだ! 剣聖は既に力を与えられ不死身の存在! 胴体に風穴を開けられたぐらいでは死なないのだよ! かく言う俺も、だがな」

 ニゲルが腕を突き出した。最初、僕はその意図がよく分からなかったが、両腕が両方とも生えていることに気が付いた。

 まさか千切れた腕が戻っているとは。誰が想像出来たのだろう。くっ付けたとか、そんなんじゃなくてトカゲの尻尾みたいに生えてきたんだ。

「ふぉっふぉっふぉっ.......。無様ですなぁ、ウェルト殿。爪が甘い、と言いたいところですがそれはあまりにも酷すぎましたかな? 爺やは前払いとしてとうの昔に不死身の肉体を貰っておるのです。後はそこのゴミから自然石を取り出して若かりし頃に戻るだけなのですな」 
「づっ.......」

 僕は壁に手を掛けて起き上がった。

 剣聖は反則級の強さだった。

 ただでさえ実力が高い癖に再生能力まで持ち合わせている。

 度重なる戦闘で怪我を負った僕。例え体の一部が無くなっても再生する剣聖。いかに強者殺しがあろうが、致命的な一撃を与えられようが、最初から勝ち目はなかったんだ。

 しかも今度はニゲルまでが加勢した。二対一。とてもじゃないが、どう考えても勝てる希望は見えない。

「剣聖と俺の関係がバレちまったが.......まあいい。つまりだ。不死身である我々に普人族のお前には勝ち目は、一切ない」
「気分がいいとここまで饒舌になるのですな。それはさておき、老体をそんな虐めないでくだされ。さっさと終わらせますからな」

 剣聖は刀を構え、ニゲルは手を翳し、僕の方へと向けた。

「ちっ.......」

 事態は悪くなる一方。

 ユリウスを倒せたのはウラノスが肉片をひとつ残らず消滅させたからだった。

 剣聖も、ニゲルも、そうでもしない限り倒すことは不可能だろう。そして、現状の僕は風の魔力回路を治して覚醒でも使わない限りそうすることが出来なかった。

 だとしたら、僕が出来ることは.......

「二人とも逃げろ! 表にエキューデがいる! そこまで行け!」

 エマとメルロッテ。二人を逃がすために僕は剣聖とニゲルの前に立ち塞がる。

 剣聖とニゲルの相手を僕だけでするのはキツい。そろそろ肉体も精神も限界を迎えそうだ。気を抜けば一瞬で意識が飛んで殺される。それでも、二人が出口まで走れる時間ぐらいは作れるはずだ。

「そうはさせませぬぞ」

 タン、と響く音と共に剣聖が通路を蹴った。

 ――速い。

 それは物凄い速さの突進。風狂黒金を構えて迎い撃つが、消耗した僕に全快した剣聖相手ではあまりにも分が悪すぎた。

 打ち合っただけで体が押される。剣撃を防いだだけで腕が痺れて悲鳴をあげる。打ち上げ、跳ね飛ばされ、最早相手にすらならなかった。

黒氷波こくひょうは!」

 剣聖が僕を通り抜けたのを見越して、今度は黒く冷たい質量の塊がのしかかった。

 埋もれる。エキューデが使っていた闇属性と雷属性の複合魔法、アビスライトニング。それと同じようにニゲルが使ったのは闇属性と氷属性の複合魔法だった。

 急速に体温を奪われながら氷の中に沈められ、通路の一角と一体化していく。

 氷に埋もれる僕の横を一陣の風が過ぎ去った。通り抜けたのは剣聖の姿。その先にいるのは――メルロッテだ。

「させるかよッ!」

 大声をあげ、強く念じる。

「知らなかったとは言え、僕の魔力回路なんだろ! 力を貸せえええええええええええええっっっ!」

 その思いが通じたのか、メルロッテに魔の手を伸ばされた瞬間、剣聖は何かに足を掴まれたかのように床に叩き付けられた。

「ぬ.......? ぐおっ!?」

 咄嗟に使ってみたけど.......どうやらちゃんと発動してくれたみたいだ。

 固有属性の第二の効果。それが、対象の拘束。

 危険な賭けだったけど僕は発動に成功していた。剣聖の脚が床を砕いて地面に沈み、みるみるうちに蟻地獄に囚われていく。

黒焔くろほむら!」

 間一髪でメルロッテの身を守り、魔力干渉で氷の膜を剥がしていた僕に黒い火球が直撃する。

「だっ!?」

 今度は闇属性と炎属性の複合魔法。咄嗟に両腕で防いだが、あまりの熱量と衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 滑り込むように通路を転がっていく。

 熱い。熱くて、痛い。

 皮膚が爛れる。俊敏の次に精神のステータスが高い僕でさえもかなりの痛手。当たりどころが悪ければ死んでいた。

 でも.......

 さっきの攻撃のお陰で、ニゲルが僕を剣聖とメルロッテがいる方向に飛ばしてくれいた!

「もう一回だ、剣聖っ!」

 吹き飛ばされた勢いまでもを利用して、僕は助走を付けて飛び上がった。

「気掌拳!」

 宙に舞って天井を蹴り、剣聖に向かって全力の気掌拳を放つ。

 二回目の気掌拳。剣聖の胴体には風穴が空き、血と腸に混じって骨が粉々に砕けて飛び散った。

「気掌拳ッ!」

 三回目の気掌拳。今度は顔面を狙って潰れた肉塊に作り替える。歯と頭骨が凹んで潰れ、首から千切れて吹っ飛んだ。

「いけっ! エマ! メルロッ.......!?」

 なんとか作った隙に逃そうと大声で叫んだが、最後まで台詞を言いきれずに僕は上にカチ上げられた。

 剣聖の脚が動いていた。脳と心臓を破壊されたあの状態で、だ。

「流石にやり過ぎですぞウェルト殿。不死と言っても痛いものは痛いのです」

 かなり遠くに落ちた首が喋りかける。それだけではなく、穴が開いた胴体までもが塞がっていき、コロコロと持ち主の方へと転がってきた頭が結合する。
 
「化け物が.......」

 受身をとって床に着地する。

 ここまで再生能力が高いと最早おぞましい。貪食の食人鬼が可愛く見えてくるレベルだ。

「少し残念だ。君が生まれてくるのがあと何百年か違えばこうして殺さずに済んだのにな」
「.......どうゆう意味だ?」
「悪いが、死にゆく人間に教えても無駄なだからな!」

 しゅるしゅると蜘蛛の糸のように僕の脚に闇魔法の糸が絡み付いた。

 これまで見たことがない突然の不意打ちに反応が遅れ、僕が固有属性で剣聖を拘束した時と同じように床に叩き付けた。

 何かを察した剣聖がその場から飛び退き、ニゲルが詠唱を行使する。

「闇魔法極意」

 寒気が全身を襲った。直感で分かる。ニゲルは、とんでもない魔法を使うつもりだと。

虚無きょむたるいしま

 生み出されたのはゴマ粒程度の小さな黒い点だった。

 点は周囲の空気を呑み込み、散乱した瓦礫も呑み込み、空間そのもの質量をのみこみ、中央ですり潰されて圧縮されていく。

 光さえ逃すことはない『それ』は、一度当たればひとたまりもない。声もあげる暇もなく圧縮されて、死ぬ。

 ザッ!

 直線上に放たれたニゲルの魔法から、まるで僕を庇うように、メルロッテが立ちはだかった。

「ぐ.......メルロッテ、なにして.......」

 掠れた声を出して僕は上を見上げる。

 なにやってんだよ。僕はここから逃げろって、命張って言ったじゃないか.......!

 僕ごとメルロッテを巻き添えにすることを見兼ねたニゲルが慌てて魔法を解除する。

「連れてってください」

 凛とした声でメルロッテが言葉を紡ぐ。

「もう.......見たくないんです。私のせいでウェルトさんが傷付いている姿を」

 涙を流しながら悲しそうにメルロッテは首を振って、懐から護身用と思われるナイフを取り出した。

「これ以上無関係な人に手を出すと言うなのら、私は自らの命と引き換えと共に自然石を破壊します。それが嫌なら私を連れていきなさい」
「.......いいだろう。素直でいい」

 言い淀んだニゲルがメルロッテに近付き、首から肩を絞めて掴む。

「最初から目的は自然石だけだ。普人族の餓鬼は捨て置け」
「御意」

 砕ける音が聞こえ、半分に割れた色鮮やかな石が転がる。

「待て、メルロッ――!」

 ヒュン、と耳障りのいい音を残して三人の姿は掻き消えた。





 作者の都合上、火曜日に更新が出来るかはまだ分かりませんが出来るだけ頑張ります。
 更新ペースは戻していきたいと思っています。


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