ろりこんくえすと!
3-48 強者殺し
3-48 強者殺し
剣聖に戦いを挑む前に、チラリと冒険者ギルドカードを確認する。
僕のステータスには変化があった。スキルが三つ追加され、黒い魔物やエント、ヴェノムセントピード、ヘルメスボアを倒したせいか幾らかLvがあがっている。
そのスキル達が、これだった。
―強者殺し―
自身よりLvが高い相手に与えるダメージが大きくなる。Lvが離れていればいるほど効果は上昇する。
―禍夜への抵抗―
第七代目魔王、禍夜の使う感染源に対して耐性を持つ。
―■■■?―
ERROR
最後の文字化けは僕の固有属性が影響しているのだろう。風遁術のように本来は〇魔法と表示される筈だが、どうやら解説欄に書いてある通りエラーで何も分からない。
風狂黒金を握る力が強くなる。
万全な状態でもなく、不確定要素があまりにも多い。でも、こうなった以上は戦うしかない。
それに、僕には剣聖と戦う理由がある。
「行くぞ」
「参る」
剣聖が動き、それに釣られて僕も動き出す。
剣聖は縮地術を、僕は箭疾歩を。互いに目にも止まらない素早さで通路を駆け巡り、何度も刃音を響かせる。
剣聖は僕のスピードに付いてきた。それにも驚きだが、剣聖と呼ばれているだけあって剣術の技量がとても高い。その腕前はクラウディオよりも数段上と言っていい程だ。
「閃光斬!」
「ふっ!」
腰を捻って放つ閃光斬。縦振りに放たれた剣聖の斬撃。風狂黒金と剣聖の刀は金属音を響かせ、ギリギリと刀身が小刻みに揺れる。
「やはり真に警戒すべきなのはお主でしたな。明らかに他二人とは戦闘センスが頭抜けている」
「.......なん、だって?」
他二人だって?
思い当たったのはミナトとアシュレイの顔。こいつ、まさか僕と出会うより先にミナトとアシュレイに手を掛けたのか.......?
「おや、同様しておられますな。爺やがここに来る前、ウェルト殿よりも先にアシュレイ殿とミナト殿が邪魔をしてきたのです。だから斬り捨てて置きましたぞ。それが、どうかしたのですな?」
ギッと歯を噛み締め、怒りのボルテージが上がるを感じた。
オウカへの仕打ち。メルロッテの扱いですら僕の腸は煮えくり返っていたが、仲間にまで手を出されたことで沸々とドス黒い感情が沸き起こった。
「窃盗ッ!」
風狂黒金を手放し、窃盗でオウカの持っていた刀を強奪。そのまま流れるような仕草で居合抜きを放ち、剣聖に鋭い斬撃を浴びせる。
しかし剣聖の戦闘経験がものを言う。初見殺しとも言える僕の攻撃をいとも容易く防ぎ、居合抜きを放った隙を狙ってオウカの刀を僕の手から弾き飛ばす。
「剣突」
怒りで判断を焦りすぎたせいだった。
刀の刃先が凄まじい勢いで僕の胸に捻りこまれ、串刺しにされて壁を破砕して磔にされる。
「変態!」
「ウェルトさん!」
グリグリと刀を回し、心臓を貫いた剣聖はほくそ笑んだ。
「甘い。戦闘中に怒りで我を忘れるとは情けない。先程の自信も口だけのようでしたな。.......ぬ?」
「旋風脚ッ!」
違和感に気付いたようだがもう遅い。僕は旋風脚を使い剣聖の顎を打ち飛ばす。
刀が胸から抜き取られて剣聖は天井に叩き付けられた。壁から起き上がってさらに追撃。落下の瞬間を狙って胴体を蹴り飛ばし、次は壁へと叩き付ける。
「ぐ.......!? 一体どんなカラクリを.......!」
僕の胸には刺された傷跡が.......ない。
固有属性。未だにどんな属性なのかは分からないけど、ひとつだけ分かったことがある。
それが攻撃の無効化。体の一部分を靄状の何かにして攻撃をすり抜けさせることが出来ることだ。
「今度はこっちから行くぞ!」
落とした風狂黒金を拾い上げ、ダンと床を蹴り上げ剣聖へ肉薄する。剣聖もすかさず刀を構えて迎え撃ち、高速で行われる斬り合いが始まった。
独特の少し曲がった形状を持つ『刀』と戦うことはまだ慣れていないが、長剣とほぼ同じ感覚で捌けることは出来た。
問題なのは剣聖の技量が高すぎたこと。
今は俊敏のステータスで圧倒してフォローしているだけだが、もしも剣聖と僕のスピードが同じならばあっという間に戦いは終わっていただろう。そのことに冷や汗を流してゾッとする。
「ふぉっふぉっふぉっ。さっきの言葉を取り消しますぞ。久しい強敵! いいですぞいいですぞ! ウェルト殿、お主との戦いは楽しいですな!」
剣聖の剣速が上がる。ガキン、ガキンと風狂黒金と刀が激しくぶつかり合う音が早くなり、刀の衝突による腕の疲労も合わさって僕のスピードが上回られていく。
そして対応が遅れた一瞬の隙を付かれ、僕の腕が第二関節から切り飛ばされる。
「づっ.......!」
痛い.......! だけど!
そこで隙が出来た。体と足を捻り、剣聖の顔面を思い切り蹴り飛ばす。
蹴り飛ばした後、切り飛ばされた腕は残りの片腕で掴み取る。切断面が綺麗に斬られていたのでそのまま元の位置にくっ付けれた。
「くっくっく。驚きましたぞ。腕を切っても尚、涼しい顔をしていた者はアンデッドだけでしたからな」
僕の足技を滑るようにして立ち止まった剣聖が笑って言った。
「痛てぇに決まってんだろ。でも、」 
切られた腕の指を動かして風狂黒金を握り締める。
「もう、慣れた」
腕が何回千切れたと思っている。
脚が何回無くなったと思っている。
僕が何回死にかけたと思っている。
痛みには、もうとっくのとうに慣れている。
「変態は確かに剣聖よりは何倍も何十倍も劣っているわ。技術も、戦闘経験も、ステータスの差も。だけど、決して勝てないわけじゃない」
「え.......?」
「あの目を見なさい。変態が唯一剣聖に勝っている部分があるのよ。それが成長の速度。見てなさい。この戦い、もう変態が負ける要素は、どこにもない」
再び僕は剣聖と斬りあった。右、横、左斜め。様々な角度から斬り付けられるが、斬り合えば斬り合う度に僕の動きが最適化されていく。
孤月のように曲がる一閃を紙一重で躱し、切り返しに振られる逆袈裟を躱し、真上段に振り下ろされる一刀を躱し.......
分かる。感覚で、勘で。数々の戦いで積み重ねられた経験が、剣聖を倒す最前最適解の方法を割り出していく。
「ウェルトさんのあの動き、もう既に爺やの動きを見切っている.......!?」
「そう。変態はこれまで幾度となく格上と戦い、勝利を掴み取ってきた。剣聖の敗因はたったひとつ。変態に成長する時間を与えてしまったのよ」
剣戟と風切り音が鳴り止まない中で剣聖が吠える。刀の柄がギシギシと潰れるぐらいまで強く握り締め、凄まじい剣圧が放たれる。
「面白い! 本気で行きますぞ!」
剣速が最高潮に達する。その速度はもう見えない。亜音速を越えた剣術は不可視の剣閃。僕にはもう、目視ではなく勘で避けるしかなかった。
なら、僕もそろそろ本気を出さないとな。
「限界突破!」
「なっ!」
これまで付けていた重りが外されたみたいに僕の体がブレる。筋肉と脳のリミッターが外されてギアが上がり、今までよりも数段上の速さをもって剣聖の懐まで一直線に掻い潜る。
「なんのっ!」
剣聖は腰に納めていた二本目の刀を抜刀し、二刀流になって僕の突進を迎撃する。
「悪いな、この手はまだあるんだよ。臨界超越!」
向かう先は剣聖の刀。このまま突っ込めば体が切断されるのは間違いないが勢いを緩めない。更に勢いを付けて突っ込んだ。
「超過暴走!」
全身の力が爆発したのを感じる。生物の限界と可動域を越えた動きでブレーキをかけて行き先を変更し、僕は二振りの刀の間合いを抜けて懐まで潜り込んだ。
「言っただろ、剣聖! お前をぶっ飛ばしてやるってな!」
両手の刀を捨て、素手で防御しようとするがもう遅い。
僕の拳には空気の渦が轟々と渦巻いていた。
そう、既に僕の技能は発動して放たれているんだッ!
「気掌拳ッ!」
僕の拳が剣聖の腕をへし折って防御をこじ開ける。
新しく獲得したスキル、強者殺し。その効果は凄まじいものだった。
限界突破、臨界超越、超過暴走を使っていたこともある。それでも腕を押し退けて胴体に拳が触れた瞬間、粘土細工のように肉と骨を潰して凹ませる。
殴っただけでこの尋常ではない威力。だが、気掌拳の技能はそれだけではない。
背中が破裂して肉と臓器が弾け飛んだ。
気掌拳は体内から破壊する技能。それ故に、本命であるこの攻撃は剣聖を再起不能に至らしめるものとなった。
「凄い.......!」
通路に空気が圧迫される衝撃波と快音が突き抜ける。体がくの字に曲がった剣聖はとてつもない勢いで吹き飛び、壁を壊して激突した。
作者は来週がテストのため、次回の更新は7/19の来週の金曜日か、遅くとも7/21の日曜日となります。
リアル事情で更新を1週間程停止しますが、何卒御容赦ください。
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