ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-47 遮る短刀



 3-47 遮る短刀


 剣聖、イアソンの皺だらけの手とメルロッテの若々しく綺麗な手。

 両者が手を結ぶその瞬間を狙ったかのように、黒い短刀が差し込まれた。

 短刀は豆腐に刺さったかのように通路に突き刺さる。少しズレればどちらかの指が宙に舞っていただろう。

 剣聖は緩やかに頭を上げてメルロッテの後ろに陣取る人影を睨み付ける。

「..............。ウェルト殿、一体何をしておられるのですぞ?」

 剣聖が目を細めた。

 その視線の先は、血塗れになりながらも、ここまで来た僕に向けられていた。

「何って、メルロッテを渡せるわけないだろ。狙いは分かんないけど、感染源をばらまいていた真犯人にさ」
「「!?」」
 その瞬間、僕とエマ以外の全員に衝撃が走る。

「な、何言ってるんですかウェルトさん! お爺様は私達の家臣で.......」
「いいや、違う。今の剣聖は家臣なんかじゃない。いつからかは分からないけど、剣聖は裏切っていたんだ」

 剣聖の鋭い眼光が僕を捉える。剣聖はよぼよぼの老人だが、確かに戦慄を覚えた。

 対峙しているからこそ分かる。歴戦の達人の威圧感は尋常ではなかっま。緊迫した空気から一転、僕と剣聖の間には不穏な空気が流れた。

「理由は二つだ。一つ目は剣聖、あんたには魔力が一切ないってことだ」

 剣聖と最初に出会った時、剣聖の魔力は周りの景色と同化して見えるほど空っぽだった。 

 今もそうだ。剣聖の身体の中にはこれっぽっちも魔力が入っていない。

「分かったんだよ。感染源は黒の境界に元々あったもので、魔力を吸い取って成長するものなんだって。だから感染源を安全に持ってこられるのは剣聖、あんたしかいない」

 僕は石床に挟まった風狂黒金を拾い上げて鋭い刃先を剣聖に向ける。

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ.......。やはり、やはりウェルト殿。お主が一番厄介でしたな」
「お、お爺様.......?」 

 これまでの剣聖の様子が一変し、メルロッテが不安気な表情を浮かべる。それがおかしかったのか、剣聖は腹を抱えて僕達を嘲笑う。

「どうせ遅かれ早かれの問題だったのですな。その通り。爺やはお前みたいなゴミの家臣ではないですぞ」
「.......!?」

 剣聖の態度が急変する。メルロッテのことを『姫様』ではなく『ゴミ』呼ばわりし、これまでの口調からは考えられない台詞が飛び出した。

「お師匠様、一体何のことなのですか!?」
「オウカよ、爺やのこの身体を見てくだされ。この年老いたおんぼろの老体。このまま爺やは死んでいくことに堪えられなかったのです」

 何処か遠い目で剣聖は語る。

「今から二百年前の話ですな。年老いていく自分の体に絶望していた時、爺やはニゲルと名乗るに出会った。彼は爺やにこう言ったのです。『神秘の自然石を持ってくれば永遠の若さをやろう』、と」

 神秘の自然石。それって、ハイエルフに存在進化するために必要で、メルロッテの体に埋め込まれてるやつじゃないか。

 そうか、剣聖の狙いはそれだったのか。

「爺やはずっと待っていたのです。神秘の自然石を手に入れる機会を。神秘の自然石は無理に埋め込まれた体から抜こうとすると自壊して壊れてしまう。しかし、ある条件を満たすと取り出されるのですな。それが天寿を全うすること。そして、もうひとつが自然石が完全に完成する一日を狙って取り出すこと」 
「お爺様、まさか.......ッ!」
「そうですぞ。天寿を全うして自然石を取り出す場合、自然石は力を零して小さな石になってしまう。それはまた後継者に埋め込まれて少しずつ時間を掛けて成長していく。しかし、後者の方法は違う」

 剣聖は顔を歪めて笑う。

「自然石を埋め込まれ、二十年程経つと自然石が完全に完成する一日がある。その日を狙って体から自然石を取り出せば.......」
「自壊もせずに、完全な状態の自然石が手に入るってことかよ」
「左様」

 何故、剣聖がそんなにも長い月日を待っていたのか。それが分かった。そして、もうすぐメルロッテにその日が訪れるってことも。

「だからニゲルと手を組んだのですぞ。ニゲルは爺やに永遠の命、並びに永遠の若さをやろうと約束してくれたのですな」
「あの黒衣の男とか」

 奥歯を噛み締め、僕は吐き捨てた。

 永遠の命なら心当たりがある。

 ユリウスだ。ユリウスは普人族なのに何百年も生き永られいた。それこそ僕の体乗っ取ったウラノスに倒されるまで。

 生物を不死身の存在へと変える術は僕にはエキューデのように自身をゾンビ化させることだけしか知らない。だけど方法はあるんだろう。ユリウス、そしてニゲルのようになる方法が。

「ふっ、堕ちたわね。忠義に厚い家臣が聞いて呆れるわ。今のあんたはつまらない物に目が眩んだ低俗の下衆野郎でしないわね」

 エマが剣聖をバッサリと斬り捨てる。それが気に食わなかったのか、剣聖は凄みを帯びた声で脅し付けた。

「黙れ小童。たった数年しか生きていない子供に何が分かる」

 僕は腕でエマを後ろに下がらせ、剣聖の前に出た。

「その言葉はまだ二十歳にもなっていない僕には分からない重みがある。だけど、これだけははっきりと言えるよ」

 剣聖を睨み返して僕は言った。

「あんたは正真正銘、反吐が出るほどのクソ野郎だってな」
「ふぉっふぉっふぉっ。ウェルト殿。お主を殺す前にひとつ問いたい。爺やが裏切ったと確信した理由は二つありましたな? 最後の理由を聞かせて貰いますぞ」
「ああ、そうだな。最後のひとつは」

 ニッと僕は笑って答えた。

「あんたと出会った時、気に入らないって言っていたエマの勘だ」
「これはこれは。またしても一本取られてしまいましたなぁ.......!」

 剣聖の殺気が膨れ上がる。完全に戦闘状態に入った。

「みんな、下がってろ」

 怯えた目でメルロッテが僕に頷き返す。

「オウカ。師匠の命令ですぞ。今すぐウェルト殿を殺すのです」
「..............」

 オウカは何も答えれないまま立ち尽くしていた。

 僕を殺すとか、殺さないとかの問題で迷っているんじゃない。信頼していた剣聖が裏切ったことに同様を隠し切れず、衝撃を受けて頭が真っ白になっていただけだった。

「全く。使えない弟子を持ってしまい、爺は悲しい、悲しいですぞ」
「剣聖.......!」

 こいつ、性根まで腐っていやがる。

「ウェルトさん駄目です! オウカと対等に戦っていた貴方でも、お爺様には流石に分が悪すぎます!」
「何言ってんのよ。変態はね、あんたが思っているほどやわな男じゃないわ」
「でもウェルトさんは魔力回路が壊れているんですよ!? しかもあんなボロボロの状態で戦うなんて!?」
「いいから見てなさい。変態が戦う姿をしっかりと目に焼き付けておくのよ」

 僕は三歩歩き、剣聖の間合いに入った。

「最後に問おう。ウェルト殿。何故お主は邪魔をするのですぞ? 今すぐここから引けば見逃してやらぬことはない。それに、普人族とエルフとは何の関係もない、命を賭けてまで、後ろにいるゴミを守る価値はないのですぞ?」
「.......っ!」

 僕はチラリとメルロッテの顔を見た後、一歩も引かない態度で剣聖と対峙する。

「関係あるさ」
「ウェルト、さん.......」
「お前なんかにメルロッテをはいそうですかって渡せるわけないだろ。それにさ、77年後に僕の魔力回路を治すって大切な約束してんだよ」
「ふぉっふぉっふぉっ! 若さ故の傲慢か、それともただの愚かさか。自分の実力も理解せずにこの剣聖に挑もうとするとは。いいですぞ、お望み通り八つ裂きにしてくれますぞ」

 風狂黒金を構えて、戦いの幕は切った。

「こいよ老害。望み通りぶっ飛ばしてやる」



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