ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-31 二つの進展

 

 3-31 二つの進展


「お兄ちゃん、あーん」
「あーん」
「どう? お兄ちゃん? リフィアの作ったご飯は美味しい?」
「とても美味しいよ、リフィア」
「またそのくだりか!」

 朝の日差しが優しく注ぐ部屋の一室。

 重症人である僕は、そこで膝にちょこんと乗っかったリフィアに甘やかされていた。

 甘やかされていたのだが、それを邪魔する者が一人.......。

「なんだよアシュレイ。いきなり大声で叫んで。何が気に食わなかったんだよ?」

 そう、アシュレイが机に肘を立てながらしかめっ面をしていた。

「はぁ.......。全く、全身の魔力回路が破裂して血塗れなったと聞いて、お前のことを心配していた私が馬鹿だった.......。いつもと同じ平常運転のロリコンだった」
「いや普通に心配してくれ」

 見ろよこの僕の惨状を。全身包帯ぐるぐる巻きだぞ? いまでも結構痛いんだからな?

「お兄ちゃんはもう歩けるの?」
「なんとかかな。まだ全身が痛いけど頑張れば歩けそうだし」

 僕はベッドから立ち上がると身体の調子を確認してみる。節々は痛いが、少し我慢すれば普通に動くから問題は無さそうだ。

 まずは逆立ちしてからの宙返り。そしてバク転。

 どうやら脚の筋肉も、腕の筋肉も、ちゃんと機能しているから大丈夫だ。

「よし」
「何がよし、だ。どうなってんだお前の身体は。化け物か」
「化け物とは失礼な」
「その回復力といい、魔力回路が二つあるんだってな? エマから聞いたぞ。お前は人間か?」

 おいやめろよ。途端に僕が人間であることに自信がなくなるだろ。

 そういえば、今回の怪我もかなり重症だけど、考えてみればこんなの掠り傷な気がしてくる。

 前なんか普通に手足が千切れたし、酷い時は身体の限界を越えて溶けだしたからな。

 もしかしたら僕の身体は怪我と痛みに慣れてしまっていて、魔力回路が破裂して血が噴き出そうがこうして生きているかもしれない。

 改めて考えてみるとやばいな。我ながら感覚が狂ってる。

「ウェルトさーん!」

 そんな時、半ば病室となっていた部屋の扉が僕を呼ぶ声と共に開かれて、お茶目な顔をした見慣れた厨房係りを筆頭に、数人の知り合いが続々と部屋に入り込んできた。

「おお、ナル! それに剣聖に姫様!」

 まずやってきたのはナル。ピンピンしていた僕に安心したのか、笑顔ではにかむと、手に持っていたバスケットを僕のベッドの上に置いて話しかけてきた。

「身体の具合はどうですか? あ、これ私が作ってきたご飯です。良かったら食べてくださいね」
「お、美味そう! ありがとう!」

 バスケットの中身はリンゴのパイやレモンケーキだった。

 後でレシピを教えて貰おうかな。こういった手作りの料理を見ていると、一度ナルとネメッサの街にいるアリアを会わせてみたい。きっと気が合うに違いないだろう。

「もー、あれから大変だったんですよ」

 ブドウのゼリーを僕の口に突っ込みながら、ナルはやれやれと肩を竦めて困った顔をした。

「あー、やっぱり?」
「ウェルトさんが仕事する分、他の人達に回すのが」
「そっちかよ!」
「ふふっ。冗談ですよ、冗談。でも大変だったのは本当なんですよ」

 ナルが含みを込めた視線でアシュレイを見つめて言った。

「アシュレイさんがウェルトさんの代わりに入ってくれたんですが、もう.......、ね.......?」

 プイッとアシュレイは僕から目を逸らした。

「今はエマさんとミナトさんがウェルトさんの穴埋めをしてますね。魚料理しか無理ですけど」

 あの二人なら安心できそうだ。ミナトは前に料理していた所を見ているし、エマは的確に指示を出してくれるからきっと大丈夫だろう。ミナトがエマの指示についていければ、の話だが。

「助けてくれたエルフ全員の代わりに、私からもお礼を言います。ありがとうございます、ウェルトさん。貴方のお陰で被害は最小限に留まり、死傷者も黒い魔物になった宮人を除いて誰もいません」
「爺やからも礼を言いますぞ。自種族でもない民を命懸けで守って頂き、感謝しますぞ」

 続けてメルロッテと剣聖もお礼を言ってきた。

 黒い魔物を倒したと言っても、僕としてはただの成り行きだったのだが、こうして感謝の言葉を連なれると流石に恥ずかしさが込み上げてくる。

「剣聖に関しては僕からも礼を言いいたいよ。もしも、あの言葉のヒントをくれなかったら僕は死んでいたかもしれないしね」
「はて.......爺やがウェルト殿にヒント?」
「さてと、集まったわね」

 不思議そうに首を傾げる剣聖の後ろから、再び部屋の扉が開かれた。

「あれ、エマ」
「私だけじゃないわよ。他にも全員連れてきたんだから」
 
 エマの後ろからも見知った顔が並べられた。ミナト、エキューデ。そして、仏頂面のオウカ。

 こんなに人が多いと部屋がぎゅうぎゅう詰めだ。足の踏み場がないほどに人で埋め尽くされてしまった。

「ほら童貞。扉を閉めてこの薬を使って」
「へいへい」

 ミナトが扉を閉めてエマからビーカーに入った薬品を受け取る。そしていきなり部屋に撒き散らす。

 白い煙が一瞬で部屋に広がって消えていった。蝋燭の溶けた蝋のような香りが立ち込めた。

「一体何を撒いたんだよ?」
「防音の硝薬しょうやくよ」
「へ?」
「この部屋にいるのは私と一緒にこの大陸にやってきた人間。そして、エルフの姫様とその家臣達。今この場にいる人間以外には聞かれて欲しくないからよ」
「じゃあさっきの薬を撒いたのって.......?」
「そりゃそうよ。他の人に聞かれたら不味いことを話すんですもの」

 おま、僕の病室で何やろうとしてんだよ。

 ま、まあいいか。もう突っ込んでも遅そうだし、このまま続けさせてあげよう。

「じゃあ話を始めるけど、いいわよね?」

 全員が一斉に頷いたと同時に、エマは深く息を吸って話を始めた。

「黒い魔物は、エルフの身体を食い破って産まれてくることは知ってるわよね?」
「はい。存じております。しかし、混乱を招くことを防ぐために、王城に避難してきた人にはあまり公には伝えておりません」
「ま、正しい判断ね」

 重苦しい表情でメルロッテが頷く。

「俺も今しがたちびっ.......エマから教えて貰ったんだ。あの時は驚いたぜ」
「我もだ」
「まあね。変態の仲間達には私から全員に伝えといたわよ」

 手回しが早い。

「さてと、私が今から話すことは二つ。童貞が言うにはなんだったかしら? ああ、そうね。いいニュースと悪いニュースがあるわ。どっちから聞きたい?」
「ちゃんと正しい使い方してるか? じゃあ定番の悪いニュースから」
「まず、この王城内で黒い魔物の感染源となるものをばらまいている人間がいるわ」
「「「!?」」」

 全員に緊張が一気に駆け抜けた。

 いきなり何を口走ってるんだ、このちびっ子は。

「でも誰か、とは分からない。手掛かりも一切ないし、証拠すらもない。検討もつかないわ」
「ちょっと待ってくれよ」

 ボクがエマの話を差し止める。

「でもそれならさ、どうして王城で感染源をばらまいている人間がいると分かったんだよ?」
「そんなの簡単よ。変態の話によれば血液からの感染だったそうね」
「そうだけど」
だからよ・・・・

「私は変態の血液を調べたのよ。そこから分かったことは血液感染をするということ。そして、血液感染は極僅かな時間でしか起こらないってこと」

「黒い魔物の特徴として、魔力を絶えず吸収して消費しないと生き続けていけないのよ。それは感染源にも言えるわ。感染源も同様に、魔力を吸収して消費しないと生きながらえない」

「身体の外に出て、時間が経った血液は時間が経つと感染源は自然と消滅してしまう。魔力が吸収出来ないからね」
「あ、分かったぞ! つまり新鮮な血液でしか感染は起こらないってことか」
「珍しく理解が早いわね。そういうことよ。変態が感染した時のように、直で鮮度抜群の血液をぶっかけられたりされない限り感染は起こらない。つまり、血液以外の感染方法があるってこと」

 なるほどね。なんとなく分かってきたぞ。

「それは分かるのか?」
「さあ? 全然分からないわ」
「つっかえねぇ.......」

 肝心な所がダメじゃないか。

「でもそうか。避難してきたエルフの中に既に感染していた人間がいるなら、もうとっくのとうに黒い魔物になってるもんな。だからエマの言う通り感染源の入った新鮮な血液なんて用意は出来ない」
「だから別の方法でばらまいている奴がいる、と」
「その通りよ」

 確かに証拠も手掛かりもないが、王城内に感染源をばらまいている人間がいることは確実だ。

 容疑者は王城で暮らしている人間全員。これは、探し出すのも絞り出すのも骨が折れるな。

 良くないことが立て続けに起こりすぎて、もうすぐ頭がおかしくなりそうだ。

「じゃあこの話題は済んだことだし、次にいいニュースよ。黒い魔物の感染源を止める方法が分かったわ」
「なっ.......!?」
「本当なんですか!?」
「え、おい嘘だろ? 一体どんな方法なんだよ?」
「当の本人が何言ってるのよ?」

 エマが僕を睨み付けて言った。

 なんだ? 僕が感染源を止める何かの鍵を握っているとでも言うのか? まるで心当たりがないぞ。

「.......!? まさか、僕と同じように魔力回路をぶっ壊せってか!?」
「.......ダメね、この頭の悪いロリコンは」

 エマは呆れた声で溜息を吐いた。

「変態が大量に噴き出した血液。それがいいサンプルになったわ。そこから、私は黒い魔物の感染源になる物体と、その抗体を見つけたわ。童貞の話によれば血清と言うらしいわね。しかも変態の血液にはその抗体が沢山含まれている。それだけじゃないわ。感染源は魔力を消費しないまま時間が経つと消えてしまう」
「え、じゃあ?」
「私の手元にある変態の血液。これは最強の特効薬ね」

 エマが懐から試験管に入った赤い液体を三本取り出した。

 紛れもない僕の血液だ。

 見せびらかすようにその場でチラつかせると、一本をナル、一本をミナト、一本をメルロッテに渡した。

「えっと.......これは?」
「飲みなさい」
「え?」
「飲みなさい」

 物を言わせない態度でエマがメルロッテに詰め寄る。

「あんたは一国の姫様でしょ。上に立つものが万が一倒れた時はどうすんのよ。美味しくないしロリコンが移る気もするけど、我慢して飲むのよ」
「言い方酷すぎて傷付くんですけど」

 いやハードル高すぎるでしょ。

 知り合いとは言え、他人の血液を飲めとかそう簡単にできるものじゃないだろうに。吸血鬼じゃないんだから。

 メルロッテは僕と自分の手に持たされた血清を交互に見比べると、覚悟を決めたのか一気に飲み干した。

「あの、私は.......?」
「強いていえばダークエルフとエルフの混血児だからかしら。これ飲んで抗体作った後は、次はあなたから血液をとって血清を作るわよ。ねずみ算式に抗体持ちを増やしていく母体にとって、混血児はうってつけだしね」
「ごくごく.......。うげ、鉄の味がする」
「ほら、童貞を見習って我慢して飲んで。エルフ達全員の命がかかってるのよ」
「は、はぃぃ.......」

 抵抗感もあったが、ナルも目を瞑って飲み干した。

 初めての体験だが、こうして僕の血液が他人に飲まれるのは見ていてあまり気分が良くない。しかも全員飲んだ後に嫌そうな顔してる。無理もないのは分かるけれど。

「はい私の話は終わり。解散しましょ。後日、私とそこのちびっ子で血清を作って渡しに行くから覚えておきなさい」

 エマは有無も言わせなかった。皆はその場から急に用事を思い出したかのように立ち去っていく。

 オウカに続き、ぞろぞろと退出していく。

「お兄ちゃん、お大事にね。またリフィアに看病して欲しかったらいつでも来るからね」

 リフィアが僕の耳元に近付き、ざらついた甘い吐息を吐いて囁いた。

「夜 で も い い よ ?」

 誰だ、リフィアを教育した人間は。両親か、両親だよな。ネメッサの街に帰ったら絶対に会ってやる。

「あ、そうだ。ほら変態。有難く受け取りなさい」

 いそいそと帰る用意をしていたエマが、何か忘れていたものを思い出したのかのように、僕に包み紙を渡してきた。

「なにこれ?」
「さっき童貞と作った料理の余り物よ。冷めないうちに後で食べなさい。あと、もう一度言うけど明日また血を取りに来るわ。変態は頭が悪いからちゃんと覚えておきなさいよ」

 そう言ってエマは部屋を出ていった。

 ほぅ、エマも案外いい所もあるじゃないか。これはデレてきたのかもしれないなぁ? ふっふっふっ。日々の変化が楽しみだ。

「じゃ、エマからの料理食ってリハビリするか」

 全員が出ていき、僕だけが残された部屋で僕は包み紙を開いた。

「ん? これ料理の他に何か入ってる。マッチだ」

 スプーンとフォークと一緒に、マッチが蓋を被った料理の上に置かれていた。

 もしやと思い、僕は包み紙を広げて読んでみた。

 そこにはエマの書いた字と思われる文章で目を疑いたくなることが書いてあった。

 見張りなさい、変態。犯人は変態の部屋に入った人間の中にいる。感染源をばらまいた犯人は私達以外の誰か。あの四人の中から、見つけ出すのよ。

 おいおい、冗談にも程があるだろ。

 僕はしばらく紙を何度も読み返した後、くしゃくしゃに丸めてマッチで紙を燃やした。

 ナル、剣聖、オウカ、メルロッテ。

 誰も犯人とは思えない。屈託のない明るい笑顔のナルも、僕をまだ恨んでいそうなオウカも、好々爺の剣聖も、民を大事に思っているメルロッテも。全員が犯人とは結び付かなかった。

「まぁ、エマでも間違いはあるだろ。まだちびっ子だし」

 僕は特に気にも留めずに、燃えカスを窓から投げ捨て立ち上がった。

 


 

 お知らせ

 来週の火曜日の更新はお休みします。諸事情(終わらない課題)で書く暇がありません!

 許してください! 何でもしますから!
 (何でもするとは言ってない)

 その代わりに、金曜日は(多分)更新します。のんびりとお待ちください。

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