ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-29 克服と、感覚と、

 
 3-29 克服と、感覚と、


 やばい、やばいやばいやばい!

 腕に斑模様の斑点が浮き上がり、急速に僕の魔力が吸い取られていく。

 これだと握り潰されて死ぬ前に、魔力を吸い取られて干からびたミイラになって死ぬ!

 くそっ、一体どうすればいいんだ!?

 何か、何か出来ることはないのか? 

 身体も動かせないし、このまま魔力を吸い取られて死んでいくことしか出来ないのか?

 これじゃあ、眼で僕から吸い取られて集まっていく魔力を見つめるだけしか出来ない。

 僕も、僕を今握り潰そうとしている宮人の慣れ果てみたいに、黒い魔物になってしまうのか?

「..............?」

 いや、待つんだ。僕から吸い取られた魔力の様子がなんだかおかしい。

 一言で言うと不安定だ。形が不定形で、ぐにゃぐにゃと曲がるだけで安定しない。

 ミノタウロスとなった宮人の時は、すぐさま数秒で形の形成が行われていた。しかし、僕の場合はどうだ?

 カブトムシ、オオカミ、トカゲ、カマキリ、ワシ、ゴブリン、ゴキブリ、アルマジロ。

 次々と色んな生物に変わっては、形を変えることを繰り返している。

 その光景を眺めていた瞬間、形を変えていた魔力は硝子が割れる音を立てて罅が入り、粉々に砕け散った。

「.......!?」

 魔力の吸引が終わった.......?

 いや、失敗したのか?

 ーーそうか! 

 僕の風の魔力回路はぶっ壊れているからなんだ! 

 魔力回路はエマによると毛細血管のように全身に張り巡らせれている。そのためだろう。本来なら魔力回路から魔力を吸い取る際、同時に身体を壊していくんだ。

 でも僕の風の魔力回路は壊れている。充分に魔力を吸えないまま、碌に僕の身体にダメージも与えられないまま、黒い魔物に再構築されることは失敗したと言う訳か!

 しかも、どうやらもうひとつの黒の魔力回路からも吸い取れなかったみたいだ。

 それはそうだ。前に僕が黒い魔物を倒す際、魔力弾を使った時は、よくて精々二、三発しか使えない程だったから。

 あれは消費量が大きかったんじゃない。ただ単に蓄えている魔力量が少なすぎるだけだったんだ。

 カラクリさえ分かれば飲み込みも早かった。エルフの村で見つけたあの腕の死体の一部も、魔力不足で形成が失敗に終わったものだったんだ。

「ギュイイイイ!!!」

 あ、でもちょっと待って。死ぬ。

 魔力を吸い取られてミイラになって死ぬ危険は無くなったけど、僕は今握りつぶされている。早くどうにかしないとトマトみたいに潰れて死ぬ。

 つーか、物理攻撃が効かない相手にどうすればいいんだよ! 風遁術みたいに魔力を含んだ攻撃が使えなければ倒せないじゃん!

 魔法職以外殺しにきてんだろ! もう近接職の天敵! 理不尽! 理不尽すぎる!

 剣とか拳頼りの人間は倒せないまま殺されて終わりじゃ.......

 ちょっと待てよ。それじゃあ、あいつはどうなるんだ?

 植人族の剣聖は、

 どうやって倒していたんだ?・・・・・・・・・・・・

 最初に剣聖と出会った時の会話を思い出せ。剣聖なんて言っていた? そうだ、こう言っていた。

 ――自慢の剣技を使えば、あんな雑魚共は軽く倒せますぞ。

 考えろ。どういう意味だ? 魔力を纏った斬撃で斬り裂いているのか? でも、剣聖の身体に蓄えている魔力は無いに等しかった。

 魔力の増幅でもさせる特殊な剣技を使える? いいや、違う。それもあるかもしれないけど、あんなちっぽけな魔力を増やしても無理だと思う。

 魔力の量に限って言うなれば、剣聖はほぼ僕と同じ条件。だから、僕にも黒い魔物を倒すことは可能なんだ。

 僕と、同じ?

 そうか.......。何となく分かった気がする。

 こいつを倒す、方法って奴が。

「まだ魔力は残ってるよな。なら、やれそうだ」

 魔力の吸引が終わったからか、身体に力が戻ってくる。僕はまだ辛うじて残っていた魔力の残りカスを拳に集めていく。

 本当にちょっぴりだ。今からやろうとしてることは、数粒の水滴を湖に投げ落とそうとしているようなもの。

 でも、これでも大丈夫な気がする。

 そうでもならないと、剣聖の話が合わないんだから!

 僕は拳に集めた魔力でもって、ミノタウロスの手の平の中を殴りつけた。

「ギュイイイイ!?」

 魔力同士が拮抗し、僕の拳が上にめり込む。

「予想通りだ!」

 穴掘りの技能も発動。連続で拳を叩き付け、バリバリと魔力を割砕いてく。

 剣聖がやっていたこと。それは、魔力に魔力をぶつけること。

 簡単に考えれば分かる。魔法は黒い魔物と同じで魔力の塊に過ぎない。だから、魔力同士がぶつかり合うとお互いに傷付け合ってダメージが入るんだ。

「あと少し!」

 両腕を使い、魔力を砕く。円を描くように何度も何度も小さな穴を開け、中心を蹴り飛ばした。ミノタウロスの片手の手の甲に大きな風穴が空き、そこから僕は飛び出した。

 受身を取って着地をし、そこからゆっくりと立ち上がって僕は黒のミノタウロスを見上げ、ニヤリと口元を上にあげる。

「流石にヒヤッとした。もしも、僕の魔力回路が壊れていなかったら死んでいた。不幸に助けられるなんて、なんとも皮肉な話だ」

 僕はぴょんぴょんと飛び跳ねて身体の調子を確認する。

 なんだか身体の調子がいい。魔力回路が壊れてから、あまり僕の身体は本調子ではなかった。

 でも今は、壊れる前と同じようにピンピンと動ける。もしかすると、身体に溜まっていた無駄な魔力が無くなったことで動きのぎこちなさが取れたのかもしれない。

 僕は魔力回路が壊れていた影響なのか、例え身体の中に魔力が殆どなくても動けるようになっている。それに、今までの強敵を初めて魔力の限界を越えて命まで削って戦ってきたのもある。

 慣れなのだろう。それしかなさそうだけど。

「ギュアアアアアアアア!!!」

 まだ壊されていない片腕が僕に向かって振るわれる。さっきのように、ぶわっと丸太の腕は分散して広がり、僕を掴まんと展開される。

「初見殺しは二度も通じないって、ママから習わなかったか!」

 僕は逃げもせず、避けもせず、広がった魔力の腕の中に手を突っ込んだ。

 風の魔力回路は使えないが、まだ僕には黒の魔力回路が残っている。それを使えれば理論的には可能な筈だ。

「一か八か、やってみないと分かんないよな!」

 僕は黒のミノタウロスの腕を掴んだ。

 掴んだと言っても、実態はないので霞に手を突っ込んでいるだけだと言っていい。

 そこから腕全体に張り巡らせている黒の魔力回路に意識を向ける。感覚だけがなんとか分かるレベルだが、僕に流れている微弱な魔力とそれを包んでいる膨大な魔力の波長を感じ取った。

「いくぞ、どっせい!」

 腕がもげた・・・・・

 吸い取るのではなく、千切る。綱引きの感覚で魔力の塊を掴み、思いっ切り引っ張った。

 その結果が、片腕の消失と言う損傷を与えるまでに至っていた。

「ギュアアアイイイイィィィ!?!?」

 おお、痛がってる痛がってる。魔力の塊だけの癖に、何故か痛覚だけはちゃんとあるみたいだな。

 これなら、魔力弾なんか使わなくてもダメージを与えられるし、この調子なら、倒せる!

気掌拳きしょうけんッ!」

 助走を付けて飛び上がり、僕は牛顔の顔面がある高さまで跳躍した。

 こいつら黒い魔物には魔力がなければダメージを与えられない。だけど、裏を返せば魔力がほんの少しでもあればダメージを与えられる魔物なんだ。

 魔力同士の綱引きも出来たし、その反対もできるはず。手の平を打ち砕いたように、魔力さえあれば僕でも倒せる。そうだ、ただ魔力を込めて殴るだけでいい。

「吹っ飛べ!」

 大気を巻き込んだ僕の拳が炸裂した。

 殴ると同時に魔力を押してやる。今度は引っ張るんじゃない。押してやるんだ。

 風船に針を刺したように、溜まりに溜まった膨大な魔力が爆散した。

 牛顔の造形がグチャグチャに壊れ、頭が首から離れて飛んでいく。頭を失った影響なのか、魔力の形が安定しなくなり、ミノタウロスの巨躯はブレてあやふやな形になり、崩れていく。

「ふぅ、なんとかなった」

 息を吐き出して、僕は身体が崩れていく黒のミノタウロスを見て呟いた。

 魔力に魔力をぶつける術を見つけなければ、冗談抜きで殺されるところだった。

 一件落着、とまでは言えないけど、まあ一難去ったので良しとしよう。

 とりあえずエマとメルロッテに教えないといけない。黒い魔物への対策は早急に考えないと危ない気がしてならない。

 そう考え、踵を返してこの場から離れようとした時だった。

「.......?」

 まだ残っている。黒い魔物を構築していた魔力が、まだ残っている.......?

 前に黒い魔物を倒した時はその場で霧散して消えた筈なのに、今回は再びグルグルと渦巻いて形を作っていく。

 復活するのか? でも違う。

 これは.......!?

「嘘だろ!? 今度は僕の身体の中に入り込もうとしているのか!?」

 腐肉に蝿が群がるが如く、黒色の魔力の粒子一気に広がり、僕を包む。

 振り払おうとしても、身体のあちこちから入り込むので防ぎようがない。

「あがッ.......!?」

 熱い。熱い熱い熱い。

 魔力切れは何度も起こしたことがあるからその痛みには慣れていたが、魔力を過剰に身体に取り入れるなんて経験は初めてだった。

 とにかく熱い。肌という肌が火照り、熱を帯びていく。

 魔力回路が逆流する。例えるなら、痛覚を司る神経に強力な電撃が流れていくみたいだ。

「がっ、ば.......ッ!?」 

 血を吐いた。口からも、目からも、耳からも。

 魔力回路が壊れてるせいか、上手く身体の中に入り込んでくる魔力を流せなくて、所々で行き詰まりっては破裂を起こす。

「魔力回路が、壊れたことで助かった次が、これとかないだろっ!」

 肌の一部が赤く膨らみ、そこから血液が皮膚を破って外に出る。その痛みに耐え切れず、思わず変な転び方をして地面に向かって倒れる。

 視界が自分の赤と入ってくる黒でごちゃごちゃに塗り尽くされていく中、僕は手を伸ばしてこう思った。

 ああ、なんで僕ばかりこんな目に――。



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