ろりこんくえすと!
3-27 王殺し
3-27 王殺し
「これはこれは.......中々興味深いわね。地質によるものかしら? それても残存魔力? どちらにせよ、調べがいがありそうね」
薄暗い書庫の中。目をぎょろぎょろと機敏に動かし、物凄い速さで本の紙を捲っていく幼女がいた。
足元は既に読み終わった本が散乱し、本棚は虫食いされたように所々本が抜き取られている。紛れもない、この幼女の仕業であった。
カツン、カツン。
ふと、本を捲る音とは全くの別物の音が響いた。
それは硬いもの同士が擦れる音。金属で作られた履物を履いているのか、歩く度に床と靴がぶつかって硬い音がする。
足音は大きく、普通なら気付いてしまうだろう。
しかし、幼女は本を読むことに集中し過ぎているせいか、足音に全く気が付かない。
そればかりか、ぶつぶつと本を読みながら独り言を呟いている。
「あら? 光の属性に弱い癖に相反する闇の属性ではないと提唱されているですって? 謎ね。やはり規格外共は想像の範疇を超えてしまってるわ」
バラバラと幼女は無我夢中で本を読み漁る。足音が大きくなり、自らの元へと近付いてくるのも認識できないまま。
「ふーむ、どうやら黒い魔物と何か関係がありそうね。どうやら変態に説明した私の説は間違ってるかもしれないわ。でも逆に正しいのかもしれない。もっと調べてみようかしら」
「.......?」
そして、遂に足音の主は薄く開いた扉に気が付いた。人の声と、紙が擦り切れる物音にも。
「誰だ?」
バッ、と薄く開いていた書庫の扉が勢いよく開かれた。
光が薄暗かった書庫に差し込み、本を読み漁っていた幼女の顔をよく照らす。あまりの眩しさに、いかに本を読むことに集中していた幼女と言えど、思わず手を止めて光の射す方へ顔を向ける。
「ちょっと! 部屋に入る時はノックしなさいって習わなかったの!?」
「それは拙者の台詞だ。何を勝手に禁書庫を漁っているのだ」
変なものを見る目で、オウカがそこにいた。
◆◇◆
「なぜ禁書庫に入れたのだ。あそこは厳重に扉が閉められている筈なのに」
「扉が空いていたのよ。そりゃ学者気質だから好奇心が抑えられないの。入るに決まってるでしょ」
「開き直るな」
キッパリとオウカはエマの言葉に一太刀を浴びせた。
「禁書庫は巧妙に隠された魔術で出来た鍵が掛けてあるのだが。まぁ、何かの弾みで解けてしまったのだろう。そうとしか説明付けられぬしな」
「へー、そうだったの。通りで鍵穴が無かったわけだわ。物知りね」
「左様。拙者はこう見えても長く王家に使えている身。メルロッテ姫の姫様、つまりはアリアナ姫が王家にいた時から仕えていたのだからな」
植人族の寿命はエルフ達、森人族と同じぐらいに長い。そればかりか、種族は違えど考え方は大きく似ているので森人族と植人族はかなり密接な関係を築いてきた。
その為か、かなり長い歴史の間、植人族と森人族は一緒に暮らしている。
他にも植人族は他の種族と比べて、あまりにも個体数が少ない故、身を寄せ合いに森人族と共生共存していたのも理由のひとつでもあった。
「少し気になったことがあるのだけれど、聞いてもいいかしら?」
「拙者が答えられる範囲なら応えよう」
「王家の家系図を見たのだけれどダークエルフの血が入ってるエルフはいなかったわ。あれは本当なの?」
「そうだ。王家の血筋にはダークエルフの血は流れていない。かなり前まで、と言っても普人族とは感覚が違うかもしれないが、ダークエルフは三百年前までは差別の対象だった」
エマは意外な顔をした。
悲しいかな、差別と言うものは根強く残ってしまう。しかしながら、エルフの王城では厨房で働いているナルを初め、かなりのダークエルフ達が勤めていた。お互いの仲も良好で、いい関係を持っているように感じていたからだった。
「いや、正確に言うと千年前、魔王による影響で差別は鳴りをひそめたんだ。しかし差別と言うのは根強く残ってしまう。そこからの七百年間は主で立った排除や殺し合い等は起きなかったが、多くのエルフはまだ心の中では軽蔑をしていた。拙者はそう聞いている」
「そうなのね」
「ああ。そして今のように殆ど差別がなくなり、平等の立場にダークエルフが暮らしているのはアリアナ様が姫になられたお陰なのだ。今では差別はなくなり、いがみ合いもせずに暮らしあっている。いい時代になったものだ」
しみじみと、感慨深いようにオウカは話し終えた。
「でも、それだとおかしいわね」
「どんな意味にだ?」
それに異を唱えるように、エマは質問を再開する。
「王家にはダークエルフの血が流れているエルフがいないってことがよ。聞いた話、ニゲル=ネブラという名前の奴がね」
その瞬間、さっきまでのオウカの雰囲気がガラリと変わった。肌を刺すような、凍て付く殺気が発せられる。
「.......それを何処で聞いた?」
「さぁ?」
「..............。はぁ、その様子だと、さらさら答える気はなさそうだな」
やれやれと、オウカは首を振り、視線を後ろに向ける。
「これはただの拙者の独り言だ。だから、聞き流せ。お師匠様から聞いた話だ。聞き齧った程度だが、な。エルフの王家には唯一、ただ一人だけダークエルフの血が流れているエルフがいた。そやつの名前がニゲル=ネブラ。メルロッテ姫様のお母様、アリアナ=セシルと同い年に産まれた男だ」
「王家の血が流れていると言ってもニゲルは妾の子どもだった。そればかりか、ニゲルが産まれた時代はまだダークエルフの差別がなくなっていない時代。想像にも難しくない。それ故に周りから煙たがれていた」
「この二つの理由だけでも追放されてもおかしくない。しかし、それだけではなかった。ニゲルは王家の中でも稀を見ない大罪を犯してしまっていたのだから」
「大罪.......?」
「王殺し、並びに親殺しだ。ニゲルは己の父親を殺めたのだ」
「それが、追放の理由.......」
「単に闇に葬り去っただけだ。だから王家の血筋には認められず、そればかりかニゲルの記録も何もかも抹消された」
オウカは軽く息を吐いて、エマと向き合った。
「あまりこのことは口外しないで欲しい。ここでも、お前達が暮らしていた故郷の大陸でも。歴史の汚点と言うものは、どの種族にとっても隠しておきたいものだからな」
「分かったわ。約束しましょう」
首を縦に振り、エマは納得のいった気持ちで頷いた。
話が丁度終わったそんな時、ドタドタと、慌てた様子で背の低い子どもが飛び出してきた。
「はぁ.......はぁ.......! 見つけたの!」
「どうしたのよちびっ子。そんな慌てた顔をして」
「お前も大して変わらないと拙者は思うのだが」
のんびりと平然に立っている二人に対し、リフィアはそれどころじゃないと身振り手振りでパタパタと緊急事態のジャスチャーを繰り返す。
「お兄ちゃんが.......お兄ちゃんが.......」
リフィアは荒れる呼吸を整えながら大きく息を吸い込むと、大声で叫んだ。
「倒れちゃったの!」
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