ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-26 調べ物

 
 3-26 調べ物


「ふー、疲れた。今日も朝から忙しかった」

 いつものように朝食作りが終わった朝。僕は食材のカスや汚れた調理器具を片付けながら呟いた。

「お疲れ様です、ウェルトさん。いつも来ていただいて助かります」
「あはは.......。給料が貰えることに釣られただけだし、助かってるのは僕の方だよ」

 実はメルロッテはお給金を出してくれている。日給にして約200G。仕事自体は忙しいが、それほど仕事をする時間は長くはないので割のいい仕事だとは自分でも思っている。

 支払いはエルフの国で使われている硬貨だが、エマによると普人族の暮らす大陸では希少価値が高く、相場の倍の値段で取引されるらしい。

 とにかく美味しい仕事であった。

「じゃ、また昼に来るから。よろしくね」

 片付けが終わった僕は早々と厨房から出ていこうとしたが、ナルに手を引っ張られた。

「あ、ウェルトさん」
「あれ、何かまだやることあったっけ?」
「いえ、空いた時間でいいですから、今日中に図書室にこの本を置いてきてくれませんか?」

 ナルから渡されたのは本と言うよりかは薄いノートみたいなもの。かなりひらべったく、上下に揺らすとペラペラと揺れてしまう。

「図書室なんて王城にあったんだ」
「何を言いますか! 由緒正しき歴史を誇るエルフの王城に、図書室がないなんてありえませんよ!」

 確かに言われてみれば。でも仕方ない。文学に全く興味のない僕からしてみれば、気付かないのも当たり前だったのだから。

「それでですね、実はこの本は私の書いた料理のレシピ本なんです。王城の図書室は誰にでも利用出来るので、庶民の方にも読んでもらいたいと思いまして。これで六冊目ですね」

 ページを捲って読んでみると、しっかりとイラストが付いていてエルフの文字が読めない僕でもなんとなく分かる代物だ。

 どれもこれもが実物ではない絵の料理なのだが、見ているだけでお腹が空いてしまう感覚に陥ってしまう。なんとも不思議だ。

「ちょっと読んでから置いてきていいかな?」
「勿論です! 王城の厨房に居座り続けてはや数十年。厨房の主と影で言われている私のレシピも見るがいいです! えっへん!」
「威張ってんのか自虐してるのか分からないな」
「う、うるさいですね.......。少しは格好ぐらい付けさせてくださいよ.......。とにかく、料理とかの生活本のコーナーは入ってから右側にあるので置いてきてくださいね。お願いしますよ?」

 僕は頷いて、ナルから貰ったレシピ本を片手に厨房から出た。



 ◆◇◆



 探してみれば図書室は簡単に見つかった。王城は広いが僕の足だとすぐに全ての場所を回り切ってしまうのも貢献しているけど。

 図書室の場所は一階の通路の奥。本が沢山積まれてあったのでそれが目印となっていた。

 ナルの言葉に従えば曲がって右。探せば今僕が持っているナルの本と同じような本が5冊あったので、置いてくる場所は分かった。

 本を戻し、図書室の中を見回してみる。

「こんなところで何してんだよ」

 エマだ。狂ったように本を読み漁り、周りには足元から天井に届く勢いで本の山が積まれている。

 僕はバリーケード化した本を運んでどかしながらエマに近寄った。

「何って、調べ物よ。種族の文化や考え方に始まり、面白い情報が出てくるかもしれないの。ここはその貴重な資料を閲覧できるいい場所だわ」

 エマが読んでる本を覗いてみる。

 なるほど、分からん。

 何が書いてあるのかさっぱりだ。そもそも僕は普人族の使う文字しか読めない、それも簡単なものだけなのでちんぷんかんぷんだ。

「なあ、もしかしてだけどエマはエルフ達の書いた文字を読めるのか」
「当たり前よ。二日で完璧にマスターしたわ。意外と簡単な法則だから変態も覚えられるかもね」

 まじかよ。基本的に頭の作りが僕とエマではまるで違う。

 しかもエマの年齢は僕の半分だぞ? 幼女に負けてる僕って.......。

「じゃあさじゃあさ、この文字ってエマには分かるか?」

 気を取り直して僕はエマの傍に座り、そこら辺に転がっていた紙とペンを使ってある文字を書いてみる。

 僕が書いた文字とは、今日の朝に見た夢に出てきたものだ。男の子が持っていた絵の裏に書かれた文字。

 いざ自分で書いてみると変な感じだ。子どもが無茶苦茶に書き殴った意味のない線にしか見えない。
文字として成立しているかすら分からないが、僕の夢の記憶が正しければこの通りだし。

「ニゲル=ネブラ.......? 解読するとそうなるわ。人の名前かしら?」

 可能性はほぼ二択。あの男の子名前か、母親の名前か。どちらにせよ、それだけは判明した。

「人の名前.......。知ってるか?」 
「いいえ、知らないわね。ちなみに聞くけど、何かヒントになるものはないかしら? その文字を見つけた場所とか、何んでもいいわ」
「.......。多分、人の名前だとすれば、エルフの王族である人間の名前だと思うんだ。確実に王家の血が入っている人間。特徴はダークエルフの血が混じってる浅黒い肌」

 しばしエマは考え込んだ後、深く息を吐いて口を開いた。

「分からないわね。だって、一度エルフの王家の家系図を見たけど、ダークエルフの血が混ざっている王家のエルフなんていなかったのよ」
「え? そうなのか?」
「そうよ、一度見せてあげるわ。確かにこの辺に.......あったあった。これね」

 足元に埋められた本を漁りだし、大きな本をエマは取り出した。

 中を開くと人物画付きで下に名前が書いある。偉そうな爺さんが一番初めにあるのだから、こいつがエルフの王家の初代と言った所か。書いてあるエルフ達は全員で26人。エルフは長命だから、僕には想像も出来ない歴史があるのだろう。

「このページは歴代の王を務めたエルフ達が書かれてあるわ。でもそれだけじゃない。この本はエルフの王家の血が流れている人は全員載っているのよ」

 そう言ってエマはページを捲っていく。そこには黒い肌のエルフは誰もいなかった。

「ほら、誰一人もいないでしょ?」
「本当だ。.......だとしたらなんなんだろう」

 あの夢はなんだったのか? ただの妄想が作り出した夢だと片付けてしまってもいい。だが、何か違う気がする。

 何かに僕は引っかかっている。

「あ、エマ! このエルフは知っているか? 見覚えがあるんだけど」

 元のページを開いた僕はあるエルフの絵画に指をさした。

 それは、夢の中で子どもの中心にいた女の子をそのまま大人にしたようなエルフ。メルロッテによく似た、金髪の女の子だ。

「アリアナ=セシルね。前代の姫君でメルロッテのお母さんよ。確かにメルロッテとよく似ているわね。残された面影だわ」
「そっか。メルロッテの死んだ母親だったのか」

 そうだと仮定すれば、僕は随分と昔の事柄を夢で見ていたのか?

 だめだ、考えてもダメだった。僕はどうやら頭が悪いらしい。全然分からない。

 上を仰いで僕は溜息を吐いた。気分を変えよう。あまり気にしない方がいいのかもしれない。ただの夢に何を考えているまやえかやんだ。どうせ、何の意味もない可能性が高いん。気楽に行こう。

「ねぇ、変態」 
「なんだよ」 

 気持ちを切り替えた僕に、エマが違う話を持ちかけてきた。

「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかしら?」 
「僕に頼みたいこと? エマにしては随分と珍しい」 
「あそこに大きい扉があるでしょう? どうやら中にはまだ本があるらしいのだけど、開けられないのよ」

 横目で見るとエマの後ろには頑丈な扉が立ち塞がっていた。

「なるほど、重そうで固そうな扉だ」

 僕は歩いて扉に近寄り、まずは引手の錠を掴んで引いてみる。重い。もしかしてら押すのかな? 重い。まさかとは思ったが、横でも無理なようだ。

「これ鍵かかってんじゃん。それより、この奥にある本って機密情報とか書かれてる、見られたら困る大事な本なんじゃないの?」
「いいからちゃっちゃっと開けなさいよ。怒られたら変態のせいにしておくから安心なさい」 
「何一つ安心できねぇよ! ま、解錠でも使えば開くのかな」

 盗賊術の技能、解錠を発動。ガチャりと鍵が開く音がして、扉が僅かに奥に動いた。

「ほい、開いたぞ」
「変態にしては上出来ね。.......一応、変態が王城の宝物庫とか漁らないように見張りを願いした方がいいかしら?」
「やらねぇよ!」
「前科があるじゃない」

 ぐうの音も出なかった。

「それじゃあ僕は行くよ。そろそろ昼飯作んないといけないし」

 僕は頭を掻きながら、図書室から出ていった。



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