ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-21 新生活


 3-21 新生活


 冷たく冴えた空気が肌を刺す。

 小鳥がさえずる早朝。僕は藁で編まれた掛け布団を撥ね除けて目を覚ます。

 急いで部屋を飛び出して湧き出る噴水で顔を洗い、木製の服掛けスタンドに掛けられているエプロンを手に取ると、いそいそと着替えを始める。

 料理人の朝は早い。エルフの人々は普人族よりも早く朝食を摂るのが習慣になっている。その為、僕もかなり早くから起きて昨日の晩に下ごしらえをした食材を調理しなければいけない。

「シェフ! おはようございます!」
「ウェルトシェフ! おはようございます!」
「おはよう、今日も朝から忙しいぞ」
「「はいッ!」」

 通路を小走りする途中で見習いコックと王城で働いているエルフと挨拶を交わし僕は厨房に向かう。暖簾代わりの木の房をくぐり抜けて、腕をポキポキ鳴らしながら朝食のメニュー表を確認すると、調理場の前に立って腕を振るう。

 これがいつの間にか日課になっていた。

「おはようございますウェルトさん。まだ日も経ってないのにいつも早いですね」
「ああ、おはよう、ナル。もうここの生活には慣れたからね。意外と快適に過ごせているよ」

 屈託のない目を細くして、口元がほころぶ笑顔で話しかけてきたのはダークエルフと普通のエルフの混血児ハーフであるナルだ。

 ナルは長年エルフの王家に使えてきた熟練の料理人だ。僕からしてみれば同年代にしか見えない容姿なのだが、既に数百歳は優に越えているらしい。

 そんなナルと僕は一緒に朝飯を作り始める。ナルと一緒に作業するのは楽しい。知らず知らずにこっちまでもがにっこりと微笑んでしまう朗らかさを持っているから。

「あ、ウェルトさん。今日のご予定をお伝えしておきますね」

 ナルは料理人でもあるが、王家に仕えるメイドでもある。メイド兼料理人だ。いや、ここは料理も出来るメイドと言うのが正しい気がする。

 話を戻して、実はナルがここの生活に慣れるまでの僕の教育係みたいなだったりする。だからこの通り、ナルが今日の予定を朝イチで教えてくている。

「昼食を作る当番になってるのはいつも通りですが、三時に姫様と他の貴族との会食があるので、そこでお出しするお菓子作りの担当になっています」
「なんだ、いつも通りか」

 僕の料理当番は朝と昼。夜の当番はなく、午前中は忙しいが午後は全力でゴロゴロできる。

 しかし、メルロッテが何故か僕を気に入っているのでいつも三時から数時間は付き合わされる。もう慣れたもので、これはここでの生活を始めてからずっと続いていることだ。

「いえ、その際はウェルトさんも一緒に姫様と出席して貰いますよ。姫様からのご指名です」
「うえええええ.......。まじかよ.......」

 メルロッテはまだ僕の慣れてない言葉遣いを許してくれるが、他の貴族となると上手く呂律が回らないので粗相を起こすかいつも心配で心臓に悪い。

 出来ればあまりやりたくないことだった。まぁ、それだけが理由じゃないけど。

「ところで、ウェルトさんはいつまでここに居てくれるんですか?」
「そうだなー」

 僕は初日の日を思い出しながら、一旦手を止めて言った。

「あと、77年かな」



◆◇◆



「ひと仕事終わって来てみれば、我が弟子が苦労を掛けていましたな。ウェルト殿、爺やが代わって謝るのでどうか許してくだされ」
「め、面目ないです.......」

 オウカが正座の姿勢でしょんぼりとした顔で項垂れている。あの後、突然の暴挙に出たオウカは剣聖にこっぴどく絞られていた。

 しかし心の中では反省は全くしてないようだ。今も僕を見る目付きは怖いを通り越して恐ろしい。

「オウカは早とちりさんですね。エルフの子どもを保護した上に、ここまで連れてきてくれたウェルトさん達が悪い人なんてありえないじゃないですか。私の身を心配してくれるのは嬉しいですけど、もうちょっとドンと構えていて欲しいものです」
「ぐっ、うっ.......!」

 恨みがましい目でオウカは僕を睨む。

 やめてくれ、なんで全ての元凶が僕みたいになっているんだ。非があるのはそっちだろ。

 僕はため息を吐くと、本題に切り出した。

「それでさ、僕がここに来たのはパティシエの修行もあるけど、もう一つ理由があるんだ」
「それについては私から説明するわ」 

 段取り通り・・・・・、エマがひょこっと僕の横から頭を出した。

 厨房を使ってケーキを作ってる途中、僕とエマはただ単にケーキを作っていただけじゃない。どうにかして僕の身を明かすことを必要最低限に留め、事情を伝えることを考えていたのだ。

 覚醒者なのもそうだが、僕のサブクラスが暗殺者。これがとにかくまずい。ネメッサの街で受付嬢が暗殺者の職業持ちを恐れていたことから分かる通り、暗殺者の職業に就いた人間はほぼ100%殺しを生業にして生計を立てている人間だ。

 サブクラスとはいえ、暗殺者の職業に就きながら冒険者をやってる僕が異常なだけだ。この事が知られてしまうと、確実に厄介事になるのは間違いない。

 追い討ちをかけるように、僕のメインの職業もあまりいいイメージを持たれていない盗賊だ。最悪、冒険者なのはバレてしまってもいいが、どうにか職業だけは隠さないといけなかった。

 それを踏まえて、エマが説明するわけだ。こんな幼女に頼るのも癪だが、背に腹はかえられない。

「魔力回路が壊れた.......?」

 言葉巧みにエマが僕の事情をメルロッテに説明する。聞いていて思ったのだが、こいつは話術のスキルでも持っているんじゃないか?

「なるほど。大体経緯は分かりました。ウェルトさん、私に背中を向けて服を脱いでくれませんか? そうすれば大まかな状態は分かりますので」

 説明を聞き終えたメルロッテは手招きで僕を呼び寄せる。

 背中を触れるメルロッテの手はひんやりと冷たかった。

「ふむふむ。確かにウェルトさんの魔力回路の状態は酷いですが、なんとか治療が出来ますよ」
「ほ、本当なのか!?」
「ええ。エルフは嘘を言いませんから。ちゃんと治せますよ」
「あー.......でも、」
「ふふ、魔力回路の治療は大変だと考えている顔ですね」

 考えていることが表情に出ていたようだ。困った顔をした僕にメルロッテは笑いかけると、自分の胸を叩いて太鼓判を押した。

「対価は既に貰ったので要りません。先程食べたケーキでお釣りが来るぐらいです」

 そんなのでいいのかよ!?

 思わず口から出そうになったが、価値観の違いと言うものもある。

 とにかく嬉しさが込み上げてくる。リフィアの話を信じてこの大陸に来てよかった。僕の魔力回路が治った暁には、プリンパーティでも開催しよう。

 その浅はかな考えを壊すように、メルロッテはこう言った。

「では、あと77年待ってくれませんか?」
「.......は?」



◆◇◆



「あと77年かー」
「エルフからしてみれば人生の一割程度ですけど、ウェルトさんからしてみれば一生を捧げて住み込みで働くようなものですよね」
「そうそう。それに、魔力回路治ったって、その頃僕はよぼよぼのおじいちゃんだよ。風遁術が使えるようになっても意味がないって」

 77年も待ってくれ。これには深い訳がある。

 実はまだ、メルロッテは正式なエルフの王族ではない。本当のエルフの王族に認められるようになる為には、エルフからより高位の種族であるハイエルフにならなければいけないからだ。

 で、ハイエルフになる為には三つの条件がある。

 ひとつがエルフの王族の血筋であること。メルロッテはそもそも直代の血統なので、これは満たしている。

 二つ目がエルフの王族に伝わる秘宝、『神秘の自然石』を身体に宿していること。
 『神秘の自然石』とはハイエルフへと進化するために必要な宝石であり、エルフの王族に代々受け継がれてきた代物だ。

 何故これがハイエルフになる為に必要なのかはまだ詳しくは分かっていないらしいが、考察によるとエルフにとって強大なエネルギーを与える物質だと予測されている。そして、この条件もメルロッテは既に満たしている。直代の血統なので、どうやら産まれてきた時から埋め込まれたと話してくれた。

 そして、最後の三つ目。それが年齢が百歳になっていることだ。

 僕達の世界で言う普人族の成人は十代後半なのに対して、長命のエルフ達の成人年齢はなんと百歳。初めて聞いた時は目から鱗が落ちそうになった。

 ハイエルフになる為にはそれなりに身体が成長していないと失敗する可能性が高くなるらしい。その理由で、王家の掟では百歳になってからではないといけない。つまり、今は23歳のメルロッテはあと77年待たないとハイエルフにはなれなかった。

 さらに間の悪いことに、前代の王であったメルロッテの両親は数十年前に天寿をまっとうしてしまった。これでは大人しく77も待つしかない。

 この三つ目の理由こそが、今はまだ僕の魔力回路を治せない理由に繋がっている。

 何故ならば、ハイエルフになって初めてありとあらゆる生命を癒す力が使えるからだ。この力を、エルフ達の間では『奇跡のロゴス』と呼ばれている。

 身体の欠損部位、治療法が確立されていない難病、どんなものでも自然の形に修復が出来る。完全にエリクサーと呼ばれる最高級の回復薬の上位互換だ。この『奇跡のロゴス』こそが僕の壊れた魔力回路を治療出来る方法だった。

「で、結局どうするんですか? 修行中のパティシエさん」
「ま、77年もここにいるわけはいかないんだけどね。いつになるかは分からないけど、違う方法を探しに行くよ」
「ですよね。でも、長いことここで働いて欲しいです。ウェルトさんには」

 僕はナルと会話を交わしながら朝飯を作り終わり、僕はしばしの休憩を楽しむために厨房から出ていく。

 暖簾を手で払って外へ出ると、一人の人間がわざとぶつかるように道を塞ぎ、無愛想な顔で待ちくたびれていた。

「今日もまた待ってたのかよ」
「お前を監視する事が拙者に与えられた使命だからな。怪しい動きをすれば斬る。姫様に近付いたら斬る。とりあえず顔が気に入らないので斬る。分かったか?」
「そんな使命捨てちまえ」

 出口で仁王立ちをするように待っていたのはオウカだった。



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