ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-15 救出戦


 
 3-15 救出戦


 蔦が複雑にエルフの子どもを絡めとっている。かなりキツめに縛られているようで、エルフの子どもは青ざめた顔で苦しそうに呼吸を繰り返していた。

 まさかこんなことがあるなんて。本当によくミナトは気付いてくれた。もしもミナトが気付かなかったら、エントと一緒にエルフの子どもも死んでしまうところだった。

 だが困った。この事に気が付いたことで状況は更に悪化したからだ。エルフの子どもをエントから引き離さない限り、アシュレイの炎で焼き払うのは無理だ。

 それに今回ばかりは見捨てられない。僕の魔力回路を治す手掛かりを逃さない為にも、なんとかしてエルフの子どもは助けなければいけない。

 追い打ちをかけるように、エルフの子どもはかなり衰弱しているようでその命は風前の灯。まさに一刻を争う瀬戸際だった。

 どうにかしてエルフの子どもをエントから引き離したい。しかし、あの動く蔦を操る本体に近付いたりでもしたら瞬く間に僕も絡め取られて養分となってしまうのは想像に難しくなかった。

 こうしてる間にもエルフの子どもはどんどん弱っていく。この状況に焦燥を募せる僕だったが、打開するための策が何も思い付かない.......。

 一体、どうすればいいんだ.......?

「お兄ちゃん!」
「リ、リフィア?」

 狼狽える僕に向かってリフィアの明るい声が聞こえてきた。

 僕はヘルメスボアとエントの乱戦状態だ。それなのに、無謀にもリフィアは飛びしてきて僕にしがみついた。

「お兄ちゃん、こんな時はリフィアに任せるの!」
「任せるって、どうやって!?」
「リフィアを甘く見ないで欲しいの! やればできる子なの!」

 僕はリフィアが考えていることが分からなかった。でも、リフィアの何か確信した光のある目を見ると、少し迷ったけどリフィアを信じてみることにした。

「分かった。僕は何をすればいい?」
「エキューデおじさんからゲキドクツルタケにドクウツギを分けて欲しいの!」

 ゲキドクツルタケにドクウツギ? 思い出すのに少し時間がかかったが、エキューデが船の上で調合していた薬品の余り物だ。そしてお菓子作りに使おうとしていた危険物。

「薬の調合なの! 今からあの木のお化けを枯れさせる薬を作るの!」
「了解! 頼むエキューデ!」
「む。受け取れ!」

 エキューデが毒々しい、というか毒そのものであるキノコと草を僕に投げ渡した。

 触ると明らかにやばい物体のようで、身体が勝手に本能から拒絶反応を起こす。

 これがエントを枯れさせる原材料になるとか怖い。それにしても、リフィアはポーションとかいった治療薬も作れる上に、毒物も作れるのか.......。そういえばアシュレイの千切れた腕もリフィアが副作用がある薬で元通りに治していた。そういった劇物関連は得意なのか.......っと!

「あぶねっ!」
「むぎゅ」

 エントの蔦が矢のようにリフィアに向かって放たれる。それを察した僕はリフィアを抱えて宙に飛び、身を守るように抱きしめていた。

「リフィア、抱えられたまま調合は出来そうか?」
「任せるの! 既に必要な材料は手元にあるの。リフィアはお兄ちゃんを信用するの!」
「エキューデ、しばらくレントの相手をしてくれ!」

 僕の言葉に頷いたエキューデはエントの方へと走り出した。

 現状、ヘルメスボアは何故か僕にしか見向きもしない。アシュレイはヴェノムセンティピード、エキューデはエント。そして僕がヘルメスボアと、それぞれ個々で魔物達に対応するしかなさそうだ。

 リフィアにドクウツギとゲキドクツルタケを手渡す。それらを受け取るとエプロンの中から小瓶を取り出してリフィアは調合を初めていく。

「さて、やるしかないな」

 リフィアを両腕でしっかりと固定して、風狂黒金を口に咥えて歯と歯の間に挟んだ。

 もうこうなったらやけくそだ。旋風脚と箭疾歩せんしっぽしか使えないが、なんとかして調合が終わるまでの時間を稼ぐしかない。

「あの、ウェルトさん!」
「ふがふが?(なんだよ?)」

 ノアが僕に話しかけてきた。

「あたしの世界では三刀流って言って、口に刀を咥えて戦う剣士がいるのよ!」
「ふあ?(はぁ?)」

 いや無理でしょ。そんなことしたら歯が折れるわ。そもそも僕が今風狂黒金を口に咥えたのは両腕がリフィアで塞がってしまったからで.......。

「ウェルトさんは水の上も歩けたんだからいける! 異世界パワーでやっちゃって!」
「ふがふかふちゃふな(んな無茶苦茶な)」

 異世界パワーってなんだよ。とりあえず僕は心の中で突っ込みつつ、ノアの言葉を話半分で聞き流してヘルメスボアと対峙した。

「あと数十秒で終わるの。まってて、お兄ちゃん」

 数十秒、結構早いな。今の僕から闘牛士の如くヘルメスボアを華麗にいなせる自信がある。エントの相手はエキューデに任せているし、リフィアを抱えたまま大丈夫だ。

「ブモモモモモモモモモモモ!!!」

 相変わらずのえげつない突進。巻き起こる風圧だけで木の葉がつむじ風で飛んでいき、踏みつけた地面がで蹄鉄ていてつで踏まれたかのように凹んでいる。

 ほんと、ちょっとでも掠りでもすれば体が持っていかれる威だ。

 僕は上に跳躍して飛び越える。股下をすり抜けたヘルメスボアはそのまま木に激突。急には止まれないし曲がれもしない。再び木に下敷きになった。

「調合が終わったのお兄ちゃん!」
「まじかっ!? 流石だリフィア仕事が早い! エキューデ、準備が出来た!」

 エントと戦っていたエキューデは後ろに下がって僕へと道を開ける。そこへ、リフィアの作った薬をエントの口中に放り投げた。小瓶は当たった直後に砕け散り、中の劇物を体内へと直接ぶちまけた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!?!?」

 劇物は炭酸のように弾けると一気に中へと浸透する。シュワシュワと気泡が割れる音と鼻を貫く刺激臭。劇物を飲み込んだエントは途端に苦しみだし、おぞましい断末魔をあげる。

「ふっふーん! どんなに生命力が高い植物でも一滴で枯らす除草剤。流石に魔物と言えども受ければひとたまりもないの!」

 一滴で、ってことは致死量じゃねえか!

 まあ殺すのが目的なんだからいいんだけど。

 リフィアが作った劇物、もとい除草剤は言葉通りエントを枯れさせていく。蔦は目を見張る速さで色を失っていき、新鮮で若々しかった樹皮は灰色に朽ちて落ちていく。数十秒でエントは原型を維持出来ずにボロボロと崩れていった。

「おっと!」

 蔦に絡め取られていたエルフの子どもを僕は受け止める。かなりの長い間、栄養を満足に摂っていないようでその身体は羽毛のようにとても軽かった。

 これはまずい。早く食べ物と水を与えないと。

「バラージウォール!」

 後ろから薬莢と湿っぽいものが次々に弾ける音が聞こえてきた。

 振り返ると、ヴェノムセンティピードはアシュレイのバラージウォールによって周辺の木々と一緒にズタズタに引き裂かれていた。

 ヴェノムセンティピードはキィキィと弱った鳴き声をあげた後、全身から濃い緑の血液を噴き出して地面に倒れ伏す。

 流石に脅威度Bの魔物と言えども体の半分を持っていかれれば死ぬようだ。いや、これまで戦ってきたやつらが総じておかしかっただけなのかもしれないが。ヒュージスライムキングしかり、食人鬼しかり。

 とにかく、残りはヘルメスボアただ一匹だけだ。

抜骨七支刀ばっこつしちしとう!」

 エキューデが腕をバラバラに分裂させて異形の腕を振るう。木の下敷きから出てきたヘルメスボアの体に容赦なく骨と肉で出来た凶器が突き刺さる。

「ブモモモモモモ!?」 
「ぬぅ.......!?」

 エキューデの腕は肉を裂いて奥深くまでくい込んだようだ。そのお陰で致命的なダメージとなった反面、ヘルメスボアに引き摺られるように引っ張られてしまった。足を必死で踏ん張ってるみたいだが、今にもズリズリと森の中を爆走しそうな勢いだった。

「一人じゃ少々重かろう。綱引きはな、こうやるのだ」

 横から出てきたアシュレイがエキューデの腕を掴んで上に持ち上げる。エキューデだけでは持ち上げられなかった巨躯のヘルメスボアは途端にズリズリと地面を削って振り回される。更にそれだけではない。勢いは増していき、振り回すだけには留まらず、ヘルメスボアの体が地面から離れて浮き上がり、遠心力でブンブンと円を描くように振り回される。

 なんという怪力。もしもアシュレイと腕相撲なんてした日には机と一緒に腕の骨がバキバキにへし折られているだろう。常々疑問に思っていけたけど、何処にそんな力が眠っているんだ。

「どっせい!」

 ズドン! と重いものが落ちてきた音が森中に響いた。まるで隕石が落ちたみたいに、ヘルメスボアは穴の中に埋まって動かなくなっていた。よく見てみれば泡を吐いて白目を向けている。

「腕っ、腕っ、腕がががががが.......!?」

 そして、その横でエキューデが涙目で腕を抑えて蹲っていた。



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