ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-10 お菓子作り



 3-10 お菓子作り


「さあ、始めようかしら」

 右手に泡立て器。左手にフライパン。頭にコック帽に、リフィアと同じような白く清潔なエプロンを身に付けた僕が、船の上に即席で開設した厨房の前で立っていた。

「大丈夫なのかなぁ。お菓子なんて一回も作ったことないんだけど」
「安心なさい。いくら頭が悪い変態でも私がしっかりと指示を出してあげるわ」

 消去法でお菓子を作ることになった僕。その傍らで、やけに気合い入ったエマが腕組みをしながらこと構えていた。

 エマはやけに自信満々だ。僕はそのことに気になって、後ろにいたアシュレイの肩を叩いて小声で話し掛けた。

「なあアシュレイ。エマって料理得意なのか」
「いや普通だな。だけどエマならば言葉通りに的確な指示を出せるから安心だ」
「やっぱ物知りだから料理のレシピは得意だから任せろってことか?」
「それもあるのだが.......。実は言うとな、エマは観測の魔眼と呼ばれる眼を持っているんだ」

 魔眼? エマが? あんなちびっ子が?

 魔眼持ちはこの世界では滅多にお目にかかれない極めて稀有な存在だ。持っているだけで技能やスキルといった物から一線を超えた特殊な能力を得られる魔眼。そんな魔眼持ちが近くにいた、それもエマが持っているなんて驚きだ。

 驚いた僕だけど、少しだけエマの秘密が分かった気がした。

「あー、分かったぞ。だからこんなちびっ子でも学者なんてやれているんだな」
「聞こえてるのよ!」
「あだっ!」

 このちびっ子! また僕の足を踏みやがった!

 Lvが多少上がっていても痛いものは痛い。ただでさえ僕のステータスは俊敏に全振りした後、何故か次に精神の項目に振り、あとは残りカスを適当にばら撒いただけのようなステータスだ。

 僕は踏まれた足を慰めるように優しく撫でた後、涙目でエマを睨み付けた。

 ちくしょう、筋力や耐久といったステータスが全く上がってないのが辛い。どうすればムキムキの身体になれるんだろうか。後でアシュレイにでも聞いてみようかな.......。

「なによその顔? ははーん、私の魔眼を見たいって顔なのね」

 違うんだけど。

「あまり見られるのは癪だけど、お姉ちゃんがバラしちゃったからしょうがいないわね。そんなに見たいならいいわよ。ほら、見なさい変態」

 エマが目を見開く。すると、普段の瞳から鮮やかな紅色の色彩がくっきりと浮き彫りになり、エマが魔眼の持ち主だということを実感した。

「これが観測の魔眼。気温、湿度、温度、気流の流れといった普遍的な物から、変態の体温や呼吸、興奮状態まで丸わかりなのよ」
「ごめん、何言ってるのかよく分からない」
「もう説明するのは面倒臭くなったわ。とりあえず始めるわよ」

 とりあえず始めるようだ。エマは調理器具を漁り準備をすると、厨房に立って思い悩んだ。

「そうね、まずは何から作ろうかしら」
「プリンがいいの!」

 横からリフィアが手を挙げて意見を言った。どうやらお菓子と聞いて大好きなプリンが食べたくなったようだ。

「初めてにしては少々難易度が高いけど、まあそれでいいわ」
「プリンって作り方簡単だし難易度高いのか?」
「だからあんたはいつまでたっても童貞なのよ」
「なんでそうなるんだよ!」

 横から口を挟んだミナトに暴言を吐いたエマは白い粉が入った袋を取ると僕に投げて寄越した。

「まずは変態、この砂糖を水と一緒にその手に持っているフライパンに入れて加熱しなさい。私は今からお湯を沸かしてくるわ」
「お、おう。アシュレイ、火を頼む」

 本格的にお菓子作りの開始だ。言われた通りに砂糖と水をフライパンの中に入れて火をつける。アシュレイの重砲を火の代わりにしてフライパンを熱していく。

「薄いカラメル色になるまで焼いて焦がすのよ。それと、フライパンを傾けながら混ぜなさい。決して道具かなんかで混ぜたらいけないわ」
「やっべ、本格的.......」

 カラメル色という色が分からないけど、意外と難しいぞ、これ。

「変態、フライパンを右に3cm傾けなさい。温度が少し高いわ。火の温度を4度下げるのよ」
「へ、へ?」
「いいから!」

 何cmとか何度とか訳分からねぇよ!

 エマに急かされるまま重砲からフライパンを少し遠ざけ、フライパンを少し傾ける。カラメル色はどんな色か分からないけど、熱せられた砂糖と水は焦げた茶色になっていたった。

「変態はほんっと不器用ね。まあいいわ、火を止めて今度は余熱で色と味を変化させていくわよ。私がいいと言うまでフライパンを傾けながら混ぜ続けなさい」

 これがカラメル色でいいのかな。重砲の火を一旦止めて冷ましていく。上手く言葉にできないけど、色は透明度を増して琥珀みたいな色になっていった。

「ストップ。それが一番ベストの状態よ。次はお湯を少しずつ加えて混ぜていくわ。勿体ないから撥ねないように気を付けながら混ぜていくのよ。温度が下がると固まる上に風味が落ちるから手早くね」
「なにこのちびっ子? お菓子作りの先生かよ」
「あだっ!」

 後ろから眺めていたミナトがエマに足を踏みつけられた。

「ほら、あんたは変態からカラメルを受け取る! 容器に移し替えるぐらいは出来るでしょ!」
「あ、足が.......! 覚えとけよ!」

 僕と同じように涙目になったミナトは僕からフライパンを受け取ると、兎のようにぴょんぴょんと向かうへ去っていった。

「次に卵を割ってボウルに入れるわよ。私は砂糖を計ってそこに置いておくから、全部割り終わったら砂糖を入れて均一に、全体を潰すように混ぜるのよ」
「ちょ、卵の数も砂糖の量もおかしくない?」

 卵は軽く数百個、砂糖は袋二つ丸々とエマが計った山盛りの量。流石に多すぎやしないだろうか。

「ほら、文句は言わない! 私は牛乳を沸騰させるから手短にね」

 いくらなんでも作りすぎだって。エルフはこんなに食べないよ。

 とにかく卵を割って割って割りまくる。数十個割ったら砂糖を継ぎ足し、数十個割ったら砂糖を継ぎ足し、なんとか作業を繰り返し続けること一時間弱。全ての卵を割り終わり、砂糖を混ぜたプリンの元を作った僕の腕はボロボロになっていた。

「う、腕が.......腕が.......」
「休んでる暇はないわよ。次に沸騰した牛乳を少しずつ加えていくわ。これも均一に混ぜていくわ。それと、泡立ちをしないように混ぜていくのよ」

 鬼畜すぎる。

「1秒間に混ぜる回転数を4回、ボウルを2度傾けるのよ」
「だからそんなこと言われても分からないって!」

 腕が重い。もう疲れてヘトヘトなのに、エマは追い打ちをかけるように更に仕事を増やす。

「ぜぇぜぇ.......もう無理。ギブ.......」
「最後の仕上げは濾して終わりよ。はい変態、これ持って」
「.......なにこれ?」

 エマから渡されたのは布を被せたザルを何重にも組み合わさった物。まるで用途が分からない。

「キメが細かいほどなめらかなプリンになるのよ。極上のなめらかさを追求するために十個重ねよ」

 この中に流せってことか。

 僕はパンパンになった腕に喝を入れて流し込む。しばらくすると、ほぼ液体となったプリンの元が出来上がった。

「はい終わり。童貞、あんたは氷魔法使って冷やしておきなさい」

 やっと終わったけどハードすぎる。プリン作るだけでこの労力。とてもじゃないが割に合わない気がする。

「さあ、次のお菓子作りに行くわよ」
「嘘だろ.......」

 少しは休ませてくれ。僕は思わず座り込んで大の字になって寝っ転がった。

 僕がごろんと横になって寝そべろうとしたその時、遥か後方に小さな影が見えた。

 一体なんなのだろうか? この大海原にポツンと浮かぶ島なのか、はたまた巨大な海の魔物なのか。

 手早く首に下げた双眼鏡をエプロンの胴元から取り出して僕はレンズを覗き込む。

「おいエマ。船が一隻こっちに近づいてきてる」

 小さな影は船だった。遠目からは豆粒ほど大きさしかないが、双眼鏡からはかなりの大きさの船だと伺える。

「貸してみなさい」

 エマは僕の手から双眼鏡を受け取って覗き込む。しばらくした後、とても子どもとは思えない冷ややかな悪どい微笑みを浮かべてエマは言った。

「ふーん、なるほどね。大体分かったわ。変態、準備はいいかしら?」
「へ?」
「海賊船、ぶっ潰すわよ」



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コメント

  • ノω・、) ウゥ・・・

    作者です。この度カクヨムに投稿することに決定いたしました。

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