ろりこんくえすと!
3-8 依頼受注
3-8 依頼受注
冒険者ギルドから出ると外ではエマ達全員が待っていた。エキューデは両手背中といっぱいの荷物を抱えていて、ミナトも食料やら水やらを買い込んだらしく大荷物を持っている。
どうやら僕のくすぬた燭台を売り払って、随分と買い込んできたようだ。
「変態、どんな依頼を受けたのか見せなさい」
僕はエマから依頼書を勝手にもぎ取られる。一瞬でエマは依頼書に目を通すと、不機嫌な顔で眉を顰めた。
「三日間? これしかなかったの?」
「そうだよ」
「全くもう。それなら仕方ないわね」
エマはため息を付くと歩き出した。向かう場所は港がある方角。依頼書に書かれている家までの見取り図を見ながら歩いているようだ。
ノルドの村は狭い。恐らく徒歩でも数十分もあればこの村を一周できてしまうだろう。数分もしないうちに目的の場所へと着いてしまった。
「ここね」
「確かに。受付嬢もポツンと一軒しかないって言ってたしね」
本当に漁港の中に淋しい雰囲気の家が一軒だけ建っている。屋根は所々穴が空いて、入り口に掛けられた暖簾は潮風と埃と砂で茶色く汚れているかなり年季が入っている家だった。
「いますかー」
僕は暖簾を持ち上げて、扉をガンガンと叩いた。しばらく扉を叩いてると男物の大きな足音が聞こえて扉が開かれた。
「けっ、なんだぁ? お前らは」
一言で言おう。めっちゃ感じが悪いおっさんだ。
頭が禿げてる小汚いおっさんだ。
「坊主と餓鬼が揃いも揃って俺様の家に何の用なんだ、ああん? 返答次第ではぶちのめすぞ。こら」
おっさんは僕達を一瞥すると偉そうに腕を組み、ペッと玄関に唾を吐いた。汚い。
「ほら変態、要件伝えてきなさい」
「あーもう、いつも僕ばっかり貧乏くじ引かせやがって。覚えてろよ」
腰を押すエマを尻目に、僕はおっさんと対峙する。
「僕達は依頼を受けに来たんだよ。ほら、漁の護衛依頼」
エマから依頼書をもぎ取ると目の前でこめかみをピクピクと動かしているおっさんに見せ付けた。おっさんは少し眉を顰めると、不思議そうに僕に訊いた。
「お前がか?」
「.......そうですけど」
「ガッハッハッハッハッ! 寝言は寝てから言えよこの糞餓鬼が! お前みたいなへなちょこが俺様の依頼を受けに来ただと! 片腹痛いわ!」
おっさんは馬鹿にしたよう見下して大声で笑いだした。
「どうすんのこれ?」
「しょうがないわね.......」
僕はエマに助けを求める。自分より年下の幼女に助けを乞うのは癪だがしょうがない。口から先に産まれた暴言の化身のエマに任せるしかなかった。
「貴方、一応こう見えてなんだけど、変態とお姉ちゃんはランクDの冒険者よ。ほら、ギルドカードもちゃんとあるわ。それでも信用出来ないの?」
僕とアシュレイのギルドカードを勝手に取り上げて見せるエマ。おっさんは怪訝な顔で頷くと、
「Dランクの冒険者か.......おらぁッ!」
いきなり僕に殴りかかってきた!
「危ねぇッ!? いきなり何すんだよ!」
すんでのところで拳を躱し、走る風が鼻先を掠る。
あ、危ない。僕じゃなかったら顔が真っ赤に腫れ上がってるところだぞ!
「なんだおめぇ? 俺様のパンチをなんで避けれたんだ?」
「知るかボケ! いきなり人に殴りかかんな! つか言ってるそばから殴んな!」
ジョブのように二発、三発と矢次に素早い拳が僕に降りかかる。手で腕を叩き落としたり、見切りながら避けたりしていなしていると、おっさんは感心したように呟いた。
「やるな坊主。俺様はこう見えて元は冒険者だったんだ。ランクはCだ」
「あっそ」
なんでこのおっさんは漁師やってんだよ。血の気が多いなら冒険者やってろよ。
「けっ、少しは腕が経つようだな。いいぜ、クエストを受けさせてやるよ」
おっさんは僕を跳ね除けるようにドシドシと家の中から外へ出ていくと、付いてこいと言わんばかりに船のある方へ歩いて行った。
「上から目線すぎる」
「友達がいないタイプの典型だな、あいつ」
僕の後ろでミナトとエキューデがポツリと呟いた。
僕もそう思う。
◆◇◆
群青の海面に晴れ渡る空。さざ波に混じって、横からは海鳥が鳴く声が聞こえてくる。
海だ。
一面の水の世界の上で、僕達は揺られながら航海を楽しんでいた。
初めての海の航海を楽しんでる僕だったが、不意に後ろから声を掛けられて楽しい海の度は中断された。
「おい」
「なんだよ」
船上で突っ立っていた僕におっさんが話し掛けてきた。
「お前とそこの姉ちゃんは分かる。あとの奴らはなんだ? そこの男二人は百歩譲っと良いとして、女の餓鬼三人はなんで船に乗ってんだ?」
「今更突っ込むんかい!」
「それになんだ、この鳥と猫は。非常食か?」
「ポン太とガーくんはあたし達の家族よ!」
どこからか現れたノアがポン太とガー君を抱き締めると、親の仇でもあるかのようにキッとおっさんを睨み付けた。
「ふっふーん! リフィアはお医者さんなの! お兄ちゃんが怪我した時、痛いの痛いの飛んでけー! って治す役目なの!」
いつの間にか僕の隣にリフィアがいて、えっへんとない胸を張って言った。
「餓鬼の癖に生意気だな、おい。治癒魔法でも使えんのかよ」
「メス捌きなら得意なの!」
「はぁ.......」
クルクルとメスを華麗に回すリフィアに、おっさんはやれやれと額に手を当てて項垂れた。
「おい坊主、出番だ。魔物が来たぞ」
項垂れた事で首を下げたおっさんは、海の中に何かがいるのを見つけたらしい。
水影に映るのは細長い胴体。一つだけ違うのはやけに頭が鋭い三角形だ。
水飛沫をあげて出てきたのは鋭いギザキザの牙を持つ海蛇。なるほど、これが海の魔物って訳か。陸に暮らす魔物とは一味違う。
「シーサーペントね。知ってはいたけど始めて見たわ。変態、脅威度Dの魔物が三体よ」
ひょっこりとエマが僕の横から顔を出して解説をしてくれた。
「へいへい。チャチャっとやっつけてやりますよ」
「あいつら蒲焼にしたら美味そうだな。ウツボみたいな味なんじゃね?」
「我の記憶ではシーサーペントは鶏の肉の味がする珍味と耳にしたな」
「こいつらヘビに見せかけて実はワニなのかよ」
遠くではミナトとエキューデが雑談に興じてる。お前ら緊張感無さすぎだろ。
と、そんな事考えてる場合じゃなかった。早速シーサーペントの一体が大口を開いて飛び掛り、僕を食べようと海中から飛び出してきた。
風狂黒金をおっさんにバレないように腕の中から取り出し振るい抜く。
一瞬の間に首を飛ばされたシーサーペントは、胴体を残して船に打ち上げられそのまま息絶えた。
「やるな坊主.......。シーサーペントを一瞬で仕留めるなんて。お前ほんとにDランクか?」
僕が知るかよ。あのクズに勝手にランク上げされたんだよ。
早速シーサーペントを一匹仕留めた僕だったが、その近くではやけに騒がしい声が聞こえている。
「ああっ! 焼きすぎた!」
アシュレイの足元には炭化したシーサーペントの亡骸が横たわっていた。
どうやら重砲で仕留めたらしく、火力が強すぎたのか原型と留めない程に消し炭にされている。
「黒焦げなの。焦げた部分は美味しくないし身体に悪いから食べちゃダメなの」
「くっ! 今度こそ.......!」
アシュレイは最後の一体に狙いを絞り、重砲の引き金を引く。
撃ち出されたのは火炎玉。海水もろともシーサーペントを爆炎が飲み込み、海上に火柱が燃え盛る。
「ああっ!? 折角の珍味が.......」
ミナトとエキューデの話を聞いて食べようとしてたんかい。
「なんなんだ、こいつらは.......」
一分も経たない内にシーサーペントを仕留めた僕達を見て、おっさんは空を仰いでいた。
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