ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

3-3 固有属性


 3-3 固有属性


「あんのちびっ子めぇぇ! よくも裏切りやがったな! とっちめてやる!」

 僕は頬を紅潮させながら保管庫の中に躍り出た。躍り出たのはいいが、保管庫は足の踏み場がないぐらいに訳の分からないモノで溢れ返っていた。

 じゃらじゃらと何十本もコードが付いたヘルメット。ピコピコと点滅しているへんてこな形の筒。何の用途で使うのか想像も付かないガラクタの中心で、エマはガサゴソと物を漁っていた。

「あら、やっときたのね。変態」

 僕の事に気付いたエマはさも飄々とした感じで話し掛けてきた。

「なんであの事既にバラしてんだよ!」
「何言ってるのよ? 街中に性犯罪者を解き放つ訳には行かないでしょう? ただでさえ幼い女の子が対象なんだから。変態の性欲をぶつけられもうお嫁さんにいけな.......あ、こら! 私に抱き着かないで!持ち上げて振り回さないで!」

 僕はエマに抱き着いてぶんぶんとその場で振り回した。エマもエマとて僕にだけは負けたくないと頭をポカポカと殴る。正直痛くも痒くもないが、気力と体力だけお互いに消費していった。

 そんな不毛な争いを数十分。僕達は息を切らして座り込んでいた。

 つ、疲れた。いつまで経っても手間がかかるよ、このちびっ子は.......。

「全く変態はこれだから.......。身体は大きいけど精神年齢はリフィアより幼いんじゃないかしら?」
「うっ。育ちが悪くて悪かったな」

 僕はムスッとした表情で上を仰いだ。

 だけど、僕の心は表情とは裏にそこまで悪い気はしなかった。

 だって、少しだけ、本当に少しだけだけどエマと仲良くなった気がするから。

 エマは徐々にだけど僕に心を開いてくれている。最初に会った頃なんて凄く嫌われていたし。

 だけど今はこうして二人きりで僕と一緒にいてくれている。二人きりで個室に閉じこもるなんて、あの頃のエマはしなかっただろう。

 そもそも僕と顔を会わせたくないと本気で思っていたかもしれない。

 でも今はこうして、エマは僕の為に魔力回路を調べようとしてくれている。 

 きっと、僕の考えていることは間違いじゃないと思っている。

 本人に言ったらいつもの不機嫌そうな顔で全力で否定されそうだけど。

「さてと、お目当てのブツはどこかしら? .......保管している物のリストがまるで機能してないわね。いい加減な整理整頓ね。もしかしてここかしら? あったあった。これだわ」

 エマはぐでぐでと転がりながら、棚の一番奥から平べったい板と、先端に吸盤の形をした丸く平べったい物が付いたホースを取り出してきた。

「なんだよこれ? こんなのが役立つのかよ?」
「百軒は一見にしかず、と言うじゃない。まずはそこへ座りなさい」

 僕は足元に散らばっているガラクタをどかして座り込む。エマは板を手に持つと、ヘンテコなホースを取り出して僕に向けた。

「ほら、さっさと脱ぎなさい」
「分かったって。ちょ、自分で脱げるから脱がそうと手を掛けんな!」

 僕は慌てて上着を脱ぎ捨てて腕を組んだ。なんで自分から率先して僕の服を脱がそうとしてくるんだ、このちびっ子は。

 .......あれ? エマが恥ずかしそうに僕の身体を見てる。虫でも僕の身体に付いているのかな。

 思わず自分の身体を触れてみると、傷だらけの肌に筋肉が凄いことになっていた。

 傷は男の勲章とか世間では言われてるけど、あまりにも見ていて痛ましい。自分でも少し引いてしまうぐらい僕は傷付いていた。

 これ、子どもに見せていいものじゃないな。

「じゃあ初めようかしら。変態、この魔道具は最新式よ。今現在確認されている属性を全部正確に教えてくれるのよ」

 エマはおもむろに僕に近付き、ぺたぺたと僕の身体を測定していく。吸盤が当たると金属質な冷たい触感に加えて、エマの力加減が絶妙なのかむず痒い。 

 エマは僕の身体を触りながら口をへの字に曲げて板を見つめていたが、しばらくすると口を開いて診断結果を言ってくれた。

「ねぇ変態。変態はどうして生きているの?」
「そんな哲学的な質問、頭の悪い僕が答えられる訳ないだろ。てか僕の生きている理由を否定するような質問やめろ」
「そうじゃないわ。なんで魔力回路が完全にぶっ壊れているのに変態は生きているのかって事よ」
「.......は?」

 エマは僕に板を見せつけた。そこには細長い線が雑に千切られたような物が映し出されていた。

 これが本当に僕の魔力回路なのか? そうだとしたらなんとも酷い有様だ。

「見なさい。これが変態の今の魔力回路の状態よ。見事にバッラバラに千切れているわ」
「子どもが茹でたパスタをちぎったみたいな形してんな」

 本当にそうとしか表現出来なかった。前は丸い円形状だったのだろう。だけど今は見る影もなく原型を留めていない程に壊れている。

「何呑気なこと言ってんのよ。これが今の変態の魔力回路よ」
「えぇ.......」

 こんなの完全に壊れているじゃないか。エマは少し傷が付いていだけなら大丈夫と断言していたが、これは『少し』じゃない。『完全に』だ。

 僕は本当に生きているのかと自分でも疑ってしまう。怖くなって胸に手を当てたらちゃんと心臓が動いていたから大丈夫そうだけど.......。

「どうしてまだ生きていられるのが理解出来ないわね。一体どういうことかしら?」

 エマは再び板を弄り回していく。板の画面を指で下に下げていた時、いきなりエマは驚いた表情で僕に掴み掛かってきた。

「え? 何よこれ!? 変態の身体は一体どうなっているのよ!?」
「そんな血相抱えてどうしたんだよ?」
「何言ってるのよ! これを見なさい!」

 バラバラになった僕の魔力回路の奥に、黒い円形状の塊が蠢いていた。

「この黒いの?」
「ええ。変態には魔力回路が二つあるわ」
「魔力回路が二つ?」

 僕の言葉にエマは頷いて考察を始めた。

「なるほどね。だから変態はまだ生きていられるのね。属性測定器が何故黒くなっている理由が分かったわ。それにしてもなんで魔力回路が二つも.......。いいこと? 魔力回路が二つある生物は存在しないわ。いたとしても変態が初めてじゃないのかしら? 例え複数の属性を扱う魔道士でも属性は変換できるから生物学的に魔力回路は一つあれば充分だわ。それなのに.......」

 ちょっと長くなりそうだ。この辺は僕が聞いていても理解出来ないだろう。僕は真っ先に気になった事をエマに質問してみた。

「えーと。少しその話は置いといて。この緑色のが風の魔力回路だとして、この黒い魔力回路は何の属性なんだ? 闇とか?」

 僕は自分の奥に眠っていた魔力回路に指をさしてエマに尋ねる。

 風の属性は気付いてた時から僕は知っていた。元々、最初に僕が使えた技能は歪風だけだったからだ。

 誰でも産まれた時から自分に宿る属性は不思議と自覚できる。これはこの世界では常識だ。

 でも、黒い魔力回路だけは本当に心当たりがない。あったとすれば、僕はとっくのとうに風以外の属性を持つ技能を使えているからだ。

「ちょっと待ちなさい。今調べるから」

 エマが僕に頷くと板を弄っていく。

 この機材は最新式とエマは言っていた。この黒い魔力回路は、一体何の属性の魔力回路なのだろう?

 エマが板を使って調べてみること数分。出した答えは「分からない」だった。

「分からないってどうゆう意味だよ?」
「そのまんまの意味よ。変態の魔力回路はこれまで見たことがない属性、つまり固有属性かしら」

 なんだよ固有属性って。

「あー! もう頭がこんがらがる! 次から次へと訳分からん単語が出てくるのやだー!」
「なにどさくさに紛れて私に抱き着いてるのよ! いいから落ち着きなさい!」

 なんでだろう。リフィアもそうだけどエマからもいい匂いがする。抱き締めていると安心できるというか、リラックスできるというか、なんとも不思議な香りだった。

「固有属性ってのはね、簡単に説明すると極めてレアな属性ってことよ。自分だけが持っていて、他の誰にも使えない属性。それが固有属性よ」
「わ、分かりやすい。それを僕が持っていたってことなのか?」 
「その通りね」

 説明を終えたエマは呆れた声で呟いた。

「はぁ.......変態は本当に人間なのかしら。まるで新種の魔物を調べている気分だわ」
「僕はちゃんとした人間だよ! .......多分」

 少し口調を強めて言った僕だったが、自分でも否定できないので後半は勢いが萎れてしまった。




 ※ウェルトが表現した『先端に吸盤の形をした丸く平べったい物が付いたホース』とは、私達の世界のお医者さんが使う道具のひとつ、聴診器と似ています。心臓の音を聴くあれです。腐っても現地主人公なので表現が中々難しいのです。


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