ろりこんくえすと!
第3章プロローグ 新たな旅立ち
第3章プロローグ 新たな旅立ち
鼻をくすぐる潮の香り。白く波経つ小波。吹き抜ける潮風。
海だ。晴れ渡る快晴。一面に広がる蒼海。
話には聞いていたが、田舎者の僕には川や湖よりも広い水の世界には新鮮さを覚える。
 
おまけに湖に住んでいる魚よりも一際大きい魚なんかもいたり、水も塩辛いときた。閉鎖された寒村で暮らしていた僕には驚きの連続だった。
海と聞いて連想することはミナト曰く、魚を釣ったり、泳いだり、スイカを割ったり、海の家で焼きそばを食べたり、綺麗なちゃんねーをナンパしたりするらしい。
しかし僕が今船の上でやってることは、その全てとあまりにもかけ離れていた。
「ねえ、変態。まだ温度が少し高いわよ? もう少し低く出来ないのかしら?」
「こ、こうか?」
「今度は低すぎね。0.03度も低いわ。炎の温度くらい完璧に調整なさい」
ペチンとエマに頭を叩かれる。結構気持ちいい.......と感じるのはスキル『ロリコン』のせいなのだろう。
僕の握るフライパンの上で黄色い生地がふっくらと膨れ、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
ほっとけーき、と言うものらしい。なんでもミナトの故郷にあったものとか。
エマは僕の横でフォークを取り出すとほっとけーきを少し切り分けて口に入れる。
「ぺっ。鳥の餌ね。丁度そこにいる水上水鶏のお昼ご飯にぴったりだわ」
「いや厳しすぎだろ!」
僕に対するエマの横暴な態度にミナトが突っ込みを入れた。手にはホクホクと美味しそうな煙が出ている食べかけのマフィンを握っている。
「はぁ? まだ皮被りの童貞は口を出さないでくれるかしら? こんかみすぼらしいお菓子でエルフをホイホイと釣り上げることは出来ないわよ」
「童貞ちゃうし! いや童貞だけどさ! それよりも何が駄目なんだよ。めちゃくちゃ美味いだろ。ウェルトの作ったお菓子はさ」
そう言ってミナトは素手でほっとけーきを掴み口の中に放り込む。そして「うめぇぇぇぇ!」と大声で叫ぶ。
僕がお菓子作りを初めてからかれこれ三時間。ミナトは最初から僕が作るケーキやらプリンを「なんだこれ!? 銀座に店を構える超一流パティシエが作ったモノかよ!」等よく分からない絶賛していたが、エマだけは納得の出来る物ではないようだった。
「ふん、甘いわ、甘ずきるわ。貴方の考えはそこでリフィアが食べているカラメルとホイップたっぷりのプリンより甘々よ」
「プリン♪ プリン♪」
「いいこと、エルフは他種族に対して警戒心が強いのよ。変態が作っているレベルだと夢のまた夢。こんなんじゃロリエルフの一匹も網に掛からないわ。変態、早く限界を越えなさい!」
エマに背中を押されて僕はメレンゲを掻き立てる。今頃気付き始めたが、どうやら僕は結婚すると尻に引かれるタイプのようだ。
.......将来がちょっぴり不安だ。
メレンゲをいそいそと掻き回している僕に向かって、船の上で食っちゃ寝しているだけの四人組がやってきた。
「ウェルト、かぼちゃパイとにんじんパイのおかわりを頼む」
「小僧、この肉を使ってついでにミートパイも作ってくれ」
「お兄さん、あたしクッキー食べたい!」
「お兄ちゃんプリンおかわり!」
これはちょっぴり、なんてもんじゃないな。とても不安だ。僕はアシュレイ達を見て頭を掻いて苦笑いを浮かべる。
「はぁ.......まあ僕自身の為でもあるから仕方ないんだけどさぁ.......」
なんで僕が必死にお菓子作りをしているのか。
それは数日前までに遡る。
 
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