ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-73 世界の狭間で


 2-73  世界の狭間で


 僕は何も無い真っ白な空間にポツンと倒れていた。真っ白な空がどこまでも広がっていて、酷く殺風景な場所だ。

 僕はこの場所を知っている。なんせ一度来たことがあるからだ。この世とあの世。世界の狭間だ。

「会いたかったよ、ウェルト」
「ウラノス.......」

 立ち上がると白い髪を靡かせた少女が微笑みながら立っていた。

 ウラノス。僕と僕の身体の駆け引きをしようとした旧神。それがまた、僕の前に現れた。

「またこんなにボロボロになって。君は僕の適合者なんだから。もっと自分の身体を大事にしてくれないと」
「ウラノス、お前と構ってる暇はないんだ! 早く元の世界に戻せよ!」
「無理だよ」

 ウラノスは素っ気なく言い放つ。

「そうだよな.......。僕を戻す気なんてさらさら無いよな。それなら、僕はお前を倒してでも元の世界に戻るぞ」

 僕は鋭い眼差しでウラノスを睨み付ける。

 こいつの狙いは僕の身体だ。わざわざ戻してやる理由なんて何もない。

「違う違う。ボクがここから戻そうとしたって無理なんだよ」 

 ウラノスは首をすくめ、お手上げたように両手を振った。

「だってウェルト、君は死んだんだよ」

 .......!?

 死んだ.......? 僕が.......?

「何驚いてるのさ。心臓貫かれたら誰だって死ぬに決まってるじゃん。即死だよそ、く、し。ウェルト、君は死んだんだよ」
「何言って.......!」
「胸、見てみなよ」

 おそるおそる胸元を触ってみるとぽっかりと穴が空いていた。そこから血が絶えず流れている。ドクドクと血流が波打って流れていき、気付けば僕の足元には赤い水溜まりが出来ていた。

 これはユリウスに受けた傷。村雨が僕の心臓を貫いた証拠。

「うぐっ.......!?」

 急に息が苦しくなった。あの世とこの世の狭間で死んだ事実を認識したせいなのか、立っているだけで精一杯になり、血が溢れる胸を抑えながら倒れ込んだ。

 その時になってようやく分かった。僕の立っている足元は、まるで沼のように柔らかくなっていてズブズブと僕を飲み込んでいることに。

 自分の血の色で分かりにくくなっているが確かに僕を引き摺り込もうとしている。あの時と同じだ。僕が『覚醒』のスキルに目覚めたあの時と。

 このまま沈んでいけば暗闇の中に落ちて死ぬ。死が僕を待っている。

「ウェルト、まだ間に合うよ」

 ウラノスが近寄り、沈んでいく僕に向かって助け出すように手を差し出した。

「今すぐにボクに身体を渡せば君は死ななくと済むんだ。さあ、」

 諭すように手を向けるウラノス。僕はその手を、

 撥ね除けた。

 ウラノスはしばらく無言で僕を睨むと、素早い動きで僕の首を掴み、引き摺り出す。

 そのまま流れるような仕草で口付け。

 唇に柔らかい物が押し当てられ、それがウラノスの唇だと認識する暇もなく、無理矢理僕の口の中に舌が押し込まれる。ほんのりと暖かい舌先が侵入し、滑らかに、優しく舌を舌で掴まれると味わうように淫らな音を立てて掻き回す。

 乱暴に僕はウラノスを突き飛ばす。朝露のように垂れた唾液を拭ってウラノスは笑って言った。

「どうして拒絶をするんだい? どうせ君はこのまま朽ちていくだけ。それならさ、せめてボクに渡してくれたっていいのに」

 悲しい表情でウラノスは僕を見つめて言った。

 やはりウラノスは倒さないといけない。ここから出る為にも、僕の身体を守る為にも。

 僕はウラノスに殴り掛かろうと足を踏み出して駆け出そうとした。

 しかし、動けない。

 足が嵌って動けないんじゃない。

 身体が痺れて動けないんだ。さっきの口付けで何かをされたのか。それとも別の要因か。とにかく僕の身体は麻痺毒に侵されたかのように、痺れて動けなくなっていた。

「ふふ、やっと条件を満たしたんだ。覚醒者となった今のウェルトならボクの力の一割ぐらいは扱える。そうなればもうこっちのものなんだから」

 顔を押さえられる。

「ウェルトの全てが欲しいんだ。髪の毛一本も、血の一滴も残らず全部欲しい。ねぇ、いいでしょ? 全部、ボクにちょうだい?」

 ウラノスは脳が蕩けてしまうような優しく声で囁くと、そっと口付けをした。



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