ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-71 少年が望んだもの



 2-71 少年が望んだもの


「なんだよ.......なんだよこれ.......!?」

 腕がどろどろと溶けていく。熱い。腕だけじゃない。身体全身が、熱い。今にも千切れてバラバラになりそうだった。

 ―――次に変態が『覚醒』のスキルを使った時、変態は死ぬことになるわ。

 これがエマの言っていたことなのか。頭が沸騰しそうで、全身の血液が煮え立っているみたいだ。

「愚かな、覚醒の代償か」
「覚醒の、代償.......?」
「そんなことも知らなかったのか。覚醒なんて巫山戯た強さを持つスキルがそうポンポンと使える訳ないのにな」

 ユリウスが冷めた目で僕を見つめる。

「覚醒はな、使い過ぎると死ぬのだよ。全身が覚醒の力の負荷に耐えきれなくなって溶けていく。そして、死ぬ」

 僕は火がついた蝋燭みたいに溶けていく腕を見つめていた。これが覚醒の代償、エマが忠告した真実。

 今にして思えば兆候はあった。ユリウスと戦っていた時、僕は冷気を浴びて意識が朦朧としていたと思っていた。

 それは違った。覚醒の代償が使った直後から僕の身に降り掛かっていたんだ。

「君の命は良くて残り数分だろうな。覚醒の代償で溶けて無くなって、終わりだ」

 ユリウスの言葉に嘘偽りは無いと僕は思った。腕だけじゃなく、体の至る所から溶けだしてきている。このままじゃ、ユリウスに殺される前に代償によって殺される。

 持って数分、その間にユリウスを倒してリフィアの魂を取り戻すのは絶望的だった。

 それでも.......それでも、

「僕には、まだやる事があるんだよ」

 僕は諦めなかった。いや、ただ諦めきれなかった。普通ならこの八方塞がりな絶望的な状況にその場で静観し、何も出来なくなるのが当たり前なのに、何故か僕はまだ戦うことを選んでいた。

 溶けた拳で紅花匕首べっかあいくちを握り締めて、ユリウスに斬り掛かる。
 
「つまらん」

 村雨が振るわれる。そして、

      ・・・
 紅花匕首が砕けた。

 視界に紅の破片が散らばる。村雨の刀身に当たった紅花匕首はまるで硝子が砕けるように、粉々に砕け散った。

「.......!?」

 そんな、馬鹿な.......。

 紅花匕首は凄まじい強度と斬れ味を持っていた。ロイドの剣を根元から一刀両断したり、クラウディオとの戦闘にも最後まで耐えてみせた。その紅花匕首が砕けてしまうなんて、理解が出来なかった。
 紅花匕首にも負荷が祟っていたのだろう。連戦に次ぐ連戦。何度も強力な攻撃を防いでいたのだから。

 渾身の剣閃を破られ、無様に前から地面に倒れようとしていた僕にユリウスの拳が入った。

 身を刺すような鈍痛。鳩尾を殴られ、僕はごろごろと樹氷の上を転がった。

「く、そっ.......」

 身体が、重い。なんとか立ち上がったが、思うように身体が動かない。これも覚醒の代償なのか。羽のように軽かった身体は、今や鉛のように重たかった。

 足を踏み出そうとしたが、足が深い沼に嵌っているかのように一歩も動けない。接着剤か何かで足と地面がくっ付いていると錯覚してしまうぐらいだ。

「実に呆気ない終わり方だ、少年」

 棒立ちのまま僕はユリウスに攻撃され続ける。嬲られ、殴られ、何度も意識が飛びそうになる。

 もう僕は動ける状態じゃなかった。凍傷と打撲で身体中が腫れ上がり、覚醒の代償で身体が溶けていく。

 痛みは既に限界を越えた。もしかしたら神経が壊れたのかもしれない。
 視界は靄がかかったように曇る。眼がまともに見えていなかった。

 曇った視界の中から、ユリウスの鋭い拳が頬に突き刺さっていた。まるで鉄塊で思い切り殴られたかのような感覚。歯が折れ、砂利が散らばった食感が口の中に広がる。

「.......カハッ」

 あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになるが、僕は足と地面と摩擦で擦らせて立ち止まる。嗚咽と共に口から白い破片が混じったどす黒い血を小さく吐いた。

 幾ら殴られようが僕は倒れなかった。常にギリギリの所で踏ん張り、決して膝を付かなかった。

「何故だ.......何故、そこまで耐えられる? 覚醒の代償で身体はとっくに限界を迎えている筈だ」

 口元を拭って、凍える息を吐き出しながら僕は呟いた。

「負けたく、ないから.......」

 負けたくない。お前にだけは、絶対に。

 痛みに苦しむより、自分が死ぬ事より、僕はリフィアを失うことが何よりも怖かった。
 このままユリウスの手の中にリフィアの魂が収まってしまうことが何よりも嫌だった。

 認めたくない。そんなくそったれな結末なんかでリフィアと別れたくない。

 折角仲良くなれたから。最初に僕のことを避けていたリフィアとあそこまで仲を深めれたから。

 これが僕が諦めきれなかった理由なのかもしれない。

 特異点がどうとかそんなの関係ない。ただ、何の言葉も無しに、アイスクリームを食べに行ったのを見送っただけで二度と会えなくなるのは嫌だった。

「お前にだけは、死んでも負けたくないだよ.......!」

 折れた歯を食いしばり、動かなくなった足に全力を込める。動け、動けと命令し、膝を曲げて太腿を上げた。滴る身体に鞭を打ち、ユリウスの元へと歩いていく。

 一歩、二歩、三歩。

 耐え難い苦痛だった。身体が巨岩に押し潰されているみたいだった。足を踏み出す度に、ぶちぶちと何かが千切れていく音が聞こえていた。

 それでも、歩く歩数が上がる度に僕が歩く速度は次第に早くなり、気が付けば駆け出してていた。

 全身全霊を込めた僕の拳とユリウスの拳が衝突する。ビリビリと空気が振動し、僕の腕がぐちゃぐちゃと音を立てて肉が潰れていく。

「ぎっ、ぐ、ぐぅぅっ.......!? まだ持つだろ、僕の腕はさあああああああああ!」

 あまりに痛みに絶叫が溢れるが、残った片腕で、もう片方の腕を抑えて力を込める。皮膚の上から血が飛び散り、今にもひしゃげそうだ。

 それでもいい。

 僕はどうなったっていい。

 ずっと思ってた。力が欲しいって。でも、それは、誰かを守れる力が欲しかったんだ。

 例えそれで死んでも僕は満足だ。僕の命と引き換えに、お前を倒してリフィアの魂が取り戻せるなら、それでいい。

 僕は望んだもの。それは誰かを守る力。

 この理不尽で不条理な世界から、僕の手で救ってあげられる力。

 それを気付かしてくれたのは、ネメッサの街でリフィアが「助けて」って言ってくれたからなんだと思う。

 僕自身が誰かに救いを求めていたんだ。僕が救われなかった側の人間だったから。

 だから、この身に変えても、

 守りたいと強く思った。

「気、掌、拳ッ!」

 その時、僕の身体に暖かい魔力が溢れた。

「なっ!?」

 周りの大気を吸い込み、瞬間的な衝撃を生み出す。僕の拳はユリウスを確かに押し返した。

 頭の中で世界の声アナウンスが響く。

 -条件を達成しました-
 -スキル『超過暴走オーバードライブ』を獲得しました-
 -スキル『限界突破リミットブレイク』を獲得しました-
 -スキル『臨界超越エクシードプラディウス』を獲得しました-

「はぁ.......はぁ.......!」

 取り留めない力が溢れてくる。僕の魔力は嵐のように世界を侵し、僕の威圧は地震のように大地を揺るがした。凍てついた空は徐々に黒く染まっていき、竜巻が何本も立ち昇る。

「特異点.......その力を奪っても尚、力を与え続けているのか.......!」

 翡翠色の魔力に仄かな水色が混ざる。覚醒の代償は更に加速した。今にも全身の筋肉は断裂し、骨は砕け散りそうだ。ビキビキと痛々しい軋みをあげている。

「リフィアを助けるって、」

 目から血が流れた。万華鏡を覗いているみたいだ。いつも見ている風景に微弱な魔力から強力な魔力まで可視化され、世界が別物に見える。

 点々と散らばった赤い魔力の欠片達を僕は確かにその眼で捉えた。ユリウスに砕かれた紅花匕首の破片達だった。

 僕は右腕を掲げる。魔力を集中させて紅花匕首の魔力の残骸を吸い寄せていく。

 失った刀身は僕の血で代用する。 
 
 以前折れたままの紅花匕首を、僕は自分の手の平に突き刺した。

 黒い血が飛び散り、折れた紅花匕首が吸い取っていく。

 紅花匕首は僕の血を取り入れたことによりその姿を変えた。真っ直ぐな刀身は湾曲して曲がり、映える鮮やかな紅は一切の光を通さない黒で埋め尽くされる。

 こう呼ぶに相応しいだろう。

 風狂黒金ふうきょうくろがね、と。

「僕は約束したんだから!」

 地を蹴り、ユリウスの元へと肉薄した。風狂黒金と村雨が結び合う。

 上段の斬り下し。横凪の一閃。斜め十字の斬撃の連鎖。

 剣戟の嵐は止まることを知らず加速していく。僕が風狂黒金が振るう速度は徐々に早くなり、

 ユリウスを越えた。

「こいつッ!」

 村雨を弾き飛ばされたユリウスの胸元はがら空きだ。僕はそこへ風狂黒金を差し込む。

「レゾナンスエッジ」

 キィィン、と超振動の斬撃が辺り一帯の樹氷を氷の粒に変え、ユリウスへ上空へとカチ上げた。

「インフィニティスラスト」

 そのまま踵を返すように風狂黒金を振り戻す。斬撃の流星群が逆行して降り注ぎ、ユリウスへと直撃し、子爆発が何度も起こる。

「舐めるなぁ! 人間風情が!」

 空中へ飛ばされたユリウスは両手を大きく広げた。空中に紋様が拡がる。展開されたのは王都全体までもを上回る大きさの魔法陣だった。

三千冷界さんぜんれいかい 大瀑布だいばくふ!」

 地鳴りのような振動が起こる。空から降ってきたのはひとつひとつが小山程の大きさを持つ氷柱だった。それが空の色を一欠片も見させないように覆い隠して落ちてくる。

 僕は天に手を翳す。頭痛と共に、頭の中に僕が知らない知識が次々と浮かびあがってくる。僕はその中からひとつの公式を見つけた。

 E=mc²

 もう一度出来るはずだ。今の僕なら。口を開いてその名を僕は叫んだ。

「虚偽の理、発動! 僕が組む込む世界の法則は『質量保存の法則』ッ!」

 降り注いできた氷の質量達は跡形も無く霧散していく。それだけではない、僕が今たっていた樹氷までもがガラガラと崩れていく。

「そんな、馬鹿な.......ッ!」

 僕が組み込んだ質量保存の法則。ユリウスが魔力で作った氷には水を使っていない。定義を一時的に組み込まれたこの世界は、ユリウスが生み出した氷を氷と認めなくなった。

「終わりだ、ユリウス」

 風狂黒金に風が渦巻いた。

「複合技能、」

 この一撃に全てを賭ける。そのつもりで、僕は風狂黒金を構えて解き放つ。

「逆巻く辻太刀風!」

 全てを切り裂く真空の刃は、ユリウスにぶつかり竜巻を巻き上げて爆発を起こした。



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