ろりこんくえすと!
2-70 覚醒の代償
2-70 覚醒の代償
対峙する僕とユリウス。エルクセム王城の屋上に一陣の風が吹き抜けたと共に、リフィアの命を賭けた戦闘が開始された。
大きく足を踏み出して僕は駆け出した。踏み出す度にを何度も箭疾歩を発動させて加速した僕は、屋上の床を勢いよく蹴り飛ばし、ユリウスへ紅花匕首を振るい抜く。
「『覚醒者』と戦うのは何百年振りだろうか。いいだろう、精々楽しませてみろ!」
ユリウスの身体から極低温の冷気が溢れ出す。ピキピキとガラスが罅割れる音を立てて、白い冷気が辺りを凍らせていく。
霜は氷雪へ。暴風を纏う僕と冷気を纏うユリウスが互いが衝突した時、冬ですらないのに暴風雪を彷彿させる現象が舞い起こった。
振り抜かれた紅花匕首は、滅紫色の一振の刀と交差し、盛大に火花を散らしていた。
冷気で作り出したと思われるユリウスが握る刀は、刀身に玉が散った綺麗な絵柄が繊細に描かれていた。目が奪われる程可憐だが、何処か夕闇の様な暗い雰囲気を醸し出していた。
「村雨。それがこの刀の銘だ。冥土の土産に胸の中にでも刻み付けておくといい」
剣戟が鳴る。紅花匕首と村雨がぎりぎりと刃同士が結び合う。
僕はユリウスを押し飛ばそうと全身の体重を掛けるがびくともしない。結局、鍔迫り合いに勝ったのはユリウスで、僕は一歩後退し、距離を置いた形に終わってしまった。
力でごり押すのは僕の戦い方には似合ってない。僕の持ち味は群を抜いて秀でた『俊敏』の高さだ。凍った屋上のスリップを活かし僕は加速する。
「快刀乱麻」
残像を残して突進する。何度も何度も高速の斬撃をユリウスに叩き付けるが村雨を巧みに使われ防御されてしまう。
いや、これでいい。もっと速度を上げろ。
「箭疾歩」
足を踏み出す一歩一歩に箭疾歩を使い速度をあげる。使ってる僕でさえ周りの光景がブレすぎてよく視認出来ない。でも、これでいい。
速さは威力に直結する。ギアが急激に上昇した僕にユリウスは追い付けなくなっていた。上下左右、振り子運動のように全方向から放たれる僕の攻撃は加速し続けていく。
「なんだこの速さは.......!?」
紅い残像が走る。村雨は左横からの一閃で拮抗し、真正面からの斬り付けで押され、右上からの一振で上に弾かれ、ユリウスの腹部ががら空きとなった。
その瞬間を僕は見逃さない。
「技術衝打!」
背中を縮め、至近距離から腹部に拳をめり込ませる。臓腑を揺らす確かな手応え。ユリウスは錐揉み回転をしながら屋上の床を転がると、地上に向かって転落していった。
「ブライニクルッ!」
屋上から落ちたユリウスだったが、片手に冷気の塊を集めて真下に投げつけた。
瞬間、冷気の奔流が増して樹氷のような氷が迸った。形成されていく勢いは凄まじく、エルクセム王城までもを軽く呑み込んでしまう大きく、氷の木々が複雑に絡み合って作られた樹氷が昇り立つ。
樹氷が形成されたことで、体感で気温が急激に下がったのを感じた。肌が凍てついて痛みが生じる。
そこに存在しているだけで領域を冷ましていく極低温の氷柱。
樹氷に上に立ったユリウスへ、僕も屋上から飛び出し樹氷の上を疾駆する。不安定な足場でも僕とユリウスはいつもと遜色がない戦闘を繰り広げる。
むしろ屋上は平面だけの二次元の戦いだったが、高低差のある樹氷の上で三次元での戦いに突入した事により戦闘の激しさは増していく。
ユリウスが両手を広げると上空に幾つもの氷柱が突如出現した。いや、鋭く尖った先端を見れば氷槍と言うべきか。
無詠唱であの規模、一体ユリウスが秘める魔力量がどれだけ規格外なのだろうか。
無数に展開された氷槍はくるくると回転が加えられ降り注ぐ。僕は自分の身に降り掛かってくるものだけを紅花匕首で弾き飛ばし、残りの樹氷に当たった物は冷気の帳を飛ばしながら霧散した。
樹氷を蹴って跳躍。一気にユリウスとの間合いを詰め、紅花匕首と村雨がギリギリと甲高い剣戟を鳴らして交差する。
「何故そこまでムキになっている? あの餓鬼がそんなに大事だったのか?」
「大事に決まっているだろ! リフィアは.......」
―――お兄ちゃんは意外と手際がいいの。リフィアが見てきた中で一番上手なの。
―――むぅ、お兄ちゃんは甘えん坊さんなの。
―――もう大丈夫だって! 僕に任せておけって! お兄ちゃんはそう言ったんだよ! 助けて.......助けよお兄ちゃん!
「リフィアは、僕の大事な人なんだからっ!」
身体の力を一瞬だけ抜いた。僕はユリウスに押され後ろに倒れる寸前で全身を捻った。
「旋風脚!」
全力の蹴りはユリウスの胸元に吸い込まれるように入った。パン、と空気が潰されて叩かれた快音。ユリウスは軽くのぞけり、よろめいた。
「久々の骨がある相手だ。中々やるな!」
ユリウスはほんの一瞬だけ怯んだだけで、反撃とばかりに今度は僕に向かって村雨で斬り掛かる。咄嗟に紅花匕首でガードするが、僕は安定していない体勢で蹴りを放っていた事で、為す術もなく吹き飛ばされる。
勢いよく樹氷の一部に激突。パラパラと氷の破片が頭に落ちてくる。
「うぐっ.......」
迂闊だった。剣術はクラウディオよりはお粗末だが何より身体能力が段違いだ。速さ以外は覚醒した僕を圧倒していやがる。その上、氷を使った攻撃で遠くからも攻撃をこなす。接近戦も遠距離戦も得意なタイプだ、こいつは。
少し呻いた後僕は飛び上がるように起きあがる。なんだか頭がスッキリしない。ユリウスから溢れる冷気のせいなのだろうか。体温が下がると身体も鈍るがやはり頭の回転までもが鈍るらしい。
早めに決着を付けないと不味そうだ。うかうかしてはいれられない。一気にケリを付ける。
僕が駆け出した時、空がいきなり暗くなり、上から黒い影が落ちてくるのが見えた。いち早く察した僕は宙返りするように後ろへ後退する。
落ちてきたのは巨大な氷柱。その規模は、ネメッサの街の冒険者ギルド程度ならば軽く壊してしまうだろう。
ユリウスの冷気を常時浴びている僕は好調な状態で戦えている時間は残り少ない。時間稼ぎのつもりならユリウスはかなり頭のキレる奴だ。ユリウスの元まで辿り着くまで一苦労。これは、結構不味いな。
僕が立っている樹氷が、先程落とされた氷柱の質量に限界を感じているのかミシミシと音を立てている。
落とされた氷柱を壁に見立てて、僕は氷柱の側面を走り抜けた。空へ舞い上がった僕へユリウスが氷槍を展開し迎撃を行うが、全て紅花匕首の刀身で跳ね除けられる。
「瞬けッ! 閃光斬!」
上空からの一閃。紅花匕首は氷上に打ち付けられ、ユリウスはバックステップで後ろへ飛び退き閃光斬を躱す。
それだけでは僕の攻撃は終わらない。前屈みになって樹氷を蹴り飛ばし、身体を前に押し出すと、距離を取ったユリウスとの間合いを詰める。
斬撃の旋風が踊り狂う。
紅花匕首が村雨が何度も何度もぶつかり合い、白い火花を散らしていく。
「ぐっ、この歳でどれだけ戦闘慣れしているんだ、君は!」
僕と剣のワルツを踊るユリウスが苦々しく呟いた。
確かに僕は戦闘慣れしているだろう。しかし、戦ってきた殆どの相手は魔物だ。人を殺したことがあるのが精々村を襲う山賊程度。魔物との戦いと対人戦は全くの別物だ。
それでも僕が身体能力に大きな壁があるユリウスと互角レベルまでに戦っていられるのには理由があった。それはユリウスの前に戦っていたクラウディオのお陰だ。
クラウディオの剣術をその身をもって体験していた僕はユリウスの剣術が力任せで雑な事を見破っていた。確かに世間一般で比べればユリウスの剣術は達人の域だろう。しかしクラウディオはそれを超える人外の領域。ユリウスと比べればその差は歴然。だから僕はユリウスの動きに付いてこれる。元より俊敏だけはユリウスより上だから尚更だった。
戦いの中で僕は確かに成長していた。僕は逆立ちしたってクラウディオの剣術の真似なんて出来やしない。でも、クラウディオの剣術は真似出来なくても、クラウディオの剣術を防ぐ術なら流石に身に付いている。
僕は村雨が触れらないところまで後ろに飛ぶ。ユリウスの剣は虚空を切り裂き、僕は剣先が下がった隙を狙って斬りかかった。
しかし、ユリウスはそれを読んでいたのか、はたまた常識外れの動体視力故か、返すように村雨を斬り上げた。
甘い。ユリウスの剣を振るう速度も威力も尋常ではないが、技術の拙さが見える。クラウディオならそんな大振りに剣は振らない。大振りに振ったとしてもしっかりと何かしらのカバーは施されている。
ユリウス、例え間違った一手を巻き返そうとしても、もう遅いんだよ。
差し込むように紅花匕首を村雨の刀身に滑らせる。僕を斬り上げようと動いた村雨だったが、余計な力の加入により横へと逸れた。
懐に入り込んだ僕。その時、ユリウスは目を見張る行動を取る。
「ちぃッ! やるな少年!」
「ユリウス!」
こいつ、化け物かよ。村雨の間合いを抜けた僕を危険だと判断して大きく後方へと下がろうと跳躍していた。その時間は一秒にも満たないほんの一瞬。判断力が人間の脳のスペックを越えていやがる。
・・・・
いいや、でも間に合う。間に合わせる。
僕は箭疾歩を発動させた。蹴りを放つ勢いでユリウスの足を踏み抜き、その場で押さえ付けた。
「なッ.......!?」
ユリウスは前につんのめる形でバランスを崩す。
「逃がすかよ! 気掌拳!」
「がっ!?」
僕が使える中で最強の殴打をユリウスの脇腹へと叩き込む。指越しに何かが砕ける感触が伝わり、ユリウスは衝撃によって跳ねるように樹氷の上を滑っていく。
一足一刀。圏境、即ち間合いなら僕の方が掴めている。拳も、短刀も、長刀も、千差万別の武器を扱うクラウディオとの戦いでリーチは大体は掴んでいる。
「呑み込み潰せ! 災厄の雪崩!」
複雑かつ巨大な魔法陣が展開される。魔法でのゴリ押しに移ってきたか。一度食らったことがあるから知っている。ユリウスが発動させようとしたのは大規模な雪崩を引き起こす魔法。そんなことはさせない。
「殺風激!」
黒い暴風が吹き荒れた。何も無い空間から生み出された雪崩は打ち消され、突風が樹氷の上を通り抜ける。
相殺。技能と魔法のぶつけ合いは引き分けの形で終わりを告げた。
僕の吐いた息が凍えていた。そろそろ限界なのだろうか。冷気で身体が冷え、意識が朦朧としている。
ここで勝負を付ける。意を決した僕は掌に意識を集中させ、翡翠色の魔力を宿していく。
使うのは一番使い慣れた風遁術。僕がずっと使っていた技能。
「歪断風!」
太刀風が吹き抜け、真空の鎌鼬はユリウスへと直撃したかに思えた。
「.......どうした?」
僕の横から間の抜けたユリウスの声が聞こえた。
何故だ、確かに歪断風はユリウスに直撃した筈だ。鏡華氷像を使われた? いや、違う。
ユリウスはそんな技能は使っていない。
「何故、君は何も無い所へ向けて攻撃をしたんだ?」
・・・・・・・・・・・・
そうだ、僕が自分から攻撃を外した。
樹氷の一角が音を立てて崩れ、歪断風を放った僕の腕の肉がどろりと溶けていた。
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