ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-63 魔道兵器

 

 2-63 魔道兵器


 キメラが発動したのは火の上位技能、ノヴァブラスト。

 圧縮された超高密度のエネルギー体が凝縮し、ひとつの玉となった。ある程度膨張したそれは、小さな太陽を思わせる。太陽は赫々と輝いてゆっくりと王都へと落ちていく。

 それが王都へ直撃すればどうなるかは火を見るより明らかだった。
 落ちていく途中、発せられる熱だけで王都の半分に渡る建物から火が付いた。

 それだけでは飽き足らない。

 太陽から発せられる熱は地面を鉄板代わりにありとあらゆる物を焼いた。道路や床は白い煙をしゅーしゅーと吹き出して赤熱化し、木からは火が燃え上がり、轟々と燃えながら倒れていく。そして人間は、全身から水分を奪われて蒸発し、バタバタと干からびて膝から崩れ落ちた。

「くそっ、なんとかして止めないと王都が終わるぞ!」
 
 歯を食いしばり、ボロボロのゼノが立ち上がるが何も策は思い浮かばない。自身のHPを代償に剛雷一閃を放ったとしても焼け石に水、あの太陽が相手では霧散されるだけで何の効力も示さないだろう。それはゼノにも分かり切っていた。

「まさかあのブレイズレオ、ノヴァブラストまで使えるとは.......これは不味いぞ」

 汗を拭ってエキューデが呟いた。牢に閉じ込められたり、王城に侵入しても尚、いつも飄々としていた彼までもが焦った表情を浮かべていた。

 それは事態の深刻さを表している。直撃すればゼノの言葉通り王都の半分は消滅するだろう。それどころか、自分達含めて余波で生じる高温により、王都に住む人間全て干からびて死ぬ可能性も孕んでいる。

 太陽はゆっくりと落ちていく。キメラの周辺は既に溶岩地帯。ドロドロと瓦礫が融解され、赤い火の海が広がっていた。もしもあれが落ちて爆発でもすれば王都は焦土と化してしまうだろう。
 
「打つ手無しか.......!」

 ゼノが諦観の言葉を呟いた突如、後ろから突風が背中を煽り、真っ白な光弾が上を掠めていった。

「あれは!」

 エキューデがすぐさま飛んで行った光弾を目で追う。

 それは真っ直ぐにキメラの頭上から落ちてくる太陽へと直撃した。

「うっ!?」
「ぬぅっ!?」

 光の奔流が起き、上空で大規模な爆発が起こり、後に突風が吹き荒れる。ガラスは割れ、木は飛ばされ、民家はガラガラと倒壊する。

 少しでも気を抜けば吹き飛ばされてしまうような荒ぶる突風をエキューデとゼノはそれぞれ両腕に顔を埋めてやり過ごした。

 二人が目を開けるとキメラの掲げていた太陽は消えていた。冷えて黒くなった溶岩の中に佇むキメラはギロリと目を動かして前方を睨む。

「間一髪、なんとかなったな」

 息を切らしながら後ろにいたのはジョサイアだった。手から肩にかけて巨大な重砲が握られていた。

「それが魔道兵器.......!?」
「驚きましたか~? そうですよ~」
 
 隣にはファリスがジョサイアを支えていた。ゼノの言葉にジョサイアは頷くと重砲の横に付けられたボタンを押した。するとガチャガチャと重砲は瓦解し始め、複雑な過程を繰り返しながら長方形の銀色の箱へと変化した。

「零式、一番危険なやつではないか」
「お前知ってるのか?」

 ゼノの言葉にエキューデは零式と呼んだ銀色の箱を見つめた。

「うぬ、知っての通り魔道兵器はかつて古い時代戦場で使われていた兵器でな、どんな状況にも対応できるように使われているのだ」

 エキューデの言葉にゼノとジョサイアは耳を傾ける。

「魔道兵器は使い手のイメージによって姿形、そしてその性能をも変える。零式は数多く作られた魔道兵器の中でも一番応用性が高く、そして一番身体に負担を掛ける型だった。使われた当初からその危険性故に直ぐに使用禁止とされ大半は破壊されたのだが.......まだ残っていたとはな」
「そんな歴史が~」
「それにしても驚いた。魔道兵器を使うには実際に自分自身が使っている場面を強くイメージする必要がある。並大抵の人間ならばまともに使いこなせいのが関の山なのだ。しかし、赤髪は強くイメージ出来て使えたようだな。それもあれ程の規模を」

 ジョサイアは頭を掻くと笑って言った。

「恥ずかしながら私の妹一人が少々やんちゃでね。しかしあの一連の出来事が役に立つとは。世の中何が起こるか分からないものだ」
「でもこれなら行ける! 魔道兵器の威力があればあいつの胸に風穴を開けられるぞ!」

 活路が開いたことでゼノが元気よく手を鳴らした。キメラの再生能力の根源たる貪食の食人鬼の心臓こと脈動心。堅牢な仙山の猿王に守られた胸を破壊することで、致命的な一撃を加えられる。それが可能となった今、討伐までの道のりは一気に前進した。

「そうだ。だが」

 しかし当のジョサイアの顔には苦悶が張り付いていた。苦しそうに息を切らして汗を流している。
 それはゼノには思い当たる節がある。何故なら自分が今なっている状態だったからだ。

「おいもしかして、あと一発が精々ってか?」

 魔力切れ。そう、ジョサイアのMPは底をつこうとしていた。少し考えれば分かる筈だ。キメラの全力の一撃を相殺させた重砲による光弾。あれ程の規模と威力を誇る攻撃を放って何のリスクもない筈がない。既にジョサイアの魔力の殆どが消費されていたのだった。

「すまない、その通りだ」

 ジョサイアは苦しそうに頷いた。もう一度放てば魔力の残量を通り越し自身の命を削ることになるのは明らか。

 それを通り越して下手をすれば死が待っている。残り一発、それ以上でもそれ以下でもない。二発打てば命の残量が底が尽きて死ぬ。あと一発だけしか放てないは明確だった。
 
「さっきの話から、重砲の魔道兵器のイメージは団長しか使えないんですよね~?ここで団長の攻撃が終われば~」
「詰みってことかよ」

 エキューデはその言葉に肯定を示した。

「動き始めたな.......」

 ジョサイアの言葉通りノヴァブラストが不発に終わったことをようやく理解したキメラが行動を始めていた。

「とにかくやるしかねぇ! なんとか動きを止めて魔道兵器の一撃をあの化け物にぶちかますぞ!」

 ゼノの言葉と同時にジョサイアは魔道兵器へ魔力の充填を行った。成人男性三人分もあろうかと巨大な重砲の銃身が光輝く。

 一方ファリスとエキューデはそれぞれ左右に散開した。

 キメラの右横へと跳んだファリスが鞘から細剣を抜く。第五騎士団本部に戻った際に、魔道兵器と一緒に予備のレイピアを取ってきたようだ。

 ファリスは神速の雷豹の脚に鋭い刺突を繰り出した。大腿部の大腿骨、下腿部の脛骨、腓骨、足根骨と続けざまに穴を開けて砕いた。

 脚から開けられた穴からは血が吹き出した。キメラは脚の骨の中でも重要な部位を砕かれた事によりバランスを崩した。普通の魔物ならば、もうまともに動けないだろう。しかし、キメラの再生能力からすればそれでも数秒後には完治してしまうので時間稼ぎにしかならなかった。

 体勢を崩したキメラだったが、まだ砕かれていない脚の驚異的な膂力を使い、無理矢理タイラントグリズリーの腕を振るう。

 そこで待っていたのは神速の騎士の異名に恥じないファリスのカウンターだった。
 上腕骨、橈骨、尺骨。それら全てが刺突よって砕かれる。同時に筋肉を破き、神経を貫き、靭帯を破壊し、腕言う身体の一部位を機能停止へと陥らせる。

 振るわれた腕はファリスの身には届かずに空中で迎撃された。そのまま血を撒き散らし、ビクビクと痙攣を行って力無く付け根からぶら下がる。

 一瞬の攻防で一方的に片腕片脚を損傷された事でキメラは激昂する。

 最優先は目の前で踊るように刺突を繰り返す金髪の女。ファリスから受けられた脚の傷は治り、怒りに身を任せて立ち上がろうとしたキメラだったが、両脚には何か白い物がびっしりと巻きついていた。

 骨。

 蛇が獲物を絞め殺すように、両脚にはぐるぐると地面から這い出した骨が巻きついている。

 巻きついてた骨は力強くキメラを地中へとズブズブと沈めさせていく。大通りを溶岩と化したことで地面は非常に不安定な状態となっていた。例えキメラの筋力がいかに桁外れであっても、少し力を入れてしまえば容易く壊れてしまう脆い土の上では地中に引き摺り込むことは簡単だった。

 胴体の寸先まで地面に引き摺り込まれたキメラは遂に堪忍袋の緒が切れ、ブレイズレオの口から獄炎を灯す。

 メギドブレイズ、高温の火炎球が熱り前方へと一直線上に放たれた。

 火炎球が向かう方向はジョサイアが今尚魔道兵器の溜めを行っている。光弾を発射する為、まだ魔力を充填していたからだ。

 ここでメギドブレイズの軌道上に立ち塞がったのはゼノだった。

 獄炎の火の玉を見据え、剣を構えるとゼノは命の残量を削り、裂帛の気合と共に振り抜いた。

「剛雷一閃ッ!」

 雷を纏った剣閃と、高温の火炎球が衝突する。魔力の限界を越えて剛雷一閃を放った事により、瀕死に近付いたことでゼノの目から口から血が流れ出す。

「ぐっ、がッ!」

 ゼノは口から赤黒い血の塊を吐いた。苦痛に顔を歪めて膝を付こうとしたが、腕と脚の筋肉に青筋を立てると踏ん張り力を込める。

「っしゃらああああああああッ!!!」

 絶叫を上げて稲妻を飛ばす剣を斬り下ろした。火炎球は真っ二つに両断され、ジョサイアの両脇を焦がしがなら何処かへ飛んで行った。

「「今だ!」」

 下半身が埋まりメギドブレイズを放ったキメラは無防備だった。その形勢逆転のチャンスを逃すまいとゼノとエキューデは同時に叫んだ。

 重砲と化した魔道兵器の銃身に光の粒子が収束する。螺旋状に渦巻いているそれは確かにキメラの胸へと向けられていた。

 ジョサイアは過去に妹の放った技能を強くイメージする。自分の護印結界を紙切れのように破り燃やしたあの威力。それを完全に思い浮かべたジョサイアは引き金を引いて撃鉄を打った。

「離れてろよファリスッ!」

 光弾が放たれた。それは右捻りに回転しながらキメラへと向かい炸裂した。

 炸裂した直後、キノコ雲を巻き上げる爆発が起こす。ビリビリと空気を揺らす振動と破片となり散らばる地面。先程よりも強烈な突風が起こり全員は両腕で顔を覆ってやり過ごす。

「直撃したぞ!」 

 ゼノ、エキューデ、ファリス。三人掛りで突破口を開き、ジョサイアの魔道兵器による光弾の一撃。それは初めてのキメラに有効打となるものだった。

 漂う硝煙が晴れて中からキメラの姿が現れた。右胸から先は無くなり、傷口の断面からぼたぼたと臓器と一緒に血肉を垂らしながら倒れ込んでいる。

 普通の人からすれば最早死んだの同然であった。それでも、まだキメラはしぶとく生きていた。

 過呼吸を繰り返しながら立ち上がろうとしている。心臓が損傷したのか、遠目から見れば再生能力は落ちているが、それでも傷口から不快な音を立てて再生が始まっている。

「ドドメだ!」  
「待て!」

 血で塗れ、ボロボロのゼノが剣を抜き払いキメラの元へと駆け出そうとした。

 だが、肩を掴んで制止したのはエキューデだった。

「邪魔すんなよ! これがドドメを刺せる最後のチャンスなんだ!」
「違う! あやつは.......!」

 エキューデが言い掛けた直後、ごう、と不気味で禍々しい魔力が渦巻いた。

 一瞬、当の本人であるゼノも含めて何が起こったのかは全員が分からなかった。

 振り向けばゼノの両腕は肘の先から獰猛な歯型が付いて無くなっていた。

 

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