ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-62 勝利への手掛かり、エマの手紙

 2-62 勝利への手掛かり、エマの手紙


剛雷一閃ごうらいいっせん!」

 ファリスの圧倒的な速度、ゼノの電戯流走による強化された身体能力。その二つは合わさり、キメラの脚の内一本を文字通り斬り裂いた。

 千切れたホースのように斬られたキメラの脚から夥しい量の血液が噴出される。パァッン、と完全に切断に成功した快音。それと同時にキメラの神速の雷豹の脚は血飛沫をあげながら宙を舞った。

「やったか!?」

 キメラの脚の切断に成功したゼノが喜びの篭った声で叫ぶ。

 刹那、斬られたキメラの脚先に変化が起こった。斬られた箇所から血がさっきよりも激しい勢いで流れ出したのだ。

 それは一見、大量出血しただけのように見える。しかし、変化はそこからだった。

 なんと流れ出した血が突如意志を持ったかのようにピタリと止まる。グチュグチュと不快な音を立ててそれは歪に動き出し、血の塊となった物は切り飛ばした筈の元の脚の原型へと形を変えていく。

「まずい、離れろ腰巾着!」

 痛みを受けたことによる怒りの雄叫びをあげて、キメラはまだ切られていない方の片脚でゼノを蹴り飛ばした。

 まるで鉄塊で思い切り殴りつけられたような感覚。否、そんな生易しいものではなかった。メキメキとゼノの骨の何本かにひびが入り、何本かは粉砕され、飛ばされたまま空中で激しい血流の線を流し飛んで行った。

「ゼノ!」
「ゼノさーん~!」

 激突。そのままゼノは瓦礫の山の一角に砂煙をあげて突っ込んだ。

 三人がゼノが飛ばされた場所を見つめ安否を確認する中、瓦礫がガタガタとどかしゼノは這い上がってきた。

「がっ.......はっ.......!? 嘘だろこの化け物.......!」

 瓦礫の山からゼノは剣を杖替わりにして立ち上がった。

 ゼノはなんとかキメラの一撃を受けても一命を取り留めていたものの、鎧は潰れ、口から一筋の血を流す姿は見ていて痛ましかった。

 もしも、キメラが神速の雷豹以外の身体の部位でゼノを攻撃していたならばゼノはその場で命を散らしていただろう。

 片脚を失ったことでバランスが上手く取れていなかったこと、ゼノがあらかじめ電戯流走を使用していたことで電撃を纏った蹴りの威力が大幅に減衰していたこと。この二つが結果的にゼノの命を救うきっかけに繋がっていた。

 タイラントグリズリーの腕で殴られれば木っ端微塵に身体が爆散していただろう。ヒポグリフの翼で叩かれれば血煙となって消し飛ばされていただろう。ブレイズレオの牙で砕かれたら燃え上がる炎で灰にされていただろう。

 神速の雷豹で蹴られたことは、ゼノにとって不幸中の幸いだった。

「再生しただと!? あの脚の持ち主の魔物にそんな能力があったとは.......!」

 ジョサイアがキメラの脚を見つめながら悔しそうに唇を噛んだ。最初こそは形だけ通りで血と筋肉の塊だったものの、今では皮膚が表面から生え始め、徐々にだが神速の雷豹の元の毛皮へと戻りつつある。

「いや、そんな訳があるはずなかろう」

 キメラの脚の再生に驚くジョサイアへエキューデはそれを窘める。

「考えてみろ、千切れた腕や脚がそんな簡単に新しく生えてくるものか。トカゲの尻尾ですらまた生えるの時間は掛かるぞ」
「.......? 一体どういうことですか~?」

 ファリスの問い掛けにエキューデは頷いて考え込む。

「これはただの推測だが.......。そうだな、我達はブレイズレオ、ヒポグリフ、仙山の猿王、タイラントグリズリー、そして神速の雷豹、これらの五つの魔物であの化け物が作られていたと考えていた」

 五本指を立ててエキューデはキメラを示す。

「いやいやそれが普通だろ? 他に変な魔物部位を使っているなんて勘弁してくれよ」
「その通りだ腰巾着」
「はっ?」

 ふらふらと歩いてきた満身創痍のゼノの言葉を被せ、エキューデは指を鳴らした。

「もしかしたら奴にはまだ他の魔物の部位が使われているのかも知れない。それは我達から見えない部位なのかもしれん。例えばそうだな.......。臓器とか」
「待て、まさか!」

 エキューデの言葉を遮りジョサイアは推理する。

 ジョサイアの考えはただの勘だった。しかし、過去に出現したタイラントグリズリー、ファリスが交戦したとされるヒポグリフ、ゼノが戦ったことがある仙山の猿王。あの男エキューデは除くとして、何故脅威度Aの魔物を詳しく知っている面子がここまで王都に揃っている?

 これは奇遇なんかではない。必然だと。

「貪食の食人鬼!」

 つい最近ネメッサの街を襲ったとされる貪食の食人鬼。その報告を受けた後、ジョサイアは第一騎士団と一緒に自分達第五騎士団と応援に向かった。

    
 そう、第一騎士団・・・・・と。

「裏で色々やってくれたな、ユリウス」

 何故、貪食の食人鬼の死体が消えていたのか。

 何故、ここまで王都の人間が知る魔物の身体が使われていたのか。

 ジョサイアの勘は確信に変わる。

 ウェルト君が貪食の食人鬼の死体の在処を知らないのは当たり前だった。何故なら貪食の食人鬼の死体は、目の前の魔物に使われているのだから。

 そして、他の魔物も騎士団が倒していてきた魔物達だから。

「貪食の食人鬼ってつい最近ネメッサの街を襲ったやつだろ?」
「そうだ。貪食の食人鬼は傷付いた自分の身体を一瞬にして再生されると聞く。奴の身体の一部がとこかしらに使われていたと見て間違いない」
「なるほど~それが驚異的な再生能力のカラクリなんですね~」

 一同は完全に再生されたキメラの片脚を見て頷いた。

「まさかあそこまでとは。流石の我も恐れ入った。生前の自分のものですらない身体を、だ。貪食の食人鬼の『心臓』をどうにかして探して潰さなければ勝機はないぞ」
「心臓~?」
「うむ、貪食の食人鬼の再生能力の根源は脈動心みゃくどうしんと呼ばれる心臓なのだ。それを潰せれば」
「再生能力は無くなるってことか?」

 被されたゼノの言葉にエキューデは首を振って答える。

「いやもっとだ。考えてみろ、心臓が潰れるのだ。即死に決まっておる」
「問題は何処に心臓があるかだな」
「普通に考えて胸の中じゃないのか? いやそれしかないだろ」
「その通りだ腰巾着。だが、」

 全員はキメラの筋骨隆々な仙山の猿王の身体を見た。風船のように膨らんだりはしたが、今の鋼鉄の如く鈍く光るその身体はゼノの言葉通りとてもまともな攻撃を加えられそうにない。

「どうやってあの胸の防御を貫いて内部まで攻撃するかだな」

 剣は砕け魔法は弾く。脅威度A、仙山の猿王の胸に守られた貪食の食人鬼の心臓。

 キメラは身体のパーツが全てバラバラの部位で作られている筈なのに、キメラはそれを感じさせない程に生物の種としてバランスがとれていた。
 
「私は無理ですよ~力ありませんし~」
「俺も無理だ。前に戦った時は顔を潰して倒したんだ。胸はまじでびくともしねえぐらい硬ぇ」

 三人が考え込む中、ジョサイアだけは何か心当たりがあるようで、ある言葉を呟いた。

「くっ、こんな時に魔道兵器があれば」

 そんなジョサイアの言葉にエキューデは反応する。

「魔道兵器だと?」
「そうだ、我々第五騎士団秘蔵の魔道兵器の威力を持ってすればあの胸を破壊できるかもしれん。あとは妹から送られてくる筈の構築術式さえあれば起動が出来るのだが.......」
「それってこれのことか?」

 ジョサイアの目の前で、エキューデは懐から手紙を取り出した。

 それは紛れもない、ジョサイアの妹であるエマからの文字で綴ってあった。

 ジョサイアは目を思わず見開く。とりあえず目の前の男を張っ倒して小一時間程問い詰めたかったが、なんとかそれを堪えて心の奥底へと飲み込むと、エキューデの握る構築術式をひったくった。

「戻るぞファリス! 第五騎士団に!」
「ええっ、でもそれって団長の奥の手なんじゃ~?」 
「ええい! 確かにそうだ! だが、過程は目的に過ぎずない! 優先すべきは王都に住まう民の命だ! 行くぞ!」
「さっすが団長~! 優しくて素敵ですよ~」

 二人はそのまま大急ぎで、来た道を戻り第五騎士団本部へと走り去っていった。

「え、二人が魔道兵器とやら持ってくるまで持ち堪えるの?」

 ただ見送ることしか出来なかったゼノが呟く。

「どうやらそうみたいだ。来るぞ」

 キメラは口から業火を漏らしながら怒号をあげた。

 発動した技能は灼熱焦土。

 ブレイズレオの固有技能のひとつであり地形を瞬く間に火山地帯のそれへと変化させるものだった。 キメラの足元から瓦礫の山は高温すぎる熱量によりドロドロの溶岩へと形を変える。

 空気が焼け焦げていく。熱という熱が空間を支配して自然発火現象が起こり、何も無い場所で炎が燃え上がる。

 今度は向かい来るキメラに先に仕掛けたのはエキューデだった。腕を振るうと骨と筋肉が浮き出し皮膚を破って肥大化する。それをムチのようにしならせてキメラへ向けて牽制を行う。

 衝突。

 タイラントグリズリーの腕とエキューデの腕がぶつかり合った。ぶつかっただけで衝撃波が生じ空気が揺れる。

「ぐぬ.......ッ!」

 伝わった衝撃にエキューデは思わず顔を歪める。目を細めれば自分の腕が軋みをあげて血飛沫を上げていた。

「チイッ.......。クソが、やるしかねぇのかよ!」

 ゼノはエキューデの伸ばされた腕に乗っかり、足場にして駆け出した。キメラの付近に突き進む毎に気温が高くなる。風が吹けば熱風がその身を灼き、息をすれば肺が焼かれる。

 それでもゼノは足を止めずにキメラの顔前に躍り出た。目の前に出てきたゼノを見定めてキメラは吠える。

 咆哮。それに続く破壊音。

 エキューデの腕をキメラはありあまる膂力のみで吹き飛ばし腕に力を込めた。ゼノは足場が崩れて宙に飛ばされる。

 筋肉繊維がボコボコと隆起してタイラントグリズリーの腕はさながら見るものを畏怖させる大自然の凶器と化す。

 豪爪烈破ごうそうれっぱ。かつてタイラントグリズリーも貪食の食人鬼も使っていた技能。鋭利な爪があれば、ほぼどの魔物でも使える普遍的な技能だが、タイラントグリズリーの腕で振るわれたその威力は桁違いであった。

「こっちは覚悟決めてお前の元にやってきたんだよ! なあ!」

 ゼノは電戯流走電戯流走でんぎるばしりを発動させた。視界が電力の微伝達で筋肉が活性し、スローモーションとなる。

 見える。キメラの豪爪烈破の動きが。無数の爪撃の軌跡がひとつひとつしっかりと見える。

 身体をくねらせるように初撃を躱し、それに続いて流れるように引っ掛けるように繰り出された二撃を躱す。一連の動作で両腕から放たれる猛攻を潜り抜け、キメラの懐に入ったゼノは剣を奔らせた。

「剛雷一閃!」

 狙うのは胸でも、頭でも、翼でも、脚でもない。腕の付け根であった。ゼノの渾身の一刀は深い泥沼に刺したかのような鈍い音を響かせて、タイラントグリズリーの筋肉と筋肉の間に食い込んでいた。

 食い込んだと言ったが数センチしか刃は届かなった。大部分の威力は堅牢で強靱な毛皮とその下にある厚い脂肪、そして鍛え抜かれた筋肉によって防がれていてしまった。

 しかしそれでもゼノは口元を歪ませると剣を握る手に魔力を流した。

「内から弾けろ! 痺電ひでんッ!」

 バチバチとゼノの体内から青白い電気が弾ける。鉄製の剣はタイラントグリズリーの腕に電気をよく流し、内部から電撃を爆発させた。

「ガアアアァァァッ!?」

 流石のキメラでも身体の内側からの攻撃には堪らないようだった。腕から白煙と血の雫を吹かすと闇雲に腕を振り回した。

 ゼノは直撃こそしなかったものの、腕から発せられる風圧で木の葉のように吹き飛ばされてしまう。地面を滑るように後ずさったゼノは舌打ちをした。

 爛れる腕ををキメラは一瞥してゼノを睨み付ける。既に腕は再生が始まっていた。ぶくぶくと傷口が盛り上がり数秒後には元通りに復元されてしまっていた。

「これは本当にどうしようもないな。時間稼ぎに徹するぞ」

 伸ばした腕を戻しながら言ったエキューデの言葉にゼノは頷いた。

 再生し元通りになるとは言え痛みは感じる。傷付けられた怒りに、キメラは二人へ向かって神速の雷豹の脚を動かした。

「剛雷一閃!」

 電戯流走で身体能力を強化されたゼノが血を蹴って跳躍し、上段から振り下ろす一打がキメラの正中線を捉える。キメラを地面に足跡を残しながら下がらせるが、仙山の猿王の身体には傷一つ付いてはいない。

 しつこく絡み付くゼノとエキューデを鬱陶しいと思ったのか、キメラはヒポグリフの翼をはためかせ技能を発動する。風の上位技能、神嵐激。突如空の上に大気が渦巻く大穴が開けられ、その中から乱気流すら凌駕する暴風の塊が、ゼノとエキューデを狙って一直線に地面へと落ちてきた。

 エキューデは地面から骨の塊を生み出した。その数、無数。下級のアンデットの大軍であった。

 それらは神嵐激とぶつかり、一時は拮抗するが瞬時にボロボロと崩れ去る。それでもエキューデは尚屍霊魔術の力を込め始めた。質より量。圧倒的な物量に任せた防御策であった。

 数千体の屍が散った後、王都の大通りであった場所は凄惨さを極めていた。

 更地。キメラと戦闘を開始してからまだ数十分。その数十分間に修復不可能とも断言できる程に破壊し尽くされていた。

「くそったれ、魔力切れだ」

 骨の残骸をどかし、息を切らしながらゼノは膝を着く。電戯流走を解除すると口からは血が零れていた。ゼノは既に魔力を完全に切らしMPの代わりに命の残量であるHPまで使っていた。

 精神的にも肉体的にも限界を迎えつつあるゼノは口を拭ってまだ実力もほんの少ししか出していないキメラを見つめ憎々しく吐き捨てた。

 強力な技能を連続で発動しているのに、まだキメラの魔力量の底が見えない。無尽蔵とも言える魔力量、そして傷付いても瞬時に再生される能力。それは紛れもない化け物の姿だった。

「同じく、流石の我も少し疲れた」

 ゼノとは違い数千体のアンデットを生み出した当の本人であるエキューデはまだ余裕を残していたが、有効打を何も当てられずにいる現状に焦りを募らせていた。

 まるでジリ貧。このまま戦っていてもいつかはこちら側が気力も体力も尽き果ててしまう。

 その時、消耗している二人に向かってキメラは大口を開いた。中々倒れない二人に遂に業を煮やしたのだろうか。キメラはこれまでの中で一番凄みのある咆哮をあげると、一揆阿吽に魔力を放出させた。

「おい嘘だろ。.......あんなもん放たれたら俺達どころか王都の半分は消滅するぞ!」

 ブレイズレオの口内から光の粒子が収束する。その先には爛々と輝く光の玉が膨張を始めていた。

 それは太陽。今はまだ小規模ながらその内に秘める魔力量は計り知れなかった。

 膨張は止まらない。光の玉は膨れ上がり王都の空を覆うように大きくなり続けていった。



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