ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-61 呉越同舟

 

 2-61 呉越同舟ごえつどうしゅう


 キメラの咆哮。それは、突然の生死を賭けた戦闘の始まりだった。

「うむむ、戦闘の邪魔だ」

 何を考えたのか、エキューデはレオナの両脚を掴むと、ハンマー投げの要領でぐるぐるとその場で回転し、綺麗な放物線を描きながらレオナを放り投げた。

「おいふざけんな! もっと丁寧に扱えよ!」
「何を言っている? 怪我人を安全な場所まで運んでやっただけだぞ」
「運んでねえだろ! 雑に放り投げただけだろ! それに怪我させた張本人お前が言うな!」
「お前ら言い争ってる場合か! 奴が来るぞ!」

 ジョサイアの一声と同時にキメラの背中から電撃と暴風が合わさった。ヒポグリフの翼を使って滑空し、全員に向かって凄まじい一撃を放つ。

 風と雷の上位技能、紫電翼しでんよく

 王都の大通りに紫色が際立つ雷を一直線上に走らせる。民家は焼かれ床は弾ける。飛翔するキメラはタイラントグリズリーの片腕に力を込めた。

 それはタイラントグリズリーの固有技能、地穿じうがき

 容易く地面に大穴を開け、巨岩を軽々と刳り貫くその技能は、ヒポグリフの紫電翼と合わさりパワー、スピード共に威力を増した必殺の一撃へと昇華する。

「護印結界ッ!」
「ふん!」

 ジョサイアが印を結び、全員を守るように薄金色の結界を作る。エキューデは屍霊魔術師の力を使い、地面から骨が組み合わさったドームを即席で作りあげる。

 しかし、それらの二つはキメラによって子どもが作った砂山の如く壊される。護印結界は紫の雷光に当たっただけで砕け、骨のドームはヒポグリフの翼に粉々と砕かれた。

「ファリス!」
「全く団長は~。手の焼ける子ですね~」

 ジョサイアの意図を理解し、呼び掛けに答えたファリスの身体がブレる。

 ファリスが発動したのは体術の技能のひとつ、瞬身しゅんしん。亜音速でファリスは移動し、ゼノ、エキューデ、ジョサイアの全員を引っ掴みキメラの前から回収する。

 全員を避難させた刹那、鼓膜を破く程の轟音が鳴った。

 キメラの地穿により大通りの一角に大穴が開けられた。まるで隕石が落ちて出来たかのような大穴。硝煙をあげて開けられたそれは、キメラの放った一撃の威力も痛感させるものだった。

「ちょ、おいまじかよ!」

 ゼノはあまりにのキメラの攻撃の威力に愕然とする。この二人はさっきまであの攻撃を受け止めようとしていたのか、と。
 咄嗟のジョサイアの判断とファリスの動きで難は逃れたものの、嫌な汗が背中から止まらない。

「あらら~団長はこれで約立たずになりましたね~これではお得意の結界魔法は視界を遮る紙も同然ですよ~」
「流石にその言い草は酷くないか?」

 ちょっぴりメンタルに傷が付いたジョサイア。しかし、キメラは自分の背後にいる仕留めそこなった四人を確認すると、脚から迸る電撃を放ち威嚇する。

「お前らまずいぞ、ジオ・ライトニングが来る!」

 キメラの挙動にいち早く気付いたエキューデが警報を鳴らす。

 直後、キメラが脚を滑らせた瞬間、摩擦と電撃が混じり、周囲一体の地面が別色へと染まる。

 雷の上位技能、ジオ・ライトニング。それは電撃を用いて地面に流し、地上の敵を纏めて感電死させる極めて危険なものだった。

「上に跳べ! アビスライトニング!」

 エキューデは手から黒い稲妻を迸らせると、地面に向かって打ち付ける。

 相殺。黒い稲妻がぶつかり合い、エキューデ達の周囲だけがジオ・ライトニングを打ち消した。

 逆に打ち消せれなかった地面からは雷柱が何本も立ち昇る。落雷とは逆に、天まで届いてしまう程の雷が雲を貫いた。

「なんだよあれ! って、それよりお前はどうしてあの化け物が使う技が分かったんだよ!?」
「む? 我は一度奴に使われている脚と頭の魔物とは戦ったことがあるからな。個体差はあると思うが、一通り使ってくる技能は分かるぞ」
「おいまて」

 ゼノとエキューデの会話を聞いたジョサイアが何か閃いたのか、全員に問い掛けを始めた。

「私は腕に使われている魔物を知っている。ファリスは?」
「私は翼なら知ってますよ~交戦経験はありますし~ヒポグリフです~」

 三人は残ったゼノを一斉に見つめる。

「消去法で俺ってか!? 悔しいけど知ってるよ! あいつの胸に使われている魔物は仙山の猿王だ!」

 その言葉を聞いたジョサイアは腕組みをしながら頷いた。

「これは.......。奇遇を通り越して運命だな。つまり、それぞれ魔物の情報を合わせ持ってるのか」
「ってことは、俺達全員の情報を合わせれば倒せるかもしれないってことか?」
「そうだな。というより共有しなければ倒すことは不可能なのだろう」
「なるほど~それより、また攻撃を始めようとしていますよ~」

 ファリスの言葉通り、キメラは大きく息を吸い込み胸を風船のように膨らませていた。

「おい銀髪女の腰巾着」
「流石にその呼び名酷すぎるからやめてくれる!? ゼノだよ、ゼノ!」

 あまりの名付け方にキレたゼノが唾を散らしながら捲し立てた。

「それよりあいつは今、何をしようとしている? 腰巾着なら知ってるだろう?」
「もっと酷くなった! ええい、多分気功法きこうほう響震きょうしんのコンボだ!」
「もっと詳しく」

 不明瞭といった様子のジョサイアがゼノに尋ねた。

「気功法は今やってるように肺の中に莫大な空気を溜め込む! 響震は身体中に残っている空気を全て放出して辺り一体を吹き飛ばすやつだよ!」
「えっと、それって結構不味くないですか~?」

 キメラの胸は既にはちきれんばかりに膨らんでいた。今にも爆発してもおかしくないぐらいに膨らんだそれは、全員の思考を焦らせる。

「ゼノ、ちなみに威力はどれぐらいだ」
「俺が戦った時は森中の木が全て吹き飛んだよ!」

 轟くような声をあげて、キメラは空圧の衝撃波を放った。

 大通りの床に亀裂が走った。否、亀裂程度では済まされなかった。

 360°全方向の波状攻撃。地面が捲られ、土塊と瓦礫を呑み込んで衝撃波は津波の如く押し寄せる。凡そ人如きでは防ぎようのない自然災害そのものだった。

「護印結界!」
剛雷一閃ごうらいいっせん!」

 ゼノは衝撃波を打ち消す為に、剣を抜刀して雷を纏った斬撃を目の前の空間に放った。エキューデとジョサイアは先程の一撃を防ぐ時に使った手を再び使う。

 ゼノの一撃で衝撃波は薄れたが殆どその威力は殺せなかった。ジョサイアの結界はぶつかってくる瓦礫の勢いをある程度は殺したが貫かれる。

「なんて威力だ.......だが!」

 エキューデの作った骨のドームまでも倒壊一歩手前だったが、屍霊魔術を発動し何百匹にものぼる下級のスケルトンやゾンビを呼び出した。それらは壊されるというよりも塵となって爆散したが、結果的にはキメラの攻撃を全て防いでいた。

「お前、もしかして巨大骸骨ジャイアントスケルトンの.......」
「そんなのは後ですよ~後々。団長~まだ来ますよ~」

 余波による土煙で隠れた思っていた全員だったが、キメラはしっかりと視界に捉えていた。

 脚に電撃を纏わせると物凄い速さで走り出す。あの上半身に対してか細い脚だけで身体を動かしているキメラは、まるで物理法則を無視した動きだった。

 ファリスは腰に下げた剣を抜刀する。いや、剣と呼ぶにはあまりにも細すぎる刀身に鋭く尖った先端を持っていた。

 レイピア、主に斬撃ではなく刺突を目的にして作られた武器である。

 ファリスのレイピアはオリハルコンと呼ばれる希少金属レアメタルの中でも最上級に当たる物で作られていた。引き抜くと同時に太陽の光に反射して、レイピアは黄金色の輝きを放つ。

「ビジョンスラスト」

 瞬身を発動したと同時に本気の刺突を行う。すれ違い様に一閃。一瞬でキメラの横面に移動したファリスは、神速の剣筋をキメラへと刺し込む。

 ブレイズレオの眼球に吸い込まれた一突きは脳まで貫く.......筈だった。

 ファリスの剣は届きすらしなかった。いや、ブレイズレオの熱量はあまりにも高すぎたと言うべきだろう。オリハルコンで作られたレイピアは、鬣に触れた瞬間に融解されて溶けてしまった。

「おっと~」

 目の前をうろついたファリスを叩き落とそうと、キメラはタイラントグリズリーの片腕を振るった。

 地震が起きたのかと錯覚してしまう規模の揺れが生じ、ファリスが先程までいた場所は底が見えない程陥没した。

 バックステップ、それに続く柔らかい身体を活かした大きな跳躍。キメラから一気に距離も取ったファリスは三人の元に戻っていき、普段では見せない焦った表情を浮かべていた。

「あれは反則ですね~いくら生物でも眼球貫けば死ぬと思ったんですけど~まさか攻撃すら出来ないなんて~」

 根元から溶けて使い物にならなくなったレイピアを投げ捨てて、ファリスは困った顔をする。

「ゼノ、顔が駄目だとなると心臓はどうだ?」
「おいおい、仙山の猿王の身体の中で一番頑丈なのは胸だぞ。剣も魔法も弾かれて終わりだ」
「翼も無理ですね~ヒポグリフの翼は常に暴風を纏っているので手も足も出ないです~」
「タイラントグリズリーの腕も無理だ。あれは奴の身体の部位の中で突出して硬化している」

 少し考え込んだジョサイアはエキューデに尋ねた。

「おい、じゃあ最後の脚はどうだ?」
「いや無理だろう。神速の雷豹の脚は常に高電圧の電撃が走っている。ブレイズレオの顔のようにガードはないが剣を切っただけで感電死一直線だ」
「ちょっと待ってくれ、それなら行けるんじゃないか?」

 エキューデの言葉に異議を唱えたのは他でもないゼノだった。

「どうゆう意味だ腰巾着?」
「腰巾着言うな! 少し待っていろ.......。電戯流走でんぎるそう

 突然バチバチとゼノの身体から青白い電気が溢れ出す。髪の毛が逆立てながらゼノは電気を全身に流し纏っていた。

「これは奥の手だ。身体中に電気を流して筋肉の動きを活性化させて通常時より格段に素早さを増す俺独自の技能。そして、この状態の時の俺は外部の電気は一切遮断する」

 その言葉にジョサイアは感嘆とした声を漏らして頷く。

「なるほど、今のゼノならキメラの脚を攻撃しても感電死は免れるという訳か」
「問題はどうやってゼノさんをキメラまで近付きさせることですね~」

 ファリスの疑問にエキューデとジョサイアはお互いの顔を見合わせた。どうやらどちらも同じことを考えついたらしい。

「それはあれだろう」
「ああ、それしかないな」

 二人はゼノを抱えてファリスの腕の上に乗せる。そう、それはよく物語で英雄や勇者が行う行為。

 すなわち、

「お姫様抱っこだ」
「いやおかしいだろ! 普通逆だろ!」

 自分の扱いに納得が行かないのかゼノは不満を唱えた。

「ゼノさん揺れないでください~そして重いです~もっとダイエットしてください~」
「ごめんね! 毎日自主トレして筋肉付けててほんとごめんね!?」
「これでよし、我と赤髪は援護だ。行けるか?」
「行けるか、か。やるしかないの間違いじゃないのか?」
「おい無視すんなよ! ってこれもう決定事項なのかよ!」
「そうともいうな」

 二重の意味である。

「団長、合図をお願いします~」

 キメラの喉が赤熱化した。口内は真っ赤に灯り、獄炎が溢れ出す。火の上位技能、メギドブレイズ。ブレイズレオの代名詞でもあり、触れたものを原型を一切留めることもなく炭化させる必殺技であった。

「今だ、行くぞッ!」

 ジョサイアの合図で全員は一斉に駆け出した。ゼノを抱えたファリス瞬身を使い高速で走り出す。

 ファリスの動きは早かった。しかし、ゼノを抱えているせいか先程の速度よりは遅い。かろうじて肉眼で捉えることができるまでに落ちていた。

 ボオッとキメラの口から巨大な火の玉が吐き出される。メギドブレイズ、触れたら最後、超高音の灼炎で跡形もなく焦がされる獄炎。

 身体を傾けてファリスはそれを避ける。すぐ後ろの地面が爆発して背中を爆風が押した。その勢いすらも利用してファリスは更に速度をあげて加速する。

「護印結界!」

 次こそはファリスを仕留めようと、タイラントグリズリーの腕を振り上げたキメラは違和感を感じた。なんと振り上げた腕に薄金色の膜がいくつも重なり合い、空中で固定していたからだ。

「ぐっ.......!?」

 なんとか動かそうとキメラは腕に力を込めるがビクともしない。その代わり、ジョサイアは全身から汗を流して息を荒らげていた。結界魔法の多重展開、そして維持による体力と魔力の激しい消費。キメラからして見れば身体の一部位が縛られているだけだったが、ジョサイアからして見れば結界を維持するのでやっとだった。

 片腕を使えないと判断したキメラはもう片方の腕を振り上げる。しかし、振り上げた瞬間にまたもやキメラは押さえつけられるような違和感を感じた。

「悪いな、我のお願いだ。そのままじっとしていろ」

 キメラの残った片腕には骨の塊がくっ付いていた。地面から突如出現した骨。それは複雑に蜘蛛の糸のようにキメラの腕に絡み付き、動きの自由を奪っていた。

「行きますよ~。そーれ~!」

 キメラの眼前に躍り出たファリスは腕に抱えたゼノを乱暴に投げ捨てる。おまけに背中の辺りに強めの蹴りも入れといた。

「ぐわっ! おまえら全員後で覚えていろよこんちくしょう!」

 放り出された挙句蹴り飛ばされたゼノは凄まじい速度で地面を滑走する。

 ガリガリと地面を削りながらゼノは一箇所に狙いを定める。

 狙うは脚、肩に掛けた剣を握ると勢いよく抜刀した。

「剛雷一閃!」

 バチバチと青白い稲妻が地を這う。

 乾坤一擲けんこんいってき

 高速で放り出されたゼノの剣閃は神速の雷豹の脚を裂き、キメラの身体が確かに傾けた。


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