ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-57 おじさんだ!


 2-57 おじさんだ!


 -エルクセム王城内- ???

 とても暗い部屋だった。コポコポと試験管からは得体の知れない緑色の液体が泡立ち、机の上には大小様々な魔物の死体がホルマリン漬けにされビンの中に入れられている。

 その陰気臭い部屋の中に、部屋の雰囲気とはとても似つかわしくない少女、否幼女がベッドに横たわっていた。
 白く清潔感のあるエプロンを着こなし、栄えるように明るい水色の髪の、まだ十歳にも満たない幼女が。

 幼女はコポコポと泡立つ試験管の音で目を覚ました。起き上がろうとするが、腕に格子か何かで拘束されているようで起き上がれなかった。これは腕のみならず足も同様だった。

 視線を横に逸らすと金属性の手錠のようなものが腕に嵌められており、ベッドから起き上がれないようにされてあった。

「目が覚めたか」

 上から少し老けた男の声が耳に入った。幼女は声の聞こえた方角に目を向ける。男の後ろ姿は銀髪で、五芒星の描かれたマントを羽織っていた。

 ユリウス=ナサニエル、張本人だった。

 ユリウスは手を忙しく動かしてカチャカチャと音を立てながら、幼女のすぐ隣に薬品を並べていく。
 気付けば幼女の寝ているベッド隣には既に刃物やら薬液やらが数多く並んでいた。幼女はそれらには見覚えがあった。なにせ彼女自身がよく使っているものだからだ。それらは手術用のメスと消毒液だった。

「じっとしていろ、『特異点』。今からお前の力の源を抜き取るだけだ」
「とくい.......てん.......?」
「なんだ? 自分の事も知らなかったのか? まあいい。知っててもどうせ意味はないからな」

 ユリウスはさもどうでもいいと、ぶっきらぼうに言い、並べられた大量の手術道具の中から薄黄色の薬品を手に取った。

 幼女はユリウスが手に取った薬品を見て目を見開く。

 ユリウスが今握ったのは大型の魔物ですら軽く昏倒させる麻酔注射。それは、いささか人間に使うには部相応な劇薬だった。

 注入量を間違えれば麻酔と言えど人一人を殺すのには充分な猛毒となる。幼女はそれに気付き、必死に抵抗しようともがくがガチャガチャと四肢から音を鳴らすだけで何も出来なかった。

 抵抗はむなしく、幼女は腕の裾をまくられ、小さく、鋭い痛みを腕に感じた。麻酔が静脈の中に入っていく。酒に酷く酔ったかのような酩酊感と深い眠りに落ちてしまうような倦怠感に襲われる。

 このままでは不味い、と自身の命に関わる危機感を幼女は覚えた。

 幼女は麻酔の効き目を遅らせる為に血流を遅くしようと試みる。やり方はポンプの役割である心臓の鼓動をゆっくりと遅くする方法だ。
 血流が早ければ早い程、静脈に打ち込まれた麻酔が早く身体に回ってしまう。呼吸を食事をチビチビと食べるようになるべく浅く、短く行えば自然と鼓動は遅くなる。

 薬学と人体学優れた知識を携え、薬草師だが医者の役割を日々担う彼女だからこそできる離れ技であった。

「さて、取り除くとしようか」

 ユリウスは幼女のエプロンを脱がし、おもむろにすぐ側に置いてあったメスを手に取った。

 自身に向けられたメスの刀身が光に反射し、銀色に鋭く輝く。

 いつもは怪我人の治療をする為にメスを向ける彼女であったが、まさか自分自身にメスを向けられる日が来るとは甚だ思いもしなかった。

 幼女は痛みを覚悟して目を瞑った。

 幸か不幸か、ユリウスが打ち込んだ麻酔は痛覚麻痺の効果が非常に強力であり、打ち込まれた瞬間から幼女は痛覚を失い痛みを感じれない身体となっていた。

 ユリウスの手からはメスが振り下ろされ執刀される。それは垂直に幼女の身体へと突き刺さる。

 かに思えた。

「.......がッ!?」

 グサッ、と鈍い音が聞こえ血飛沫が飛んだ。

 しかし、それは幼女の物ではなかった。

 幼女はおそるおそると、ゆっくりと目を開ける。自分の胸から腹にかけて血がべったりと付着しているが、彼女のものではない。

 紛うことなき、ユリウス自身のものだった。ユリウスの手は真っ赤に濡れて、突然の痛みに思わずメスを落とし、反対側の手で血が滴る手を抑えていた。

 凶刃は幼女の身体には届かなかった。そして、何故かメスを振り下ろそうとしたユリウスの手に石棘が突き刺さっていた。

 自然界ではありえないほど鋭利に尖った石棘。それはユリウスの手の甲を貫通し、常人から見れば、中指をもう二度と使えない状態にまで傷付けるまでに至っていた。

「誰かが言った」

 トン、トン、と石を金属で踏む足音を響かせて男の声が二人の耳に入ってきた。

「泣いた子がいれば駆け付ける。助けを求める声があれば駆け付ける」

 ユリウスはなんだこの臭い台詞は、と思った。
 幼女は、まさか、と期待を胸に心を踊らせた。

「子どもを愛し、人知れず平和を守る正義の味方!」

 暗い部屋の扉が開かれてシルエットが姿を現す。伸びた影は、エルクセム騎士団の中でも第三騎士団の団長とも思われる渋めのデザイン甲冑だった。

 部屋に射し込む明光が彼を照らす。年季が入ったあの皺、茶髪の頭髪、それは正しく日々王都の平和を長年守ってきた『彼』であった。

「助けを呼ぶ声を聞き、疾風の如く颯爽と参上!」

 石で作られた大剣を手に彼は叫ぶ。

「おじさんだ!!!!!!!」

 誰かが言った。第三騎士団長は末期の重度のロリコンだと。

 誰かが言った。彼は何度も騎士団長の癖に何度も牢にぶち込まれていると。

 そう、彼こそがエルクセム第三騎士団長にしてロイド=ツェペリ本人だった。

「覚悟しろ! 幼い子どもに手をかける性犯罪者め! このおじさんが直々に成敗するッ!」

 ロイドは石の大剣をユリウスに突き付けて吠えた。悪(幼い女の子を傷付ける人間)を憎み、子どもを愛する正義の意思(ロリコンの本能)でロイドの心は燃え上がる。

 今まさに、己の股間に従い剣を振るう漢がユリウスの目の前に立ち塞がった。

 ユリウスは心の中でこう思った。

 お前が言うな、と。


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