ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-54 魂の再点火



 2-54 魂の再点火イグニッション


 目が覚めた。

 気付けば私は元の真っ暗闇の空間へ戻っていた。

 これが、黒い私が見せたかった過去。

 エドガーを失い、何も出来なかった私。失意のまま、明確な答えも出せないまま、ずっと彷徨っていた私。

「完全に思い出したか?」

 完全に思い出した。これが、私の後悔の記憶だ。掴めたはずのエドガーの手を掴めなかった、愚かな私の過去だ。

 あの後、兄のジョサイアは大火傷を負いヴィクトルは死ぬこそ免れたものの二度と歩けない体となった。いや、むしろそれだけで済んだ方が奇跡なのだろう。

 ヴィクトルはあんな人間でも位の高いの貴族だ。私の両親は責任を取らされ、苦渋の選択として私から貴族の位を剥奪し家から追放した。

 そのまま私はネメッサの街に流れ着き冒険者となった。騎士なれかった私がなれた唯一の職業だった。

 これが、私の人生の全てだった。

 依頼をこなしその日その日の小銭を得ながら生活をする日々。おまけに妹に頼らなければいけない時も何度かあった。我ながら、情けない暮らしをしたいた。

「そうか、思い出したか? そうだよなぁ? 結局は騎士になれず冒険者なんて仕事をして、これまでのうのうと負け犬のように生きてきたよなぁ?」
「..............」

 私は何も言い返せなかった。その通りだった。

 騎士と冒険者。それは天と地の差。

 片や安定して収入を得、民を守る為に働く職業。
 片や不安定な収入で、自分自身の為に働く職業。

 まるで正反対だ。真逆と言っても言いぐらいに。

「だからさ。もう私がお前に変わるよ。選手交代だ、負け犬」

 瞬間、凄まじい衝撃を受けて私は紙屑のように吹き飛ばされた。床に何度も体を跳ねさせながら落ちていった。

 不思議と体は痛くない。しかし、胸というか、心が縄できつく締め付けられ、激痛が走る。

 呻き声を漏らしながらなんとか立ち上がるが、激しい動悸と眩暈がする。気付けば息が乱れていた。足元がおぼつかない。立っているのがやっとだった。

「ぐっ.......。なんだ、これは.......?」
「驚いたか? ここの空間は普段のお前が暮らしている世界とは違う。言わば精神だけの世界だ」
「精神だけの世界.......?」
「攻撃されても肉体的なダメージは受けないが、精神に傷が付く、いや、魂が損傷する、と言えば分かりやすいか」

 魂の、損傷.......?

 思わず自分の身体を見ると淡い燐光が溢れ、空へ登っていた。

 まさかこれが魂が損傷した現象なのか。気の所為か身体から力が抜けていく気がする。

 この燐光、例えるならば血液と一緒なのかもしれない。燐光が私から漏れれば漏れるほど、死、つまり魂の消滅に繋がっている可能性が高い。

「お前は一体.......」
「おっと、これまでの流れでよく分からなかったのか? 私は言わば失大罪スキルの影響で生まれたもう一人のアシュレイ=マルティニスという人格なんだ」

 黒い私は私を見て、悪寒が走る程のゾッとする酷薄な笑みを浮かべた。

「なあ、一つの体に二つも人格は要らないだろう? だから古いお前には消えて貰わないと困るんだよ」

 こいつ、私を殺すつもりだったのか。いや、乗っ取ると言った方が正しいのか。

 私が受けた失大罪スキル『悔恨かいこん』。その能力は対象にもう一人の人格を形成させ、乗っ取らせる能力。

 黒い私が駆ける。腰に手を当てて剣と重砲を探るがどちらとも無かった。私は丸腰のまま迎え撃つ。

 体術と体術が交差する。技量は全く同じだった。

 同等の身体能力、同質の戦闘経験。

 黒い私は言わば私そのものだ。認めたくないが、まるで自分自身と戦ってるみたいだ。

 拳がブレる。それは恐ろしく速い殴打だったが、私は身をずらして避けて、その手首を逆に掴む。

 だが、脚を蹴飛ばされ、バランスを崩したところに肘打ちをもろに食らって転がってしまう。

 いかにも私が考えそうな事だった。

 技量は同等。しかし、明らかに違うとすれば私だけ動きがぎこちなかった。

 身体が重い。黒い私は普段地上で戦ってるかのような軽快な動きに対し、私は水の中で戦ってるような鈍重な動き。

 水底で戦っている、そんな体験した事がない感覚に陥りながら戦っていた。

 思うように身体が動かない。自分でも驚くほど拳が遅かった。

「はははっ! 遅い遅い! まるで止まって見えるぞ? 動きが鈍い! 鈍すぎるぞ!」

 隙をつかれ、顎を蹴り上げられ不様に吹き飛んで床に転がされる。

 自分の身体に目を向けると、ボトルを開けたエールのように、燐光が煌びやかに光ながら立ち上っている。

「うぐっ.......。はぁ.......はぁ.......」

 呼吸が苦しい。締め付けるような痛みは激しさを増した。立ち上がるのがやっとだった。フラフラと千鳥足になりながら立っているのが精一杯だ。

「苦しいか? 苦しいよなぁ? ふっふ.......ふははははははははは! 言ったよなぁ? ここは精神だけの世界だって。つまり、この空間では心の在り方によって強さが変動するのさ!」

 心の在り方? まさか.......、

「お前があの記憶を見せたのは.......」
「ご名答。悔しいが私はお前をベースに形成されている。だから実力はそれ以下でもそれ以上でもない。全く同じなんだよ。という訳でさ、自分と全く同じ実力持つ人間と正々堂々と勝負するより、弱らせるなりして戦った方が有利だろう?」

 こいつ、それを理解してわざわざ私の記憶を掘り起こしたと言うのか。姿形、中身の実力までも一緒だが性格だけは唯一違っていた。性根だけは腐っている。

「ははっ! もう遅い! 手遅れだよ、お前は!」

 近付いてきた黒い私は不可視の殴打を私に浴びせる。腕で防御するが力任せにこじ開けられ、腹部に重たい一撃を貰って蹲った。

「かはッ.......!?」

 これまで感じたことの無い痛みが私を襲う。全身の神経を無理矢理引きちぎられているかのようだ。燐光が大輪を咲かせて散る。さながら花火と比較しても遜色がない程に。魂の損傷。それは、想像を絶する苦痛だった。
 
「終わりだ。過去に縛られて何も変われない私なんて要らない。さっさと消えろ」

 視線を逸らし、上を見ると、黒い私の腕に漆黒が蠢いた。ぶくぶくと何も無い虚空から不規則な動作で隆起が起こり、いつの間にか漆で塗りたくったかの様な真っ黒な剣が握られていた。

「あばよ、負け犬」

 .......。

 ..............。

 剣が振り下ろされる。

 不快な音を立てて、肉を抉られる感覚。

 それが、私に伝わった。

「たぶん、今でもまだ私は弱いままだ.......」

 私は振り下ろされた剣を掴んでいた。掴んだ手からは流血の代わりに燐光が噴き出している。

「でも、時間が経って、ウェルトと出会って、少しだけ、ほんの少しだけだけど変われたんだ」

 流れ着いたネメッサの街で、私はあれからずっと過去を引きづって生きていた。
 
 酷く味気ない生き方だった。冒険者としての生き方は私にはそれなりに合っていたが、何処か心が満たされなかった。

 だけど、ウェルトと出会ってから、途端に色のない世界に鮮やかな色が付き始めた気がする。足りなかった物が付け足されたような感覚だった。

 最初の頃は見ていてどうしようもないやつだと思っていた。けど、自分でも気付かない内に一緒の時間を過ごすのが楽しかったんだ。

「エマが背中を押してくれていた。ウェルトがあの時が止まったままの時間から手を引いてくれた。みんなのおかげで、ほんの少しだけだけど、私は確かに変われたんだ。どんなに辛い過去があっても、また足を踏み出せれるようになった。また、歩き始めることが出来たんだ」

 顔も、性格も、ウェルトとエドガーは何処も似ていない。だけど、上手く言い表せないけど、雰囲気だけはよく似ていた。

 どうしようもないロリコンで、 たまに人間としてどうかと思う行動をするけれど根はお人好しで、困っている人間を放ってはおけない奴だった。

 貪食の食人鬼がネメッサの街に襲来してきた時、普通の人間ならば逃げる選択肢を迷わず選ぶ筈なのに、ウェルトは街に残る選択肢を選んだ。

 過去の記憶を改めて見せられ私は思う。 もしも、エドガーがウェルトと同じ立場だったとしても同じ選択肢を選んでいただろう、と。

 だからなんだろう。ウェルトと一緒にいるのが心地良かった。失ってぽっかりと空いた物が埋まっていた気がしていたんだ。

「だから、やっと分かったんだ。残された私がやるべきことが」

 -条件を達成しました-
 -サブクラスを解放します-
 -サブクラスを検索-
 -サブクラス『火道師かどうし』が見つかりました-
 -サブクラスを『火道師』に設定しました- 
 -獲得条件を満たしているので該当のスキルを獲得します-

 頭の中でアナウンス世界の声が響く。

「もう二度と同じ過ちを犯しはしない。二度と、大切な仲間を失わさせたりなんかさせない」

 心の在り方でこの世界では強さが変動する。

 気付けば黒い私が振り下ろした剣は、私の手によって砕かれていた。

 これが、残された私がやるべき事なんだろう。

 すまない、エドガー。そしてエマ。こんな簡単な事に気付くのに何年も掛かってしまった。

 いや、ウェルトと出会ったからこそやっと気付いたんだろう。独りよがりで過ごしていた私に、手を差し伸べてくれたから人間だからこそ。

「これが、私のこれからの約束だ。そして、あいつエドガーは言っていたんだ。私には『木刀を振り回している方が似合っている』って。だから私は誰かを護るためだけに力を振るおう。あいつに代わって、果たせなかった夢を背負って。これが、私とあいつとの約束だ」

 アナウンス世界の声は私に呼び掛けた。

 -スキル『覚醒』を獲得しました-

 私は黒い私に向かって呟いた。

「『覚醒』、発動」

 

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