ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-45 灼熱の記憶の欠片 4


 2-45 灼熱の記憶の欠片 4


 山頂に着き、お昼ご飯を食べ終えた子ども達はそれぞれ思い思いのままに自由時間を過ごしていた。私達も原っぱの上で雑談に興じていたが、その時間は唐突に終わりを告げる。

「それでは今から模擬戦を始める! いつも通り、山頂に一番早く着いた三人組から順に整列し、横の人間が対戦相手だ! 以上!」

 教師の一人が大声を張り上げて号令を掛ける。そう、模擬戦の開始だ。

 私達はのろのろと移動を開始した。辺りが騎士団訓練プログラムの子ども達でごった返すが、私達は迷わず端っこの位置に着く。迷う筈がない、何故なら一番山頂に遅く着いた三人組は私達だからだ。

「うぅ.......すみません。最下位の人は基礎体力を作る為にグラウンド十周させられるなんて知らなかったです。私のせいで二人にとばっちりが.......」
「なに、グラウンド十周ぐらい屁でもない。気にするな」

 ドレムは申し訳なさそうな顔で誤ってくるが、私は気にせず、朗らかに笑い返す。

 登山の訓練では最下位の人間に十周させるルールがあった。まあ、納得は行く。一番遅く着いた人間はその分体力作りが出来てないわけで、体力を付けるためにグラウンドを十周させるのだろう。基礎体力は騎士にとっは重要な要素だ。それを怠ってはいけないと教えてくれる。

「ああ! うっかり言い忘れていた!」

 子ども達が蜘蛛の子を散らすように溢れかえっている中で、不意に号令を掛けた教師が声をあげた。

「有志の証言により第二期生のヴィクトルが不正を行っていたことが判明した! 騎士見習いとして、模範的ではない行動を取ったことに関しては然るべき裁量を与えねばならん! という訳でヴィクトルを含め、ヴィクトルと組んだ奴は最下位扱いとする!」
「うおおおお! やったな! グラウンド十周無しだぜ!」

 横でエドガーがガッツポーズを掲げ、満面の笑みを向けた。

 なるほど。ヴィクトルが不正した罰をグラウンド十周にした訳だな。ヴィクトルと組んでしまった二人には、これこそ本当のとんだとばっちりだが。

 それに加え、ヴィクトル達を最下位に扱いにしたことはヴィクトルの不正を先生に証言した私達の計らいでもあるだろう。最下位をヴィクトルに与え、私達のグラウンド10周を無しにする。なるほど、中々いい裁量だ。

「おっと、残念ながらエドガー達も最下位扱いだ。ちゃんとグラウンド10周走ってもらうぞ」

 .......どうやらそれは杞憂に終わったらしい。ドレムを見越してか、グラウンド10周は無くならないようだ。

「うへぇ」
「えぇ.......」

 ドレムとエドガーがそれぞれ嫌そうな顔で呟いた。横にいた私も同感だった。

「おい! そこのお前!」

 私達が苦虫を噛み潰した顔を揃えている時、不意に聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 振り向いてみれば、噂のヴィクトルが顔を茹でタコのように真っ赤にし、私を睨み付けていた。

「私か?」
「そうだ! お前だろ、先生にチクッた奴は!」

 ヴィクトルは自分が不正した事がバレて怒られたのが不満だったらしい。それで己の不正を暴いた私達に怒りの矛先が向いたようだ。まあ、流石に不正を見ていたのは私達しかいないので鬱憤をぶつける先は私達しかいないだろうが。

 それにしても救いようがないというか、勘違い貴族の馬鹿さ加減に呆れたというか.......。

「アシュレイさんどうします? この手の輩は執拗い人間が多いですよ」

 私はやれやれと頭を掻きながらヴィクトルの前に出てくると、観念したように溜息を吐いて言った。

「そうだ、お前の不正を報告したのは私だ」
「やっぱお前か.......! ただで済むと思うなよ!」

 私の告白にヴィクトルは怒りで顔を歪ませると、地団駄を踏んで険しい剣幕で睨み付けてきた。

 今にも取っ組み合いが怒りそうな一触即発の空気。しかし、それは数秒後に霧散した。

「それではこれより模擬戦を開始する! 正々堂々、騎士見習いとしの自覚を持って挑むように! 始めッ!」

 模擬戦の開始の合図が出され、ヴィクトルは舌打ちして私の元から去っていった。



 ◆◇◆



「それではこれより模擬戦を開始する! 正々堂々、騎士見習いとしの自覚を持って挑むように! 始めッ!」

 いよいよ私達とヴィクトル達の模擬戦が始まりを告げた。ヴィクトル側の先発は体躯よい男の子からだ。のっしのっしと木刀を担いで歩き、前へと出てきた。

「模擬戦の開始だ。誰から行く?」
「何言ってんだよ! 俺からに決まっているだろ!」

 その一言で私達側の先発はエドガーに決まった。この無鉄砲さがなんともエドガーらしい。

「そうか、期待してるぞ」
「へへっ。おい、アシュレイ。お前の番はないぜ! なんせ俺が三人纏めて滅多打ちにしちまうんだならな! 審判! ここでは初めてだけど今日もよろしくな!」

 エドガーが三人抜きの勝利宣言を行うと、ドレムの肩を叩き、腕を引っ張って前に連れていく。

「いつもながら審判は私ですよね。確かに審判の方が合っていますが」

 ドレムはむすっと頬を膨らめるが、毎度の事なのでもう気にした様子は無かったようだ。

 エドガーと対戦相手に挟まれるような中間の場所にドレムは着くと、メリハリの効いた声で腕を振り上げた。

「それでは両者、構えて!」

 ドレムの掛け声でエドガーと対戦相手は同時に木刀を構えた。いつもながら、この瞬間だけはやけに緊迫する。

「始め!」

 結果から言うと、呆気なく終わった。

 最初に仕掛けたのはエドガーだった。木刀を腰溜めに構えて走り、素早い一閃を対戦相手の木刀に打ち付けた。

 木と木がぶつかる乾いた音が響く。エドガーは打ち付けた木刀を横に滑らすと、そのまま流れに沿って対戦相手の手に打ち落とす。

 対戦相手は痛みに耐えられず木刀を落としてしまう。それを好機と捉えたエドガーは、落とした木刀を片足で蹴っ飛ばし、拾えなくした後、相手の首に木刀を突き付けた。

「勝者! エドガー!」
「俺の勝ちだ!」

 エドガーは喜々した表情で笑った。普段は一方的にやられているエドガーだが、その実力は同年代の子ども達よりも群を抜いている。
 加えて、相手の力量を見るに、まだ模擬戦と言えど戦闘慣れはあまりしてないようだ。エドガーが容易く勝利を納めるのは自然のことだろう。

「よし、次の相手はお前だぜ! かかってこい!」

 勢いに乗ったエドガーは次は背の高い男の子に指をさして指名した。エドガーのことだ、どうやら本気で三人抜きを目指している。

「う、うす!」

 呼ばれた男の子は早足で前に出向きエドガーと対峙した。

 一目見れば身体がしっかりと作られていて、木刀の構えも中々様になっている。これは少しばかり手強そうだ。

「両者、構えて! .......始め!」

 今度は対戦相手の方からエドガーに仕掛けてきた。木刀を振り抜く構えを取ったまま駆け抜け、エドガーに打ち付ける。

 今度の対戦相手はかなり出来る奴だが、エドガーとて負けてはいない。打ち付けられる木刀を巧みに弾くと、がら空きになった身体を軽い一撃だが確実に撃ち込んで行く。

 エドガーは無鉄砲な性格だが、戦闘では一転して、冷静に行動が出来る人間で、堅実な戦い方も、エドガーにとっては得意分野だ。

 自分の攻撃が一向に当たらず、エドガーの攻撃だけが当たることに痺れを切らした対戦相手は唸り声をあげて大振りの一撃を放った。

 そして、それが仇となった。

 エドガーはひょいと地面を蹴り飛ばして後ろに避けると、今度は木刀を使って一直線の突きを放った。

 鋭く、重い突きは対戦相手の腹部に直撃し、足を浮かせて勢いのままのぞけった。
 尻餅を付いた対戦相手の首に木刀を向けて、二戦目の模擬戦もエドガーの勝利に終わった。

「勝者! エドガー!」
「へへっ! どんなもんだい!」

 エドガーは私にブイサインを向けて勝利のポーズを取る。二人抜きをしたエドガーは、最後に残ったヴィクトルに木刀を向けた。

「さーて、次はヴィクトル、残るはお前だけだぜ!」

 ヴィクトル側の二人がエドガーに敗れたことにより、残るはヴィクトルただ一人となった。

「い、嫌だ!」

 しかし、ヴィクトルはエドガーと模擬戦を行うことを拒否してしまった。

「なんでだよ?」

 「お前は強いから戦いたくない! 俺が戦うのは.......後ろでのんびり観戦している赤髪のお前だ!」
「まじかよっ!? お前、本当にいいのか? 考え直した方がいいぞ?」

 ヴィクトルの答えにエドガーは愕然とする。

「うるさい! 黙れ黙れ!」

 有無を言わせない態度のヴィクトルに、自分と模擬戦は行えそうにないと判断としたエドガーは、つまらなそうな顔をして早々に諦めて奥に引っ込んでいった。

「ちぇっ、あれじゃ三人抜きの目標が台無しだぜ」

 エドガーが口を尖らせて私に木刀に投げて寄越す。

「残念だったな。まあ、あの様子では仕方あるまい」

 私は投げられた木刀を受けてると、ヴィクトルの面に向かって対峙した。

 ヴィクトルはぎこちない構えで木刀を私に向けると、苛立ちの混じった表情で前に進み出た。

「俺は『ただて済むとは思うなよ』と言った。この言葉、覚えておけよ」
「そうか」

 ドレムが私とヴィクトル、それぞれの剣呑な雰囲気に挟まれておろおろするが、意を決して声をあげた。

「それでは両者構えて、」

 私もドレムの合図と共に木刀を構える。見据えるヴィクトルは今にも飛び掛ってきそうだ。

 一瞬の静寂に包まれた場。それは、ドレムの次の掛け声で、その異様な空気を変えさせる。

「始めッ!」
「野郎ぶっ殺してやるううう!!!」

 ドレムの合図に従ってヴィクトルが動いた。

 とても模擬戦で発言するとは思えない言葉を発しながら、ヴィクトルは木刀を袈裟懸けに振り下ろす。

 だが、その動きは拙い。例えるならば幼い子どもが闇雲に剣を振り回しているみたいな、そんな動きだった。

 当然、一切技術が組み込まれていないヴィクトルの一撃なぞ当たらない。早々に見切った私は身体を少しずらし、ヴィクトルの一撃は私を捉えられず空振りし、空を切った。

「動くと当たらないだろうっ!?」
「普通避けるのは当たり前だろ」

 私は飄々と答えてヴィクトルへと木刀を振るう。

 放ったのは軽い横凪。牽制のつもりで、エドガーでも簡単に避けれるような一閃を放った。

 私はまあ、ヴィクトルが剣を使って弾くなり、止めるなりして防ぐと考えていた。
 
 それはいとも簡単に裏切られる。ヴィクトルが取った行動に私は唖然とする。

 私の木刀に対して目を瞑ったのだ。まるで迫る木刀に対して恐怖を持ち、恐れたかのように。

 流石に勘違い貴族でも教師を雇って剣の訓練を受けている筈。そんな行動を取るとは、私は考えていなかった。

 私は咄嗟に木刀を振るう腕を止めようとしたが間に合わず、勢い殺せていない一撃がヴィクトルに直撃する。

 バキッ。

「あがあああああああああ!!!!!」

 木刀を受けたヴィクトルが、大袈裟な声を上げてその場でのたうち回る。
 木刀を落とし、痛い痛いと泣き叫びながらヴィクトルはごろごろと転がった。

「だから言っただろ。『お前、本当にいいのか?』って。アシュレイは誰が相手でも容赦しないからな」
「いや、結構軽めに放ったんだが」

 いつの間にかエドガーが出てきて、可哀想な目でヴィクトルを見つめていた。


 ◆◇◆


 模擬戦が終わってグラウンド十周をさせられた後、ヴィクトルは一人誰もいないところで悪態を着いていた。

「ちくしょうちくしょうちくしょう! なんだよあの女! 俺はヴィクトル様だぞ! 偉いんだぞ!それなのにこの俺を散々馬鹿にしやがって!」

 この時、ヴィクトルも含めて誰しも予想はしていなかっただろう。

 この切っ掛けが、エドガーの人生にひずみを入れてしまったことに。


コメント

  • ノω・、) ウゥ・・・

    年末も近くリアルが多忙な為、次回の更新が出来るか分かりません。
    出来るように努力はしますが……次回の更新が無かった場合は察してください(ノω・、)

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