ろりこんくえすと!

ノω・、) ウゥ・・・

2-42 灼熱の記憶の欠片 1



 2-42 灼熱の記憶の欠片 1


 気が付くと私は何も無い真っ暗闇の空間の中でポツンと一人立っていた。
 自分の腕すら視認出来ない程の深い闇。完全なる暗闇の中で、どくん、どくんと波打つ心臓の鼓動と、私が歩く足音だけが聞こえてくる。

 失大罪スキル『悔恨かいこん』の影響なのは間違いない。あの不気味な光に当てられて、私は何処か違う場所に飛ばされたのだろう。失大罪スキルは謎が多いとエマから聞いていた。もしかすれば転移魔法の類いなのかもしれない。

 それにしてもやけに真っ暗で何も無い空間だ。足元は凹凸がなく、滑らかで平らな床だ。まさかと思うが.......ダンジョンに飛ばされたなら厄介だ。

「やあ、」

 突如、思考に耽る私の耳元に後ろから声を掛けられた。ゾッとするような低くてやけに響く声。私は即座に振り向いて体勢を構える。

「そんなに驚くなよ。私は私だ」

 振り向いて声の主を視界に捉えた途端、思わず私は目を見張った。そこに居たのは私の輪郭を象った黒い影だった。私と同じ髪型に、私と同じ服装を携えた黒い影。

 言い表すならばこの空間に蔓延る闇よりも一線を越えた闇。その影響なのか、真っ暗闇の中でも一際目立っていた。

 黒い影は私を見つめてニヤニヤと笑っている。口元は見えないどころか顔すら視認することは叶わなかったが、何故か不思議と分かってしまった。

 突然の出来事に困惑する私に対し、黒い影はニヤニヤとしばらく笑った後、静かに口を開いた。

「さっき言った通りだよ。私は私。アシュレイだ」

 自分の名前を言い当てらたことで背筋が凍る。

 なんだ、この得体の知れない存在は。

「おっと、分かりやすく言うとそうだな.......人間は誰しもが表と裏、二つの面を持っている」

 黒い影は私の顎に手を当てて、薄く笑った。

「表の私が私の目の前いる私だ。まあなんだ、つまりお前だ。普段みんなに見せているアシュレイ=マルティニス。ああ、悪い。貴族の戸籍は剥奪されたただのアシュレイだったな。それがお前だ」

 嘲るような、見下して小馬鹿にするような、そんな言い方をしてケラケラと黒い影は笑った。

「そして、裏の私が私だ。過去の過ちに今でも後悔し、足を踏み出せないままでいる私。ずっと死んだ人間のことを引きずっている私だ」

 その一言で、私の心中で激情と悲哀を孕んだ感情が溢れかえる。

 「黙れ」、「違う」。様々な言葉が口から出てきそうになった私の口を押さえて、黒い影は指を鳴らした。

「それを、今一度鮮明に思い出させてあげよう」

 刹那、暗闇に光が差し、世界に色彩が与えられた。



 ◆◇◆



 闇が晴れていく。
 世界に色彩が与えられ、色鮮やかな光景が目に映る。

 そして、目の中に飛びかんできたのは幼い頃の私だった。

「うわあああああああん!!! アシュレイちゃんがまた私のお人形壊したうわあああん!!!」

 沸き返るような子どもの叫び声を身に覚えた。目に飛び込んできたのは、泣きわめく女の子どもと、千切れて綿が飛び出た人形を抱えている幼い私。

 いや、それだけではない。私の成長の過程を幾つもの絵に書いて流れるように見ているかのようだ。

 私は幼い頃から不器用だった。それなりの高い位の貴族に産まれ、優しい母と厳かな父、そして子どもの頃から優秀な兄に囲まれて育っていた。私が産まれた当初はこの四人で暮らしていて、確か私が九歳の時、妹のエマが産まれた筈だった。

 私は物心が付いた時から女らしくなかった。周りからの評価は『男らしい』、『男勝り』と言ったものだ。聞こえはいいが、一番妥当な表現は『粗暴がさつ』の一言だろう。

 同世代の貴族の女の子達は皆、ドレス等のお洋服に興味があり、お菓子を食べながらお茶会をし、貴族の嗜みであるダンスや歌唱、淑女としての食事やのマナーを学ぶ為に勤しんでいた。

 対する私はそんなものには全く興味が無かった。毎日木刀一本担いでは路地裏にたむろする近所の悪ガキ共をしばきあげ、傷だらけになって帰ってきた。同世代の女の子とお人形さん遊びよりも男の子とチャンバラごっこをする方が楽しかった。ダンスや歌唱を行うよりも木刀を振るっていた方が楽しかった。そんな他とは変わった子どもだった。

 すくすくと成長し、十代になったぐらいの頃、私はまだ幼いながらも騎士に憧れを感じていた。元からこんな性格だ。他の貴族の男に嫁いで暮らすなんて考えらず、素敵な殿方と幸せな家庭を築いている自分が想像出来なかった。それに、騎士ならば粗暴な性格な私でも両親に親孝行が出来ると考えていたのもある。

 十二の齢。私は騎士団訓練プログラムに参加していた。両親は特に反対はしなかった。私に普通の貴族産まれの女の子の人生を歩ませることに、初めから諦めていたのだろう。元々、私の家系は騎士の家系だ。父親も騎士で、兄のジョサイアは既に騎士団に入団していた。例え私が騎士になった所で嫁がせるには妹のエマがいる。そう考えていたのだろう。

 騎士団訓練プログラムとは文字通り騎士になるための学校みたいなものだ。本来、騎士団に入団するには毎年行われる入団試験で合格すればいいだけではあるが。

 しかし、入団試験はそんな甘くない。並大抵の人間では容易く落ちる。基礎体力、騎士の心構えから始まり、何十もの要求される要素があるのだ。 

 騎士団訓練プログラムとはそういった、入団試験に合格し、尚且つ騎士団に入団した後にも役立つ知識と訓練を叩き込む場所だった。

 私はすんなりと騎士団訓練プログラムには簡単に入れた。授業料や寄付金と言った金を少し積めばいいだけだからだ。私は入れたことを嬉しく思い、意気揚々と騎士団訓練プログラムに入った。

 しかし、意気揚々と騎士団訓練プログラムに入った私だったが、普通に孤立した。言うまでもない、クラスに女は私一人だけで、周りの人間は教師含めて全員男だったからだ。

 騎士団訓練プログラムは所謂英才教育みたいなものだ。女性が騎士になることは格段珍しくもないが、幼い頃から騎士を目指す女性は実は少ない。そのため、騎士団訓練プログラムに入る人間の殆ど、というかぼぼ全員は男だった訳だ。

 私は当初女を理由に男達から馬鹿にされた。その度に私は自分の腕前をもってして男達を叩きのめしていた。それに加え、ここで粗暴の性格が出てしまっていたのだろう。
 数週間が過ぎると私は教師を含めクラスの誰からも話しかけられなくなっていた。

 ただ一人、エドガーを除いて。

 

 ◆◇◆



「アシュレイ! 今日も勝負だ!」

 騎士団訓練プログラムが終わると、決まって私とエドガーは裏庭に来ていた。毎日毎日エドガーはめげずに私に挑みつつけ、気付けばこの付き合いが普段の日常となっていた。

「本当に懲りないやつだな。エドガー如きが私に勝てる訳がないだろう。いい加減に学習したらどうだ?」
「エドガー如きってなんだよ! それにな、俺は昨日の俺を越えているんだ! 今日の俺より明日の俺。明日の俺より明後日の俺。俺は強くなっている! だからいつかお前に勝てるんだよ!」
「格好良いこと言ってるがお前の成長は大樹の年輪のように微々たるものだぞ」
「うるせぇ! おい審判! 今日も頼むぞ!」

 エドガーが審判と叫ぶと裏庭の木陰の下で本を読んでいた女の子が顔をあげて、本を閉じてトコトコと歩いてきた。

「審判じゃないです。ドレムです」
「いいからとっとっと始めるんだよ!」

 ドレムは私と同じように「懲りないですね」といつものように溜息を吐き、茂みのない場所に出向いて手を挙げた。

「両者、位置に付き!」

 高々にドレムは澄んだ声で叫んだ。私とエドガーは対峙するように木刀を構えて睨み合う。

「今日の俺は一味違うぜ。なんせ朝に素振り百回やってきて水上水鶏すいじょうくいなの照り焼きを食ってきたんだからな!」
「そうか。私は素振りを二百回してランニングをしてきた」
「構えて!」

 戦闘態勢をお互い取る。エドガーは常に本気だ。常に本気で私に挑んでくる。だから、今日の何気ない光景の中にいるエドガーも本気で私に挑んでいたのだろう。

「な、ぐぅ!? まあいい、やってみなきゃ分かんねーからな!」
「結果は変わらん。かかってこい」

 私とエドガーの会話が終わったのを見計らって、ドレムは大声で叫んだ。

「始め!」

 そして、勝負は一秒で終わった。

 エドガーは頭の上に大きなたんこぶを作り地面に倒れ伏していた。私の木刀で作られたたんこぶだ。

「敗者! エドガー!」
「普通は『勝者! アシュレイ!』って言うだろ! なんで俺が負けたことを強調してんだよ!」

 負けたエドガーが悔しさのあまりドレムに噛み付く。これもいつもエドガーがドレムとやり取りしている会話の一つだった。

「いつも通りのパターンだと飽きるじゃないですか? アレンジですよアレンジ」
「ひっでぇッ! あー、ちくしょう。まじで頭痛てぇ。たんこぶがまた出来てやがる。こいつほんとに女かよ」

 エドガーは頭を痛そうに触れて、顔を顰めながら落ちた木刀を拾っ背中に担いだ。

「ったく。まだまだ俺は修行が足りねえみたいだ。明日は素振り三百回して水上水鶏のステーキ食ってお前に挑んでやるからな! 覚えていやがれ!」
「ああ」
「絶対だぞ! 絶対だからな!」

 エドガーはいつもの捨て台詞を吐き捨てて脱兎の如く走っていた。家に帰ったら言葉通り、自主練に励み、また明日は私に挑むつもりなのだろう。

 私とドレムはその後、他愛のない会話を少しした後お互いの家の帰路へと着いていく。

 こうして、私達の日常は終わっていく。

 騎士団訓練プログラムをした後、裏庭に来て、エドガーとチャンバラして帰路に着く。

 そんな日常が続いていた。

 私はこの時、このまま三人でずっと笑いあっていると思っていた。そう、何の疑いなく思っていた。

 エドガーがこの世から去ってしまうまでは。



「ろりこんくえすと!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く